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↑前回
「年間200本見ている」がそろそろ誇張表現になりつつある、忘れた頃にやってくる影を潜めた連載の第7回目、今回は番外編となります。
機動警察パトレイバー the Movie(1989 / 監督・押井守)
「多足歩行型作業機械」ロボットのレイバーが暴走する事件が多発し、これは裏に何かが起きているのではないか…と特車二課の篠原遊馬と泉野明が調査に向かう
番外編なので、一人増えています。
【勤務時間中に堂々と見る人の紹介】
私。最近ゲームばっかりしている男
最近めちゃくちゃ高い自転車を買った男
最近Instagramに定型文でメシの写真を投稿している男
「ちわっす」
「2022年が半分終わった」
「早すぎる。最近映画見てますか?」
「まあぼちぼちですね。7月は『哭悲 / THE SADNESS』『呪詛』『女神の継承』とかの超絶話題ホラーや、『バズ・ライトイヤー』や『ソー ラブ&サンダー』とかのおもろ確定の話題作の公開もあって、映画業界の盛り上がりがやばくなりそうです」
「色んなホラー映画が公開前から話題になってましたね」
「あとはめちゃくちゃ気になるところで終わってた『ベター・コール・ソウルS6』の続きが配信されるし、映画やドラマにめちゃ忙しくなりそうですね」
「スケジュールを引いて計画的に見ていかないと消化しきれなさそう」
「それはさておき、この企画の映画チョイスはいつも自分なのに、今日はギャラクシーさんたっての希望でパトレイバーとはこれいかに…」
「実は見てそうで見てない人がまきのさんの他にもう一名いたんで、ついでに一緒に見ようかなと。この人です」
「オチョス」
「ピス」
「ポ」
「加藤くん、見てそうなのに見てなかったんだ」
「ガンダムとかは好きなんですが、パトレイバーは通ったことが無かったんですよね」
「面白い映画だしいい機会なんで、見ましょう!映画は人数は多いほうがワイワイ楽しめますし」
「自分も名前と見た目ぐらいで全く何も知らない状態です」
「早速見ましょう!今回も劇場版パトレイバーに関するネタバレがしっかりと書かれています」
■「機動警察パトレイバー the Movie」あらすじ・起
東京湾埋め立て事業計画「バビロンプロジェクト」が、多足歩行型作業機械ロボットのレイバーの導入により加速度的に進行していた。篠原重工が開発した最新OS「HOS」を搭載することで、性能がアップするらしい。一方、試作レイバーが突如暴走する事件が発生。スクラップのように破壊されてしまうが、そのレイバーには例のHOSが積まれていた
「そもそもなんですが、パトレイバーってどういうウケ方したんですか?」
「よくぞ聞いてくれました」
「話長くなりそ」
「今でこそアニメ版・漫画版・映画版みたいな感じで色んな媒体に派生する『メディアミックス』という手法が一般的かと思うんですけど、このパトレイバーがメディアミックスの先駆け的な存在だったんです」
「へぇ〜」
「あと公開された80年代って、SFやロボットアニメといえば手の届かない未来や宇宙が舞台だったんですが、あえて手の届きそうな『10年先の庶民的な東京』が舞台なんですよ。あと10年経ったら本当にこんな時代になるのでは?っていう身近感が斬新だった」
「ほぉ〜」
「聞いてるか聞いてないかの狭間ですね」
「この映画だけ見ても大丈夫なもんなんですか?」
「よくぞ聞いてくれました2ですね」
「しゃべってるうちにどんどん映画は進んでいってる」
「結論、このthe Movieにおいしいところがほぼほぼ詰まってるのでこれだけでもOKです。さらに言うと、今作は押井守監督のクセが凄すぎて通常版アニメとかなり毛色が違ってより重厚なストーリーで話題になっています。huluなら配信で見れますよ」
「好きなものをイキイキと喋ってる人を見るのは良い」
「言うてる間に主人公っぽい人出てきましたね」
「なんか見たことあるかも」
「アニメに造詣が深いわけではないですが、懐かしさを感じる顔つき」
「篠原 遊馬(あすま)と泉 野明(のあ)です!この二人が所属する特車二課が、最近頻発するレイバー暴走事件の処理に追われてるんですよね」
「レイバーっていうのが、つまりこのアニメにおけるロボットってことですよね?」
「その通り! 簡単に言うと『重機』みたいに人が乗り込んで操縦するロボットで、この時代には工事現場で活躍したり普通に普及してます。普及したゆえにレイバーを使った犯罪や事故も起きるようになったため、警察が部隊を組織したって設定です」
