釜ヶ崎のレジェンドが語る「大阪・西成」50年のリアル。治安、労働、福祉…実は”どんな人も排除しない町”だった

2021.03.30

釜ヶ崎のレジェンドが語る「大阪・西成」50年のリアル。治安、労働、福祉…実は”どんな人も排除しない町”だった

最盛期は2万人もの日雇い労働者が暮らしていた大阪市西成区。あいりん地区、釜ヶ崎などを含むこのエリアは、治安の悪い過去のイメージから、現在はインバウンド向けのホテルやホームレスの方向けの支援機構が増えるなど大きな変化を遂げています。長年、現地で暮らしてきた水野阿修羅さんに、西成の現状を聞きました。

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社会に馴染めない人たちの受け皿になってきた西成

「改めて伺いたいんですけど、阿修羅さんから見た西成って、どんな町ですか?」

「もともと『流動する人たちのための町』だからね。いろんな事情で、いろんな場所から来た人たちに日雇いという形態の仕事が与えられてきた。そういう町だよね」

「そういう意味では、西成って社会を支える機能を担ってきたのかもしれないと思いました」

「そうですね。バブルが崩壊して、ホームレスがどっと増えたときも、このまちには仕事を求めて大勢の人がやってきましたから」

 

「阿修羅さんが西成に来てからの50年で変わったなと思うところと、変わらないと思うところを教えてください」

「わかりやすく変わったのは町の臭いだね。昔はそこら中に腐ったものが落ちてたし、小便の臭いもキツかった」

「ああ、僕もその印象でした。あの臭いを嗅ぐと、西成に来たなあと」

「でも、今は高齢者対策で行われている道路清掃があるから、ずいぶんとよくなったよね。腐敗物がほったらかされることがないから」

「そういえばあんまり臭いが気にならなかったな……」

 

「この町の変わらないところは、ワケありの人が入ってこれることですね。そこは昔からずっと変わってません。この町は、どんな人でも排除しないんですよ。本人が出て行く分には構わないけど、町としてはややこしい人も拒否しない」

「そういう寛容さが、西成らしさなんですね」

「ドヤもあるし、仕事もあるし、シェルターもあるし、支援団体もある。だから、どんな人でも受け入れられるんです」

「生きていくためのベースがそろっていると」

「そうそう。『あそこに行けばなんとかなる!』っていうね」

「自己責任論の社会からこぼれ落ちた人のバックアップ機能を果たしてるんだな…めちゃめちゃ大事だ」

 

「行政からしたら、自分たちの町にややこしい人はいないほうがいいんですよ。例えば、ホームレスがたくさんいると、世間の目が集中しちゃうでしょう? つまり問題が見えやすくなる。そうすると、行政としては困っちゃうからホームレスを排除する動きになるわけですよ」

「他の都市でもその動きは強いですよね。僕も山谷の近くに住んでいましたが、どんどんホームレスの方を見る場所が減っていった印象です」
「町が静かで綺麗になれば、騒ぐ人やゴミを出す人は追い出されます。だからといって、ややこしい人たちを収容する施設をつくろうとすると、今度は住民の反対運動が起こる。障害者施設なんかも一緒ですよ。でもね、そういう施設を作るエリアとか、排除された人が集まる場所って、どこかには必要じゃないですか

「人間、きれいごとだけじゃやっていけないですからね。そういう役割を西成が担ってきたと」

「東京の山谷も日雇い労働者の町だったけど、東京都は町からホームレスを排除するために、彼らの一部を都営住宅に入れたわけ。ところが、ややこしい人が一気に移ってくるってなると地域住民の反対運動が起こるから数カ所に散らしたわけですよ。そうすれば反対運動が起こらないから」

「散らして、見えづらくする。でもそれって根本的な解決にはなりませんよね」
「同じ理由で、東京はホームレスのための一時保護所も一箇所に固定させないんですよ。4つの地域に分けて、一箇所に5年というサイクルで移動させていくわけ。おっしゃる通り、そうすると問題が見えにくくなるからね。要するに、貧乏人がいなくなったわけじゃなくて、見えなくなっただけなんですよ」

