総事業費26億!構想20年!「道後温泉」のシンボルを守る一大プロジェクトの裏側

2021.11.27

総事業費26億!構想20年!「道後温泉」のシンボルを守る一大プロジェクトの裏側

日本三古湯のひとつで、3000年ほどの歴史をもつ愛媛県の「道後温泉」。2019年から、シンボルである道後温泉本館の保存修理工事を実施中です。その一大プロジェクトの裏側について、ライターの友光だんごが取材しました。

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    こんにちは、ライターの友光だんごです。愛媛県松山市にある「道後温泉」にやって来ました。

     

    道後温泉は日本でも有数の人気温泉地で、おまけに「日本三古湯」のひとつ。その歴史は3000年ほどと、西暦以前から続いているそうなんです。なにそれすごい。

     

    それゆえちょっと調べるだけで逸話が出るわ出るわ、「聖徳太子も来た」「『源氏物語』に登場する」「夏目漱石の『坊っちゃん』にも出てくる」「皇室専用の浴室がある」などなど。やたら由緒があるようなんですが、いまはどんな感じになっているのか、ぶらついてみます。

     

    歴史を感じる3つの公衆浴場

    いまもなかなかに栄えていて、駅前商店街のアーケードも立派です。

     

    観光スポットのひとつ「坊っちゃんカラクリ時計」も、ちょうど1時間に一度、『坊っちゃん』のキャラクターが出てくるタイミング。大勢の人が集まって写真を撮っています。

     

    駅前広場を眺めながらコーヒーをいただけるおしゃれなカフェがあったり、

     

    愛媛名物「みかん」のジュースを集めたお店があったり。

     

    商店街のご飯屋さんで食べた「道後天丼」もおいしい。こういうザ・温泉街に来るのも久しぶりだし、ぶらぶらするのも楽しいな〜。

     

    さて、散策と腹ごしらえがすんだところで、温泉に入らなければ。この道後温泉には、旅館などに宿泊しなくても入れる公衆浴場が3つあるんです。

     

    ひとつは「椿の湯」。1953年につくられた蔵屋敷風の建物で、入浴料金は大人400円とお手頃。地元の方が多く訪れる公衆浴場です。

     

    加温・無加水の源泉かけ流し。湯船に置かれた「湯釜」には、地元・松山出身の正岡子規による「十年の汗を道後の温泉(ゆ)に洗へ」という句が

     

    もうひとつは2017年にオープンした「道後温泉別館 飛鳥乃湯泉(あすかのゆ)」。飛鳥時代の建築様式を取り入れた雅なデザインで、源泉かけ流し。そして中庭がなにやら彩り豊か!

     

    花の写真が石畳にありますが、なんだか見たことがあるような……

     

    と思ったら、あの蜷川実花さんの作品! 期間限定のインスタレーション展示でした。

     

    さて、道後温泉にある公衆浴場のもうひとつが、もっとも古い「道後温泉本館」。120年以上前の明治時代に建てられた木造建築で、現役の公衆浴場として初めて国の重要文化財にも指定されているそう。

     

    (2019年撮影)

     

    こんな歴史を感じる建物で、『千と千尋の神隠し』に出てくる湯屋を描くとき参考にしたと言われることもあるそう。

     

    ということで、いざ道後温泉本館へ。歴史を感じる入浴だ〜!!!!

     

    …………と、喜び勇んで行ったのですが。

     

    あれ?

     

    なんか……

     

    すっごい……

     

    工事中?????

     

    めちゃくちゃ工事してました。まあ、古いから仕方ない。今回は入れないかな、と思いながら未練がましく周りを歩いていると……

     

    あれ、

     

    入れるんだ!!??

     

    逆にびっくりしました。こんなに大掛かりな工事してるのに営業中? そんなことできるの? 大変なのでは?

     

    道後温泉で何が起きているのか、いよいよ気になります。本館を運営する道後温泉事務所さんで、話を聞いてみることにしました。

     

    構想20年、工期6年。総事業費26億円の一大プロジェクト

    道後温泉事務所の白川剛士さんにお話を伺いました

     

    「先ほど本館へ行って来たのですが、工事しながら営業されてるんですね」

    「はい。本館は国の重要文化財に指定されているのですが、文化庁から1999年ごろに耐震調査などの通知が来たんです。その結果、ただちに何か問題があるわけではないけれど、今後も長期的に使用していくために修理が必要、となりまして」

    「では工事の計画がはじまったのは、20年以上前……?」

    「そうなりますね。地元の方と相談を重ねまして、2019年から保存修理工事がスタートしました。2024年に工事が終了する予定です」

    「6年も! そんなにかかるんですね」

    「屋根の葺き替えなどの部分修理、耐震、それと配管の更新が主な目的です。これが実際の工事写真なのですが」

     

    道後温泉HP「保存修理レポート33『2019年9月』 中央廊下の掘削状況」より

     

