スーパーからこんにちは! ライターのヒラヤマです。

野菜、大好き〜〜〜〜〜!!!!

 

日々の食生活に欠かせない大地の恵み、野菜。旬の野菜はサッと調理するだけで満足度の高い料理がつくれますし、どの季節でも購入できる大根やキャベツ、トマトは家庭の味方。

 

最近はめずらしい野菜も比較的気軽に手に入るようになりました。スーパーで野菜売り場を見ていると「今日は何つくろうかな〜!」と料理欲がうずきます。

でも最近、よく感じることが。

 

野菜の価格……めっちゃ高騰してない!?

 

もちろん、めちゃくちゃ安くて助かる〜! という時もあるのですが、野菜高騰のニュースを見聞きする機会が数年前よりもずっと増えたような気がしています。

 

「今日はキャベツを買ってもつ鍋にしよう!」と思ってスーパーに行ったものの、キャベツひと玉398円の価格におののき、諦めて「もやしと豆苗の坦々鍋」に変更したことがあります(それはそれですごくおいしかった)。

 

高いときに無理に食べなくてもいいとは思うんですが、とはいえやはり「この野菜がこんな値段するなんて!」とギョッとしてしまいますよね。

 

なぜ野菜の値段はこんなにも変わってしまうのか?

どうしてびっくりするくらい高騰することがあるのか?

で、野菜の価格ってどうやって決まってるんだ……?

 

「野菜がなぜ高くなるか、知りたいんですかっ!?!?」

「……その声は!?」

 

突然ですが、この顔に見覚えはありませんか?

夕方のニュース番組なんかで、見たことがあるという人は少なくないはず。

 

この人は、スーパー「アキダイ」の代表・秋葉弘道さん。

 

「ここのスーパーに聞けば、野菜のことはなんでもわかる」と、ニュース番組を中心に、年間約300本ものテレビ番組に出演。「野菜のイマ」を伝え続けるスーパー(超)スーパー(マーケット)経営者なのです。

 

やってきたのは「アキダイ 関町本店」。「アキダイ」は、練馬区を中心に5店舗のスーパーを展開しています。

 

取材にうかがったのは平日の12時頃だったのですが、店内はまるで夕方のピーク時のような人だかりでした。

 

所狭しと並ぶオトクな野菜と果物!

アキダイはもともと秋葉さんが23歳の時にはじめた八百屋さんが前身。

 

現在は肉や魚、乳製品なども取り扱っていますが、やっぱり圧倒的に野菜と果物の販売スペースが多い!

ゴリゴリに強い「八百屋力」を感じさせます。

 

ドラゴンフルーツまで売ってる!(最近、ドラゴンフルーツの皮を醤油に漬けたら「ベジタリアンマグロ」になるって聞いたな……)

 

あと、スタッフの人がすごいチャキチャキしてる!

 

スーパーというよりも、このライブ感はまさに「八百屋」。そこかしこから「これ、甘いよ!」「これ、今日買いだよ! 安いよ!」なんてお客さんとやりとりする声が聞こえてきます。町の人からの信頼が厚いことが見るだけでうかがえますね。

 

さてさて、さっそく本題へ。野菜はナマモノなので、時期やタイミングによって価格が上下するのはもちろん当然です。野菜にまつわる生産者や流通の背景を知れば、価格の変動に対して柔軟な気持ちを持てるのではないでしょうか。

 

教えて、秋葉さん〜!!

 

天候に左右される露地物、ビニールハウスは重油高で栽培コスト増

「毎年、毎シーズンのどこかで『野菜が高騰している』というニュースを耳にしますよね。どういう原理で野菜の値段って決まっているんでしょう?

