ビル全体が奇怪な飲み屋の集合体!『三ツ寺会館』潜入レポート

2018.08.22

ビル全体が奇怪な飲み屋の集合体!『三ツ寺会館』潜入レポート

大阪・心斎橋~難波の飲み屋街の中でも、その特殊な立ち位置で他を圧倒するディープスポット「三ツ寺会館」。音楽バーや絵本バーなど、サブカル心をくすぐる店の数々は、新宿・ゴールデン街と並び称されるほどだとか。いくつかの店に潜入してみました!

人気記事

    こんにちは、コエヌマカズユキです。僕は物書き業のかたわら、新宿ゴールデン街という飲み屋街でバーをやっています。

    新宿三光商店街振興組合 公式ホームページより

     

    新宿ゴールデン街と言えば、6~7人も入ればいっぱいの小さな酒場が、約280軒も密集する一帯。その魅力の一つは、”怪しさ”です。

    初めて足を踏み入れた人は、まさに異世界に迷い込んだかのような錯覚を覚えるのではないでしょうか。

     

    さて、ゴールデン街にいると、よくこんな話を聞くことがあります。

     

    ゴールデン街に匹敵するディープさ? 何だ、三ツ寺会館って?

    調べてみると、三ツ寺会館には公式WEBサイトもなく、取材窓口もありませんでしたが、関西出身の知人に聞いてみたところ、以下のようなビルだということが分かりました。

     

    三ツ寺会館とは

    大阪の西心斎橋にある、小さな飲み屋が密集するビル。B1F~4Fまでに、約60店舗の小さなバーが店を構えている。現在のビルが建てられたのは約50年前。

    多くの都市伝説があり、アングラ感が漂う飲み屋ビルである。

     

    ほうほう。

    これは、ゴールデン街でバーの店主をしている人間として、行くしかない!

     

    というわけで、早速やってきました!

     

    場所はアメリカ村のほど近く(難波と心斎橋の間くらい)。

    繁華街のど真ん中に、廃墟が突然現れたかのようなこの違和感! 街の風景に溶け込んで……ないですよね、絶対。香港にかつて存在したスラム街「九龍城」を思わせる佇まいです。

     

    中に入ってみます。地下から4階まで、ビル全体が飲み屋でひしめいている状態です。

    ゴールデン街は地上にあるので、散歩がてら気軽に通れますが、三ツ寺会館はビルの中という閉鎖された空間。足を踏み入れるだけで少々緊張します。

     

    このヤバさ、伝わるでしょうか。まるでスプラッター映画の舞台のよう。ゾンビが現れてもおかしくありません。

     

    扉が閉まっているお店が多く、中が見えません。これは入りづらい……。怖気づきそうになりますが、何やら気になるお店を発見。気持ちを奮い立たせて突撃します!

     

    昭和ときめきサロン 桃色宇宙

    ポップでありながらどこか不気味な雰囲気。

     

    扉を開けると、見渡す限りの人形、植物、丸い物体が視界を覆いつくします。色彩の洪水みたいな異次元空間です。

     

    「いらっしゃい!」と出迎えてくれたのは、ママのじゅんこさん。

    アーティストのような雰囲気ですが、実際に、絵を描いたり写真を撮ったりと、創作活動が好きなんだそう。インスタレーション(空間芸術)好きが高じて、お店もこのような空間にしたんですって。

     

    お客さんは若い人が目立ちますね。このビルに入ること自体、敷居が高い気がするのですが……なぜこんなに若い子たちが?」

    「うちのお店は、明るい雰囲気だからか、初めての人が入りやすいみたいなんです。お客さんは30歳前後が多いかな。バンドマンもいるし、写真やモノづくりが好きな人も。もちろん、サラリーマンやOLもたくさんいます」

     

    僕の隣に座った20代前半の女子も、楽しそうにくつろいでいます。「一人で怖くないんですか?」と尋ねると、「全然! 楽しいですよ!」とニッコリ。

    若い女性客も、「じゅんちゃんが守ってくれるから安心できる」とたくさん訪れるそうです。

     

    じゅんこママは会話の振り方も絶妙です。ほかのお客さんに、「こちらの方、ゴールデン街から来たんよ! あんたもゴールデン街、行ったことあるやろ?」と僕を紹介してくれて、自然と会話が始まるきっかけをつくってくれました。これぞおもてなし!