「パトカーみたいな意味でパトレイバーって呼ばれてるのね」
「で、この遊馬の親がレイバー製造・販売を行う企業『篠原重工』という会社をやっています」
「遊馬はお坊ちゃんてことですか?」
「仰る通り。でも反発しまくる問題児なんで、警察組織の中でも異端扱いされてる特車二課に配属させられてるんです。そんな篠原重工が、最近レイバー用の新しいOSを出したとか…」
遊馬「篠原重工が2ヶ月前に発表した革命的なOSで、従来の機体に載せ替えただけでも30%は性能が上がる画期的なやつ。それがハイパー・オペレーティング・システム、HOS(ホス)。今じゃたいていのレイバーが書き換えてるよ」
「あ〜、このHOSが原因で暴走してるってことですね…」
「ギクッ。ちょっと何言ってるか分からないです」
「暴走するための、分かりやすい説明」
「最初に暴走してたレイバーも、きっとこのHOSを積んでたんでしょう」
「暴走とHOSの関連性はあるのかないのか?なにがきっかけで暴走するのか!?そしてまた街でレイバーが暴れてるらしいです!」
■「機動警察パトレイバー the Movie」あらすじ・承
街で新たなレイバーの暴走事件が発生し、特車二課の野明巡査と遊馬巡査が現場で対応。今月に入って22件も起こって、さすがに人為的なミスではないだろうと遊馬は踏んでいた。遊馬は独自に調査を行い、意図的に仕組まれたものである可能性を示唆。開発に携わったプログラマーの帆場暎一まで行き着くが、帆場はオープニングで不敵な笑みを浮かべて自殺していたのであった…
「警察のレイバーが暴走してるレイバーに対処するんですね」
「レイバー同士の対決ってこと!?」
「そうなんです。舞台となる東京もまだ発展途上で、昭和の下町感があって良いんです。そこに異質な近未来の機体が暴れまわるというのが最高!」
「パトレイバー出た!かっけ〜」
「この立ち上がり方、最近原寸大模型をお披露目したときにも同じようにやってたかも」
「そうそう!実写映画のときに製作された実物大のレイバー(※正確には98式イングラム)が各地でお披露目された時にもこのデッキアップが再現されました」
「あ、でも意外と小さいんですね。知らなかった…」
「言うたかて8mぐらいです。胸の中に入って操縦する形です」
「顔も出てる」
「初期モデルは肉眼で確認するパターンが多かったんです。作業用のずんぐりしたレイバーも胴体部分が透けてたりしますからね」
「となるとけっこう窮屈そうですね」
「そう!なのでレイバー乗りは体格が小さい人が適任なんです。野明がパイロットなのも、小柄だから!」
「良いパス出しちゃった」
「ロボットアクションも緻密で良いけど、この発展途上の東京の下町ででっけ〜ロボットが暴れまわってるこの風景、現実にはありえないのでかなり面白い!」
「目の付け所が良いですね。奥の方には高層ビルも建ってたりと思いきや、黒背景に緑文字のPC画面やフロッピーディスクとかもあったりして、そのアンバランスさもすごく良い」
「で、言うてる間に暴走を食い止めることが出来たんですが、やはりHOSがバグを起こしてるみたいですね」
「最新OSは大体バグりがちなんで、この推理は正しいですね」
「新しい方がいい!っていう時代だったのかも」
「結局人為的な事故で片付けられて警察はそんなに捜査はしないようです」
「遊馬はその結論に不服みたいですね」
「ところで野明達のいる部署って暇なんですか?トマト採ってますけど」
「特車二課の第一小隊が『零式』という最新レイバーの訓練で出払ってるんで、問題児の集まりの第二小隊が留守を預かってる状況なんです。そして奇しくも、零式にはHOSが積まれてます」
「なるほど…。となると、経緯はどうあれ終盤で暴走した零式と旧型が戦うことになり、劣勢になりつつもなんとか勝つのでは?」
「くっ…」
「分かりやすくて面白い展開だな〜」
「そこに至るまでの経緯やそれを取り巻く政治的な駆け引きとかがかなりサスペンスフルで面白いんですって!」
「そして別のシーンになった。何かを調査してる男たち」
「これは刑事で、別の事件を追ってるところですね。ただ、手がかりが無い」
「で、僕、このシーンのこれが好きなんです」
「この、『暑いな……』って上着を脱いで肩にかけるこの仕草! 良くないですか? 昔の刑事ドラマにはかならずこのシーンがあって、泥臭く足で捜査する感じがかっこよかった」
「そう?」
「よく分からないです」