「欲しい人に対してモノの数が多ければ安くなるし、少なければ高くなります。これは野菜に限った話ではありませんが」

「経済の原理として基本的にはそうですよね」

「じゃあどういったときに野菜が高くなるのかというと、いくつか理由があって。ひとつは天候による不作、もうひとつは栽培コストが高くなることです」

「ふむ……」

 

「野菜の多くは、“露地物(ろじもの)”と言って、屋外でつくっています。ビニールハウスや温室で栽培されているものではなく、いわゆる畑で栽培されているものですね。キャベツ、白菜、大根、人参や芋類などの根菜に、旬のシーズンは夏野菜なども露地物が多いですね」

「たしかに、大規模なキャベツ畑が全部ビニールハウスってイメージがないですね」

「外でつくっている露地物は、その時々の天候に収穫量が左右されます。雨続きで日光がささないと生育不足や病気になるし、逆に雨がふらなさすぎてもよくない」

「ということは、気候に恵まれてめちゃくちゃ豊作な年もある?」

「もちろんです! 天候のバランスが良くて、豊作になる年もあります。白菜がひと玉200円で売られる年もあれば、1/4カットで200円する年もあるというのはそういうことなんです」

「なるほど……!」

もうひとつは栽培コストが高くなること。これは主に重油高ですね。たとえば冬にもイチゴは流通してますが、なんで今あると思います?」

「あ〜、たしかに……? イチゴは春が旬ですよね」

イチゴは夏のうちに苗を標高の涼しい場所に持って行って、秋になると暖かな温室に移動させるんです。すると暖かくなったから、イチゴは『春が来た!』と思って実をつけるんです。もちろん品種によって違いもあるんですけどね」

「へー! 季節をごまかしちゃうんだ!」

 

「日本の農業はすごく進化していて、標高の違いやハウスを巧みに使って、本来旬でない時期にも野菜が収穫できるようになっています。促成栽培や抑制栽培と呼ばれる栽培方法なんですけどね。だから冬のイチゴは高いんですよ。栽培コストや手間もかかりますから」

「きっとつくれる農家さんも限られますもんね」

「ただ、暖房機に使うガソリンの価格が上がり続けて、価格がどんどん上がっています。たとえばトマトは16度を下回ると病気にかかりやすくなるし、生育も遅れます。冬場の栽培はビニールハウスと暖房機で、暖かい環境で育ててやらないといけないんです」

「たしかに、いま高いですよね〜! うちも灯油ストーブの使用時間をちまちま削ってます」

「いままでより1.5倍ほど重油が高くなってますが、1.5倍高い野菜なんてなかなか売れませんよね」

「1袋300円くらいでイメージしてたトマトが450円だったら、買うのをためらってしまうかも。農家さんたちはどうしてるんですか?」

生産量を減らして対応するしかないですね。食卓のニーズに関わらず、つくればつくるほど赤字になってしまうなら、量を減らすしかない。通常は5つ稼働させているビニールハウスを、今年は3つしか使わない、とかね。生産量が減ると、やはり売値は高くなります」

 

産地のリレーや品種の違いによっても野菜の値段は変わる

「年によって野菜の値段が変わることはわかったんですけど、毎週変わることもありますよね」

「もちろんです! それには主に理由がふたつあります。産地がリレー形式になっていることと、品種の違いですね」

「リレー形式……!?」

「日本列島は縦に長いでしょ。品種によって南から北へ、北から南へと生産時期のピークは動いていくんです。夏〜秋には東北産のきゅうりが出回って、年内くらいで関東の産地も終わり。これからは九州のきゅうりが出回ってきます」

「これはおもしろい! 買い物に行くたびに産地をチェックしたくなりますね」

「そうそう、産地をみてもらうと『いまこの地域ではこれがとれるんだな』とわかっておもしろいですよ」

「それで細かく価格も変わってくるんですね」

「そうなんです。関西は雨が多い年でも、関東は晴れが多いなんてことは当たり前です。たとえば2021年は九州の豪雨被害によって一時的に生産量が落ち込んだことによって野菜の価格が上がりました」

「たしかにそうでした」

「豪雨で畑が水に飲み込まれると、菌が土に入ってリカバリーまでの時間がかかってしまいますから」

「なるほど。その時期、その産地からの野菜が見込めなくなりますもんね」

「でも、被害を受けたところも順次回復していきます。小松菜やほうれん草などの葉物は、種つけから約40日ほどで収穫ができるようになるので、畑が回復し次第、葉物などは落ち着いてくるような流れですね」

