会社を「仕組み」として捉えてみると見えてくるものがある
「『突破』…? どういうことですか?」
「効率化されたシステムって、もう改善の余地がないと思うものばかりじゃないですか。たとえば会社って、効率化の行き着いた先だと思うんですよ」
「会社が効率化されてる? なんだか面倒臭いことが多い印象ですけど」
「単に仕組みとして考えると、とても効率的です。大きな枠組みの物事も、徹底的に分業化して、それぞれ仕事を行う。そして仕事をしていれば、毎月ほぼ自動的にお金が入ってきて、税金などの対応も全て会社がやってくれます」
「仕事をしていれば、お金が入ってくるのは普通では?」
「いえいえ、どんなに仕事をしたところで、利益が出なければ本来手元にお金は入ってきませんよ。でも会社なら、個人で少し赤字を出しても、他の部署が補填して手元にお金が入ってくる。よく考えたらすごいことなんですよ」
「なるほど…」
「ただしその結果として、おっしゃる通り面倒なことがたくさん生まれました。小さな物事一つにも稟議書が必要。多くの人を取りまとめる大企業ほど、細かな取り決めやルールがたくさんあります」
「稟議書めんどくさいってよく聞きますね。一度でいいから言ってみたいセリフ」
「効率化の結果、面倒なことがたくさん増えてしまったわけですね。しかし仕組みとしては優秀です。たとえば、改めて会社と個人事業主それぞれのメリットを考えてみると」
[会社のメリット]
・分業化して、専門性を上げることができる
・定期的に収入が入ってくる[個人事業主のメリット]
・案件全体の概要を知ることができる
・好きな時に好きな仕事ができる
「ここで注目したいのが、個人事業主の『好きな仕事ができる』という部分ですね」
「一時期流行ったYoutuberのCMで、似たような文言を聞いたことがあるな」
「会社員としての悩みの大半って、スキルや知識があるはずなのに、うまく組織に生かされないことだと思うんですよ。そこで腐ってしまうこともある。僕自身もそういう時期がありました」
「身に覚えがあるような、ないような…」
「とはいえ、独立するにも様々なリスクがあるわけです。じゃあ本業では活かされないスキルを持った人たちと一緒に、会社の外で活動するチームを作ればいいのではないかと」
「副業チームってことですか?」
タムラさんが中心となり、富士通のグループ社員を中心に構成されたグラフィックチーム
『グラフィックカタリストビオトープ』。現在は富士通という枠ににこだわらず活動しているそう
「まあ副業は『結果的についてきた』って感じなんですけどね。富士通のグループ社員だけで、グラフィックレコーディングをベースにしたコミュニケーションづくりのためのチームを作ったんですよ」
「ほう…なんでまたそんなことを…? 個人活動でもいい気がするんですけど…」
「そもそも僕はグラフィックレコーディング自体にはあまり興味はなかったんですよ。絵が描けたのでツールとして使った結果、副業のひとつになっただけ。それより人の関係性やチームビルディングの方に興味があったんです」
「ここまできて明かされる、衝撃の事実」
「そもそも会社での本業と副業って、完全に独立し合っているものでもないと思うんです。なら、ちゃんとコンプライアンスや規則を意識した範囲で、本業での経験を副業に生かしつつ、逆に副業で得た自信や経験を会社にフィードバックできるなら最高じゃないですか?」
「たしかに、それができたら最高ですね」
「そして、チームビルディングという側面でも色々試してみたかったんです」
「ほうほう」
「『ヒエラルキー型の組織ではなく、独立できる力を持つ個人がつながり合うことで組織になる』という考え方があるんですね。ティール型組織やホラクラシー経営などと呼ばれたりするんですけど。それを副業チームならできるんじゃないかと」
「へえ〜、色々あるんだなあ。でもそれを会社に取り入れることはできなかったんですか?」
「僕の所属する企業は規模がとても大きいわけです。だから、この大組織全体に、これらの組織論を取り込むのは難しいと判断しました」
「え、どうしてですか?」
「理由はいろいろあるのですが、一例をあげると、会社という組織は社員全員が養われなければいけないんですよ。だけど、お互いが独立しているとしたら、当然貢献度も変わってくるわけですよね。その中で給与形態にあまり差がなかったら、絶対に不満が発生してしまう」
「普通の会社においても、よくある話だもんなあ」
「でしょう? でも全員がきちんと安定した稼ぎを持っている上での副業チームであれば、格差があっても不満は生まれにくいんですよ。それぞれがやりたいときにやればいい」
「なるほどなあ。理にかなってる。でも実際に大企業で副業チームを作るのは大変でしたよね?」
「もちろん自分の楽しくやっている副業を、富士通のような大企業に価値のあるものとして提供することは大変です。ただ、運良くこの分野に関しては僕が先陣を切っていたので、なんとなく価値を還元する見通しが立っていたんですよ」
「これまでのタムラさんの活動が活きたと」
「はい、もちろん支えてくれた上司などのおかげもありますけどね! とはいえ蓋をあけてみると、活動を通してメンバー1人1人が想像以上に成長して本業でも成果をあげ始めたんです。結果が出ればしめたものって感じですね」
「意外と出たとこ勝負なんですね…」
「いやあ、どんなに綿密に見通しを立てたとしても、やってみなきゃわからないものですよ。100%成功する『正解』なんて、今の世界には存在しないですし」
「まあ、そうか…100%成功する『正解』を求めちゃいがちですけど」
「かつては大企業に入るのが、その『正解』だったかもしれません。ただ今はそうではない。きちんと物事の仕組みや構造を把握して、様々な『解釈』を探す。そして常識の壁を突破していくことが大事なんだと思いますよ」
「常識を突破するための『解釈』か〜」
「世界の最前線にいる自分が、何をどう解釈するか。正解を求めずにやるのは大変ですけど、それぞれの解釈を、お互いに尊重し合えるのが多様性のはず。この答えのない時代、一人ひとりがきちんと考え続けられるような状況を作り続けたいですね」
おわりに
ということで、新たなコミュニケーションツール「グラフィックレコーディング」にまつわる話はいかがだったでしょうか。
「絵なんて描けないけど、言葉だけでどうにかなるでしょ」と思っていましたが、人に考えを伝えることって、想像よりも難しいのだなと気づかされました。生まれも育ちも違う人たちの中で、お互いの考えを正確に理解しあうのってほんとに大変ですね。
さて、今回お話を伺ったタムラさん、インタビュー中にこんなことを話していましたね。
「グラフィックレコーディング自体にはもともとこだわりがないんですよ。僕自身はたまたま絵が描けたから、それをツールとして使っただけ」
目先の素晴らしく見えるものに飛びつくのではなく、手持ちのカードから、より面白がれる方法を探していく。すごく参考になりますよね。
この記事を読んだからグラフィックレコーディングを始める…だけではなく、自分なりに最適なコミュニケーションの形を探してみるのもいいかもしれません。
最後に、取材中のグラフィックレコーディングのgif画像をギャラリーに載せていますので、そちらもぜひご覧ください。記事の内容と見比べてみるのも一興かも!
- 1
- 2