「行政も板挟みの中で適切な対処をしないといけないから大変だなぁ」

 

「そう考えると、西成は『課題先進地』とも言えません? 西成にある労働問題や貧困問題は、見えづらくなってるだけで東京や他の都市にもあるわけで」

「そうそう。今日見てもらったように、このまちには高齢者が多いでしょ。労働者だけでなく、認知症も含めて家族が面倒見切れないような人たちがどんどん集まってきた。そういう土壌があったから、今は精神障害を持った若い人たちも日本中から集まってきてますよ」

「『どんな人でも排除しない』のが、西成だから」
「最近は、高齢者施設や障害者施設での虐待が大きな問題になってますよね。どの施設も手がかかる人は出ていってほしいわけですよ。それを日本で唯一受け止めることができるのが、西成のエリアなんです。だから、ほかの町がややこしい人の排除に向かえば向かうほど、このまちの重要性は大きくなっていくと思いますね」

「多様性と包摂的なまちづくりをとっくにやってたんだ!」

「すごいなあ。なぜ西成では、社会からはじかれた人たちの受け入れが可能なのでしょうか?」

「もともとドヤの経営者たちは、そういうややこしい人たちの扱いに慣れてるでしょう。日本中からややこしい人たちが集まってきたまちだから、どう対応したらいいのかわかってるんです」

「なるほど。僕も小さい頃、大阪の路上で出くわす変なおっちゃんたちを見て育ったので、逆に変な人ほど面白く感じる癖がつきましたもん」

「それはちょっと違いません?」
「労働者がいなくなって空いてしまった部屋をサポーティブハウスにして、今までの経験を生かしながら、ややこしい人を受け入れる。そうすると日本中から人が集まってくる。それでまたドヤの経営が成り立つ。大儲けはしないけど倒産もしないっていうね」

※サポーティブハウス=ホームレス状態にある人たちの生活再建を支援する仕組み。敷金や保証人は不要で、家を借りることができるほか、様々な事情に応じてサポートする

 

西成にホテル革命を起こした「ホテル中央グループ」も元々は簡易旅館から始まっている。後日、ジモコロで「西成のホテル王」として記事化予定

 

「東京は簡易宿所で生活保護を受けることが認められてるんですよ。だから、東京の経営者たちは努力しないんです。ホームレスを受け入れれば都からお金がもらえるから。そうすると、ややこしい人は出ていってほしいとなっちゃう」

「根っこのスタンスが違うんですね。大阪はどうなんですか?」
大阪は簡易宿所での生活保護が認められてないから、経営者たちが知恵を絞るわけ。サポート付きの簡易宿所にしたり、バックパッカーを迎え入れたりね。そういう努力するわけですよ」

「行政に頼れないから、自分たちで知恵を絞って頑張るしかない」

「そうそう。コロナでも一緒でしょ。東京都はお金があるから、ホームレスをどんどんホテルに入れる。ホームレスが増えたら社会問題になるから、東京はアパートを買い上げたりもする。大阪のドヤの経営者たちはなんとか経営を成り立たせないといけないから、宿泊者を確保するために高齢者や外国人を積極的に受け入れてきたんです」

「必要性に迫られた結果、大阪の西成が課題の集積地になっていったんですね」
「結果的にそうならざるをえなかった。なんだかんだ受け入れちゃうのは、大阪らしさかもしれませんね(笑)」

 

インバウンド観光の需要が高まった大阪。関西国際空港から約40分の距離にある「新今宮駅」周辺は、ダイナミックな経済変化にさらされた歴史もある。鏡に反射した「TWO天閣」は撮影スポット

 

流動性があるからこそ、町はいつだって面白い

「阿修羅さん。この町の魅力って、ズバリなんですか?」

「私は、いろんな面白い人が集まってくるから住み続けてますね。普通の町だったら興味はない。そりゃあ、怖い思いも嫌な思いもたくさんするけど、それ以上に面白いんですよ」

