ヤッホーーー!! ジモコロライターの田中嘉人です。

みなさん、山は好きですか?

僕は登山が大好きで、休みとなれば山へ繰り出し、ハイキングに興じています。

 

ゆる〜く楽しむ程度で始めた登山なので、春夏秋の簡単な山にしか登ったことはないんですが……長く続けていると、誰しもステップアップしたくなるもの

そのことを同じく登山が趣味のジモコロ副編集長・ギャラクシーに相談してみると……?

 

「ギャラクシーさん、登山好きですよね?」

「え? まぁ、好きだけど……」

「僕、そろそろステップアップしたいなと考えてまして……。具体的に言うと、雪山に登ってみたいんですけど、一緒に行きませんか?」

「はぁ!? 雪山???」

 

「あのねぇ、春夏秋の3シーズンなら僕らでも何とか登れるけど……同じ山でも冬の雪山は難易度がドーンと上がるんだよ? 素人は山に入らないほうがいいんじゃない?」

※実際、登山が好きな人でも雪山に登るのは一部の人だけです

「それはわかってます! わかってはいるんですが、雪山には多くの登山家たちを惹きつける何かがあると思うんです! それを知るために、ここらでステップアップしましょうよ!」

「う~ん、僕だって雪山に登ってみたい気持ちはあるんだけど、我流は危険だから、知識や道具を誰かにレクチャーしてもらわなきゃ……そんな知り合い いる?」

「いません。でも先日、アウトドアのウェアを買いに行ったとき、いいもの見つけたんです! ちょっとついてきてください!」

「なんなんだ」

「好日山荘登山学校」で雪山登山のイロハを学ぼう!

というわけでギャラクシーと共にやってきたのが、アウトドアアイテムを数多く取り扱う好日山荘

 

実は好日山荘では山登りについて学べる「好日山荘登山学校」を開催しています。

授業(座学)で知識を身につけたり、実際に山に登って実技も体験できるんですよ。この日行われていたのは……

 

「ほら、見てください。今日はドンピシャで『雪山登山入門講座』をやってるんです。事前に申し込んでるんで、一緒に授業を受けてみましょうよ!」

「なるほど。知り合いに教えてもらうことばかり考えてたけど、こういう教室でプロに教えてもらうって手があるのか!」

 

授業を担当するのは好日山荘・おとな女子登山部のなみへ〜先生。

スライドを使って必要な道具を解説したり、実際にその装備を手にとってみたり、先生の軽妙なトークとともに、和気あいあいと進行します。

 

※おとな女子登山部とは、好日山荘の女性スタッフで構成される部活動。ちなみにこの日も本来「女性だけの登山教室」だったんですが、取材ということで特別に我々も入れてもらいました

 

後日、実際に雪山での実地講習も受けたんですが、それは後述するとして、まずは雪山の基礎の基礎を座学で教えてもらいましょう!

 

「今日はよろしくお願いします! 今年こそ雪山デビューしたくて……春夏秋の3シーズンと違う部分ってありますか?

「一番違うのは、雪から身を護る必要があるということです。簡単に言うとウェアや装備は防水じゃないとだめですね。衣服が濡れると、冷えて凍傷になったりするので」

「防水ということは、いわゆるレインウェアでいいんですか?」

「はい。ただ、蒸れないように、ゴアテックスなどの素材を使ったハードシェルというウェアが理想ですね。かいた汗が蒸れて体を冷やすと低体温症になっちゃったりするので」

 

ハードシェルはこういう上着です。レインウェアよりも記事が厚く、耐久性があります。防風なのはもちろん、防水なので雨や雪などの水を中に通しません。なのに内部の蒸気は外に逃がしてくれるという優れもの

 

「なるほど……では靴は?」

「靴は、ローカットのものではなく、ハイカットのものにしましょう。さらに、雪が侵入してこないように、足首を覆うゲイター(スパッツとも呼ばれる)を装着します」

 

ゲイターはこういうの。膝下から足首までを覆って、雪が靴に入るのを防いでくれます。雪山用の装備には尖ったものが多いので、それらから足を保護するという役目もあります

 

