
こんにちは。ライターのむらやまあきです。みなさんは少女マンガ、お好きですか?
いつの時代も乙女の心をときめかせてきた胸キュンの世界……誰だって思い入れのある作品がありますよね。
わたしは中学生の頃、咲坂伊緒先生の『ストロボ・エッジ』が大好きで、単行本に透明なフィルムをかけて大切に保存していました。
先日、実家にあった少女マンガを何となく年代順に読んでいたのですが、ふと思ったことがあるんです。
少女マンガって、時代によって変わりすぎじゃない……?
©池田理代子、山本鈴美香、槇村さとる、紡木たく、永田正実、神尾葉子・リーフプロダクション、中原アヤ、椎名軽穂、咲坂伊緒、河原和音/集英社
同じマーガレットコミックスで並べてみましたが、ベルばら時代と比べると、絵柄が大幅に変化しているし、ヒロインの国籍も違う、好きになる男子のタイプも全然違う。
少女マンガは、時代とともにどんな変化を遂げてきたのでしょうか?
ということで、女子マンガ研究家として『マツコの知らない世界』にも出演した小田真琴さんにお話を伺いました!
少女マンガの歴史
小田真琴|1977年生まれ。女子マンガ研究家。少女マンガとお菓子をこよなく愛する。もっとも敬愛するマンガ家はくらもちふさこ先生。Twitter
むらやまあき|ヒロインが恋する男の子よりも、その親友が好き。小学生時代は『なかよし』派。好きな作品は『ハチミツとクローバー』『潔く柔く』
ギャラクシー|少女マンガの歴史を学びたいということで勝手についてきた。好きな作品は『ベルサイユのばら』『BANANA FISH』『月の子』
ではさっそく、少女マンガの歴史を、初心者でもわかるようにざっくりと教えて頂きましょう!
下図は今回お聞きした内容をもとに作成した1970~2000年代の簡単な年表です。目次代わりにして自分のストライク世代から読み始めてもいいかも?
※記事の後半で、男性にもおすすめの少女マンガを紹介しています。最後まで読んでくださいね!
1970年代|恋に憧れるドラマチックな作品群
「では少女マンガの歴史を年代順にお聞きしたいと思いますが、まずは1970年代あたりから教えていただけますか?」
「男性(少女マンガ初心者)でも大体の傾向がわかるように、ざっくりとお願いします」
「70年代ですと、まずはやはり池田理代子先生の『ベルサイユのばら』ですね。それから、一条ゆかり先生の『砂の城』も外せません」
「『ベルばら』は、最後にフェルゼンが中庭に来てくれるところで、コマの枠線が見えなくなるくらい泣きました。おぉ、おぉ……!フェルゼン!って」
「この頃の少女マンガは非常に“ドラマチック”な時代だったと言えるでしょう。時代的に、恋愛が手の届かない憧れとして描かれています」
「70年代の少女マンガは、登場人物は金髪、名前はカタカナで、大きくてキラキラした目から涙が絶えないイメージです」
「そうですね。舞台設定も海外が多い。当時の読者にとって、少女マンガは夢を見させてくれる装置だったんだと思います。マンガの中は自分の生活とはかけ離れた別世界で、恋愛も主人公も特別なものとして憧れがあった」
「マンガの中では夢のような別世界に浸りたい……って気持ちは、すごくわかります」
「だから描かれる恋愛も、とにかく“生きるか死ぬか”みたいな壮大なものでした」
「確かに。『王家の紋章』も“生きるか死ぬか”の壮大な恋愛ですね」
「わたしは読んだことないんですが、どういうストーリーなんですか?」
「『王家の紋章』は、20世紀の少女が古代エジプトにタイムスリップし、若きファラオと恋に落ちるという物語で、現在も連載中です」
「作中で主人公が『現代に帰りたい』ってよく言うんですけど、その現代(連載開始は1976年)って、すでに何十年も過去になっちゃったよねwwwってことで、途中で設定が変更された。『21世紀』からタイムスリップしてきたことになったんですよ」
「そんなんアリ?」
1980年代|身近な世界を可愛らしく描く
「ドラマチックで別世界だった70年代の少女マンガ、80年代に入るとどういう変化があったんでしょうか」
「70年代の末から“乙女チック”というブームがあり、学園モノの文化ができた時代です。少女マンガの世界観がグッと日常に接近しました。代表的なのは陸奥A子先生とか」
「今だと学園モノなんて定番ですが、この時代に定着したんですね」
「少年マンガだとラブコメとか流行ったあたり……? 漫画界全体で“特別ではないもの”にスポットライトが当てられた時代だったのかな」
「一方で70年代に圧倒的な実力を誇った24年組(昭和24年頃の生まれである萩尾望都先生、大島弓子先生、竹宮惠子先生、山岸凉子先生など)が、今までの少女マンガの地平を一気に拡大する傑作を、多く発表しました」
「具体的にはどんな領域を開拓していったんでしょうか」
「少女マンガだけど、SFでも歴史モノでも何でもやってOKという感じですね」
「恋愛以外のものがメインになってる少女マンガが増えてきたんですね」
「特に王道派の集英社から派生した白泉社は、オルタナティブなものをどんどん作っていった。山岸凉子先生の『日出処の天子』なんて、聖徳太子がゲイで超能力者という設定だけで、もうおもしろいですよね」
「これまでの王道的な少女マンガと比較すると、かなり革命的な出来事だったんですね」
「革命的というと、数年前に映画化した『ホットロード』も、80年代ですよね? まさか少女マンガでヤンキーものが出るなんて思ってなかったから、驚きました」
