こんにちは、コエヌマカズユキです。

みなさんは「保護司」という仕事をご存知でしょうか? 犯罪や非行に走った人の更生をお手伝いし、社会復帰を支えるボランティアの方々です。

 

そんな保護司を20年間続け、120名以上の更生のお手伝いをしてきた女性がいます。

伝説の保護司と呼ばれるその方が……

 

中澤照子さんです。

なんで急にカレー作ってるの!? と思ったかもしれませんが、数々の少年・少女たちを更生へと導いたという得意料理『更生カレー』を作って頂いてます。

 

中澤さんは長年にわたる保護司としての活動が称えられ、2018年には藍綬褒章も授与。現在は75歳の定年退職を迎え、カフェを経営しています。

保護司時代の逸話をいくつか紹介すると―

 

・中学生の頃から暴走族に入り、手がつけられないほど強かった少年。彼がプロレスラーになるのを応援し、実際にデビューした(そのレスラーは現在 保護司になっている)

 

・刑務所を何度も出入りしていた元暴力団組員。中澤さんに感銘を受け、もう二度と刑務所には戻らないと宣言。実際にそれ以降は罪を犯さず、その証として毎年ワインが送られてくる(今年で18年め!)

 

・周辺の暴走族は中澤さんにお世話になることが多かったため、チームを抜けたOBたちから「中澤さんに迷惑をかけるな」「もう悪さをするな」というお触れが出た

 

すごくないですか?

というわけで今回は、伝説の保護司・中澤さんに、保護司とは実際どういう仕事なのか、怖い思いをしたことはないのか? など色々なことを聞いてみました。

 

なお後半には、実際に中澤さんのおかげで更生したという、元不良少年(現在は運送会社に勤務)にも来てもらいましたよ!

 

インタビュー場所は、中澤さんが経営する江東区辰巳のカフェ『LaLaLa』

 

LaLaLa

住所|江東区辰巳1-1-34 パルシステム2F

営業時間|10時~18時

定休日|日曜日

公式HP

 

保護司ってどんな仕事?

中澤さんの得意料理、『更生カレー』を食べながらインタビューしました。

※注:喫茶店のメニューにカレーはありません。今回は特別に作って頂きました

 

うまいっ!

 

「中澤さんは120人以上を更生させてきたそうですが、どんな年齢や罪状の人が多かったんですか?」

「年齢は約7割が未成年です。罪状は傷害や窃盗や薬物使用など、まあ色々ね」

「そんな彼ら彼女らに、保護司はどのようなことをするんでしょうか」

「私が現役だった時は、保護観察の対象者と月2回以上会うのが決まりでした。ちゃんと仕事はしているか、悪い仲間と付き合っていないか、家族間のいさかいはないか、などを聞くんですね。その内容を報告書にして、月1回法務省に提出するわけ」

「ちゃんと顔を合わせて、更生してるか確認するんですね。嘘をつかれたらどうするんですか? 本当は会社を辞めちゃったのに、『ちゃんと働いてますよ』って言ってきたり」

「給料明細を見せてもらったりするので、大丈夫です。あと、対象者本人だけではなく、必要に応じて親御さんとも会いますので、辻褄が合わないとすぐわかりますね」

「なるほど」

「ただ、対象者と会うのが月2回で済むことはほぼ無いです。『財布を落とした』とか、『母親と喧嘩をした』とか、ちょっとしたことですぐ対象者から電話がかかってきますから」

「え? イメージ的に、対象者は『保護司に会うのメンドくせぇな』って言いそうですけど、逆なの!? 会いたがるってことですか?」

「救いを求めて誰かにすがりたいって子も多いんですよ。『今からリストカットします』と泣きながら電話をかけてきたり……。その子とは月に40回くらい会ったこともありますね」

「よんじゅっ……!? 普通のサラリーマンより大変じゃないですか。でも保護司ってボランティアだから給料は……

出ません。誰かが私を必要としていると思うと、強烈なパワーが出てきてしまうのね」

 

「ちょっと聞きにくいことなんですが、犯罪や非行をおこなった人たちに会って話すというのは……怖くないんですか? 例えば暴力をふるわれるんじゃないか、とか」

「そりゃあちょっとは怖いこともありましたが、そんなときはコツみたいなものがあるのよね……」

「コツ?」

「どんなコミュニケーションでも同じだけど、最初から考えを押し付けたらだめってことです。それが例え正しいことであっても、初対面でいきなり『更生しようね!』『まともな道に行こうね!』と言っても、聞く耳を持ってくれない」

「確かに、初対面の人にいきなりグイグイ来られたら、心を閉ざしちゃうかも……」

「でしょ? だからまずは時間をかけて、『好きな時に電話してね』『いつでも行くし、私の家に来てもいいよ』という感じで、何でも話せる間柄を作っていきます

「気軽におっしゃってますけど、それってメチャメチャ面倒では?」

「まあ大変よ。でも時間をかけて接していると、『あ、私を受け入れてくれたなって瞬間がわかるんですね。閉ざされてた心に、隙間ができる。そこにスーッと入り込むわけ」

「城攻めする兵士じゃん……」

「時間を惜しんだら、絶対に良い関係にはなれない。私は、連絡が来たら拒否はしません。会いたいって言われたら、『いいよ』ってまず言うの。そのうえで、『夜だったら大丈夫だよ』とか、『明日の午前中でもいい?』って伝えていました」

