ベストセラーは「桃太郎」⁉︎ 老舗出版社が本屋と直接取引する理由とは

2018.10.12

ベストセラーは「桃太郎」⁉︎ 老舗出版社が本屋と直接取引する理由とは

創業から半世紀以上となる老舗出版社・永岡書店のベストセラーは、なんとアニメ絵本の『桃太郎』。その秘密は取次を使わずに本屋さんと直取引することにありました。取次と出版社のフシギな関係に迫ります。

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    こんにちは。ライターの斎藤充博です。僕はいつもメディアに記事を書いているんですが、本業は指圧師です。

     

    今日やって来たのは東京の練馬区にある出版社「永岡書店」です。永岡書店は1963年に創業した老舗の出版社。児童書と実用書をメインに扱っています。

     

    この出版社は創業以来、「取次」を通さずに、直接本屋さんに本を卸しています。これってけっこう珍しいことなんですよ。

     

    「取次」とは出版社と本屋さんの間で、本を送ったり、お金を支払ったりする会社のことです。多くの出版社は、取次を通して本を販売しています。

     

    取次を使わない永岡書店はこんなふうになります。「直接売る」って、なんかいいことのように聞こえますが、全国に本屋さんってたくさんありますよね? 大変なのでは?

     

    写真左から編集部の大寺さん、副編集長の池内さん、販売部副本部長の永岡さん

     

    そもそも取次とはなんなのか。それを使わないとどんなメリット・デメリットがあるのか?

    編集部の大寺さん、副編集長の池内さん、販売部副本部長の永岡さんにお話を聞いてみました。

     

    アイディア次第でいろいろと仕掛けることができる

    「まず、永岡書店ってどんな出版社さんなんでしょう。メインは実用書と児童書なんでしたっけ?」

    「はい、こういう小さい童話の絵本って見たことありませんか?」

     

    「ああ、あります! これ永岡書店だったんですか?」

    「そうです。この絵本って、お店でクルクル回るラックに入っていませんでした? あのラックを初めて作ったのがうちなんですよ!

     

    「あれですか! ちょっと前までいろんな本屋やスーパーなんかに置いてあったやつですね」

    「そうです。ちなみにこの『ももたろう』なんですが……。累計110万部売れています

     

    「『ももたろう』が110万部……! すごい……」

     

    あの絵本のラック、そんなに売れるんだ! 金の鉱脈じゃないか! 知らなかった……。

     

    「あと、他社商品なんですが、おもちゃなんかも自社流通で書店さんに卸しています。例えばルービックキューブとか」

     

    「ああ~~~! 本屋さんでルービックキューブ買ったことあります!」

    (※この話の流れに全く関係ないけれども、考え事をしているときにルービックキューブを回していて、解決と同時にルービックキューブが解けたらカッコいいのでは?と思って買ったのです……)

    「最初におもちゃを売ったのは『知恵の輪』だったかな。あれがすごく売れたんですよね。本屋さんと知恵の輪って相性が良いんでしょうね」

    「知恵の輪も買ったことあるな……」

    「他にもけん玉とか、UNOとか、百人一首なども納品しています」

    「百人一首は最近だと漫画の『ちはやふる』の隣に置いておいたら売れそうですね」

    「最近、街のおもちゃ屋さんが少なくなってきていますよね。その結果として、おもちゃを買う場所が本屋さんに流れるような傾向はあるかな、と思います」

     

    本を直接売るメリットとは?

    「でも、どうして絵本のラックやおもちゃを本屋さんに置くことができるんでしょう? 他の出版社さんではあまりやってないように思うのですが」

    「それは、うちが取次を通さず本屋さんと直接やりとりする『直販』で本を売っているからですね」

    「直販だとなぜおもちゃを……?」

    「つまり、うちは部分的に取次の機能を持っているってことなんですよ。そうすると、自社の出版物だけでなく、他社の商品も流通に乗せることができます」

    「なるほど、独自の流通経路を持っているってことですね。でも、多くの出版社は取次を通しているわけですよね。そもそも『取次』ってどういう存在なんでしょう?