    「だいぶ古そうですね」

    「これは本館内『神の湯』浴室の排水管として敷設当時から現在まで使用されている陶管(とうかん・陶器製のパイプ)です。ただ、製造時期はわからなくて」

    「え?」

    「当時の工事計画書も残っていませんから。建材自体に刻印や墨書きが残っていないと、配管も瓦も、いつの時代のものか正確にはわからないわけです」

    「書類などが残っていないということは、掘ってはじめてどんな配管になっているかわかる?」

    「そうなんですよ」

     

    床板に残っていた当時の墨書き(道後温泉HP「保存修理レポート79 神の湯 脱衣室 解体状況」より)

     

    「なんだかブラックボックスをひとつ一つ開けていくみたいな作業をしてません?」

    「そうなんです。まさに歴史を紐解くような作業ですね。それに保存修理工事では部材ひとつ一つが文化財なので、瓦一枚であっても可能な限り元あったものを使います。古いものをどんどん取り替えればいい、という話でもなくて」

    「全館休業にして一気にリニューアル工事しちゃうほうが早いのでは?」

    「おっしゃる通りです。営業しながら工事するぶん、工期も長くなります。それに保存修理工事には全体で26億円ほどかかっているのですが、新しくつくり直すほうが費用も抑えられるかもしれませんね」

    「一番ストイックな方法を選んでいる。一体なぜ……?」

    「それは、本館をいまの建物のまま残し、営業し続けることに意味があるからなんです」

     

    初代町長が100年先を見越してつくった地元のシンボル

    江戸時代の道後温泉が描かれた図

     

    「本館の場所にはもともと、江戸時代の1600年頃には建物が建っていたとされています。浴室は木造でできていたため、湯気の影響で劣化が早く、当時は30〜40年おきに建て替えていたそうなんです」

    「木造の建物と湿気は相性が悪いでしょうね」

    「その後、明治時代になり、道後湯之町の初代町長である伊佐庭如矢(いさにわ・ゆきや)さんが、本館を改築したんです。『100年先まで真似されないようなものを造ってこそだ』と、多額な費用をかけて3階建ての立派な建物をつくられたんですね」

     

    伊佐庭初代町長の銅像

     

    「多額とは、どのくらい……?」

    「当時で13万5千円とされているので、一説では、今の金額で約20億円とも言われています

    20億!!!!

    「地元の方から集めたり、借金をしたり、本人も給料をもらわずに身を粉にして実現されたという話が残っていますね」

    「今の感覚でも相当な規模のプロジェクトですね」

    「伊佐庭さんがつくったのはそれだけではないんです。建物だけでは人が呼べないと近くに公園を整備したり、港から道後まで鉄道を引いたり。実業家というか、今の言葉で言う道後のグランドデザインを考えられた方ですね」

    「まさに町をつくった人」

    「皇室専用の浴室『又新殿(ゆうしんでん)』をつくったのも伊佐庭さんですし。あとは県のお役人時代に、松山城の廃城阻止もやられていますね」

     

    皇室の方が道後に来られた際に訪問される、専用浴室『又新殿』

     

    「伊佐庭さんがいなかったら松山城も残ってなかった! いまの松山の観光に貢献しまくってますね」

    「現在の本館ができ、鉄道も通って、さらに国内旅行の文化も広がっていた時期だったため、観光地としての道後温泉の人気はそこからさらに高まりました。以来、本館は道後温泉、ひいては愛媛県のシンボルになったと言っても過言ではないと思います」

    「話を戻すと、本館がシンボルだからこそ、営業を止めずに工事をするし、今の形のまま残すことに意味がある?」

    「まさにそのとおりです。本館が休業となると、地元経済への影響も相当に大きいですしね」

    「地元のシンボルへのリスペクトが、今の保存修理工事を生んでいたのか……」

     

    『火の鳥』のテントで「今しか見られないものを」

    「そういえば話を聞いていて思い出したんですが、前に手塚治虫の『火の鳥』ともコラボしてませんでした?」

    「はい、2021年夏までの前期工事のときですね。『道後REBORNプロジェクト』と題し、オリジナルアニメーション『火の鳥“道後温泉編”』の制作や、本館を覆うテントを『火の鳥』の絵でラッピングするなど、さまざまなプロジェクトを行いました」

    「『火の鳥』のテント、ニュースで見た記憶があります!」

    『工事自体を観光資源にしよう』と考えて、こうしたさまざまな仕掛けをしているんです」

    「工事を逆手に取って、観光客を呼ぼうと考えたわけですね。『火の鳥』が大好きなので見たかったです」

    「プロジェクトは終わりましたが、生地は地元小学校のテントに再利用されていますよ」

    「REBORNしてる! こういう『今しか見れない』ものがあると、行く動機にもなりますね」

    「もうすぐ、テントが新たに大竹伸朗さんデザインに変わりますよ。ちょうど取付がはじまるタイミングです」

    「おお、それも楽しみです。飛鳥乃湯泉では蜷川実花さんとコラボしてましたが、アート系のプロジェクトも多いですね?」

     