 

7割くらいの家庭に何かしらの問題があった

「親御さんとお話しすることもあるんですよね?」

「子供が未成年だったら、まだ人生経験が浅いから、親に重点を置くことは多いです。親が真っ当でない場合、まず親から軌道修正してもらったほうが早い

「真っ当でないとは、具体的に?」

賭け事やお酒が好きでお金を全部使っちゃうとか、暴力を振るう、子供の面倒を見ない、とかですね。『そんなことしてると、子供はあなたと同じようにしか育たない』って伝えると、親御さんも自分の生き方を後悔してることが多いんで、効きますね」

「親も親で怖そうだな……」

「電話で呼び出されて行ってみたら、対象者の少年と母親が親子喧嘩の真っ最中だったことがありましたよ。しかもお母さんが台所から刃物を持ち出してきて……」

「ええーっ!! めちゃくちゃ危険な状況じゃないですか!」

「何とかその場は落ち着いてもらって、けが人は出なかったんだけど。肝を冷やしましたね」

 

「家庭に問題を抱えていると、犯罪や非行に走りがちとよく聞きますが、本当なんですか?」

「うーん、あくまで私の経験則だけど、7割くらいの家庭には何かしらの問題が感じられました」

「ということは、子どもたちの非行は家庭環境が原因……」

「一因はあると思います。でも私は、それは言いたくないんですよ。家庭環境が悪いから非行に走る、なんて言うと、親や社会のせいにして逃げ道を作っちゃうでしょ。悪いことは悪い!」

「まあ、同じ環境でも真面目に働いてる人だっていますからね」

犯罪をおこなったということは、どこかに迷惑をかけた人がいるってこと。罪を償うって大変なことですよ! それを忘れて誰かのせいにしてたら、更生なんてできないでしょう」

「そうか……被害に遭われた方からしたら、『犯人にも事情があって』って言われても、受けた被害が消えるわけじゃないですもんね」

「被害者のことを考えるとね、複雑な気持ちになりますよ。自分がやってることは、これでいいのかなってね。加害者が更生して、幸せな人生を送ったとして、それでいいの? って」

「難しいなぁ。でも、じゃあどうするのが良いのって話になりますよね。更生させずに放ったらかすのが良いかというと、それは違うと思うし」

「私もずっと考えてきました。でも結局、保護司の仕事は、対象者の更生を手伝うっていう部分だけで、他は裁判所とか役所の仕事なんですよ。だから私は、とにかく自分の仕事を……再び被害者を出さないために、目の前の対象者の更生だけを一所懸命にやってきました

 

店内には小林幸子さんのポスターが。実は中澤さんはかつて芸能関係の仕事をしており、今も小林さんと親交があるそうです。

 

「そもそも、保護司を始めたきっかけは何だったのですか?」

「昔から、困っている人を放っておけない性格だったんです。親がいない子にお弁当を作ったり。いじめられてそうな子に事情を聞いたり。だから保護司という仕事があると聞いたとき、私がずっとやってきたことじゃん! って思って、何も考えないで始めました」

「まさに天職だったのですね」

「そうなの。多いときは、同時に12名の対象者を見ていたこともある。そうすると自分の時間なんかなくってね」

「12名! 生活の全部が保護司ですね

「120人以上を担当してきたから、生活というより、もはや人生が保護司でしたね」

「担当された120人は、すべて更生しているんですか?」

かなりの人が更生して真っ当な道を歩き続けてくれてます。母の日に花をくれたり、誕生日にプレゼントをくれたり。結婚式に呼ばれたり、仲人をしたり。去年は私が保護司を定年になったので、対象者やその仲間が14人くらい集まって温泉旅行に連れてってくれたり、慰労会をしてくれたりしました」

 

「でもね、全員が更生したわけではありません。中には闇の方へ行ってしまった人や、塀の中へまた入っちゃった人もいます。更生っていうのは一生続くものだから。一時は良くても、常に応援し続けないと、また道を踏み外すことだってあるんです」

「世間からの”元犯罪者”というレッテルも、更生を妨げてしまいそうですね。保護司を20年間されてきた中で、犯罪や非行に走る人の性質や傾向など、変化はありましたか?