    かんたんに言えば本の商社ですね。出版社がメーカー。本屋さんが販売店。その間に入るのが取次です。本を納品したり、お金を決済したりするんです」

    「永岡書店はそこを通さず、ずっと直販で売られているんですよね。自社で流通を持てる以外のメリットもあるんですか?」

     

    他社に任せる部分を自社でやっているので、その分、収益が上がります。それを本屋さんに還元できます」

    「それで本屋さんに喜ばれれば、永岡書店の本を置いてもらいやすくなるってことか……」

     

    「また、実際に各地の本屋さんに行くので、売り場を見て、本をどう売れば良いのかを提案できるというメリットもありますね」

    「あれ、本屋さんの売り場って、店員さんが決めるんじゃないんですか?」

    「基本的にはそうなんですが、店員さんも忙しいですからね。納品された本の荷ほどきをして精一杯になってしまうケースも多いんです。そうすると売り場作りまでなかなか気が回らない。下手すると、本屋さんに入荷したのに荷ほどきされず、返本される、なんてケースも耳にします……」

    「なるほど……。それは出版社の人間が行って『良いところに置いてよ』って営業をかけた方がいいですね」

    「そうですね。そういうときにも、直販でやっていると交渉しやすいんじゃないかと思っています。実際は本屋さんの売り場も限られているので、そう簡単な話でもないんですけどね」

     

    日本全国の本屋さんに社員が本を届けに行く

    「実際に売り場に行くというのは、社員の方が全国の本屋さんに行くんですか?」

    「もちろんそうです。一番多いときでは全国の9割ほどの本屋さんと契約して、永岡書店の本を納品させてもらっていました

    「本屋さんに直接納品するなんて、同人誌みたいだ……。本屋さんの数ってすごく多いですし、9割とやりとりするってメチャクチャ大変なんじゃ……?」(※同人誌を作ったことがあるのだけれど、本の運搬ってとても大変なんです)

    「大変ですよ! 正直、その中には僻地の小さい本屋さんもあります。『こんなところに本当に人が来るの?』という雰囲気の。でも、我々が行かないと本が納品されませんからね

     

    「本を自社で届けるために、うちは全国に営業所が4か所あります。書籍の編集部よりも、流通の仕事をしている社員の方が圧倒的に多いくらいなんですよ」

    「本を作るよりも運ぶ方が、明らかに人手が要りますもんね。なるほどな……」

     

    永岡書店の会社案内より

     

    「今は営業所ごとに分担していると思うんですが、設立当初でまだ営業所がないときは、東京から全国の本屋さんを回っていたんですか? なんか想像つかないですね……」

    「昔は四国を一人の営業マンが担当していたって聞いたことがあります。月初に出張費を受け取りに本社に来て、それから1か月間ずっと四国の本屋さんを延々とめぐり続けるという。一番大変そうなエピソードですね」

     

    「お遍路みたいだ……」

    「直販をやる負担というのも非常に大きいですね」

    「直販方式の出版社が少数派な理由がわかってきました」

    「そもそもうちが直販になったのは、私の祖父が永岡書店を設立したときに取次と取引してもらえなかった、という経緯があるらしくて。一般的に、取次と取引するのって条件が厳しいんです。そうかんたんに小さな出版社は参入できない

    「なるほど…。一方で、逆に大手出版社のKADOKAWAが取次を使うのをやめて、直取引に切り替えようと考えているというニュースがありましたね」

     

    取次を外して全ての本屋さんと直取引するのって、そんなにすぐにはできないと思うんですよね。理由は、先ほど説明したコスト面です。恐らくKADOKAWAさんは部分的に取次を使いながらも、大手の本屋さんとは直取引をするという、良いところどりをしてゆくんじゃないかなあ。想像ですが」

    「ふむふむ」

    「オンラインの本屋さんでも直取引の方向へ進む流れがありますが、こちらも大手出版社から声をかけてゆくのではないか、と思っています」

    「すぐに永岡書店のように進めるのは難しいわけですね。ちなみに……出版社としてオンラインの本屋さんは意識していますか?」

    「正直、そこまで意識してないですね。私たちが主に取り扱っている児童書や実用書って、ネットでいきなり買いにくいジャンルだと思います。やっぱり一度、本屋さんで中身を確認してから買う方が多いのかなと」

    「それは確かにそうかも。実用書と児童書って、他の本とはちょっと違う感じがしますね」

    ネットショッピングが流行りすぎて、リアル店舗がショールームにされているって話(※)があるじゃないですか。でも、その逆もあるんだろうなと思います。つまりネットで商品の情報を得て、現実の本屋さんで買う。児童書だとそういう動きが特にありますね」

    (※編集部註:実際の店舗で商品を見て、通販サイトで商品を買うことは「ショールーミング」と呼ばれている)

    「そういう買い方、僕もしたことありますね……。なるほどなあ……」

    「うちも、ネットで本の中身を検索できるようにしてますけどね。まだ実物を見たいって人は多いと思いますよ」

    ……で、僕の書いた本、売れますか?

