みなさん、年末いかがお過ごしでしょうか。

 

この季節、帰省や旅行をする方も多いと思いますが……その先々で目にするのがパンフレット

 

駅や空港でもらえる観光案内、観光案内所にある観光マップ、訪れた先々の施設案内。

なんとなく手に取っててみるものの、そのまま捨ててしまったり、ラックへ戻したり…。特に年末は、そういう冊子を大掃除のときにガッツリ捨てることも。

 

一方で、そんなありふれた存在を、収集している友人がいます。

それは、漫画家・津村根央さん。ジモコロで『リサイクル・アニマルを求めて』を執筆する漫画家でありながら、パンフレットを地道に収集するコレクターでもあります。

 

ここ2,3年で300冊近くパンフレットを集めたという津村さん。連載の打ち合わせでたまたまパンフレットの話になり、その情熱と独特の楽しみ方から「パンフレット沼」を感じてインタビューしてみました。

 

そして、その想像力は『リサイクル・アニマルを求めて』にも通じるものが。連載の番外編としてお届けします!(なお、紹介するパンフレットは津村先生が収集しているもので、現在は配布されていない場合もあります。ご了承ください。)

 

この記事で登場する人


津村根央:漫画家。外出先でパンフレットを収集し、読み漁っている。ジモコロで『リサイクル・アニマルを探して』を連載中。


ヤマグチナナコ:『リサイクル・アニマルを求めて』の担当編集。津村先生とは大学の同期。

 

まずは、厳選されたパンフレットたちを机に並べる

津村先生、よろしくお願いします〜。

パンフレットについて話せるの、嬉しいです。

早速なんですが、持ってきてもらったのを見せてもらっても……?

もちろん。ただ選ぶのが難しくて……

カバンからおもむろに大量のパンフレットが

多いな!(笑)

これでも厳選したんですよ……!

家に何冊くらいあるんです?

どれくらいだろう……例えば旅行に行ったときは、見つけるたびに一冊ずつ集めて、最終的に大体70冊くらいもらってきちゃうので。

70冊も??たしかに、各施設や駅にパンフレットって必ずあるもんなあ。

そうそう。いま、家には300冊くらいあるのかな……数えてないので、大体ですが。

何を紹介するか選んでくれている津村先生

 

「人生の楽園」が説明されているパンフレット

さてご紹介いただく一冊目、どれにしましょう。

うーん、これかな。

館山レインボーホテル…表紙は落ち着いてますね。文字はレインボーだけど。

老後をターゲットにしたホテルのようなんですが、表紙から心を掴まれました。普段生活していて虹色に輝く「人生の楽園」が目に入ってくることってあまりないので。

そして、表紙を開くと……

わ! 情報量が一気に増える!「楽園がほしい…。」ていうコピーと、きっちり詰め込まれたレイアウトもいいな。

インパクトのあるキャッチコピーは、楽しみのひとつですね。おいしい食事、趣味、仲間造り…楽園という言葉が指し示す具体的な内容がカッコ書きされているのも、誠実さを感じさせておもしろいというか。

楽園が何を指すのか、人それぞれですもんね。

日常的に「楽園がほしい…。」と考えている人は少ない気がしますが、これを読むと欲しかった気がしてくるのかも。

読むほどに楽園への憧れを呼び起こしちゃう誌面なんだ。

こういうてらいのない言葉選びが秀逸だなと。その下の段にはより具体的な施設紹介があって、陶芸体験や養鶏場、蕎麦打ち、野菜づくり…「ウコン製粉って“楽園”なのか?!」とかも考えたり。

渋いラインナップだな〜。「人生の楽園」という言葉だけで押し切らず、ちゃんと事実を並べてる誠実さ。

ここは「趣味のホテル」というコンセプトだそうで、それがパンフレットを読むだけで十分すぎるほどにわかるんですよね。そんな制作側の過剰な真面目さが愛おしいというか。

昨今「詳しくはウェブへ」と省いてしまいそうな内容も、全部A4にギッシリ掲載されているんだ。

そうなんです。これは6,7年ほど前に見つけたんですが、読み込むほどに想像が膨らんで。「なんだこの魅力は!」と思ったのが収集のきっかけでした。

 

