こんにちは、ライターの友光だんごです。

この『ジモコロ』はスタートして6年目になるのですが、日本全国を文字通り飛び回ってローカルの情報発信を続けています。

 

鹿児島県の離島までいくつも事業を手がける人を訪ねたり、

 

島根県の奥出雲まで鉄づくりのルーツを探りに行ったり、

 

北海道の東の端にある標津(しべつ)町でチョウザメに指をパクパクされたり……。

 

各地で縁を繋いでもらったこともあり、すでにジモコロでは、47都道府県すべてに足を運び、記事にしています。

 

無我夢中で全国を駆け抜けてきたわれわれですが、『どうやってそれだけ地方取材をこなしているの?』『大変じゃない?』と聞かれることもしばしば。思えば、そのノウハウをきちんと言葉にする機会はないままだったんですよね。そこで、

 

・ローカルメディアの運営にはいくらかかるのか?

・「記事になったとき」を想像しながらインタビューするコツ

・できあがった記事を読者の目に留めてもらうために

 

などなど、僕とジモコロ編集長の柿次郎の2人が、地方取材の苦労や難しさ、ノウハウなど「ジモコロの裏側」をお伝えしていきます〜!

 

【登場人物】

ジモコロ編集長。全国を移動しまくり、ローカルの人たちと深夜まで酒を飲み、早起きして取材に向かい、ボロボロの体で帰り、平日の業務に戻る生活を続けてきた。正直つらいと思っている。

ジモコロの記事を編集したり、書いたりしている。インドア派なので、地方出張が3日目くらいになると楽しさと帰りたさがせめぎ合いをはじめる。

 

 

限られた予算で「出張パーティー」を編成せよ!

「だんごさん、金の話をしよう」

「いきなりですね! 社長からそんな話を切り出されるの怖いな〜」

「違うのよ。地方出張の大変さを語る時に、やっぱりお金の話は避けて通れないと思って。実際、みんなも気になるところじゃない?」

「ああ、ローカルメディアの運営費問題ですね。たしかに外からは見えにくい部分かも」

「あくまで一例だけど、ぶっちゃけてしまうとジモコロの記事を作っているわれわれHuuuuでは、仕事を受ける際の予算は『記事1本あたり15万円〜』としています!」

「本当にぶっちゃけた」

「この金額はHuuuuが会社として設定してる価格なので、もちろん案件によって変動はします。記事の種類や内容によって、必要な予算も変わってくるので」

「あともう少し補足すると、ジモコロはアイデムさんの元で、Huuuuとバーグハンバーグバーグさんの2社で記事を作っていますね。今回はHuuuu側の話ということで。でも1記事の最低予算が15万円って、パッと聞いただけだとけっこう高い金額に感じる人もいるのでは?」

「いやいや、実際はこれでもかなりカツカツなのよ。ちょっと試算してみようか。たとえば岡山県に編集者、ライター、カメラマンの3人で1泊2日の取材に行くとします」

 

ジモコロの地方出張では2〜3人チームのことが多いです。写真は兵庫県・多可町で「20〜30年に一度の大雪」に見舞われたとき

 

「まず東京ー岡山の新幹線代が片道で約1万7千円。3人分、かつ往復になると、これだけで約10万円だよね」

「ですね。予算が1本15万円だと、残り5万円」

「普通のビジネスホテルのシングル部屋が1泊6000円くらいだとすると、1泊の場合は3人で1.8万円」

「残り、3.2万円……」

「現地でレンタカーを借りると1日6000〜8000円。そうそう、ガソリン代や高速代もかかるし、出張先で地元の人と深夜まで飲み食いすることも関係性を築く上ですごく重要だから、そのお金だってかかる」

「加えて、当然カメラマンやライターさんへのギャラの支払いもあり、Huuuuとしての利益も残さないと、会社として成り立ちませんね」

「………………」

「………………」

「予算なんて吹き飛ぶわ!!!」

「吹き飛びますね……」

「まぁ、この試算は仮の数字で。念のため言っておくと、ジモコロの予算が少ないって話じゃないですからね、アイデムさん!

「急なアピール。でも、アイデムさんからはきちんと見合った予算をいただいていますね。Huuuuの『最低1本15万円〜』というのも、全体の予算から記事制作に関する諸経費や会社として必要なお金などを引いた金額なので。このあたりを詳しく説明するとややこしくなっちゃうので、あくまでざっくりの例だと思っていただけたら」

 

「何が言いたいかというと、地方取材で気合を込めた記事をつくるためには、かなりのコストがかかるってこと。だから、まずジモコロ初期は何でも俺が兼任してたんだよね。編集者・ライター・カメラマン、ドライバーをひとりで…… おかげで運転はめちゃくちゃうまくなったけど」

「僕が入ってからは2人で出張する際、取材ごとにお互いの役割を交換することも多いですね。ある取材では僕がライターで柿次郎さんがカメラマン、次の取材ではそれをスイッチして。その後、プロのカメラマンの方に同行してもらう機会も増えてきました」