「靴というと、雪山ではトゲトゲのスパイクをつけるんですよね?」

アイゼンのことですね。1000mまでの雪山なら、6本爪の軽アイゼンが良いでしょう。もっと本格的な雪山なら12本爪のアイゼンにするとか、雪のあるところとないところが混在する里山のような場所ならチェーンスパイクとか、用途によって使い分けます

 

左から、軽アイゼン(6本爪)、チェーンスパイク、軽アイゼン(4本爪)

ちなみにアイゼンのことは「クランポン」とも言います

 

「他に必要なのは防水の手袋や、トレッキングポール(杖のようなもの)、目を保護するためのサングラスなどです」

ちなみに2000m級の雪山にチャレンジしようと思ったら……?」

「標高だけでは測れないですが、難易度の高い雪山に行くには、6本爪の代わりに12本爪アイゼン、トレッキングポールの代わりにピッケル(ツルハシのような山道具)などが必要になります」

 

グローブも、薄手のものの上から防水グローブを装備するなど、雪山ならではの工夫が必要

※指先が濡れると凍傷の危険がある&モコモコにしすぎちゃうとアイゼンを装着したりするのが難しいとのことで、実は雪山装備で一番難しいのは手袋なんだそう

 

●雪山装備まとめ

雪山にチャレンジするにあたっての心構えみたいなものも教えていただけますか?」

「いろいろありますが、大事なのは汗冷えさせないことです」

「汗? 雪が積もってるくらいだから寒いのでは?」

「雪山登山ってハードな運動なので、ものすごく汗をかくんですよ。汗が冷えると急激に体温が奪われるので、汗をかきそうになったら熱を逃がすためにすぐ脱ぐ、寒くなったら熱をためるためにすぐ着る、というのが大事です」

「なるほどなぁ〜」

「好日山荘では実際に雪山を登りながらの実技講習も行っているので、そちらも経験してみてくださいね!」

「はい、ありがとうございました!」

 

授業後、なみへ〜先生におすすめの軽アイゼンと、

 

トレッキングポールを教えていただきました。必要な道具をすぐ買えるというのも、好日山荘の講習の良いところですね。

よし、準備万端!オラ、ワクワクしてきたぞ〜!!

Lv.1 念願の雪山デビュー! 雪に埋もれずに歩く

というわけで、さっそく雪山にやってきました! ここは栃木県の那須岳山麓。標高は1000mぐらいなので、雪山登山としては「Lv.1」といったところでしょうか。

カメラマンとして同行したギャラクシーも、かなりテンションが上っています。

 

結構な人数が集まってますね

ひとりで講習を受けに来た初心者のかたや、基礎を復習したいという中級者の夫婦まで、色んな人が参加しています。

 

雪山登山のハウツーを教えてくれるのは、好日山荘・登山学校講師の田中ガイド

 

「ようこそ、那須岳へ! 天気も良いし、雪もある。今日は最高のコンディションですよ。装備を身に着けたら、さっそく登っていきましょう! しばらくはあまり雪が積もってない道を歩くので、まだアイゼンは必要ありません」

「はい! じゃあ、ゲイターで足を覆って、トレッキングポールにスノーバスケットを取り付けて……雪が眩しいのでサングラスをかけてっと……

 

「よーし、出発進行〜!! 楽しみ~~!!!

 

あぁ、雪で化粧した山々と、澄んだ青空とのコントラストが美しい。足元にはザクッザクッという雪の感触……

これこれ! こういうのがやりたかっ……

 

ズボァッ

 

「2歩目でハマっちゃった」

 

「そんなことある?」

「ははっ、いきなり雪山の洗礼を受けていますね。雪道には深く沈み込んでしまう部分と、そうではない部分があるんです。あとで歩き方を教えますから、しばらくは前を歩く人の足跡を辿って歩きましょう」

「そ、そうします……!」

 

「さて、ここまでは登山道を歩いてきたので、あまり雪は積もっていませんでしたね? ここからは少し道を外れて、ラッセルを体験してみましょうか!」

「おお、 ラッセルといえば、積もった雪を掻き分けながら進むアレですよね。登山マンガ『孤高の人』で“ラッセル泥棒”という言葉が出てきたので知ってます!」

 