「80年代当時の別冊マーガレットのなかでも中心的な作品でしたね。ヤンキー(不良)全盛期で、多くの人がヤンキーに憧れてた時代です。それを少女マンガに取り入れたのが大発明だったんですよね」
「ヤンキー全盛期ってすごい時代ですね。『ベルばら』と比べたら世界観変わりすぎ……」
「80年代末には、後に大ヒットとなる『ちびまる子ちゃん』の連載もスタートします」
「現在までアニメが続く、国民的な作品ですね」
「少女マンガはもともと少年マンガと比べてギャグは多くなかったんです。でも80年代のさくらももこ先生と岡田あーみん先生のギャグは、普遍的な強さがあるものだったんですよ」
「その後、佐々木倫子先生の『動物のお医者さん』もヒットしました。これらの共通点は恋愛が最優先ではないことなんですよ。ヒロインぽいキャラはいるけれど、誰とも恋仲にはならない。恋愛がメインじゃなくてもメガヒットするというのが証明された」
「つい最近『BANANA FISH』がアニメになってましたけど、あれが80年代の少女マンガだと知らずに見ている人多そうですよね」
「わたし、まさにそれです。完全に少年マンガだと思ってました」
「でもこれ、ちゃんと少女マンガなんですよね。アッシュは男性だけどヒロインなんですよ」
「わかります。アッシュがデレるとキュンとするし、最後の手紙でミイラの一歩手前くらい泣いた」
「なんにせよ、この時代の少女マンガ……変化の波えげつないですね」
1990年代|強めヒロインが大活躍
「90年代でいうと『ママレード・ボーイ』とか『フルーツバスケット』が有名ですよね。『花より男子』とか」
「『美少女戦士セーラームーン』もこの頃ですね。受け身なだけでない、強い女性像がウケ始めたんです」
「たしかに! 『花より男子』のつくしも道明寺をぶん殴ってるし、セーラームーンもばりばり戦ってる」
「女性の社会進出が盛んになった頃ですかね」
「ですね。男女雇用機会均等法の制定後、少しずつ時代が変わってきた。その流れを反映して少女マンガも変化してきたんでしょう」
「90年代は、他に大きな流れってありましたか?」
「“少し大人の女性向け”マンガが増えてきましたね。岡崎京子先生や安野モヨコ先生が代表的です」
「男性向けで言うと、ヤンマガとかスピリッツ的な年齢層の女性が読むマンガが登場したんだ」
「『リバーズ・エッジ』や『ハッピーマニア』好きです! でもあれって少女マンガ?」
「彼女たちの作品は“少女マンガ”とは呼びにくいですが、女性読者の層が縦にぐっと伸びたことで、少女マンガの歴史的にも重要な役割を果たしたと思います」
「縦に伸びたことで、引っ張られるように少女マンガもターゲット層が上昇したり、逆に棲み分けとして年齢層を下げたりということがあったんでしょうね」
2000年代|恋愛+αの要素が強まる
「2000年代になると、『NANA』『のだめカンタービレ』『ハチミツとクローバー』の3つがメガヒットを記録しました」
「このあたり、ドラマとか映画とか、実写になってる作品が多いな……」
「ハチクロは私もかなりハマって……泣きましたね。感情移入させるテクニックが本当にすごい」
「わかります、登場人物の誰かしらに絶対感情移入してしまう」
「また、大学生から社会人までが地続きで描かれていたのがすごくよかったんですよね。『大人も悩んでいる』というところを上手く見せてくれた。リアルさとのバランスが見事でした」
「少女マンガってだいたい物語が学校で完結するイメージです」
「わたしが中学生の時に好きだった『ストロボ・エッジ』は、学校で起こることがほぼすべてなんですけど、とにかく心理描写がすごく上手かったんですよね。恋をした瞬間の苦しいけど嫌じゃない感じとか、うんうん、わかる……!ってなってました」
「あれは、リアルタイムで女の子たちが読んだら絶対楽しいですよね」
「『君に届け』とか『ストロボ・エッジ』を見ていると、王道の純愛系もまた人気が出た気がするんですけど、どうですか?」
「たしかに王道的ではあるんですが、やはり価値観はリニューアルされているというか。恋愛を語ってはいるけれどそれ以外の要素が強くなった気がしますね」
「恋愛だけではない?」
「『君に届け』も、友情の要素がだいぶ厚くなっていますよね。これは恋愛漫画というよりも友情マンガだと思ってます。女同士の友情の描き方が本当に素晴らしい」
「少女マンガの人間関係に、厚みが必要になってきたんでしょうか」
「そうなんですよ。友情や進路の悩み、家族愛など恋愛以外の要素がより丁寧に描かれるようになったのが2000年代の特徴だと思います」
「昔の“別世界”と比べると、本当に“現実”っぽくなったと。僕は“別世界”もマンガっぽくて好きですけど」
「さて、2000年代までの少女マンガの歴史を教えて頂いたわけですが……おもしろかった~! マンガの背景にはやっぱり時代というものがあるんですね」
「初心者用にかなりざっくりとした説明でしたが、これでみなさんがより少女マンガに興味を持って頂けたら幸いです」
というわけで、1970~2000年代の少女マンガについてお聞きしました。復習として、ここでもう一度「少女マンガの簡易年表」を。
少女マンガと一口に言っても、各時代にそれぞれこんな特徴や傾向があったんですね。
作品を通して時代の背景が見えてくるのっておもしろいなあ……。
男性にもおすすめしたい少女マンガ
ジモコロの読者は男性も多いということで、男性でも読みやすくておすすめの少女マンガを教えてもらいました!