     

    「そもそもじゅんこママは、どうして三ツ寺会館でお店を始めたのですか?」

    「私は石川県から大阪に出てきて、洋服屋さんで働いていたんです。でも人に使われるのが嫌で嫌で。社会不適合者なんです(笑)。それで、一人で何かやろうと考えたときに、よく飲みに来てた三ツ寺会館でお店をやろうと」

    「それまでもお客さんとして来ていたんですね。どういうきっかけで?」

    「この辺りを歩いていて、三ツ寺の廃墟みたいな佇まいを見たらピンと来たんです。『私、絶対このビル好き!』って。それで飲みに行ったのが最初です」

    「じゅんこママはやっぱり、お酒好きなんですか?」

    実は私、お酒飲めないんです。けど、当時は彼氏や友達が欲しかったから、バーに行かなあかんやろって(笑)」

    「飲めないっていうのは意外でした!」

    「私にとって、バーは社交場かな。だから、お酒が飲めるかどうかはあんまり関係ないと思っていますね」

    「なるほど。それからどっぷり三ツ寺会館にハマったわけですね。三ツ寺の魅力って何ですか?」

    あかん人がいっぱいいるんですよ。でもそれが愛おしい。私もどん底のときがあったけど、そんな自分も優しく受け入れてくれた、居心地のいい空間ですね」

    「ゴールデン街も近いかも。あと、初めて会ったお客さん同士がすぐに仲良くなれるのも、素敵ですよね」

    「同時に程よい距離感があるんです。お客さんに仕事やプライベートのことをあまり聞かないから、常連さんでも本名を知らんかったりする。でも、いつものお店に集まって、どうでもいい話で盛り上がったりして。その距離感が保たれているのが心地いい」

     

    三ツ寺会館の楽しみ方ってありますか?」

    「そうですね。お客さんたちみんなにこの空間を楽しんでほしいから、協調性は欲しいかな。うちの店は特に、横に座った人と喋るように振ったりするから、積極的にコミュニケーションをしてほしいです」

    「ありがとうございました! せっかくなのでもう何軒か回ってみますね」

    「はーい、行ってらっしゃい!」

     

    昭和ときめきサロン 桃色宇宙

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館 2F

    営業時間18:00~翌3:00(定休日:なし)

     

    絵本BARガブ

    桃色宇宙を出て、次はどこへ入ろうかと散策していると、「絵本BAR」の看板が。きっと絵本好きの、ほんわかしたお兄さん・お姉さんがやっているに違いない。

    一軒目(桃色宇宙)からかなり濃かったから、次はほっこり癒されよう……!

     

    え? ここ、絵本BARで間違いないですよね? 北斗の拳バーじゃないですよね?

     

    店内にある絵本や登場キャラクターを見るに、本当に絵本バーのようです。

    一体どういうお店なのか、店主のつよぽんさんに聞いてみましょう。

     

    「つよぽんさんは明らかに只者でない雰囲気ですが、一体何者? なぜ絵本BARを始めたのでしょう?」

    「僕は20代のころ、ほぼ黒に近いグレーな仕事をしていたんですが……」

    「あ、やっぱり」

    「ちょっと! 失礼ですよ! まあとにかくそんな日々の中、ある時 仕事仲間たちと地方へ出張に行ったんです。地方だからすることもないし、僕はホテルの中をブラブラしてたんですが、ふと、フロントに『絵本貸し出し中』という文字を見つけました

    「ホテルが絵本を貸し出しているなんて、珍しいですね」

    「そこは偶然にも、絵本作家の葉祥明(ようしょうめい)さんを応援しているホテルだったんです。当時は絵本なんてほとんど読んだことがなかったんですが、暇だったんで2~3冊借りて、部屋で読んでみました」

    「絵本というと、当時やっていたグレーな仕事とは、真逆の世界観だったのではないでしょうか?」

    「そうですね。衝撃を受けました。特に『生んでくれて、ありがとう(著者:葉祥明 )』は、親子の深い深い愛が描かれていて、読み終えた後、しばらく言葉が出ないくらい感動しました」

