市民参加のラジオが、多様性を認めるキッカケに
小学校の頃の雰囲気が残された、3階の図書室でインタビューを再開します
「『あなたのおばんです』は不思議なラジオですね。トークのプロではない人たちがパーソナリティなのに、よそ者の僕らが聞いても面白いし、地元の人同士でも発見がある」
「僕ももう秋田に通って9年くらい経つから、だいたいのにかほのキーマンには会ってるようなつもりでいたんやけどね。でも、ラジオを聞いてると知らない人ばっかりで、なのに『めっちゃ面白い人ばっかりやん!』って驚いた」
「ラジオって媒体も、相性がよかったんでしょうか」
「考えていることをまっすぐ一人語りしてもらうと、その人の人柄や個性、思想が見えてくるよね。僕も昔からずっとラジオが好きで聞いてきたけど、”パーソナリティ”とはよく言ったもんやわ」
「常日頃考えてることを、面と向かって話すこともないですもんね」
「でも、知り合いとか家族とか友人とか、身近な人が話してると知ったら、聴きたくなるよね? それに、自分の言葉で発信できるのは選ばれたラジオDJさんだけじゃないって伝えたい」
「いいですね。この仕組みを真似て、秋田だけじゃないほかの土地でもやってみたら面白そう! いろんな人が、自分の土地を好きになれる気がします」
「ほんまにそうなんよ。興味がある地域の人がいたら、ぜひやってほしいなあ」
「あなたのおばんです」出演マニュアルより抜粋
「僕は田舎にこそ、『あの人がそんなこと考えてるなんて知らなかった』みたいな多様性が必要だと思っていて。田舎ってどこか言いたいことが言えなかったり、最大公約数的な意見になってしまったりすると思うねん」
「なるほど! 同じ土地に住む一人ひとりの個性や違いに気づくために、ラジオがあるんですね」
「うん。『あなたのおばんです』では、この土地で暮らす一人ひとりの思いを知っていく装置になったらいいなと思う。こんなすごい人がこの土地にいたんだ、とか。そういうことを考えているなら、『にかほのほかに』で何かやりたいことをやってもらおうよ、とか」
「國重さんもさっき言われてました。今は『にかほのほかに』にとって仲間集めの期間だと」
「そう。実はずいぶん前に完成イメージみたいなものも描いてみたりしたけど、絶対この通りにならへん自信がある」
カフェにスタジオ、公衆サウナ、ゲストハウス的な宿泊施設までを完備した『にかほのほかに』の完成イメージ
「いまのところ、完成してるのはラジオのスタジオだけですね」
「これから先、ラジオを通して市民のやりたいことを可視化して、それを行動に移してもらうことで『にかほのほかに』がどんどんかたちづくられていく……なんてことができたら理想やと思う。『極上の入れ物』をつくれたらいいなと」
「藤本さんにとって大事なのは、施設をつくることで、”いかに土地の人と出会うか”なんですね」
「出会うというより、僕はいろんなことを”待っている”んじゃないかなあ。それが、この廃校活用でやりたいことな気がしてる」
この土地なりの豊かさのため、「にかほのほかに」を続ける
「やっぱり田舎の人ほど『都会的な豊かさ』に憧れてるじゃないですか」
「都会的な豊かさ、ですか」
「新しい場所をつくるにも、華やかでわかりやすいものが求められがちやんか。都会で流行ったものを、地方に持ってきたり。でも都会と同じやり方が、地方に通用するはずないと思うんよね」
「秋田なんて特にそう。日本の中ではどこよりも先に”人口減少社会”を突っ走ってきて、減っていくことが前提にある。だからこそ、右肩上がりを期待するままじゃいけないと思う」
「たしかに、地方だと都会へ人口が出て行ってしまうこともあるし、”減る”感覚は特に強いですよね」
「地方における移住定住の動きだってそうで。日本全体で人が減っていくとわかってる以上、人口の取り合いみたいになるし、その果てに過剰なシティプロモーションを喧伝し合う、ってなると不毛じゃない? だから、数字やお金以外の豊かさの物差しを作らないといけない」
「お金以外のものさしですか」
「その土地なりの豊かさをつくるにはどうしたらいいんだろうって考えたときに、必要なのは“多様性”やと思うのよ。こうした方が儲かりますよ、じゃなくて、このまちの場合は、これが必要じゃない?とか、これがあったら、より楽しめるんちゃう?という風に、いまあるものをより活かす編集ができればいい」
「にかほってね、僕にとっては秋田県の玄関口やねん。昔お金がなかった頃、神戸から車でぐんぐん北上して、細長い新潟県超えて、山形通って、ようやく秋田入ったー! って、道の駅で休憩したのがにかほ市だった」
「陸路の玄関口なんですね」
「でも、全然『ようこそ』って顔をしてないからさ。それやったらいっそのこと、『にかほに来てくれてありがとう。でも、秋田には他にもこんなにいい場所がありますよ』って伝えるくらい懐の深いまちにできたらいいな、って思って」
「自分たちの土地だけじゃなくて、他のまちも紹介していくと」
「そうしたら『にかほのほか(他)に』って回文もできて。それを施設名にした。僕、こういうのを奇跡やと思っちゃうねんな。この考えで合ってるでって神様が教えてくれてるように思う」
「そのためにも、ラジオを通じて市民の方々の『やりたいこと』が可視化されて、それを行動に移せる場所をつくりたい。まだまだ完成形は見えないし、変に決めてしまいたくもないねん」
「関わる人たちがどんな場所か答えづらかったのも、完成形がないからだったんですね。まだ世の中にないものをつくろうとしている」
「世の中にないものなのかはわからないけど、どうなるかはわからない。だけど、ただ何もせず待ってるんじゃなくて、そのための環境を必死に整えている。そのことがわかってもらえるといいな。って思う」
おわりに
藤本さんが取り組んでいる『にかほのほかに』の廃校活用と、市民参加型のラジオ『あなたのおばんです』。そこには数字的な目標はありません。
ただ、にかほや秋田にどんな人たちが暮らしているのか、どんな想いを持っているのかを少しずつ見つけ出していこうとしています。
長年「北限のいちじく」として親しまれてきた名産品が、藤本さんや『のんびり』チームとの出会いで「いちじくいち」という大きなイベントになったように、物事には必然の出会いがあるもの。
目指すべきなのは都会的な豊かさを外から持ち込むのではなく、にかほの人々にとっての本当の「豊かさ」とはなんなのかを知ること。『にかほのほかに』では様々な取り組みを通して、これからも出会いを探し続けていくのです。
「あっ、そういえば」
「『あなたのおばんです』ラジオのことなんやけど、あの仕組みはホンマに興味ある人に真似してもらいたいんよ」
「ええ! 真似しちゃっていいんですか?」
「仕組み自体は難しいものじゃないしね。手間暇はかかるやろうけど、どの土地でやっても、きっと面白いものになるから」
市民ラジオに関心を持ち、「自分の地元でもやってみたい!」という方は、ぜひ『あなたのおばんです』を参考にやってみてください!
にかほのほかに
Twitter:https://twitter.com/nikahonohokani
HP:https://nikahonohokani.com/