大きすぎる課題に溺れず「本質」に立ち返れ。悩める24歳に海の先輩から贈る言葉

2022.03.24

大きすぎる課題に溺れず「本質」に立ち返れ。悩める24歳に海の先輩から贈る言葉

社会に出て働きはじめた時、いつか直面する「大きすぎる課題」にどのように向き合えばいいんだろう? 漁師に憧れ、水産漁業の会社で働きはじめた24歳が、海の大先輩に相談しました。「魚を獲り過ぎない」漁業と、昔ながらの漁師の生き方を両立する方法とは?

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    こんにちは、ライターの香川です。突然ですが、僕は「漁師」に憧れてます。

     

    中学〜大学まで卓球に熱中し、育ちは神奈川。大学4年生のときに「このまま部活しか知らない状態で社会に出たくない」と感じ、当時の自分からいちばん対極の存在が「漁師」だったんです。

     

    自分の体を動かして、魚を獲る。人の手でコントロールできない自然と対峙し、時には命の危険にもさらされる。だからこそ、生を強烈に実感できる。そんな漁師の生き様に憧れ、2021年春から漁業関連の会社で働きはじめて、現在24歳です。

     

    自分が漁師になるのではなく、漁師さんを支える立場で仕事をしてるのですが……とある悩みに直面しています。

     

    その悩みとは、「漁師」のあり方と、海の現実の間にあるギャップ。

     

    いま、世界的に水産資源の枯渇をはじめとした海の環境問題が叫ばれています。

     

    僕自身、所属する会社「さかなデザイン」では水産漁業をめぐるそうした問題に取り組んでいて、いかに「魚を獲り過ぎない」漁業を目指すかも、テーマのひとつ。ITベンチャーと組んで新しい技術を取り入れたり、漁業の6次産業化に取り組んだりしています。

     

    しかし漁師の方々に会い、話を聞くなかで、彼らに「魚を獲り過ぎないで!」と伝える難しさも感じるんです。だって、漁師さんにとっては魚が収入源なわけで、「海を守る」という正論だけでご飯は食べられない。

     

    海の課題は解決したい。でも、その海では、僕の憧れる漁師は生きていけないのかも……?

     

    そうした矛盾に悶々としてしまう日々で。

     

    そんな時、仕事で「漁師の大先輩」とご一緒することになりました。その大先輩とは、愛媛の三好 猛(みよし・たけし)さんです。

     

    三好さんは、かつて船団を率いていた凄腕の漁師であり、現在は陸に上がり、漁師団体を支援・アドバイスする立場。プライベートではバイクに空手、ゴルフで全国大会のシード権を持ち、なによりこのザ・漁師な見た目!

     

    僕の憧れる「漁師」そのものでありつつも、一歩引いた視点で、漁師のあり方について考えているはず。

     

    海の大先輩は、いまの漁業をどんな風に見ているんだろう? 現実に絶望しそうになったとき、どうやって立ち向かってきたのかな? 話を聞いてみました。

     

    漁師の本質を見失ってはいけない

    「今日は突然お時間をいただいて、ありがとうございます」

    「今日は漁師の話が聞きたいんだっけ。僕はもう陸に上がった人間やけど大丈夫?」

    「まさに、そんな三好さんだから話をうかがいたくて。ちなみに『会長』と呼ばれていますよね」

    「いまは『愛媛信漁連(※)』という漁業者向け金融機関の代表をしてます。あとは地元の漁協の経営も。漁師時代の経験を活かして、漁師たちを陸からサポートするのが仕事ですね」

    ※正式名称は「愛媛県信用漁業協同組合連合会」

    「なるほど。そんな三好会長に、僕の悩みを相談させてほしいんです」

    「一体なにを悩んでるの?」

    「会長みたいな『強くてカッコいい漁師』に憧れて漁業の会社に就職したんですが、世界では『魚を獲り過ぎない』漁業が目指されているのを知って。昔ながらの漁師さんのあり方って、そもそも現代の海じゃ成立しないのかな?と」

    「なるほどね。僕は成立すると思ってる。そこで大事なのは、まず漁師の本質を忘れないこと」

    「その本質って、なんなんでしょう?」

     

    「漁師は『狩猟民族』ってことだね」

     

    「狩猟民族。なんとなくイメージは沸くんですが、もう少し詳しく聞きたいです」

    「例えば、僕はもう陸に上がって仕事をしてるけど、漁師をしていた頃はもっと、ストレートにものを言ってた。いまは色んな社会常識とかが頭をよぎるんだけど、海の上はやっぱり違うわけ」