    「良い話……」

    絵本って明るい展望が描かれているじゃないですか。まれにバッドエンドもあるけど、基本的には希望を持たせてくれる作品が多い。そういうところがいいですね」

     

    当時から三ツ寺会館には、よく飲みに来ていたというつよぽんさんは、好きなものをくっつけて”絵本BAR”をしたいなと考えました。

    現在では絵本の魅力を広めるために、地域の小学校や区民センターなどで、読み聞かせ活動も行っているそう。

     

    店内で読み聞かせをすることもあるとのことで、この日も特別に読んで頂きました!

    ※左はアシスタントの女性

     

    お店で読み聞かせをすると、感極まって涙する人も少なくないのだとか。僕も言葉のひとつひとつが染み入ってきて感動してしまいました。

     

    そんな『絵本BARガブ』では、羊毛フェルトで絵本のキャラクターを作ったり、手話で絵本を読んだりと、お客さんと一緒に部活動もしているそうです。興味がある方はぜひ足を運んでみてください。

     

    絵本BARガブ

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館B1F

    営業時間20:00〜翌5:00(定休日:日曜)

     

    BARプカプカ

    三ツ寺の独特な雰囲気にもだいぶ慣れてきました! 続いては『BARプカプカ』さんへ。こちらは三ツ寺会館でも老舗のロックバーで、ぜひ行った方がいいと、『桃色宇宙』さんに勧められていたのです。

    迎えてくれたのは店主の大吾郎さん。

     

    店内には、邦楽から洋楽まで、幅広い選曲の音楽が流れています。ギターも置いているので、弾き語りをする人もいるそうですよ。

     

    ロックバーの店主なのに、なぜか「まんが道」のTシャツ、しかも手塚治虫風のベレー帽を被っているのが気になって聞いてみると、実は漫画家志望なのだそう。

     

    『BARプカプカ』は三ツ寺会館で23年の歴史があるそうで、長い歴史の中にはこんな事件もあったそう……

     

    ある日突然、数名の外国人が訪れ、飲みながら上機嫌でお店のギターを弾き始めました。

    大吾郎さんが「君ら、バンドやってるんか?」と話しかけると、「僕らはフェニックス(超有名なフランスのロックグループ)っていうバンドをやってるんだ」との返事が! ロックイベント・サマーソニックに出演した帰りだったそうです。

     

     

    大吾郎さんは、さぞかしびっくりしたことでしょう(他のお客さんは超ラッキーでしたね)

     

    音楽と、そして漫画の話が好きな人はぜひ立ち寄ってみてください。

     

    BARプカプカ

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館ビルB1F

    営業時間19:00〜翌5:00(定休日:水曜日)

     

    SIXNINE

    続いては、三ツ寺のアングラ感を最も体感できるという『SIXNINE』さんへ向かいます。見るからにアレな雰囲気ですが、もう慣れてきたので驚きません。

     

    店主のカツキTransparency(以下カツキ)さん。

    カウンター内に緊縛プレイに使われるような縄がぶらさがっていたりして、アングラの香りが強烈に漂っています。

     

    ただ、『SIXNINE』(シックスナイン)という店名の由来は、ロックバンド・BUCK-TICKの曲からとったんだそう。「なのに、どう誤解されたのか、気が付いたらエロい変態ばかり集まってしまった」と苦笑していました。

     

    そんなカツキさんは、もともと三ツ寺会館が好きでここを選んだわけではなく、ただの偶然からでした。でも今では……

     

    「僕はポップカルチャーから弾かれ続けて、しゃーなしにサブカルに来たんです。そんな自分に、三ツ寺は水が合ってた。ここはどのお店も、店主が本当に好きなことをやって、結果的にサブカルになったお店ばかりなんです。エエとこですよ」

     

    元々、友達がほとんどいなかったというカツキさん。競馬やプロレスなど、マニアックな趣味を持っていたものの、語り合える人がいなかった。三ツ寺では、そういった話もできるのが楽しいそうです。

    「売り上げの7割は三ツ寺で使っています」とカツキさんは明かします。

     

    三ツ寺に一番ハマっているのは、実は店主たちなのかもしれません。

     

    SIXNINE

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館ビル3F

    営業時間20:00〜翌5:00(定休日:なし)

     

    BAR地獄

    この頃になると、入りづらそうなお店に入ってみることに、むしろ楽しさを覚えるようになりました。というわけで次はこちら! 『BAR地獄』……!