想像しながらマップを楽しむパンフレット

次はスタンダードに、中面にマップがあるものなんですが。

いわゆる観光パンフレットって感じですね。

ただ、このマップの土地を見てください。3DCGを使って、海岸の入り組み方をしっかり描いてて。

本当だ、こだわりを感じる。

写真の配置が上に偏っているのもなんかいいんですよね。こういう、デザインのキッチュさや美しさにも注目しています。

遊覧船のデフォルメ感もかわいい〜!

嬉しいかわいさですよね。この謎の男爵も気になりませんか?

あれ、遊覧船に乗ってる人とは違う人だ。

『いろう男爵』といって、石廊崎の灯台をモチーフにしたゆるキャラらしくて。頭部が灯台、ほっぺたに入口がある人物って改めて考えるとすごいんですよ。そのドアは開くのかなとか。

ドアから人が入れるとしたら、めっちゃデカいですよね。ぱっと見ただのマップだけど、一個ずつ見ると気になる情報がたくさんあるな…

そうなんです。「そういうもの」だと思ってついスルーしがちなんですが、あえてじっくり見ていくと面白い要素がたくさん隠れてる。

 

個性豊かなキャラクターたちと出会うパンフレット

次に見てほしいのはこれです。西東京の東大和市立郷土資料館のパンフレット。

またシンプルな表紙ですね。

まじめな公共施設ならではの無機質で美しい、端的な画面構成ですよね。ここに掲載されてるオリジナルキャラクターがすごく好きで。

右下のフクロウですか?

いや、それもかわいいんですが。中面の……これです。

わ、かわいい!

プラネタリウムのキャラクター、メガットくんです。見ての通り、プラネタリウムの投影機をほとんどデフォルメせずにキャラクター化してるんです。手足を生やして。

いい造形だなあ。ポーズもいい。

普通だったら惑星とか宇宙関係のモチーフを選びそうなものですが、これを考えた人のセンス良すぎるなと…。

うんうん。メガットくんグッズ、欲しいもんな。

表紙の印象の通りの真面目な施設なんですが、子供たちにも楽しく学んでほしいという想いから、キャラクターをわざわざ作ったんだと思います。その姿勢にまっすぐさと、ちょっと不器用さも感じる。

楽しさと親しみやすさが込められて生まれたのが、メガット君なのか。愛しいですね。

さっきの『いろう男爵』しかり、パンフレットで知る施設・観光名所のキャラクターとの出会いも楽しいんですよ。

よくみるとほとんどの店舗で同じ型を使ってて。お店ごとの工夫を見比べる楽しみと、並んでる愛おしさを感じます」と津村先生

これも東大和市のものなんですが、ご当地キャラクター「うまべえ」のグッズ図鑑です。

東大和市、すごいですね。いいキャラクターが集まってる。

そうなんです!ベッドタウンの東大和市だけでもこんなに魅力がつまっているということは…

日本中にまだ見ぬ膨大なキャラクターが潜んでいる可能性がある…!

そういうことです。この冊子ではスイーツ・パンといった食品から、企業コラボグッズまで網羅されてて。ご当地キャラグッズってたくさんあるけど、まとめて見ることってなくて。

アーカイブとしての価値もあるんだ。資料性が高い。

秋田県で見つけた、このパンフレットにもキャラクターがいて。

あ! 表紙タイトルの横で、手を振ってる!

三郷町のご当地キャラ、ミズモ君です。2000年代に流行ったキャラデザを彷彿とさせて、懐かしくもあるというか。

表紙だけじゃなくて、ページごとに衣装を変えて登場してるんだ。働き者だな〜!