    「2014年の道後温泉本館改築120周年のタイミングで、『道後オンセナート2014』というアートイベントを開催したんです。それがかなり好評で、2014年以降は女性のお客さんも増えました」

    「道後温泉のイメージが変わったと。今やってる蜷川実花さんの展示も、かなり『映え』な感じですね」

    「SNSでの拡散を意識しています。蜷川さんには2015年の道後アートで初コラボしてから、2018年、そして今回とご一緒させていただいています。現在の展示は『みんなの道後温泉 活性化プロジェクト』の一環ですね」

     

    街のあちこちに『みんなの道後温泉 活性化プロジェクト』のポスターが。蜷川実花さんをはじめとするアーティストの作品展示、関係人口サミットなどさまざまなプログラムを予定

     

    「道後温泉本館の工事が必要だとわかってから、『本館以外の魅力をつくる』ことも大きなテーマとして取り組んできました。飛鳥乃湯泉や、『空の散歩道』をつくったのもその一環です」

     

    本館を見下ろす丘の上にある「空の散歩道」。足湯も整備され、道後温泉の街を一望できるスポット(2019年撮影)

     

    「工事に備えて、いろんなスポットもつくってきたと。本当に一大プロジェクトなんだなあ……」

     

    道後温泉3000年の歴史

    本館の東面にある振鷺亭の屋根にしつらえられた「振鷺亭 足湯の寄合」。保存修理工事を見守る夏目漱石、聖徳太子、正岡子規、伊佐庭如矢が描かれている。「とべ動物園」の3Dアートを手がけるテクニカルイラストレーター・隅川雄二さんの作品のひとつ

     

    「道後温泉にどうして3000年も前から人が来てたんだろう、というのも気になっていたのですが」

    「大昔のことは私たちもわからない部分が多いのですが……道後温泉、有馬温泉、南紀白浜温泉が『日本三古湯』と呼ばれています。そのなかでも、『古事記』に登場するのは道後温泉だけなんですね」

    「おお、そんな昔の書物に」

    「ほかにも『日本書紀』『万葉集』などにも登場します。そうした文献の記述を元に『3000年の歴史』と名乗っているんですね。数字がはっきり残っているところでは、西暦596年に聖徳太子が道後を訪れたとか。かなり古くから、保養地や温泉地として知られていたと言えると思います」

     

    「江戸時代くらいになると、道後温泉の姿が絵に残されていますよ。江戸時代中期には温泉のほかに、店も立ち並んでいたようです。あとはお遍路さんのルートでもあるので、遍路宿もあったかもしれません」

    「なるほど。当時の姿を思い浮かべながら温泉に入るのも楽しそうですね」

     

    松山の中心市街地と道後温泉を結ぶ路面電車

     

    「道後温泉は、松山の街からも車で10分ほど、路面電車で20分ほど(松山市駅ー道後温泉駅)。松山空港からも、車やリムジンバスで35〜40分ほどで来ることができます。遠方からのアクセスもいいので、関東からのお客さんも多いんですよ」

    「アクセスはいいなと思いました。空港からリムジンバスだと一本で来れますし」

    「松山は知らないけど道後は知ってる、みたいな県外の方も多いんです。なので、もっと気軽に来ていただきたいですね。あとは本館に東側から入れるのも今だけなんです。保存修理工事前の正面入り口は商店街のほうにある西側で」

     

    こちらが西側、商店街を抜けると現れる保存修理工事前の正面玄関(2019年撮影)

     

    東側、保存修理工事中の入口

     

    「東側には、皇室専用の又新殿があります。現在、入口となっているのは、元々は皇室のお仕えの方が使っていたところなんですよ」

    「そう聞くとレアな感じがしますね」

    「これだけの規模の工事はしばらくないと思いますので、今だけの道後温泉を楽しんでいただければ。そして工事が終わったら、また来てほしいですね(笑)」

    「また来ます! 今日はありがとうございました」

     

    まとめ

    愛媛滞在の最終日に道後温泉を再訪すると、ちょうど大竹伸朗さんデザインのテントを張る作業が行われていました。これもある意味、今しか見られない姿。

     

    100年先を見据えた初代町長によって、経済的にも精神的にも地元のシンボルとなった道後温泉本館。「古いままのよさを残す」ことで、また次の100年へと繋がっていきます。

     

    ちなみに再訪時に道後温泉本館のお風呂へ入ろうとしたのですが、コロナの影響で入場制限がかかり、整理券が必要なことを知らず……。飛行機の時間との兼ね合いで、入れずじまいとなりました。無念すぎる!!!! 工事が終わった暁には、必ずリベンジします。

     

    みなさんも今しか見られない道後温泉へぜひ。それではまた〜!

     

    編集:くいしん

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    この記事を書いた人

    友光だんご
    友光だんご

    編集者/ライター。1989年岡山県岡山市生まれ。株式会社Huuuu 取締役/編集部長。犬とビールを見ると駆けだす。

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