サブカルの聖地・下北沢は瀕死!?「まちづくり」の黒幕たちが立ち上がった

2020.11.26

サブカルの聖地・下北沢は瀕死!?「まちづくり」の黒幕たちが立ち上がった

サブカルの街・下北沢が変貌している? そんな話を聞いてやってきたジモコロ編集長・柿次郎。街の人気とカルチャーの関係、そして小田急電鉄が仕掛ける下北沢開発プロジェクト「下北線路街」と「BONUS TRUCK」の狙いとは?

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    みなさんは「昔のほうがよかった」という言葉をよく耳にしませんか?

     

    インディーズ時代から応援していたミュージシャンが、メジャーになったとき。人気の雑誌がリニューアルしたとき。長年付き合った恋人との別れ際……。

     

    そんな「昔のほうが良かった」マンたちの次なるターゲットに、サブカルチャーの聖地・下北沢がなりつつあるそうなんです。聞くところによると、「シモキタは瀕死」とさえ言われているとか。

     

    古くは70年代から、サブカルの聖地として名高い下北沢。秋葉原や中野など、サブカルの街と呼ばれるなかでも、いまだに根強い人気を維持している場所です。

     

    小演劇の聖地とされている本多劇場をはじめとして、ライブハウスもたくさん。ファッショナブルな古着屋も充実。街を見渡せば、オシャレで活気のある若者たちであふれています。

     

    そして2019年には駅も新しく改築し、新時代の下北沢に生まれ変わりました。

    でも、街はきれいになってるし、駅前の店が減ってるわけでもないし、どこが瀕死なんでしょう???

     

    「『下北のいま』ついては私たちが説明しましょう」

     

    「あ、小野さん。こんにちは」

    「お久しぶりです」

     

    話を聞いた人:小野裕之さん

    ビジネスプロデューサー。ソーシャルデザインをテーマにしたウェブマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズの経営を6年間務める。現在は「おむすびスタンドANDON」共同オーナーのほか、下北沢のまちづくり会社「散歩社」代表取締役などを務める。

     

    「たしか最近、小野さんは下北沢のまちづくりに関わってるんでしたね。もう一人の方はどなたでしょう。もしや『昔のほうがよかったマン』?」

    「違います。私は向井と言います」

    「どこの向井さんですか?」

    「それはさておき、まずは見ていただきたいものがあるんです」

    「情報が少ない。一体なにが始まるんですか?」

     

    下北沢は何を手に入れ、何を失ったのか

    「下北沢の駅前に着きましたけど、この光景がどうかしたんですか」

    「何か気付きませんか?」

    「いや、特に何も。普通の街では……」

    「普通の駅前として違和感がないのは、その通りでしょう」

    「ただ、ここは下北沢、サブカルの聖地。だとすれば、話は別だと思いませんか?」

     

    「うーん、そうですか?…並んでいるのは、マク○ナルド、○亀製麺に富○そば… 庶民の心強い味方、格安チェーン店ばかりじゃないですか」

    「おっしゃるとおり、駅前にはチェーン店ばかり。この光景が、下北沢に異変が起きていると我々が考える理由なんです」

    「どういうこと……?」

    「サブカルの聖地と呼ばれた中野ブロードウェイのある中野、そして、高円寺や西荻窪、吉祥寺など中野以西の中央線沿線。すべて共通点があるんですよ」

     

    「うーん、中野はいわゆるオタク向きのお店、高円寺や西荻窪なんかは『いい飲み屋』が多いイメージです。そこに共通点ですか……」

    「いいところまで来ていますね。『オタク』はひとつのキーワードですが、『いい飲み屋』の条件ってなんでしょうね」

    「値段、味、店主の人柄……わかった、『店の人の顔が見える』とか?」

    「おっ、ほぼ正解です。『顔が見える店』は、大規模なチェーン店ではなく、規模の小さな個人店のほうが多いでしょう。そして、そうした個人店が、『サブカルの街』と呼ばれる街には多いんですよ」

    「個人店=サブカルってことでしょうか」

    「個人店は、その規模ゆえに、店主の好きなものばかりを集めたり、嗜好を前面に押し出した、尖った店になりやすいですよね。サブカルチャーを定義するのは難しいですが、個人店に多い『個性の強い、尖った店』はサブカル的であると言えるでしょう」

    「店の人の顔が見える店、も個人店の規模感ならではですよね」

    「まあ、なんとなくわかります。そして若い頃はチェーン店でも楽しめましたけど、今は完全に個人店のほうが好きですね」

     

    昭和39年創業の老舗中華「珉亭(みんてい)」。地元民からも愛されている

     

    チェーン店に囲まれる生活は安心感があり、快適かもしれない。だけど、偶然いい店に出会う驚きはないでしょう」

    「特に旅先では、フラッと入った個人店がめちゃくちゃいい店だったりしますね。逆に、疲れて『いまは情報量欲しくない!知ってるやつが欲しい!』って時はモスバーガーを探します。モスは大体の街にあるし、安心感がすごいんです」

    「柿次郎さんのモス好きは伝わりました(笑)。下北沢に話を戻すと、かつては個性豊かな個人店が軒を並べる街であり、ゆえにサブカルチャーの街として大きな隆盛を誇っていました。それは中野をはじめとした中央線にも共通している文化と言えるでしょう」

     

    20店舗近くの古着屋が軒を並べる「東洋百貨店」も下北沢のシンボル的な存在

     