表情がちょっとずつ変わるのもいいですよね。

パンフレット内のキャラクター探し、楽しいですね。

本は当たり前のように自治体や企業、施設それぞれにキャラクターがいるけど、よくよく考えると不思議ですよね。

プラネタリウムや灯台ですらキャラクターにしちゃう習性というか。

そうそう。子供向けの番組や絵本じゃないのに「人間でも動物でもない謎の生き物」が唐突に描かれているのって、すごく変で素敵なことだと思うんです。全く知らない生物が当然の顔をして誌面に鎮座していると「なんなんだ君は」と嬉しくなります。

 

インパクト重視、感情に訴えかけるパンフレット

この金ピカなパンフレットは……質屋さん……?

伊豆にある「土肥金山」のパンフレットです。明治から昭和にかけて栄えた、佐渡金山に次ぐ金鉱山だったそうです。

史跡なんですね! それで小判や金の延べ棒が……!

砂金集め体験やギネスに載った金塊があるらしくて。史跡とは思えないほど、とにかく金を全面に押し出していて「札束風呂」みたいなバブリーさがありますよね。

金運上がりそう。このパンフレット見つけたら、気になって寄り道しちゃうかもな。割引券付きなのもいいなあ。

メッセージ強めなものでいうと、これもあって。

龍に巨木。そして『運命を切り開け』『力強く そしてやさしく つつんでくれる』J-POPの冬ソングみたいな、真っ直ぐな言葉だ。

面白いキーワードが詰まってますよね。こういう野生のパンチラインに出会うと、本当に嬉しい。

今更だけど…こういうパンフレット、どうやって見つけてくるんですか?

ここにあるものの大半は、去年の秋田旅行と数ヶ月前に訪れた静岡旅行、あとはリサイクル・アニマルの取材帰りに立川で集めたものですね。

立川で「ちょっと見て帰ります」と言い残して解散しましたもんね。

『リサイクル・アニマルを求めて』一話での一コマ。実際は、このあとにパンフレットも収集していた津村先生

あとは美術館・博物館へ行くことも多いので、そこでもらってきたり。

施設案内とかも紙ものが多いですよね。

意外といろんなところにありますよね。ひとたび見つけると「早く、早くラックから取らなきゃ……!」ってソワソワしちゃう。

どこで出会うかわからないので、パンフレット収集用ファイルを常に持ち歩いている津村先生

それだけ集めていれば「これはいいパンフレットだ!」と直感的にわかるようになりそう。

ん〜、どうだろう。表紙を見た時点で『いい!』と感じるものもあるけど、開かないと魅力が分からないパンフレットもあるんですよ。なので、端から全部持っていくしかない。

持ち帰る→吟味する、の2ステップなんだ。

そうです。言葉やキャラクター、レイアウト、写真……ゆっくり読み込むほどに発見できることもあるので。とはいえ、まだ読み切れてないものもたくさんあるけど……。

津村先生が秋田で集めたパンフレットたち

 

パンフレットの魅力は「混乱」

今更だけど津村先生にとって、パンフレットの魅力ってなんですか?

言語化がすごい難しいんですけど……パンフレットの魅力は「混乱」なのかなと。

というと???

地域や企業が公的に発信するための刊行物なんですが、意外と形容しがたいゆるさがあって。それと同時に、どれも熱意が込められてるんです。

たしかに。写真もテキストもモリモリでした。

みんなきっと、その土地や施設の魅力をすごく伝えたくて。もっとよく見せようとか、来てほしいと思って作ってる。だからこそ、その熱意があふれちゃうのかなと。わかりやすい例で言うと、言い回しやデザインが大げさになったり。

今日見たもの、全部そうでしたね。伝えたいことがたくさんあるのをビシビシ感じました。社会的にセオリーとされている「的確に伝えるための情報整理」とは違うベクトルの情熱も感じましたし。

そこから生み出される独特な魅力があるし、熱意と善意が込められているからほっこりもしますし。

表紙と綴じ方から卒業文集を彷彿とさせる、神津島のパンフレット

あとは「未知のもの」と言うと大仰ですが、普段ならスルーしてしまいそうなささやかな不思議が隠れていたりもします。それこそ「楽園」とか普段見慣れないキーワードや、キャッチコピーに詩的な響きがあったり。