「少ない日数で育つことができるものは価格のサイクルも早いんですね」

「産地のリレーに加えて、品種も多様になってきています。春蒔きに適した大根だとか、『冬春きゅうり』という越冬が可能なきゅうりなんかもあるんですよ」

「今のようにきゅうりが冬でも棚にズラーっと並んでいる光景は、私の小さい頃を思い出してもあんまり記憶にないです。栽培技術の向上や品種の開発があるからなんですね。産地のみなさんありがとう……」

「短いスパンで見ると『こないだより高い!』と思うかもしれませんが、そもそも相場を前年度比で知らないとなかなか本質は見えてきません」

 

でもやっぱり、この高騰の根本は気候変動が原因

ただね、野菜が高騰するもっとも大きな原因は『気候変動』なんです

「う〜ん、やっぱりですか……」

「毎年全国のどこかで豪雨被害が出ていますし、台風も巨大化しています。ひと昔前なら、北海道に台風が上陸することなんてまずなかったですよね」

「雨が全然降らないということも増えましたよね」

「そうそう。今年はずっと北海道産のジャガイモが高騰しています。それってなんでかっていうと、高温・干ばつによって収量が落ちたからなんです」

「干ばつ……! 北海道には想像もつかない言葉!」

「6月に雨が全然降らなくて、気温も高かった。それで畑の土が固まっちゃったんですよ。ある程度の広さの畑なら水をまくことで対応できますけど、北海道のような大規模農業じゃそれもできない」

「冷涼で肥沃で大きな土地だから野菜の一大生産地になっている北海道も、今後どうなるかわからないですよね……。じゃがいも、玉ねぎ、かぼちゃ、とうもろこし……」

「今はまだ序の口だと思います。野菜の多くは屋外でつくっているからこそ、環境の変化に大きく左右されます。産地のリレーや農家さんの努力だけではカバーしきれない気候変動による影響が、ここ近年の高騰の理由としてはいちばん大きいですね」

「野菜が高くなっているのは、地球からのアラートなんですね。もっと環境のことを考えていかねば、むむむ……」

 

年間300本ものテレビ出演で伝え続ける「野菜のイマ」

「どうして高いのかの理由を知ると『高くて迷惑だ』という意識が減っていいですね。環境問題や経済の仕組みを考えられるというか」

「そうですね。うちは年間に250〜300本くらい、テレビ番組に出ているんだけど」

「あらためて聞くとやばい数だ……」

 

ちなみに取材にうかがった日も、別のカメラクルーがきていました。社長をしながら300本のテレビ出演をこなす人……。超人すぎて遠い目

 

「野菜の知識だけじゃなくて、産地のことや流通のことも、聞かれたら答えてるうちにこの数になっちゃったんですよ。僕がたくさんテレビで野菜のことを伝えるから『うちの産地のことも伝えてくれ』って、産地の農家さんが写真や動画をたくさん送ってくれる。そうするとまたいろんな番組で『教えてくれ』って声がかかって」

「そうやって、野菜や流通に関するいろんな疑問を答えてくれる秋葉さんみたいな人はあまりいない?」

 

「少ないんじゃないですかねえ。通常のスーパーだと、買い付けをおこなうバイヤーと現場で販売する小売人は別の人である場合が多い。でも、うちは経営者も仕入れも小売もやってるし、僕自身が毎日お店に立って接客をしています。野菜をとりまく全方位がわかる。それでいろんな人の疑問に答えられているというのもあります」

「しかも、産地の農家さんともつながってるんですもんね」

「そうですね。今年の夏からずっと『秋から冬にかけてはジャガイモが高くなる』って、テレビでは言い続けてました。農家さんからリアルな干ばつの現状を教えてもらっていたから。北海道産のじゃがいもが出回りはじめる8月の半ばよりずっと前に注意喚起ができたんです」

 

秋葉さんが参考までに見せてくれた、北海道の干ばつ圃場

秋葉さんが参考までに見せてくれた、北海道の干ばつ圃場

 

「先のシーズンのことを先回りして教えてくれるのは消費者にとってもありがたいです!」

「ただ……やっぱりその時期になると戸惑ってしまう消費者が多いのは、先の予報はなかなか実感が湧かないということなんだと思います。継続してお客さんに伝えていくしかないですね」