「そうね。少人数で記事の本数数をこなす限界が見えてきたし、取材を重ねていく中で、自分のローカルへの解像度も上がってきた。編集者としての役割に集中するためにも、複数人での地方取材を増やすようになってきたかな。それに、やっぱりプロのカメラマンが撮った力のある画も欲しくなってきて」

「複数人での取材に加えて、インタビュー先の内容や場所によって、取材チームも変わりますよね」

 

「それぞれの強みを活かしたパーティー編成にしているね。『このカメラマンさんは運転がうまいからドライバーを任せられる』とか『この人は撮影も執筆も両方できる』とか。創意工夫しながらDIYで取材パーティーを編成しているのは、すべて限られた予算内でうまくやりくりするため

「1回の地方出張で2〜3本の記事がつくれると、複数人の取材パーティーでも予算内におさめられる、と。移動や宿泊にかかるコストを圧縮できるし、本数が増えればそのぶん予算も増えますから」

「そう! なんとか費用配分を工夫し、一度の取材本数を増やして、会社としての利益も確保してる。あとはゲストハウスに泊まったり、経費も極力抑えてるね」

「寝つきの悪い柿次郎さんがゲストハウスのドミトリー部屋に泊まるの、辛そうだなあと思ってます。他のお客さんのいびきがうるさい時とか」

「だんごさんはベットに入ったら秒で寝るから、腹立つ時あるもん。なんでそんなすぐ寝れるんや!って(笑)。話を戻すと、一回の出張で複数の記事をつくることで、同行するカメラマンやライターへの支払いを増やせるのも大きいよね。3つ取材すれば、3本分のギャラを払えるから」

「実際、泊まりの地方出張では最低2本は取材するようにしてますね。ただ、予算的にはそれでOKでも、『大変さ』はまた別の話で……。たとえば地方取材中って、パソコンがまったく触れなくて他の仕事のやりとりが滞るんですよね」

「そう! それにボロボロの体で帰ってきて通常業務に戻るのも辛い。2泊3日で3本取材する、って工程で別の編集者さんにお願いしたとき、帰ってから高熱出しちゃったこともあるし。あの時は申し訳なかった……」

「集中しっぱなしの地方出張って、体力的にも精神的にも力を使い果たしますからね。だからって、取材本数を減らしたり出張日数に余裕を加えたら、予算がいくらあっても足りなくなると」

「あ〜、悩ましい!」

「叫んじゃった。だから地方出張のツアーを組む際は、ネタ選びとチーム編成と予算の組み立てに時間を使いますよね」

「でも、そうやって考えまくった上で、『一度の出張で何個も爪痕を残すぞ』ってコスト感覚というか、気概は大切にしてる。その結果、各地の人との関係性が積み重なって、次の取材ネタも生まれると。そういう意味でもHuuuuは『ストック型』の取材スタイルと言えるかもね」

 

【ローカルメディアを運営するために】

・知恵と工夫を活かさないと、あっという間に赤字になってしまう

・ライター、カメラマン、ドライバー…… はじめはひとり二役、三役でこなしていた

・それぞれの強みを活かして、取材パーティーを編成する

・心身ともにハードな地方取材

・一度に複数の記事をつくる、ストック型の取材で乗り越えるべし

 

インタビュー中は「未来の自分」にメッセージを残せ!

「地方出張のパーティーを組み、晴れて取材となるわけですが、そこに待ち構えているのが強烈なローカルプレーヤーですよね」

「これまでメディアの取材に出たことのない人の取材も多くて、そういう時は検索しても情報は出てこないし、予習ができない。取材現場では、その時に自分が持っている引き出しを全部開けて、相手に『お前はちゃんと、俺を理解しようとしている面白いやつだな』と思われないといけない」

 

昨年、強烈なローカルプレイヤーへの取材術について記事にした際のやりとりです

 

「インタビューでいかに相手の話や魅力を引き出すか、という話はしたことがありますね。じゃあ、帰ってからの記事化のために取材中に考えていることもありますか?」

「あるよ。もう『めちゃくちゃリアクションする』ってことやね」

「まったく同じじゃないですか!!」

「いやいや、また別の意味があるのよ! インタビュー中に心動かされた瞬間に、きちんと自分の『めっちゃ面白いですねー!』って声を入れておくことで、未来の自分へのメッセージを残してる」

「未来の自分へのメッセージ」

取材って、インタビュー中にもパワーを使うけど、地味にその後の文字起こしも大変なんよね。専門用語や方言も入り混じってくるし、インタビューの前後に現地の施設や畑を案内してくれることも多い。その間もずっとレコーダーは回しているから、1回の取材で5〜6本の音声データができあがる」

 

山頂で話を聞いたり、移動中の車で大事な話が始まって、慌ててレコーダーを回したりすることも

 