「楽園」はその代表格かもしれませんね。

掲載されている写真も、ときどき不思議だったり、異様な美しさがあったりするので見逃せませんし。そうやってパンフレットの情報だけを読んでいると、現実世界から少し逸脱していく感じがするんです。

あ〜、わかるかも。今日ここにあるものを読みながら何度か「本当にこんな場所あるのか…?」という気持ちになりました。

その感じです。集めて、読み進めていくと時々気になるものが現れては「あれ?今のはなんか不思議だったぞ」と混乱する瞬間があるんです。パンフレットという情報の大河をかき分けて進んでる感覚というか。

津村先生にとって、パンフレットは情報が絶えず流れ続ける川なんだ。そこへ身を投じるために、収集しているんですね。

ネットで「こういう所だったのね」と調べるのもおもしろいです。でもその一歩手前の、なんだかよくわからないものを前に混乱し、どんなものだろうと想像を巡らせながら楽しむ時間が一番好きなんですよね。

 

自分でパンフレットを作る

そういえば、自分でもパンフレット作ってましたよね。

そうなんです。最終的に、自分でも作ってみたくなって……架空の町「胡孫町(うまごちょう)」の観光マップです。

<キャプション>津村さんが考えた町「胡孫町」。ちなみに、胡孫町の公式サイトもある (津村さん作)。https://sites.google.com/view/kyodaigani

 

これが! ずっと実物見たかった! 全体マップ、画像の入れ方、ぎっしり入ったテキスト、ご当地キャラ……収集して読み込んだ要素が反映されてるなあ。

「元々は観光資源がひとつも無い町が制作した観光リーフレット」という隠しコンセプトで、ご当地グルメや伝承を考えたりして。それを踏まえて見ると色々なことがわかるように作り込みました。その後このマップを元に、読み切り漫画も描かせていただいて。

さらっと凄いこと言ってる(笑)。この経緯、何回聞いてもおもしろいな…

「普通の町がまるで観光地かのようなパンフレットを作るということは、よっぽど地元愛にあふれた人たちがクリエイティビティを発揮したんだろうな…」というふうに掘り下げながら、漫画にしていきましたね。

パンフレットから、制作された背景に想像を膨らませる……を漫画でもやったんだ。というか、ジモコロの連載『リサイクル・アニマル』でやってることも同じですね。

そうかも。「集めたものから想像して、物語に落とし込む」って行為。リサイクル・アニマルでも、最終的に動物園パンフレットが作りたいなとは思ってます。

わ〜、絶対実現させたい。

第二話のコマより。『リサイクル・アニマルを求めて』も読んでね

 

【おわりに】パンフレットは、みんなで読むと面白い

すっかり夜だ。パンフレット見ながら、永遠に話せますね。

誰かとパンフレットの話をできる日が来るとは思ってませんでした。

外で話してたら、同じ施設にいた知人友人たちも集まってきましたね。

 

ワクワクした顔で集まってきて、パンフレットを手に取る大人たち

「二十歳の誕生日に当時の彼女が連れて行ってくれたホテルだ……」と思い出が蘇る場面も

や〜、今日は夢が叶ったなと思ってて。ずっとこういう話を、誰かとしたかった。

これ、またやりたいです。自分も集めたくなりました。

みんなでお気に入りのパンフレットを持ち寄って、見せ合いたいですね。

それいいかも。年末年始に各々が集めて、また集結させましょ。

まだ見ぬ全国のパンフレットが読めるんだろうな。

二人で読みながら話すうちに、すっかり日が傾き、夜になっていました。読めば読むほど、集めれば集めるほど楽しくなっていく、パンフレット。その楽しみ方の入り口に、私もやっと足を踏み入れられたかも。

 

今年の年末、みなさんもパンフレットを収集して、友達家族同士で見せ合うなんて過ごし方は、いかがでしょうか。もしお気に入りのパンフレットを見つけたら、ハッシュタグ「#pamphletlovers」をつけてXで投稿してみてください!

 

(おわり)