「本当は捕まえたくない」増えすぎた奈良の鹿はどうなるのか?

2018.06.05

「本当は捕まえたくない」増えすぎた奈良の鹿はどうなるのか?

2017年に奈良県で下された「奈良市の鹿を捕獲・殺処分する」という決定。その原因は鹿による農作物の被害にありました。殺処分以外の道はないのか?奈良県猟友会の方々と一緒に考えてみました。

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    「ま、まず、今回の捕獲処分の背景には『深刻な農作物の被害』があると伺ったのですが、被害はいつ頃から起きていたのでしょうか……?」

    「ずっと前からやね。農家の人たちは、ずっと声を上げとったよ。でも、奈良市の鹿は1957年から国が指定しとる天然記念物になって、僕ら猟師もどうにもできんかったからね」

    「そうなんですね……ちなみに猟友会のみなさんは、今回の捕獲処分についてどう思われているんでしょう……?」

    「僕らはね、仕方がないことだと思ってるし、賛成。むしろ『ようやく決まったか』という感じやね」

    「それだけ鹿による被害がひどかったということですか?」

    「そうそう。実際に被害を受けてる人たちを僕らは見てきたけど、農家の人たちはかわいそうやった」

    「ちなみにどのような被害が……?」

    「せっかく田んぼに芽が出ても、鹿が全部食べていってしまうし、侵入防止のために電気の通った柵を作っても、壊されたり、軽々飛び越えられたりね」

    「それってまさか、農家の方々は自腹で……?」

    「もちろん。農作物が被害を受けても国や県が補償してくれるわけでもないし」

    鹿を保護しているのに、食害による補償は出ないんですね……!」

    「僕らも『鹿をどうにかしてくれ!』って農家の人から頼まれることが何度もあったけど、それもできないからどうしようもなかったんよ、今まで」

    「うわぁ……」

    「赤字になって、農業やめる人もいるくらいやからね」

    「ちなみに、今までは鹿を撃ったり捕獲しちゃうと、どうなっていたんですか?」

    猟師の免許が取り消しになっちゃうの。だから、イノシシとかを捕まえるために僕らが仕掛けた罠に鹿が入っちゃってると、絶対に逃がさないといけなかった。罠に入れてるエサ代もパア」

    「パアか〜〜〜〜〜」

     

    「な、厄介やろ……」

    「農作物以外に、何か被害はあったりするんですか?」

    森の生態系が変化したことも大きいかなぁ。鹿は若いヒノキやスギなどの木の皮をめくって食べるから、木が枯れてしまうんよ」

    「鹿を保護することで、生態系までもが変わってしまったんですね……」

    「そうや。奈良公園にいる鹿が観光客からたくさんご飯をもらって栄養をつけて、どんどん繁殖して、奈良公園から外へ出てきたんよ」

    「公園では鹿せんべいとかもらえますもんね……」

    「最近は天敵の野犬なんかもいないから数が減らなくて、そのまま山間部で繁殖したってことやね」

    「なるほど……。他府県だと鹿の狩猟は行われているようですけど、奈良県では今まで全く行われなかったんですか?」

    「奈良市では、ね。奈良県でも、奈良市以外の地域では鹿はもともと有害駆除指定の対象やし、狩猟もされてるよ」

    「そうなんですか! 奈良県の鹿は全部ダメなのかと思ってました…… 」

    「奈良市の鹿は『神獣』と呼ばれることもあって、神の使いだと言われてるんよ。だから今まで保護されてきたし、それでどんどん数が増えてしまったというわけや」

     

    猟友会の方たちに伺ったところ、今回鹿の捕獲・殺処分が決められたのは、奈良市をA〜Dの4つの地域に分けたうちのD地区。 

     

    奈良公園はA地区の中にあるため、現状は捕獲の対象外です。地図で見ると、D地区の範囲がかなり広いのがわかります。

     

    捕獲が始まって、何が変わる?

