喫茶店でパックマンを。老舗とゲームテーブルが歩んだ40年

2020.02.13

喫茶店でパックマンを。老舗とゲームテーブルが歩んだ40年

インベーダーゲームの大ヒットで一斉を風靡し、かつて喫茶店の名物だった「ゲームテーブル」。その貴重な現役機が、浅草で100年以上の歴史を持つ「デンキヤホール」にありました。お客さんが殺到したブーム時のエピソード、そして90年代の撤去危機を経て、いま再び再注目された理由とは?

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    ゲームテーブルのある喫茶店。インベーダーゲームの大ヒットで一世を風靡し、その後も老舗の喫茶店などでは、料理を味わいながら遊べる貴重な存在として愛され続けてきた。

    しかし最近、ゲームテーブルはめっきりその姿を消している。たまにお店で見つけても、すでに動かなくなっている筐体も多い。

     

    そんな中で東京・浅草の喫茶店「デンキヤホール」が、もう残り少なくなった「現役で動くゲームテーブル」を複数持っているという話を耳にした。行くしかない。

     

    筆者を迎えてくれたのは、三代目女将の杉平淑江さん。

     

    ・ブームの頃はお客さんが来すぎて、ゲームテーブルに100円玉が入らなくなった
    ・一部の喫茶店では、ゲームテーブル賭博が横行していた
    ・現存するゲームテーブルが壊れたら、修理は難しい
    ・撤去の危機もあったが、レトロゲームのブームで再注目

    など、喫茶店のゲームテーブルにまつわるあれこれを伺った。

    インベーダーの前に、『ブロックくずし』ブームがあった

    「まず、このお店っていつからあるんですか」

    「1903年です」

    「うお、今年で117年!

    「そうです。主人が3代目で、私もたぶん1978年からお店で働いています」

    「もう42年になるんですね。ゲームテーブルってそのころから置いてあったんですか?」

    「はい。インベーダーゲームの前にあった『ブロックくずし』の時代からありました

     

    日本では、最初にゲームセンターで大ヒットした『ブロックくずし』。1979年には任天堂がテレビゲーム化した

    「昔のゲームテーブルは『ブロックくずし』が主流だったんですか?」

    「ええ、お客さんたちがゲームテーブルを争って、100円玉を積みながらやっていました。それからすぐインベーダーゲームが出てきて」

    「当時は100円玉が入りすぎて、お金を入れるボックスが一杯になったエピソードも聞きますが……」

    「お金のボックスってかなり入ると思うんですけど、『早く100円玉取りに来てよ』って言われることもあったのよ。そのあとに『パックマン』が流行って、さらに麻雀もウケて、ゲームテーブルはどんどん盛り上がったのね」

    「ちなみにあの筐体って、当時おいくらぐらいしたんですか?」

    買うとかはなくて、ゲーム屋さんが入れてくれるの。で、売上げは折半。100円入ったら50円ずつみたいにするのね。当時からずっと変わっていませんよ」

    「お店側の取り分は一回50円とかなんですね。でも喫茶の売上げにプラスされるわけだから、お店としたら助かっただろうなあ」

     

    「デンキヤホール」の店名の由来は、創業時に電気屋さんを営んでおり、その後にミルクホール(※明治〜大正期にあった飲食店の形態。牛乳や軽食を提供していた)を始めたことから

    パックマンで、撃沈

    「ちなみに、デンキヤホールさんで一番人気のあるゲームはなんですか」

    「やっぱり『パックマン』ですね。当時は5000円を毎日両替する人がいるほど盛り上がったゲームだったのよ」

    「よおし、やってみますね!」

     

    「すいません、下手クソすぎてすぐ死にます……!」

    「…………」

    「『ディグダグ』と『ラリーX&ニューラリーX』も難しくて、なんだか知らないうちにやられました……」

     

    あえなくゲームオーバー……

    名物はオムマキとゆであずき

    「それにしても、ゲームをやる合間に食べる『オムマキ(700円)』はおいしいですね。焼きそばを卵で包んだなかなかのボリュームですが、すごくソースが濃厚だし、クリーミーで食感が気持ちいい」

     

    ウチの一番人気メニューですからね。おソースだけじゃなくてケチャップも入ってるからまろやかだと思います。普通は焼きそばっておソースだけなんですけど」

    「ちなみに薬味がすごくいっぱいありますね、なぜですか?」

     

    「浅草は『日本三大七味』の一つ、やげん堀七味唐辛子本舗がある街なので。残りの二つである京都の七味家本舗、長野の八幡屋礒五郎のものも一緒に食べてもらおうと用意しています」

    「オムマキの味変も楽しめますね」

    「あと1903年の創業から間もない時期にはあった『ゆであずき(550円)』も人気です」

    「あんこの飲み物なんですね……!」

     

    「大納言のあずきを100%使って、3日かけて炊いてます。最初にお水で伸ばすのに1日(冬は2日)。それを灰汁を取りながら炊き上げて、煮冷まして次の日に出しますから」

    「そう考えたら、550円で飲めるのはおトクですね……上品に仕上げられたあんこを飲んでいる感じ。頃合いの甘さで、おいしい飲み物として成り立っていますね」

     

    「ちなみにお酒を飲みながらプレイする方もいますか?」

    「そうですね、おビールが出ます。最近はハイボールも人気ですね」

    「お酒を飲むと、景気よく100円をつぎ込んじゃいそうですね」

    「そうですね。あとはお二人で来てハイスコアを競っていることもありますよ」

    嗚呼、青春の麻雀ゲーム


    「あと、麻雀のゲームはセリフが出てきたり、曲がちょっとレトロでしょ」

    「あれ『いいな!』と思ったんですよね」

    「ちょっとほんわかしてるねって言われます」

    「80年代の『おニャン子クラブ』とか、あの辺を彷彿とさせる雰囲気です」

     

    プレーできるのは18歳以上。脱衣麻雀は大人の遊び!