雪のなかをズンズン進んでいく田中ガイド

 

「じゃあ、ココを歩いて上まで登ってみましょうか」

 

「うわ、結構ハードじゃない?」

「いやいや、このくらい楽勝でしょ(笑)。じゃあ僕は先に行っ……」

 

ズボボァッ

 

「すみません、今度は両足ハマりました」

「……雪山に向いてないんじゃない?」

「よいしょ、よいしょ……あれ? あれれ?」

「何? どうしたの? 早くみんなに追いつかなきゃ……」

「抜け出せる気配が全然ない。僕はこのまま雪山で樹氷になっていくしかないのか……」

雪にハマってしまったら、まずは焦らずに片方の足を浮かせましょう。その足で雪を固めて足場をつくります。あとは足場に体重を乗せて、ゆっくりと立ってみてください」

「おお! できた!! これ、講習じゃなくて一人で来てたら、マジで樹氷になってたかも」

「雪国に生まれ育った人なら、基礎の基礎は生活の中で学んでるんですけどね。雪が降らない地域の人は、講習を受けたほうが絶対に良いです」

 

ラッセルを縦横無尽に行き来する先生。なぜこんなに軽々歩けるの……?

 

「あの……なぜ先生は僕のようにズッポリとハマらずに歩けるんですか?」

雪が浅いところを選んで歩いているからですね」

「え? どうやって見極めているんですか?」

風下や、谷になっている部分は、雪が集まってしまうので深く沈み込んでしまいます。他にも、クマザサのように葉や木の幹、枝の周りは空洞になっていることが多いので、同じく沈み込んでしまいます」

「ということは、谷や木、クマザサの周りを避けて歩けばいいのか」

「そう。もっと言ってしまえば、風上や尾根伝いなら雪が固かったり浅かったりするってことです

「なるほどなぁ〜」

「あ、そこの茂みを超えたらアスファルトのスペースがあるので少し休憩しましょう」

 

田中ガイドの「しんどかった人〜?」の問いかけに一人だけ手を挙げる僕

 

「休憩中は手袋を取りたくなりますが……雪山では脱いだ手袋を雪面に置かないように。濡れると一大事だし、滑ったり風で飛んだりして、紛失する可能性があります」

「……あれ? ない! 言ってるそばから手袋なくしちゃった!」

「こんなに初心者なの、僕らだけでは?」

「同様に、ザック(リュック)を置く時も、背中に密着する部分を決して濡らさないように。濡れるとマズい部分を、常に念頭に置いて行動しましょう

Lv.2 アイゼンを履いて雪山を駆けめぐれ!

続いて挑戦したのはちょい難易度高めな「Lv.2」のコース。

本来は12本爪アイゼンやピッケルが必要なのですが、僕らはこの講習に無理矢理ネジ込ませてもらったので「Lv.1」の装備(6本爪とトレッキングポール)しか持っていません。

決して無理はしないという約束で特別に参加させていただきました。

 

「では、ここで初めてアイゼンを装着してみましょう。いいですか~? はい、ヨーイドン!

「え、競争!? えーと……」

 

ここを固定して、こっちをこう……

少しでも指が濡れるとよくないので、防水手袋をしたまま取り付けます

 

「できましたか〜?」

「は、はい一応。ただ、靴が雪まみれになってしまって、正しく装着できているかどうか……」

「こういうときは落ち着きが大事なんです。まずアイゼンを装着する足を、傾斜を利用して少し高いところに置きましょう。そして周りの雪をどかせてから装着すれば雪もあまり入りませんよ」

「なるほどなぁ……先生が『ヨーイドン』って言うから焦っちゃった」

「そういう状況でも落ち着いて装着できるか、というテストです」

「ひどい! 確信犯だ!!」

 

どうにかアイゼンを装着したんですが、相変わらずズボズボと雪に足を取られる……

 

