「山を買ったらどうなるの?」都会の若者が1坪900円の山で学んだ“森の役目”

2020.10.30

「山を買ったらどうなるの?」都会の若者が1坪900円の山で学んだ“森の役目”

「山は意外と安く買える」という話を聞きつけた都会育ちのライターが、長野県・伊那市の鳩吹山へ。地元の家具職人や製材所、編集者の方たちに、山にまつわるお金の話や山の役割、伊那市による森の担い手プロジェクト『INA VALLEY FOREST COLLEGE』について聞きました。

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    森の仕事をし続けるため、木の出口を広げる

    「ちょっと待ってくださいね、いま火を入れますから」

     

    「えっ、これも薪ストーブですか?でも煉瓦造り?」

    「ああ、これはロシアの方によくある蓄熱式の薪ストーブで、『ペチカ』といいます」

     

    「ペチカ……!ロシアっぽい可愛い名前!」

    「迷路のようになっている内部を熱い空気が循環して、レンガ自体に熱を蓄えこむんです。真冬の厳冬期でも朝晩の2回火を入れるだけで一日中温かさが持続する。極寒の地域で考えられた知恵ですよね」

    「これも、もしかして」

    「ええ、地域材の薪を使っていますし、販売も行なっています。地域材を家庭で使う、一つのきっかけになればと」

    「全く知らなかった暖房器具にまで、地域材との結びつきを考えて提案されているんですね」

     

    火をつけて約10分、じんわりと伝わるレンガの熱が気持ちええ……

     

    「しかし、そこまで木の使い道を広げるのは、どうしてなんでしょう?」

    「一つは、製材所としての売り上げを作るため。もう一つは、製材所がもっと多くの地域材を受け入れるためですね」

    「もっと多くの地域材を受け入れる、というと」

    僕らは、山が無くなれば仕事が無くなる。だから地元の地域材を使うことで、地元の山と森を守っていきたいんです」

     

    「その上で、『こんなことにも地域材が使える』という出口を増やしておくと、いろんなサイズ、樹木の種類、状態の丸太を買い取れるようになる。林業の受け皿を、製材所が増やせると思うんです」

    「製材所って、本当に『森の木材の受け皿』になっているんですね。製材所がないと木材は世に出ていかない」

    「最近は木こりの方々との付き合いも広がってきて。『こういう木でも使えるの?』『実はこういう使い道があるので、ぜひ卸してください!』なんてコミュニケーションができるようになった。これだけで、山の木を少しでも無駄にしなくてすみます」

    「家具職人も、林業家も、製材所も……それぞれが自分の仕事のことだけじゃなく、『山をどう管理するか』を考えて仕事をしているんですね」

     

    私たちが山と関わるために。森と山を学ぶ場

    「山のこと、森のこと、壮大な話を知ることができたけど、実際に働くとなるとどうなんだろう……」

    「そのあたりは、僕からお話しましょうか」

     

    話を聞いた人:奥田悠史さん
    株式会社やまとわ取締役。大学在学時に世界中をバックパッカーで旅したのち、ライター、編集者、デザイン事務所のキャリアを経て、2016年に「森をつくる暮らしをつくる」を理念に抱げる”やまとわ”の立ち上げに参加。一般社団法人◯と編集社所属の編集者でもある。

     

    「今日ずっと案内をしてくださっていた奥田さん!よろしくお願いします!では早速質問なんですが……例えば僕が山で働きたくなって、木こりになったらどのくらいの年収になるんですか?

    「いきなりお金の話ですね!(笑) 国税庁の調査によると、林業従事者の平均年収は340万円(※)と言われています。国からの助成金などもあるので、林業従事者になった最初の年からこのくらいはもらえるイメージです。ただ、50代以上の平均給与も400万円を下回るなど、なかなか給与が上がりづらいという実態もあります」

    ※:国税庁「民間給与実態統計調査(平成29年分)

    「やっぱり、お金って大事じゃないですか。想像していたより給与は安くないけれど、年収が上がりづらいのかあ…」

    「ただ、森で働くことのメリットは給与だけじゃありません。林業に従事するだけじゃなく、自分が山主(山を所有すること)になれば、栗や果物、キノコ類など、美味しい季節の恵みを手に入れることもできる。里山の豊かな恵みと共に生活することで、支出を減らすことができると思うんです」

    「そうか、本来なら山で獲れたものもスーパーで買っているのが、今の生活ですもんね。お金を使うこと中心の生活から離れたら、また違った豊かな生活ができるかもしれない

    「日本の森が勿体無い状況にある、ということもなんとなく実感してもらえたと思います」

    「ほったらかしの森があること、50年前からのバトンを上手く引き継げていない山があることなど、山のことをこんなに考えたのは正直、人生の中で初めてかもしれません」

    「ほとんどの人はそうだと思います。森=林業をするところ、というイメージがあるかもしれませんが、森にはもっといろんな機能がある。土砂崩れを起こさないためにも、豊かな水源を守るためにも山を守らないといけない」

    「今回は現地まで来られたからたくさんの物事を見られましたが、都会に生きていても山のことを知る機会が少ないな、とも思います」

     

    「そうですよね。僕たち『やまとわ』や伊那市は、森のことを知ってくれる人を増やすことで、日本の山と森林が抱えている問題を解決するアイデアが生まれる土壌を作りたいと思っているんです。いま考えている新しい学びの場『INA VALLEY FOREST COLLEGE』もその一つです。