「秋葉さんがめちゃくちゃテレビに出まくってるのは“野菜のイマ”をたくさん知ってほしいからなんですね」

「やっぱり疑問に思われたことや、聞かれたことには答えたいですからね! そうそう、軽減税率が導入されるときにも、スーパーでの税はどうなるのか、かなり取材を受けました!」

「そんな話題でもインタビュー受けるんですか」

 

それがきっかけで、軽減税率がユーキャンの流行語にノミネートされたとき、授賞式に呼ばれたんですよ

「そんなことある!?!?」

 

マジでした。

 

安い野菜をうまく取り入れて満足度と食費のバランスを取ろう

「野菜が高いとき、スーパーアキダイで心がけていることはなんですか?」

「重要なのは、購買意欲を落とさせない努力ですね。高い時は無理に買わなくてもいいんじゃないかと思うんですけど、カレーの時みたいに、やっぱりこれを使わなくちゃ! という時もある。高騰している野菜に関しては、1袋あたりの量を少なくしてお客さんが買いやすくするようにしていますね

「トマトが4つで450円しちゃうところを、3つで320円とかか〜。それならまだ買いやすいですね」

「安いけどあまりメジャーじゃないなど、食べ方がわからない野菜はメニューの提案をして買ってもらう努力もしています」

 

アキダイのポップのほとんどに、その野菜がもつ栄養や味の特徴、おすすめの食べ方などがキャッチコピーとして書かれています。野菜愛が伝わる

 

「それに、カレーにはじゃがいもや玉ねぎは必須でも、毎日カレーを食べるわけじゃないじゃないですか。家計のなかで野菜のレートが高くなっているんだったら、安い野菜を食べて調整すればいいと思うんです。いまの時期だったら鍋とかね。白菜・長ネギ・春菊を買えば、全体で200円安くなりますよ! って提案もしますね」

「そのシーズンで安い野菜を取り入れれば、時々値段が張る野菜を買っても、そんなに家庭の負担を増やさずに満足感のある食卓をつくれそう!」

「そうそう、バランスを取りながらが大事です!」

「安い野菜を使ったメニューもいろいろ考えてみようと思います! ありがとうございました〜!」

 

おわりに

「カレーにはじゃがいもや玉ねぎは必須でも〜」と秋葉さんはおっしゃってましたが、後日、カレーに必須の食材をあえて使わず、今冬、お安くなっている白菜でカレーをつくってみました!

 

白菜が甘くてトロトロで、おいしい〜!!!!

 

だいたいの値段ですが、白菜は1/4玉で50円、大豆の水煮100円、鶏ひき肉は300gで330円、カレールー1/2箱で80円。たっぷり6食分つくって、目玉焼きを乗せても一食100円程度。

 

同じ日にじゃがいもが4つで320円だったので、これはかなりお安い……! 火が通りやすいので調理時間20分で完成するのもうれしいポイント。

 

日本は、国内外のいろんな場所から食べ物や、食べ物を育てるための材料を調達できている豊かな国。

 

だけど、気候変動や諸外国との買い負けによって、いままで何も考えずに受け取れてきた「豊かさ」が簡単には手に入りにくくなっているのも事実です。身近なところで言えば、北米のじゃがいもの不作で、マクドナルドのポテトに販売制限がかかっていますよね。

 

人が起こした気候変動に加えて、先日起きたトンガの海底火山の噴火が向こう数年にわたって地球全体に冷害をもたらすかもしれませんし、考えることがいっぱいあって大変……!

 

おでんや煮物をつくった際にぶ厚めにむいた大根の皮は捨てずに、干して切り干し大根にします。タダで2食分くらいの食材に変身するゾ!

 

切り詰めすぎて心身が不健康になってはダメですが、窮状を嘆くだけではなくて自分でできることをやって、可能な限りゴキゲンに日々を過ごしていく努力も必要です。

 

欲しかった野菜が高騰していてもなるべく気持ちを切り替えて、「安いこの野菜でアレをつくってみよう!」と、新しいメニューに挑戦するなど、自分たちにできることをしていきたいですね!

 

撮影:長野竜成
編集:くいしん