    「奈良市の鹿の捕獲が始まって、今まででどれくらいの鹿が捕獲されたんですか?」

    「2017年の8月から始まって…16頭やね(2018年2月14日時点)。3月末までに120頭を捕獲するように言われてるけど、多分難しいやろなぁ」

    「難しいというのはどうしてですか?」

    「鹿はな、賢いんよ。やから最初は罠にもかかるけど、学習能力があるから、どんどん罠の中に入らなくなるねん」

    「あー、そういうことか……!」

    「やからこのペースで行けば、そのうち罠ではなく、銃で狩りをすることになるかもしれん」

    「うーん、なるほど……。ちなみに鹿を捕獲したあと、その鹿はどうするんでしょう……?」

    「そこからは県の職員の人を呼んで確認してもらって、写真を撮ったりやね」

    「あんまり聞きたくないんですけど、殺処分されるんですよね……?」

    「そう。今のところは僕らではなく県が殺処分して、『生態調査』に活用するんよ」

    「生態調査?」

    「その鹿の性別、体重、体長、ツノの長さ、それから、胃の中の内容物を調べるみたい」

    「あぁ、農作物とか、どんなものを食べてるかを調べるんですね」

    「うん、そう。今まで捕獲した鹿の胃の中には、ヌカや米などが入ってたみたいやね」

    「鹿ってヌカ好きなんですか?」

    「好物やで。鹿せんべいもヌカでできてるの知ってる? だから、鹿の捕獲に使う罠も、ヌカとか米を置いとくの」

    「全然知らなかった……! 鹿の捕獲が開始されてから、猟友会の皆さんの活動はどう変化したんですか?」

    「奈良県猟友会のハンターは25〜26人で、『この人はこの山を担当』というのが決まっているのね」

    「担当制なんですね」

    「ただ、奈良市での鹿の捕獲もしないといけなくなったから、今はスペシャルチームを組んでみんなで駆除に当たってるの」

    「スペシャルチーム?」

    「猟師にはそれぞれ得意な必殺技とかがあるから……」

    「(必殺技……!? )」

     「まぁそれはいいとして、通常の猟友会の仕事に加えて、2日に1回は罠を仕掛けて確認しに行かないといけなくなっちゃって、大変なのよ今」

    「(必殺技……空気が重すぎて聞けない……)」

     「しかも今ね、若者の猟師が圧倒的に足りてなくて」

    「それはどうしてですか?」

    「鉄砲の資格を取るのが難しいからかなぁ。僕らももう60代や70代の猟師ばっかで、そろそろ次の世代を育てないとあかんのやけど……」

    「猟師さんがいないと、どうなってしまうんでしょう……?」

    「害獣を駆除する人がいなくなるから、農作物の被害がさらに重大になっていくやろね。動物と人間が長く共存していくためにも、ちゃんとした猟師がいなくちゃいけない」

    「なるほど……ちなみに、猟師になるためにはどうすれば?」

    「奈良県猟友会の奈良本部に電話してくれたら! 講習会もあるし、なりたい人が少ないから、今なら丁寧に教えてあげられるよー!」

    急に人材募集の話になった

     

    奈良県猟友会の最年少の猟師・谷口さん(32歳)。先輩方にビシバシ鍛えられ、今は一人前の猟師として活動しているのだとか

     

     

    本当は、捕獲なんてしたくない

    「そういえば奈良県猟友会さんたちは、奈良県から依頼を受けて捕獲を手伝っているんですよね?」

    「そうそう」

    「ちなみにその依頼料というか……報酬っていうのは?」

    「……多少は出るけどなぁ、罠の費用とか考えると、ほとんどボランティアみたいなものよ」

    「みなさん、普通にお仕事をされて猟にも出てるんですよね? それでさらに、鹿の捕獲のために広範囲の見回りもしないといけないのに!?」

    「そう言われればそうやなぁ……」

    「それでも猟友会さんが鹿の捕獲をする理由って、何かあるんですか?」

    「やっぱり、農家の人たちのためやね」

     

    「僕らだって、本当は鹿を捕まえたくないんよ」

    「………」

    「昔から鹿は神の使いだと思ってきたし、慣れ親しんだ動物やし。しかも野生の鹿って、奈良公園にいるようなおっとりした鹿とは比べものにならないくらいに大きくて、気性も荒いから」