    「沖に出たら、悪天候や大波で時には命の危険にさらされますよね。そうした環境では、丁寧な言葉づかいじゃなくなる、みたいなことですか?」

    「それもある。もう少し掘り下げると、漁をするときに『二番でええわ』なんて感覚を持ったら終わりなんですよ。スポーツでも何でも同じだと思うけど、常に獲物への執着や競争心は持っていないといけない」

    「狩猟民族として、獲物を一番に獲ることが最優先される、と」

    「そうだね。だからといって誰かを傷つけたり、嘘をついたりしてもいいわけじゃないよ。獲物を追いながら助け合う、スポーツマンシップみたいなものも漁師にはある。ただし、周りを尊重して先を譲る、みたいな社会常識よりも『獲物への執着』が優先される、ということですね」

    「なんとなくわかってきました。狩猟民族であることを忘れちゃダメ……」

     

    「だからこそ、漁師は二足の草鞋をはかないほうがいい、と僕は思ってますね」

    「二足の草鞋とは、漁師と別の副業をするような?」

    「そうだね。僕は会長を頼まれて、弟に船頭を譲って陸に上がった。一度離れてしまった以上、もう弟が船頭をやってる今の船には戻れないんですよ。狩猟民族がグループで狩りをするけど、そこにグループ外の奴がいきなり入っても狩りはできないから」

    「昔の経験があっても……?」

    「そうだね。信漁連の会長は重い立場だから、覚悟を持って漁師という一足を手放した。そこに後悔はしてないですよ。陸に上がった結果として、漁業に対して俯瞰的な見方ができるようになったと思うし」

    「まさに今の活動に繋がっているわけですよね」

    「あとは今思えば、『趣味』も大切でしたね」

    「趣味???」

     

    魚だけは、どんなに努力しても上手くいかない

    「趣味というと……?」

    「バイクや空手、ゴルフですね。『トライアル』というんだけど、足をつかずにバイクで障害物を越えていく競技があるのよ。20歳前後ではじめて、当時の全日本ランキング上位まで行きましたね

    「全日本ランキング!」

     

    三好さんがトライアルの大会に出たときの様子。カッコいい

    三好会長がトライアルの大会に出たときの様子。カッコいい

     

    「大会で遠征したり、専門誌で記事になったりもしてましたよ。その後は極真空手。バイクですごく体力がついてたから、愛媛チャンピオンになって、全日本にも出てたなあ」

    「バイクも空手も全日本。趣味の域を超えてるじゃないですか」

    「でもまあ、趣味止まりなんですよ僕は。二流止まり」

    「プロ手前まで、ということですかね」

     

    「そうだね。それは漁師という本業があったから。例えば養殖業だったら、一年を通じて作業があったり気を張ったりする必要があるかもしれない。だけど僕のやってたシーズンのある網漁は、一年中がっついても仕事が向上するわけじゃないから。漁師以外の経験で、人間力を鍛えてましたね

    「人間力、ですか」

    「漁業を俯瞰する見方もだし、体力やチャレンジする気持ちもそう。トライアルはバイクを自分でチューンナップするから、機械の知識もつく」

    「機械の知識は船にも活きそうですね」

    「漁師にとって、網や機械をメンテナンスする力も重要なんだよ。なにしろ魚を獲ることって、どんなに努力しても上手くいかないときがあるから」

    「それは、自然相手だから?」

    「そうだね。僕は好きなものがあるとそればっかり突き詰めちゃうタイプなんです。これと決めたら、どんな手を使っても頑張れて、ある程度までは成功できる。ただ、魚はどんなに頑張ってもダメなときはダメ」

    「なるほど。それが、網や機械の知識とどう繋がるんでしょう?」

    網や機械に関しては、魚を獲る以外の、努力でなんとかなる部分。だからこそ、漁師は1年365日のなかで400日分くらい努力しないといけないと思う」

     

    「少し前に、海底火山の噴火きっかけで軽石問題が話題になったでしょう。あれも漁師が船のエンジンの構造を理解してれば、どこに詰まってどんなトラブルが起きるか、とか対処できるからね」

    「その話って、先程の『二足の草鞋をはかないほうがいい』とも繋がってきますね。漁師なら、まずは漁師のスキルを磨くべきというか」

    「そうですね。漁師なら漁師をちゃんと突き詰めるべきなんですよ。魚を獲るための努力を本気でする前に、SDGsうんぬんと言っててもダメ」

    「なるほどなあ……」

     

    厳しい現実と、どう立ち向かえばいい?