    「知らなくても懐かしいと思ってもらえるんですよ」

    「あんまり麻雀のルールがわからないので、わけがわからないうちにゲームオーバーになりましたけど、できてよかったです。脱衣麻雀が流行ったころはまだ子どもだったので、ひそかに憧れたなぁ……」

     

    役名とかもよくわからないままに負けてしまった

     

    「そういえば、うちはやってないけど、場所によってはお金を賭けるゲームもあったと思います。ポーカーや麻雀のゲームテーブルでね。もちろん違法ですよ」

    「ゲームテーブルの遊びで、実際のお金が飛び交ったんですね……」

    「うん、そういう時期もあったと思いますよ、ほかのお店では」

    「ガチのギャンブルゲームだ」

    「話題になっていた店もありました。でもうちは近くにある浅草警察の方もいらっしゃるから健全な喫茶店ですし、そういうのは置いてなかったの」

    90年代に撤去の危機を乗り越えたゲームテーブル

    「このお店にとって、ゲームテーブルってどんな存在ですか?」

    「いまは、なくてはならない存在です。ていうのはね、90年代とか2000年くらいにはプレーする人がぜんぜん居なくなって、母が『もうゲームにお金が入らないから、ゲームテーブルを片付けて』って言ったんです』

    「存続の危機があったんですね。テレビゲームの普及も大きかったのかなあ」

    「でもゲームテーブルをなくすと、新しくテーブルを作らなきゃいけないでしょう。それに、あれはあれでずっと残したいから、ゲームテーブルをそのままにしていたんです。そうしたらパックマンとかがまた注目されるようになったので、やっぱり残しといて良かったと思います」

    「レトロゲームが再び脚光を浴びる時代が来てよかったですね」

    一時期はもう、全然駄目でしたから。プレーする人は1週間に1回よりも少なくて、ずっとテーブルの電気を消しっぱなしでした」

    「そんなに少なかったんですね……」

    創業117年経って、変わるものと変わらないもの

    「そういえばデンキヤホールさんのFacebookを見たのですが、あれは杉江さんが更新されてるんですか?」

    「私が更新していますよ。やっぱり近ごろの皆さんはSNSをやられてるから、お店の休みのお知らせとかはしないとね」

    「創業117年の歴史があって、そこまでやられるんですね」

    「お店のFacebookページにチェックインされた方にお返事することもあります。大変ありがたいことなので、感謝していますよ」

     

    営業情報はFacebookページをチェック!

     

    「ほかに大事にしていることはありますか?」

    やっぱり料理の味を変えないのが一番。味を変えて『変わっちゃったね』って言われるといけないから、調合も変えないし、変えないように努力しています。昔食べたそのままだったら、それで懐かしいって言ってくださるかもしれない」

    「お客さんにとっての『あの味』に再会できますもんね」

    40~50年ぶりってお客様もいらっしゃるから。『テレビを見て思い出した』『インターネットで見ました』って言ってくださるので、そうやってお越しくださるのもありがたいです」

     

    「ちなみに普段、ゲームテーブルの電源を消しているのはなぜですか?」

    電気を入れっぱなしだったら、ブラウン管が焼き付いてしまって壊れてしまうんです。運転中、かなりの熱を出しますから。遊びたい人がいたら、その都度電気を入れます」

    「確かに。この取材の前にいろいろ調べたんですけど、まだ動くゲームテーブルが残ってるところって本当に少ないんですよね……」

    「というか、もうだんだん動くテーブルがなくなっていきます。うちも3台のうち1台は最近壊れちゃったんですが、もう基本的に修理もできないんです

    「時間は残酷だ……」

     

    最近、動かなくなってしまったゲームテーブル

    「あと、聞いた話だとゲームテーブルがもうほとんど外国に流れちゃってるんですって。たぶん、東南アジアに」

    「へええ! 東南アジアのゲームセンターとか喫茶店みたいな場所でプレーされているかもしれませんね」

    「いま日本に残っているのは貴重ですね。だからバンダイナムコさんの最高顧問で、パックマンを開発された中村雅哉さんが亡くなったときも、うちに取材が入りました」

    「宝物の一台なんですね」

     

    「ちなみに、よく昔いらしていた40~50代のお父さんが、お子さんと一緒に遊びに来るんです。それが楽しそうで」

    「『こうやるんだよ』って教えながら一緒にゲームするのって、親としたらたまらないだろうなぁ」

    「よくゲームは良くないものだとか言われますが、ゲームで遊ぶ親子連れの方たちを見ていますと、これもいいコミュニケーションツールになるのかなと思います。どうにか壊さないように扱って、壊れるまで稼働させ続けたいですね」

     

    デンキヤホール
    住所:東京都台東区浅草4-20-3
    TEL:03-3875-2987
    営業時間:9:00~21:00(ラストオーダー20:30)、水曜休
    https://www.denkiya-hall.jp/

     

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    辰井裕紀
    辰井裕紀

    卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。

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