     

    一体どんな店なのか?

     

    めちゃくちゃ普通に良いバーでした。
    店主のちゃんへるさんは会社員をしていたのですが、退職したタイミングで、お店を始めたんだそう。

     

    「会社員時代は残業が多くて、仕事もマンネリ……時間だけが毎日過ぎて行く状態でした。このままでいいのかなって時に空き物件を見つけて、半年だけでもやってみようと思ったんです」

     

    ちなみに”地獄”という店名は、このディープなビルでお店をするうえで、名前負けしないようにつけたのだとか。「ただ、親にはまだバーの名前は言えてないですね」と心優しき閻魔大王は明かしてくれました。

     

    BAR地獄

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館ビル3F

    営業時間20:00〜翌5:00(定休日:なし)

     

    BAR千鶴

    ものすごく飲んだくれのママがいるらしい! との情報を聞き、向かったお店は「千鶴」。

    ママのたかちりさんという人は、とにかく大酒飲みなのだとか……。僕もかなり飲んで、もうベロベロですが、これは向かうしかない!

     

    たかちりさんは酔いつぶれていました。

     

    「こんばんは」

    「(スヤスヤ)」

    「あの、お話を聞かせてもらえませんか?」

    「(スヤスヤ)」

     

    起きる気配のないママに代わり、お店を切り盛りするスタッフさん。

     

    意味不明の格言が張られた酒棚。

     

    「たかちりさん、あの格言はどういう意味なんですか?」

    「(スヤスヤ)」

    「……」

     

    BAR千鶴のレポート……以上です!

     

    BAR千鶴

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館ビル1F

    営業時間19:00〜?(定休日:なし)

     

    三ツ寺もゴールデン街もすばらしい!

    さて、朝日が昇ってきました。結局この日、9店舗をハシゴしました(さすがにキツかったです)。でも、一つだけ言えるのは、「めちゃくちゃ楽しかった!」ということ。

     

    三ツ寺を回ってみて、ゴールデン街との共通点をいくつも感じました。例えばお客さん同士の距離の近さ。居合わせた人と自然に会話が始まる空間は、なかなかないのではないでしょうか。

     

    あと三ツ寺の皆さんは、自分たちのことを自虐的に「ダメ人間」と言っていましたが……少しだけ補足させてください。三ツ寺には「愛すべきダメ人間」がいっぱいでした!! 

     

    勇気を出して足を踏み入れてみれば、世界が広がること間違いなしです。

     

    今回、取材に協力いただいたお店です。

     

    昭和ときめきサロン 桃色宇宙
    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館 2F
    営業時間18:00~翌3:00(定休日:なし)

     

    絵本BARガブ

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館B1F

    営業時間20:00〜翌5:00(定休日:日曜)

     

    BARプカプカ

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館ビルB1F

    営業時間19:00〜翌5:00(定休日:水曜日)

     

    SIXNINE

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館ビル3F

    営業時間20:00〜翌5:00(定休日:なし)

     

    BAR地獄

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館ビル3F

    営業時間20:00〜翌5:00(定休日:なし)

     

    BAR千鶴

    大阪市中央区西心斎橋2-9-5 日宝三ツ寺会館ビル1F

    営業時間19:00〜?(定休日:なし)

     

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    コエヌマカズユキ
    コエヌマカズユキ

    ルポルタージュを主に執筆。新宿ゴールデン街の文壇バー「月に吠える」店主でもある。著書「究極の愛について語るときに僕たちの語ること」「フリーライターとして稼いでいく方法、教えます。」。本とお酒とデスマッチ観戦が好き。Mail:info@moonbark.net

    コエヌマカズユキの記事をもっと見る

    オススメ記事

      こちらの記事もオススメ