    「とはいえ、今の漁業は難しい状況だと思うよ。僕のやってた漁もそうだけど、昔のままでは維持できなくなっている。僕の若い頃は、カタクチイワシのパッチ網をしてたんだけど、当時は1年で1億円くらい水揚げがあった。でも、いまはだいぶ下がってますね」

    「イワシ漁で1億円はかなりすごいですね! 下がってきてるのは、水揚げが減ってるから?」

    「1日の漁獲量自体は、今も昔もそんなに変わってないと思う。変わったのは魚の質やね。魚の質がいまよりもずっとよかったから、同じ漁獲量でも、水揚げの値段も高かったのよ。魚の単価が数百円変わるだけで、手取りにしたら数百万円くらい差が出るから」

    「魚の質が落ちてしまってる……」

    「それも色んな原因が絡み合ってるよね。もちろん水揚げ量が減ってる魚種や地域もあるから、昔よりたくさん獲らなきゃと漁場を超えちゃう。昔はそれもお互い様ですませることもあったけど、今の若い子は加減を知らずに、過剰な獲り方をしちゃったりして、今までにないトラブルが起きたりしてる」

    「みんな余裕がなくなっているんですね」

    海には、いろんなものの皺寄せが来てるってことなんだよ。経済的な面もそうだし、環境的にもそう。家庭排水や洗剤や、いろんな要因がある。自然は、誰かがコントロールできるものではないから」

     

    「昔のベテラン漁師もいなくなって、若い人は電子機器を駆使してやるわけさ。それだと海の知識やキャリアがなくても獲れるけど、さらに乱獲が進んじゃう。もともと水産資源が減っているから、負の連鎖が起きているよね」

    「…………」

    「誰かが言ってたんだけど、海というのは現代社会を先取りした姿なんだよ。一見綺麗に見えても、それはつくられた綺麗さで、磯焼けで栄養のない、海藻も生えないような海になっていたりする」

    「なんか、めちゃくちゃ暗い気持ちになってきました……このままだと、やっぱり絶望しかない……?」

     

    「だから、ただ新しい技術を取り入れたり、漁獲調整をしたりしてもダメで。どうバランスをとっていくかだと思うよ」

    「新しい技術が悪いわけじゃない。ただし、漁師の本質を忘れて新しいものを導入してもよくないってことですかね?」

    「そうだね。漁師の技術って、磨けば磨くほど面白い。僕のしてた漁の場合、網の仕立てで漁の結果も変わるの。数値化は絶対できないんだけど、仕立てと海や魚の状況がピタッとはまるとき、すごく魚が入る。他の船団と同じように底引きしてても、うちだけどんどん魚が入るわけ」

     

    「そんな漁ができたときは、もう最高よ」

     

    「会長が狩猟民族の快感に浸った目をしている」

    「でも、他の船団と協力し合わないわけじゃないよ。『なんで悪いんやろか』って聞きに来る人がいたら、『網のここがこうなっとんちゃうか?』と本気で向き合う。だから、自分も悪いときは助けてもらえるわけ」

    「自然相手に、100%成功する方法はない。でも、お互いオープンにしながら本気で試行錯誤する。それがハマったとき……」

    「最高やね! それはバイクや空手、ゴルフで優勝したときも同じかもしれん。一番になるために練習をひとつずつ重ねてきて、それが花咲いた瞬間の喜びは同じですよ。その努力をするために、気持ちの強さも重要なんだね」

    「会長って、心が折れそうになった瞬間とかないんですか? 僕は正直、会長みたいに強くないなあと思っちゃって」

    「そんなん、僕もしょっちゅう折れそうになっとるよ。毎日折れとる

    「毎日!」

     

    「朝にランニングをするんだけど、布団から出たくないじゃん。そこで毎朝折れそうになる」

    「急に親近感が湧いてきました。まだ朝方は寒いですしね」

    「でも、そこで出て走るだけで、1日儲けもんじゃん。日々折れそうになるけど、そこで乗り越えると、少しだけ強くなる。人間、波も絶対にあるし、精神の筋トレみたいなものじゃないかな」

    「折れそうになったときに、どう乗り越えるかなんですね」

    「理由なんか後付けできるのよ。とりあえずやってみればいい。行って砕けたらいいのよ。尻拭いは俺がするからとにかく行け、と信漁連の奴にもいっつも言ってますよ。香川くんも、悩むのもいいけど、まず行動したらええのよ

    「……なんだか勇気が出てきました。今日はありがとうございました!」

     

    おわりに

    海は、現代社会を先取りした姿。そこに向き合おうとすると、心が折れそうにもなります。

     

    だけどそこで、まずは恐れずにやってみること。本質は何か、忘れずにいること。

     

    一朝一夕に海の課題は解決できません。ただ、少しずつでも行動していけば、何か変わるかもしれない。海の大先輩は、僕にそんなことを教えてくれました。

     

    取材:香川幹
    構成:友光だんご
    編集:くいしん

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    この記事を書いた人

    友光だんご
    友光だんご

    編集者/ライター。1989年岡山県岡山市生まれ。株式会社Huuuu 取締役/編集部長。犬とビールを見ると駆けだす。

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