「分かる人が分かってくれればそれでいい。それはさておき、遊馬はHOSの発表時期と暴走事故が多発した時期が一緒であることを突き止めます」
「そして同時に帆場暎一(ほば えいいち)という天才プログラマーの存在が」
「帆場があらかじめHOSにバグを仕込んでおいたという可能性も…?」
「でも、帆場はオープニングで投身自殺してるんですよね」
「あっ!あれがそうだったか。ということは迷宮入りだ…」
「意図的に仕組まれていることが判明しつつありますが、警察の全レイバーがHOSに書き換えられているので、動揺させないために遊馬の上司である後藤は少数メンバー以外このことは他言無用とします」
「んっ!?」
「柿だ」
「柿が落ちてる」
「柿じゃないです!トマト!」
「あ、ほんとだ。でも遠目から見たら柿でしたよ」
「巻き戻して!」
「トマトでないと意味がないんですってば」
「ほら柿じゃないですか」
「柿だ」
「極限まで柿に見えるトマトです!さっき野明が持ってたでしょ!?ということは…」
「野明がこの話を聞いてたってことか!」
「そういうことです。帆場はなぜこんなバグを仕込んだのか…?バグの発動条件とは…?バグったOSを積んだレイバーは、一体どうなる…?」
■「機動警察パトレイバー the Movie」あらすじ・転
遊馬は篠原重工でHOSのマスターデータを調べたり、刑事が帆場の調査を行うが、一向に進展は無い。やがて遊馬はレイバー暴走の原因が大都市特有の構造が引き起こす低周波が原因であることを突き止める。遊馬は篠原重工の重役にHOSに欠陥があることを公表すべきだと伝えるが、一般人には真実を隠蔽し「HOSを無料でアップグレードしまっせ」と言いながら旧OSに書き換えることで穏便に済ませようとする
「さて、遊馬や刑事が調査するものの、全く進展がありません」
「もっと派手なアクションがあると思ってたんですが、今んとこ序盤の市街地の暴走ぐらいであとはかなり渋い展開ですね」
「そうなんですよ。けっこうミステリー要素やサスペンス要素が含まれてて、アクションはそんなに無いんですよね。シナリオの完成度の高さは今見てもあっぱれです」
「これ1989年の映画ですよね?パソコンが一般家庭に普及するWindows95が出る前に、すでにコンピューターのバグとかウイルスらしきものを題材にしてるのはすごいですね」
「その先見性の高さもこの映画の見どころなんです!」
「遊馬が篠原重工に忍び込んでHOSのマスターデータを調べたときに内部の人間すらあんまりHOSの詳細について理解してなかったみたいですね」
「OSに関してはやめておいたほうがいい」
「自宅のゲーミングPC、まだWindows11にアップデートしてない」
「本筋と全く関係ないですが、ここ見て!!」
「わ、缶ジュースのフタが取れるやつだ!」
「そういえばこんなんだったな〜」
「環境問題で90年代には廃止されたプルトップ方式なんですよ。このノスタルジックさ!良いなあ〜〜〜〜〜〜」
「昔を懐かしむおじいさんがいる」
「そんな戯言はさておいて、遊馬と野明がご飯を食べてる時に、犬が人間に聞こえない風の音を聞き分けているのを発見して、レイバーの暴走は『ビル風から吹く音をトリガーにしている』…と気づきます」
「この、一見関係ないものから答えを導き出すの、めちゃめちゃ好き」
「金田一少年とかコナンでもよくあるね」
「しかも早く言いたすぎて野明を置いてっちゃった」
「ノーヘルだ!」
「ここの野明のセリフ、めちゃ好きなんでしっかり聞いてください」
野明「遊馬なんか、どぅゎいっきらいだ〜〜〜〜〜〜!!」
「どぅゎいっきらい!!」
「かわいい〜〜〜」
「野明は、良い…。で、遊馬が奔走するものの、篠原重工は表向きには『HOSを無料アップデートする』と言いつつ旧OSに戻すことでHOSに欠陥があったことを隠蔽します」
「隠蔽だ〜〜〜〜」
「こういう失敗は正直に言った方がいい。オモコロもちょっと前にメンテナンス失敗したけどちゃんと報告したら受け入れてくれたし」
【メンテ失敗のお知らせ】
本日11時より予定していたメンテナンスですが、諸事情により失敗しメンテ前の状態に戻ったため「ほかほかおにぎりクラブ」は現在閲覧可能です。後日再挑戦させていただきますので、応援のほどよろしくお願いいたします。▼ほかほかおにぎりクラブhttps://t.co/LB1qTEY5CF
— オモコロ (@omocoro) February 10, 2022
「篠原重工が弊社のように許してもらえる会社だったら良かったんですが、そうもいかないみたいです。この失敗は明るみになると痛い」