1:ガラスの仮面
『ガラスの仮面』美内すずえ
演劇の道にすべての情熱を賭けて生きる少女・北島マヤ。幻の名作「紅天女(くれないてんにょ)」をめぐって、さまざまな人物とその思惑が交錯する演劇大河ロマン!!
「まずは『ガラスの仮面』ですね。これはいつ誰が読んでもおもしろいです。男性はまず少女マンガの絵に慣れるのが大変だと思うんですけど、ガラスの仮面は内容がおもしろいから絵が気にならなくなります」
2:ポーの一族
『ポーの一族』萩尾望都
血とバラのエッセンス、そして愛する人間を仲間に加えながら、時を超えて生きるバンパネラ一族の大ロマン。少女まんが史に残る歴史的名作。
「萩尾先生の『ポーの一族』もおすすめです。少女マンガにおける手塚治虫と言っていいのではないでしょうか。一昨年『ポーの一族 春の夢』という続編が40年ぶりに出たんですよ。大きな話題になっていましたね」
3:さよならミニスカート
『さよならミニスカート』牧野あおい
その日、彼女は「女の子」をやめた──。女子で唯一、スラックスで通学する仁那が抱える秘密とは。
2018年7月より『りぼん』で連載中。宝島社「このマンガがすごい!2020」オンナ編で第1位を獲得。
「最近かつ少女マンガの未来というと、これですね。暴漢に切り付けられた少女が、その後、長かった髪を短く切り、男子の制服を着て高校に通うっていう、かなりシリアスなマンガです」
「おおお~~~~! これ好きです! 選ばれてうれしい!」
「これを『りぼん』で連載しているというのがすごい。集英社はどちらかというと王道な作品を好む傾向にあるので、この連載が始まったときはびっくりしました」
「僕は未読なんですが、どういう部分がすごいんでしょうか」
「少女マンガの王道というと、女子と男子の恋愛がメイン。でも時代が変わって、いろんな生き方があっていいんじゃないかということを提示してくれてる」
「まさに“今の時代”を反映してますよね。男性にも一回読んでみてほしい」
「ちょっといいなと思う男性に貸してその反応を見れば……女性が男性の価値観を探るのにいいかもしれない」
「そう! どういう価値観の男性なのかすぐわかる!!」
「わかるのかよ。つまりこのマンガを『良いよね』って言ったら、間違いなくモテるってこと?」
「そうです」
「断言するんだ。じゃあ読みます」
「これが売れるかどうかが、今後の少女マンガには大きく影響してくると思いますね」
「2020年代の少女マンガ、さらに発展してほしいですね! では最後にお聞かせください。小田さんが考える少女マンガの良さって何なんでしょうか?」
「やっぱり“恋愛”ですか?」
「少女マンガの良さは、“人間関係の機微”だと思います。“恋愛”もその中に含まれるという感じですね」
「人間関係?」
「友だちと仲良くしたり、部活の仲間と競ったり、先輩に恋したり……そういう、人間同士の関係性の変化こそが、少女マンガのテーマであり、良さではないでしょうか」
「おぉ、おぉ……! なるほど!」
「確かに! 納得です。今日はありがとうございました!」
最後に
傑作少女マンガのオンパレードでしたが、みなさんが愛読していた作品はありましたか?
少女マンガの歴史をたどっていくとその時代背景が見えてきて、この変化は必然だったんだなあと感じました。
わたしもいつの間にかヒロインたちの年齢を越えてしまいましたが、大人になってから読むとまた違った見え方がしたりして。ん~~やっぱり少女マンガって最高におもしろい!