昔の不良少年たちは、仲間や地域が好きでした。けれど今の子は、仲間にも地域にも愛着がないから、行動がつかみづらいですよね。ネットで交友関係を広げちゃいますから」

「そう言われると、昔の不良って地域の祭りとかメチャ好きでしたね……」

「昔の子は仲間と一緒に地域でたむろしているから、声をかけやすかったんですけどね。今の子は根無し草みたいにふわふわしているから、保護司は大変でしょうね

 

元対象者が語る中澤さん

ここで、中澤さんが担当をしていた元対象者のKさんにも話に参加していただきました。

Kさんはケンカや暴走行為などを繰り返し、共同危険行為で逮捕。保護司として中澤さんにお世話になったそうです。

現在は更生し、配送業の仕事に従事しています。お子さんも二人いて、すっかり優しい父親に……

 

「Kさんが非行に走ってしまったのはどういった理由だったんでしょう?」

「俺の場合、理由は特にないんですよね……」

「ない!?」

「若い頃って、誰でも暇つぶしに仲間と集まって遊ぶじゃないですか。俺らの場合は、“遊ぶ”の中に『悪いこと』も含まれてたってだけです。今にして思えばバカでしたけど、正直、みんなそんなもんじゃないですかね

「本当、バカだねぇ~……」

「でも、“遊ぶ”の中に『悪いこと』なんて含まれてない人のほうが、世間的には多いわけじゃないですか。その差はどこから来るんでしょうか」

「う~ん、環境は大事だと思います。例えば周りにいるのがテニス好きなやつばっかりなら、自分もテニスが好きになる確率って高いじゃないですか」

「まあ、周りのみんなが毎日テニスの面白さを語ってきたら、『じゃあ自分も一回だけやってみるか』となるかもしれない」

「それと同じで、周りに悪いやつが多かったり、親が悪かったりすると、流される確率は高くなる。あくまで確率なんで、それで不良になるのは本人のせいだと僕は思いますけど」

「環境か~。それって、未成年である本人の力では、どうしようもないのでは」

「だから親とかが協力して、引っ越すくらいの勢いじゃないと劇的には変わらないんじゃないかな。とにかく、外部からの力がないと難しいと思います。まず『外部という世界がある』ことを教えないと」

 

インタビューの合間に、『LaLaLa』の喫煙所にて思い出話に花を咲かせる二人

 

「保護司である中澤さんとはどういう出会いだったのでしょう?」

不良の先輩が捕まった時も中澤さんが保護司だったんですよね。『あの人はすごい人だぞ』って聞いてたんで、俺も見てもらいたいなと」

「君から希望してきたんだったね」

「“指名”ってできるんだ」

「本来は、法務省から地域の担当観察官に話がおりてきて、その地域に所属するそれぞれの保護司に割り振られます。対象者側からの希望が観察官に認められた場合のみ可能ですね」

「Kさんが更生するのに、中澤さんの存在は大きかったですか?」

「もちろん! やっぱり関わりやすさが重要で、いきなり知らない人に偉そうなこと言われたら、会いたくなくなるんですよ。中澤さんは一方的にこうしなさいって言うんじゃなくて、こっち側の意見も聞いてくれましたね」

「中澤さんのことを本当に慕ってるんですね」

「先輩たちからも、『中澤さんには迷惑をかけるな、泣かせるな』とずっと言われ続けてきましたからね。実は今日も花を持ってきたんです。こないだ母の日に来られなかったから」

「あら~ありがとう! 可愛い花ね。ゴツい君が持ってきてくれたから、よけい可愛く見えるよ」

「それ言う必要ある?」

 

「ちなみにKさんも、中澤さんの更生カレーを食べてたんですか?」

「はい。俺らの周りは、家庭に問題があったり、育児放棄をされていたりする人が当たり前だったんです。だから、同じ釜の飯じゃないですけど、みんなで食べるカレーは特別なものでした」

「家庭の味ってこと?」

「そうそう! 自分のために料理を作ってくれる人がいて、みんなで食べて、笑って……だから、味がうまいわけじゃないです(笑)」

「おい!」

「いやいやいや、おいしかったですよ! 具材がとても大きく切ってありましたね」

「若い子たちが、食べ応えを感じられるようにね。カレールーは2種類をブレンドして、あとは隠し味にケチャップとマヨネーズとウスターソース。子供はその3つの味が入ってたら喜ぶんだから」

「こんなに美味しいカレーを振舞われたら、すぐに心を許してしまいそうです」

「保護観察が終わっても、『あのカレー食わせてくれ』って訪ねてくる子がたくさんいるんです。暴走族が15人も20人も続々来てね。君たち、何回食べたら更生するんだよって(笑)」

「どういったきっかけで対象者に出すようになったんですか?」

「人間、おなかいっぱいならイライラしないし、つまらないことでも笑えるでしょ? 愛情がどうこうなんて偉そうなことを言うつもりはないけど、単純に、おなかが減ってるのは一番つらいだろうと思ってね」

「確かに、おなかいっぱい食べられる場所があるって、良いことだと思います」

「シンプルだけど、すごく重要なことを教えてもらった気がします。今回は特別に作ってもらいましたが……『LaLaLa』のメニューで出さないんですか? 食べたい方はたくさんいるのでは」

「うーん。20年間ずっと無料で作ってきたから、お金とるのはなぁ……まあ、考えておきます」

「ぜひお願いします! 今日はお二人とも、ありがとうございました!」

 

終わりに

保護司がどのような役割をしているのか、伝わったでしょうか。

人情味あふれるやり方を貫いて、対象者に接してきた中澤さん。保護観察が終わった今でも、みんなから慕われている理由がよくわかりました。カフェ『LaLaLa』には今日も、にぎやかな笑い声が聞こえていることでしょう。