「帆場はレイバーを暴走させることで全てを壊滅させようとしたんですかね?」
「もう自殺してしまったので真相は闇の中ですね…」
「警察のレイバーもHOSになっているなら、もう終わりか…」
「そこはご心配なく。なんとエンジニア主任のシバシゲオが、詳細不明のOSを気安く導入したくないと、旧型のレイバーにはアップデートするフリをしていたんです!」
「なんて気の利くやつだ…」
「声優も千葉繁で良い」
「新型の零式にはHOSは積まれてますがね」
「これで最初に予想した旧型VS暴走零式の構図が整った…」
■「機動警察パトレイバー the Movie」あらすじ・結
低周波について調べていた遊馬とその仲間は、バビロンプロジェクトに伴い設置された保管庫、通称「方舟」に風速40m以上の風が吹くと低周波が起こり、首都圏の何千体ものレイバーが暴走する危険性があることがわかった。そして近日中に、奇しくも方舟に風速40m以上の台風がぶち当たってしまう。こうなったら、台風被害に見せかけて方舟をぶち壊すしかない!特車二課は立ち上がる。
「飽くなき調査の果てに、遊馬は『東京湾の埋立地に設置された保管庫・方舟に風速40m以上の風が吹くと大規模な低周波が発生し、それにより首都圏の8000体のレイバーが一気に暴走する』『一度でもHOSを積んだレイバーは暴走する』ということを突き止めます。この突き止め方も何気ないシーンから発見して良いんですよね」
「めちゃヤバですね」
「しかもすごいタイミングで風速40mの台風が来るという…。この台風が来るまで帆場の計画は実行されなかったってこと?」
「だとしたらかなり運否天賦に左右される計画ですね」
「『よし!やっと台風来た!死のっ』ってなったんですかね」
「ただ!この後藤という遊馬の上司がめちゃくちゃ切れ者なんですよ」
「すごい。上層部をゆさぶって『台風のせいにして方舟をぶっ壊す』という計画で承認もらっちゃった」
「実際にそれしか方法がないけど、そこに持っていくまでの話運びがめちゃめちゃ上手かったな〜」
「遊馬の謹慎処分を利用してHOSの秘密を調査させたり、シバシゲオのOS書き換え拒否も実は知ってて隠してたりして、この一連の事件を裏でめちゃくちゃ回してるのが最高なんですよね」
「飄々としながらもめちゃめちゃ仕事できる人だ」
「仰る通り!一見そんな感じなんですけど、『部下の失敗は全て自分が責任を負う・部下を精一杯労う』という姿勢を絶対に崩さないんです!今でも『理想の上司』として語り継がれてる所以です」
「我々もそうありたいものですね」
「ようやっとクライマックス!大立ち回りのアクションです」
「方舟の存在感もすごい」
「そして無人の方舟で大暴れすることが海上保安庁に気づかれる前に、後藤は先んじて出頭して時間を稼ぎに行きました」
「どこまで頭が切れるんだ…」
「それにしても、レイバーとパトカーが並走して走る画、めちゃめちゃカッコイイですね」
「見張りレイバーを破壊する作画描写も細かい!」
「無人の方舟内に、なぜか人がいるという反応が!しかもそのIDは、死んだはずの帆場暎一…!」
「さらに、方舟のメインコンピューターにもHOSが積まれていて、方舟が制御できなくなってる!」
「一か八かで零式も緊急出動!?しかもちょっと早めにレイバーが暴走し始めた!?」
「いくらなんでもクライマックスすぎる!!!!」
「……」
「……」
「……」
「食い入るように見てたら、終わった…」
「ちょっと、面白すぎるでしょこれ」
「ありがとうございます…僕も最後黙っちゃいました」
「零式と旧型が戦う読みはあたったんですけど、そこはもはやおまけぐらいの感じですね。帆場の計画を僅かな手がかりを頼りに紐解いていく推理パートが本当に緻密!脚本がお見事すぎました。そしてその完璧な土台をより強固なものにさせる特車二課の面々、レイバーのロボ描写、そしてパラレルワールドみたいな近未来の東京…。見ていて気持ちよかったです」
「キャラ造形もみんな良かったですね。遊馬と野明のバディ感も良いし、後藤という絶対的に信頼できる上司…。時代を感じさせる作画もありつつ、今見ても全く遜色なく面白かったです!」
「この作品が公開された89年、古く庶民的な東京から先進的で都会的な東京に切り替わりつつある時代だったんですね。その切り替わりをノスタルジックに、かつグロテスクに描いてて、それがすごい好きです」
「一点、トマトが柿に見える作画崩壊だけが気になりました」
「そこはいいでしょ」
「映画は、良い」
THE END