    「危険な目に遭われることもあるんですか?」

    「いっぱいあるよ。ツノもすごいし、70キロ以上ある個体なんかもいるからしょっちゅう怪我するし、捕獲も命がけや」

    「命がけ! 鹿ってそんなに危ないんですか!?」

      「危ないよ〜、罠の檻にかかった鹿が暴れて、ツノが『グサーッ』て手に刺さって大怪我したこともあるよ(笑)」

    「笑っちゃダメなやつだそれ……」

    「怪我もそうやけど、『鹿が捕獲された』って連絡が入ったら、自分の仕事を中断してまで行かないとあかんねん。台風でもなんでも関係なく山に入らないとあかんし」

    「危険な目に遭って、おまけにほとんどお金にもならないのに行かないといけないんですね」

    「そうや。猟師の誰一人として、鹿を捕獲したいと思ってる人なんかいてない」

    「それでも、農家の方たちの被害を考えると……という思いで捕獲を?」

    「そうやね。『お願いやから、鹿をどうにかしてくれ』って必死で訴える農家の人たちのあの顔を見たら……ちょっと無視できへんよ」

     

     

    殺処分以外の道はないの?

    「ここまでお話を聞いて、鹿による農作物などの被害が深刻なことはよく分かりました。でも、殺処分以外の方法はないんでしょうか」

    「現実的に考えると、難しいやろうね」

    「うーん……人間が鹿を保護してきたにも関わらず『数が増えすぎたので殺処分します』というのもひどいような気がしますが……」

    「うん」

    「増えた個体を殺処分ではなく生きたまま保護するためには、また莫大なお金がかかりますもんね」

    「そうやね。僕らも辛いけど、今はそうするしか選択肢がない状況で。『殺処分するな! 守れ!』と言われることも多いけど、その保護にかかるお金はどこから出るのか、というのもあるし……」

    「殺処分に代わる代替案がない状況、ということですか」

    「そういうことや。僕らも、できるなら人間と動物が共存できるようにしたいんやけど……」

    「共存……」

    昔はな、人間と野生の動物との間に『境界線』があったんや

    「『境界線』かあ。それって、具体的にどんな区切りがあったんでしょう」

    「畑とか田んぼやな。昔は、使ってない田畑は焚き火で焼いとったんやけど、最近はやらなくなったから、草や竹やぶが生い茂って、境界線がぼやけてしまったんや」

    「草や竹やぶがあると、何か変わるんですか?」

    「それが動物にとっては隠れ家になるやろ。そうすると人里まで降りて来やすくなるんよ。そうやって、食べ物を求めた動物たちが、人間が暮らす領域まで降りてくるようになってしまったんやと思う」

    「なるほど……今これだけ鹿が増えてしまっている以上、また田畑を焼けば簡単に解決出来る問題というわけではないでしょうし、難しいですね」

    「そうやな。保護して殺処分して……ということを二度と繰り返さないために、今後は『動物と人間が共存するためにどうするべきか?』を考えないとあかんね

     

    人間と動物が共存するために

    人間と動物が共存する世界を作るために、何ができるでしょうか。

     

    過去には、保護されている鹿を「奈良公園」から山間部に出さないよう、柵を設ける案も出たそうです。しかし、奈良公園には国道や参道など、縦横に道路が通っています。柵で囲うとしても莫大な費用がかかり、実現は難しいそうです。

     

    奈良県猟友会の方たちはきっと、今日も鹿を捕獲するために山に入っていると思います。彼らも、人間と鹿の共存を望んでいます。もしも殺処分を止めたければ、何かしらの「代替案」と、「資金の調達」が必要です。

     

    しかしながら、殺処分に代わる代替案も、資金の調達方法も見つかっていません。

    殺処分をすれば鹿は減ります。でも、規則を変えなければ問題の繰り返しになります。

     

    私たちの「未来の共存」のためには、いま課題に向き合う必要がある。この取材を通じ、私はそう感じました。 あなたはどう思いますか?

     

     

    撮影・編集:黒川直樹(クロカワ広報室

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    この記事を書いた人

    吉川ばんび
    吉川ばんび

    フリーライター。兵庫県生まれ。音楽、映画を愛する動物好きの人です。妄想と現実のあいだにはさまりがち/ Mail:m.gct.lv@gmail.com

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