雪山ナメてた。めちゃめちゃしんどい」

「登山の入門書には『足を開いてガニ股で登りましょう』みたいなことが書いてあるけど、それをするとメッチャ体力を消費しますね」

僕がおすすめしているのは、足を前に出すときはまっすぐ。地面に接地する時には体の正面で足を開くという歩き方です。これが一番歩きやすい気がしますね」

「おお! なるほど。登りやすい! ちなみに下る時はどう歩けばいいですか?」

「まっすぐ下るときは、つま先を斜面の下方向に向けて、谷側の足に重心を乗せる。傾斜が急な箇所は、斜面に対してジグザグに下りると良いでしょう。ポイントは谷側にある足を少し開くこと。これによってバランスがとりやすくなります」

 

田中ガイドのわかりやすい説明のおかげでどうにか雪山を歩けるようになってきた。そしてついに……!

 

今日の目的地に到着! ここは標高1500mぐらいの地点で、山自体はまだ上まで続いてるんですが……達成感がハンパない

 

「普通の登山と比べて、なんというかものすごい達成感がありますね」

「でしょ? それが雪山の魅力なんです。雪があれば滑るし、歩きにくいし、迷いやすい。だからこそ、山頂に着いたときの達成感は格別なんです

「ゲームならハードモードをクリアする喜びみたいなものかな」

雪山に登る人なんて、みんなドMですよ(笑)。わっはっは」

「先ほど滑るかもしれないという話も出ましたが、実際滑ってしまったら、下に落ち続けるしかないんですか?」

「では、最後にピッケルをつかった滑落停止の訓練をしましょう」

 

これがピッケル。小さいツルハシみたいな山道具ですね。雪山登山では杖代わりの役割を果たすだけではなく、滑落時のブレーキにもなるらしい。

 

「滑落してしまったら斜面に対してうつ伏せになって、ピッケルの尖っている部分を地面に引っ掛けてブレーキにします。ポイントは全体重をかけるために、胸よりも下でピッケルを持つこと」

「え……? まず、うつ伏せになって……??」

 

「こういう感じですね。とりあえず、やってみましょう!」

「わわっ!!」

 

「おおっ! いいですよ! ちゃんと止まってますね」

「初めて褒められた」

「もし滑落してしまっても絶対に諦めないこと。頑張って引っ掛け続けていれば、いつかは止まります。また、それ以上に大切なのは転ばないこと。そして、転んだら滑落が始まる前に止めることです」

「まずは滑落しないことを心がけますが、了解しました!」

「今回の講習で教えたことが完璧にできたら、初心者としては十分ではないでしょうか」

「ありがとうございます。今後、自分で雪山にチャレンジする場合は何から始めればいいのでしょうか?」

1〜3月のうちに低山の雪山で経験を積んで、天候の安定する4〜5月に高い山へ行くのがいいかもしれませんね。雪山のシーズンは意外と長いので、雪の歩き方のイロハを学んだうえでトライしてほしいです」

「え、雪山って山によっては5月まで楽しめるんだ。まだまだこれからも挑戦できそうですね。そんな初心者にアドバイスを贈るとしたら?」

「2つあります。ひとつは装備をケチらないこと。防水の上下ウェアと靴だけはマトモなものを揃えてほしいですね」

「そういう装備を購入しようと思ったら、どこへ行けばいいんでしょう?」

「もちろん、全国にある好日山荘へどうぞ! オンラインショッピングもできますよ!」

「なるほど(笑)。アドバイスは2つあるとのことでしたが、もう1つは?」

「もうひとつは、山岳ガイド協会認定の有資格者と山へ入ること。経験豊富だし、正しい知識も有しているので。学べるだけではなく、いざという時にも頼りになると思います」

「そういう方と会いたければ……?」

好日山荘で講習を実施しております」

「ということですね。今日はありがとうございました!」

 

まとめ

初めての雪山―ラッセルは大変だったけれど、たった数時間でも、少しずつ雪山を歩けるようになっていくのが楽しかったです。

「成長して目標を達成する」という経験も、大人になってからは久しぶりの感覚! 下山して浸かった温かい湯船も最高だったな……実は下山後のお風呂も雪山の醍醐味のひとつなのかも?

 

とはいえ、雪山は奥が深い趣味。一度や二度では到底、真の楽しさを味わい尽くせそうもありません。まだまだこれから挑戦してみよう!