    しかし近年、下北沢で個人店の数が減少し、代わりにチェーン店が増加しているんです。それは先ほどの駅前の光景からも如実にわかります」

    「なんでそんな変化が起きたんですか?」

    「ニッチな個人店とは、ある意味、儲けを度外視することで成立しているお店です。ということは土地の値段が上がれば、家賃を払うことができず、退去せざるを得ない」

    「そして代わりに入るのは、家賃を確実に払うことができる大規模チェーン。オーナーにとって『安心感』のある店が増えて、住みやすさ自体は上がり、住民も満足、と。まあそのかわりにいろんなものがなくなりましたけどね。ハハハ(笑)」

    「(小野さんの毒が出てる……)ということは、下北沢の家賃が高騰している???」

    「そうですね。賃料がここ10年で約3倍になっている場所もあります

    「めちゃくちゃ上がってる! 家賃の高騰で個人店が減り、チェーン店が増える。なんか聞いたことある話だな……」

    「前にジモコロで取材してたでしょう。ポートランドの『ジェントリフィケーション』問題ですよ」

    「そうだ! わかりやすい解説図まで作ってました」

     

    『まちづくりの王様!ポートランドはなぜスゴいのか調べてみた』より

     

    「ざっくり言うと、街の人気が出て、人が増えると地価と賃料が上がって、街に住む人や店の種類が変わっちゃう……ってことですよね。さっき聞いた下北沢の話と重なります」

    「そうなんですよ」

    「僕が昔住んでた戸越銀座も、駅前の本屋とか近所のブックオフが全部潰れてしまって引越しを決めたんです。後でわかったんですが、土地の人気が高まって、賃料が上がったことが閉店の理由のひとつだったらしくて」

    「そういうケースは多いと思いますね」

    家賃上がった結果、カルチャーが消える……。これ、悪いのは不動産の仕組みなんじゃないですか? 黒幕がいるのでは………???」

     

    「……」

     

    「あれ、向井さんが突然黙り込んでしまった」

     

    「そろそろ正体を明かしたらいかがですか? 小田急電鉄の向井さん」

    「え……え……? 小田急? 鉄道会社の人だったの…?」

     

    小田急グループの野望が明かされる…!

    「……自己紹介が遅れました。改めまして、私は小田急電鉄の向井と申します」

    「遅いですよ! でも、なんでさっき凹んでたんですか?」

    「小田急グループの中には不動産事業もありますから」

    「不動産……ってことは、下北沢を潰しにかかる黒幕だったってこと???」

    「ちょっとお待ちください。違うんです」

    「悪党はいつもそう言うんですよ!」

    「変なスイッチが入っちゃった。聞いてください」

     

    私たちは現状を憂いて、下北沢を復興させようとしてるんです

     

    「復興、ですか」

    「ざっくり言うと、個人店を増やそうとしているんです」

    「てことは駅前のチェーン店潰すんですか? 小田急の強大な力で……?」

    「そんなことはできないし、そもそも弊社はチェーン店の皆さんも大切にしていきたいので、全力で訂正します。正確には、個人店を出しやすいスペースを作ることに取り組んでいるんです。そのための旗印のひとつが、私たちのいる『BONUS TRUCK(ボーナストラック)』なんですよ」

     

    「あ、小野さんも関わってるって言ってましたね」

    「はい。本屋B&Bの内沼晋太郎さんと一緒に『散歩社』という会社を作って、BONUS TRACKの企画段階からプロデューサーとして関わっています。初めて来た印象はいかがでしょう?」

    「お洒落な雰囲気に驚きました! あと、なんだかニッチお店ばかりありません?『発酵専門店』に『日記専門店』、『お粥とお酒の店』とか

    「まさに、あえてニッチな店を集めて作ったのがBONUS TRUCKなんです」

    「ほほう?」

     

    日本だけでなく世界各地の発酵調味料や漬物、酒、発酵茶を集めた『発酵デパートメント』。物販だけでなく、発酵を現代の味にアップデートした料理を楽しめる飲食部門も併設

     

    『アンネの日記』や『土佐日記』のような古典から『猿岩石日記』など最近の本まで、「日記」をテーマにセレクトした専門店「月日」。コーヒーやビールも販売

     

    本格的なお粥と、ビールや日本酒、レモンサワーなどのお酒、おでんやポテサラなどおつまみも取り揃えた「ANDON(アンドン)」

     

    「ほんとに、どこもクセが強い。でも、レコード屋や古着屋もあって、シモキタ感もちゃんとありますね。……もしや、その『あえてニッチな店を集めた』ところが、古き良き下北沢らしさにつながるってことですか?」

    「ええ、『個性豊かな個人店』という下北沢らしさですね。そして家賃に関しては相場より安くしています。それもこれも、尖った店を作る人を応援したいからなんです」

    「家賃が安いからこそ、挑戦できる。たしかに、日本をあちこち回ってると、地方の街に意外とニッチな個人店があるなあ」

    「その要素は大きいでしょうね。ちなみにBONUS TRACKのSOHO棟の家賃は15万円です(※)

    ※SOHO棟……1階が店舗、2階が住居になっているBONUS TRACK内の物件

    「下北沢駅からこの距離で、住居付きで15万……めちゃめちゃ安い! 破格だ!」

    「昔の商店街のように、店舗の2階はすべて住居スペースになっているため、立地を考えるとかなりお得な値段なんですよ」

     

    BONUS TRACKでは10以上の店が入居するほか、コワーキングスペースやイベントスペースも

     

    開発前に『このくらいの規模のお店をやるなら、家賃はどれくらいがいいですか?』と入居予定のオーナーさんに調査したんですよ。その結果、安すぎず高すぎずの値段が15万円でした」

    「ちゃんと声を聞いた上での良心的な価格設定とは。でも、世の中は綺麗事ばかりじゃないはず……家賃の安さには絶対に裏がある……」

    「では、種明かしといきましょうか」

     

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    この記事を書いた人

    徳谷柿次郎
    徳谷柿次郎

    ジモコロ編集長。大阪出身。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。

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