「案内してもらっている間に回したテープが、結局写真につける一言のキャプションにしかならなかった、なんてこともざらですよね。でも、全体感を掴むためにも重要な素材でもある。そして細切れになった音声ファイルって、外部の方に文字起こしをお願いしづらいんだよなあ……」

「そう、だからこそ、自分の『めっちゃ面白いですねー!』って声を入れておけば、大量の文字起こしの中でも『そうだ、ここがグッときたポイントだ!』って気がつけるのよ」

「たしかに! 言われてみれば、僕もインタビュー中に話の核だと感じた部分は意識的に聞き返したりしてますね。『ここは記事で書けるポイントだぞ』と、未来の自分にメッセージを残してるわけですね」

「今はだいぶ文字起こしがしやすい形で取材できるようになってきたなぁ。お金の面もそうだけど、記事にするまでの労力をいかにうまく減らすかも大事だね。都内取材に比べて、地方取材はそれだけでコストがかかっちゃうから」

 

「文字起こしや、その後のライティングにも時間を使うけど、ジモコロはタイトル決めにむちゃくちゃこだわりますよね」

「そうね。ひとつタイトルを決定するのに、1週間かけたこともあったっけな……」

「ジモコロに参加した当初、『タイトルにそこまで時間をかけるんだ!』と衝撃でした」

「タイトルにこだわるようになったのは、タイトルと写真を組み合わせたサムネづくりを始めたのが大きいんよね」

 

 

「ジモコロの初期は、同じようなことをしているメディアは多くなかったと思うのよ。俺らとしても、当時はプロのカメラマンが写真を撮ってないから決めになる画像がなくて、ちょっとでも目を引くサムネが欲しくて始めたことで」

「 少しでもクリックされるように、と考えた末のものだったんですね」

「SNSって本当に情報の流れるスピードが早いから、その中で少しでも意識を向けてもらえたら、っていうあがきだね。記事のサムネがチラッと目に映る、その一瞬を逃さないように。バシッとしたサムネをつくるためにも、取材と同じくらいタイトル案にも熱量を込めてるよ」

 

【濃厚な取材素材をまとめるために】

・未来の記事づくりをイメージしながらインタビューする

・面白い!と思ったポイントでは自分の反応も録音しておく

・SNS社会ではサムネとタイトルが命。取材に負けないぐらいの力を込める

 

「大変だから、いい」ってわけじゃない

「まぁ、ここまで地方取材の難しさを語ってきたわけだけど、『苦労してるから偉い』って言いたいわけじゃないんだよね」

「手間ひまをかけたことが、そのまま記事の質に繋がるわけじゃないですからね」

「本当にそう。『苦労して記事にする』というのは、あくまでも自分たちがつくってきた仕事の型でしかない。自分が生み出した型を、自分が壊せていないだけのような気もする。しんどい記事づくりの呪いにかかっているのかも知れない」

「『風来のシレン』で呪われた装備を身につけているような。どこかに『おはらいの巻物』落ちてないですかね……」

「予習できない取材相手に全力でぶつかって、まとめづらい素材を持ち帰って、サムネイルづくりに1週間かける。俺はもう慣れてるけど、新しく入るメンバーはみんな困惑するし、『コスパが合わない』と感じるフリーランスのライターの人もいるはずだよね。はあ……」

「急に悩める中小企業の社長感出さないでください!」

「まあ、ジモコロは別に地方出張の取材だけじゃなくて、都内取材やライターさんの住んでる近場で取材する記事もあるからね。『地方出張しなきゃジモコロじゃ書けません!』ってわけでは決してないので。むしろ近場の取材、めちゃくちゃ大事です!」

 

記事についた地域別のタグで見ていただくとわかりますが、実際のところ東京の取材記事はとっても多いです

 

「そこはバランスというか。全部が地方取材の記事だと予算がいくらあっても足りませんし、記事の内容も偏りますからね」

「そうね。その上でなぜHuuuuが地方取材を頑張るかというと、燃費は悪いけど、独特の魅力があるから。このやり方を続けるのは、しんどいけどやっぱりめちゃめちゃ楽しいから。1時間取材して解散、ではなく、取材先で出会った人たちと濃い人間関係を築くことができるんよね」

「それは僕もすごく実感してます。気心知れた取材パーティーと一緒に味の濃い取材対象とガッツリ向き合うって、それだけで得がたい経験で。実際、最近はじめて同行してもらったカメラマンさんに『すごく楽しい取材だった! また一緒に行きたい!』とありがたい言葉をもらうこともあって」

「それは嬉しいね。地方取材でその土地のおいしいものを食べて、面白い人の話が聞ける。そこに価値を感じる人は、ジモコロの取材ツアーに来てほしいですね」

「これからも大変だけど楽しい地方取材、どんどん挑戦していきましょう!」

 

☆どの地元にもいる『実はスゴい人』の見つけ方とインタビュー術を公開する記事はこちら↓

構成:飯田光平