    「実は、伊那にはもともと、26年間続いた『森林塾』がありました。山に入りながら、林業のことを学ぶ場所。他の土地でも、似た塾が生まれたので、林業には貢献したと思っています」

    「『INA VALLEY FOREST COLLEGE』の、前身となる塾が、昔からあったんですね」

    「はい。ただ、森林塾の役目はある程度終えたと考えていて。これからは、地域資源と外の人的資源が組み合わさることで、新しいアイデアが生まれるような学びの場を作りたいと思っています。それが『INA VALLEY FOREST COLLEGE』です」

    「外の人的資源を組み合わせる、って?」

    「リノベーションスクールのような形で、その土地の森を初めて見る人たちが『森をみて』『その問題を見出して』『解決方法を様々な角度から考える』という学びの場にしようと。しばらくはオンラインですが……次年度から実際に森に来てもらえるようにしたいです」

     

    地域によって森も全く違うので、INA VALLEY FOREST COLLEGE的な思考がいろんな土地に広がって、それぞれの土地の問題が解決されたらいいなと思います。例えば伊那市だと、アカマツという木が全体の1/4以上を占めています」

    「アカマツ、ですか」

    「この『アカマツ』は、曲がって育つため、真っ直ぐな木材を取ろうとすると歩留まりが悪く、建築や家具の材料としては不人気なんです。昔は、その曲がりを生かして、家の梁材などによく利用されていたのですが、現代では『アカマツ』の使い道が少なくなってしまいました」

     

    やまとわが企画・開発したアウトドア用家具ブランド『pioneer plants

     

    「一方で、アカマツには軽くて柔らかいという特徴もあります。その個性を生かすために、『やまとわ』はアウトドア家具のブランド『pioneer plants』を立ち上げました。アカマツの持ち運びしやすい軽さはアウトドア家具とマッチし、金具代わりに登山用のロープを支えにすることで、構造的にアカマツの”柔らかさ”も問題にならない」

    「なるほど、従来とは違う使い道を考えて、『アカマツの使い道がない』という問題を解決したんですね」

    「そうやって、地域の特性とあらゆる視点の組み合わせによって、林業だけでない森のビジネスを生むと思っています。海に近い山なら、『山の水で育った魚』をブランドにできるかもしれないし、いい風の吹く場所なら『パラグライダー』を通して、山に親しみを覚えてもらうのでもいい」

     

    自分の興味と、山・森が掛け合わせられる部分、を見つけたらいいと思うんです。それが『森・山との関わりしろを見つける』最初の1歩じゃないかなと思いますし、そういった人が増えることが、日本の山と森にとって一番必要なことだと思います」

    「家具職人・中村さんの話していた『自分一人ではできることは少ない』という言葉を思い出します。でも、森について知り始めたり、関わりはじめることはすぐにできる」

    「海のプラスチックゴミ問題も、農業の耕作放棄地のことも……多くの人が世の中に知らせようと動いてきたから、取り組む人も出てきているし、テクノロジーや都会的なビジネスアイデアの組み合わせも生まれてきていると思う。森の問題も、まずはたくさんの人が興味を持てる部分から興味を持ってもらうことが大切なんだと思いますね」

     

    まとめ

    山と森林に囲まれた伊那の街には、山の価値を次世代に繋げるため、山の可能性を見い出すために活動する多くの人々がいました。

     

    彼らの信念と活動を聞いていると、「山を買うことは、簡単な気持ちでできるものでもない」と、自然と考えられるようになりました。

     

    その一方で、自分なりの山との関わり方、森との関わり方ができるのではないか?とも考えるようになりました。本業じゃなくとも、ビジネスじゃなくとも、自分の買う家具を選ぶこと、足を運んで日本の森のことを知ることが、いつか自分の人生と山・森という場所を繋げる一歩目になっているはず。

     

    都会にいる我々も、山や森を「遠い場所」と考えるのではなく、「いつか興味を持てる場所」として、「いつか関わることになる場所」として、知る努力をしてもいいのかもしれません。

     

    『INA VALLEY FOREST COLLEGE』

    そんな伊那市では、森に関わる企業同士が手を組んで、新しい学びの場が生まれるそうです。その名も、『INA VALLEY FOREST COLLEGE』という実践型スクール。

     

    このスクールでは、林業経営者だけでなく、まちづくりや建築、教育など、様々な業界で活躍する人たちが講師を勤めるんだとか。幅広いキャリアの彼らと、伊那市で活躍している地域プレーヤーが語り合うことで、新しい森の可能性を考えていくんだそう。

     

    「森に関わる100の仕事をつくる」をキーワードとするこのスクール、興味がある方は、ぜひ参加して見てください。自分なりの森との関わり方が、見つかるかもしれませんね。

     

    『INA VALLEY FOREST COLLEGE』

    講座期間:11月21日(土)~2月27日(土)※計7回
    受付期間:10月22日(木)~ 11月17日(火)
    参加費:無料
    定員:40人
    テーマ:「キャリアデザインを森に活かすには」「森と人の関わり方が生まれる”まち”のあり方を考える」「地域で育った木で活かす建築を考える(建築と小規模バイオマス利用)」他
    お申込み方法:以下webサイト申込フォームより
    https://forestcollege.net/

     

    取材協力:株式会社やまとわ(HP
    撮影:藤原 慶(HP) 

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    この記事を書いた人

    乾隼人
    乾隼人

    1993年生まれ。兵庫県宝塚市出身。関西の出版社で、酒場とかイベント会場をかけずり回ってました→上京しました。飲食店のメニューばかり取り上げるInstagramをやっています。

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