    ここまでいろいろ話を聞いてきたのですが、僕が個人的に一番気になっていることを。実は先日、僕は永岡書店から『こころとからだが最高にゆるむいやしのツボ生活』という本を出しました。

     

    この本、ちゃんと売れるんですかね? ちゃんと全国の本屋さんに永岡書店が届けてくれるんですよね? 大丈夫ですよね?

     

    「この本は、ぶっちゃけ売れると思いますか?」

     

    「売れると思いますよ。これなら本屋さんの『ツボ』コーナーだけじゃなくて『女性の健康』や『心の不調』に置かれる可能性もあるし。そうすればツボに興味のない人の目にもとまります」

    「なるほど。売り場を考えるってことが大事なのか……」

    「従来のツボの本って、鍼灸の大先生に取材して、それをライターが原稿にして、本を作るようなやり方をしていたんですね。本の内容ももっと網羅的なものでした。この本は『より生活に密着したツボの使い方を提案しよう』ということで、普段からライターをやっている斎藤先生にお願いして文章も書いてもらっていますからね」

    「(先生って呼ばれるのは恐れ多いな……!) あの、何部くらい売れると思います?」

     

    (みんな一瞬黙る)

    「う~ん……。2~3回は増刷したいですよね」

    「大寺さん、編集担当なのに話が小さいな! 目標なんだから『ミリオン売ります』って言っちゃおう!!!

    「(永岡副本部長、最高に頼もしいな……)」

    「ツボの本が100万部売れたら、業界の事件ですよ……」

    「事件、いいじゃないか。メディアの前でドンって言っちゃおう」

    「(永岡副本部長のおっしゃる通り! 事件いいな~)」

    「まあ目標については、考えておきますね……」

     

    担当編集者にうまくかわされたところで、ここで一旦インタビューは終了に……。この後に永岡書店の物流倉庫を見学させてもらうことにしました。

     

    物流倉庫は人の手で動いていた

    永岡書店は、事務所のすぐ近くに本を運搬するための施設「流通センター」を持っています。

     

    印刷・製本された本はここに送られます。フォークリフトが所狭しと走っている。

     

    本はこんな風に棚へ整理されます。段ボールで仕切られているの、「現場感」あるな~。

     

    僕の本もちゃんとありました!

     

    注文が入ると、棚の上についているランプが赤く光ります。そうすると人が本を棚から取り出してまとめます。

     

    みんなものすごく忙しそうで、棚と棚の間を走りまくっています。冬でも暖房をつけることはないとか。熱くて汗をかいてしまうそうです。

     

    まとめられた本。台車も年季が入っているな……。

     

    さっきまで会議室でミリオンとか言っていたのが、ちょっと恥ずかしくなってくるような、地道な作業。本って、人が作って、人が運ばないと読めないんだな……。

    当たり前すぎて全然気にしていなかったことを、改めて思い出しました。

     

    まとめ

    最近ではネットで情報が得られるようになってきました。また電子書籍もありますよね。でもそれは選択肢が増えただけで、紙の本に完全に取ってかわるものではないように思えます。僕はネットに1000%どっぷりつかっている人間ですが、物を調べていると、紙の本を使いたいときって、意外とある。

     

    そんな紙の本を「直販する」ってことは当たり前ですが「自分で運ぶ」ということです。本って場所を取るし、重たいですよね。それを扱うのに必要なのは、やっぱり、最終的には人の手になります。本って、書くよりも運ぶ方が、ずっとずっと大変じゃないですか……! どうなっているんだ……!

     

    ここまでいろんな人の労力を見ていると、ますます自分の本に対する緊張感が高まってきました。頼む~! 2~3回増刷してくれ~。物流倉庫に積まれている自著を見たら、なんだか急に現実味が湧いてきて、ミリオンとかいうのは止めました!

     

     

    取材先:永岡書店

    記事に出てきた本:こころとカラダが最高にゆるむいやしのツボ生活

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    斎藤充博
    斎藤充博

    1982年栃木県生まれ。東京で指圧師をやっています。インターネットで記事を書くことをどうしてもやめられない。

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