「面白い、がモチベーションなんだ!」
「私もこの町から仕事がなくなったときにちょっと離れたりするんだけど、よその町に行くと綺麗で、静かで、だけど退屈。この町にいると、ものすごい刺激があって面白いですから。それが、私がずっとこの町にいる理由ですね」

「同じように西成を面白がっている人って、阿修羅さんの周りにもいますか?」

「いっぱいいますよ。そういう人は住み続けるよね。面白い人がたくさんいるからって、西成に通ってる人もいますし。このまちの刺激に慣れちゃうと、他の町は退屈で仕方ないから(笑)

「とはいえ、『面白いから』だけで西成に住み続けるのも、これだけ歴史を掘るのもなかなかできないと思います」
「西成には、これからも行き場のない人たちが来れる町であり続けてほしいですね。綺麗な町っていうのは、ややこしい人を拒否するでしょ。入ってきてもすぐに排除する。あるいは入ってこさせない」

「身分証を持たない人が住むなんて、他の町ではなかなか許されないですよね」

「でも、このまちは身分証がなくても住めるわけ。そういう環境から育ってくる文化が、私は面白いと思ってるから。それをネタに映画を撮る人や、漫画を描く人もいるしね」

「西成の環境だからこそ育ってくる文化があるんですね」

「何度も言うけど、流動性がある町だから飽きないんですよ。新しい人が入ってこなくなったり、変化がなくなったりしたら面白くないと私は思う。ややこしい人が集まってくるっていうのは危険なこともあるけど、それがこの町の活気をつくってますから

「阿修羅さんは土地の面白がりの大先輩だった! ほかにも西成を面白がりながら取り組んでいるプレーヤーも大勢いますよね」

「もちろんです。今回話せたのは新たな場所づくりをしている梅原鎮宇さんNPO法人釜ヶ崎支援機構の小林大悟さんですかね

「二人の取り組みを聞けたことで、よりこの町の魅力とむずかしさが同時に伝わってきました(笑)」

 

これからの西成を盛り上げるキーマンとして名が挙がった梅原鎮宇さん。この町で生まれ育ち、西成のおっちゃんの哀愁のある背中を見て育っている

 

元・簡易宿泊所を改装した『コミュニティアパートメント ローレル』は、西成を面白がる若者たちが集まる

 

同じく梅原さんが仕掛けるオールインクルーシブ型住居「KAJA」。月10万円で家賃、光熱費、食費、Wi-Fiからサウナまで提供する。大反響であっという間に部屋が埋まったそう

 

「梅原くんは元気でいいよねぇ」

「20代の元気な若者が集まって、前向きな議論を重ねている空間が良い意味でイメージと違ってよかったです」

「約半分ずつの割合で、西成のおっちゃんと若者が同じ建物で暮らすコンセプトいいですよね。サザエさん的というか。看護師の女性がコミュニティアパートメントに住みながら、おっちゃんを見守ってるそうです」

「それも目の前にいたらほっとけないんでしょうねぇ(笑)」

「ただ西成全体を物見遊山的に散策するよりも、梅原さんの作った場所に飛び込んで話を聞くのは絶対楽しいだろうなぁ」

 

貧困と福祉が可視化されている西成の社会の役割

「この町に新しく入ってきた人って、どうやって人間関係を築いていくんですか?」

「仕事で知り合うこともあるし、友達をつくりたい人は路上に出ていけばなんぼでもおりますよ。だけど、人間関係を完全に遮断しても生きていける町でもあるんです。誰とも付き合わないでね。ひとりでいても、ほったらかしてくれるから」

「ひとりでいることも許容してくれる。大事な要素かもしれませんね」

「まぁ、新しく来た人を餌食にする人もいっぱいおるけどね。貧困ビジネスっていうかさ。ひとりでは生きてけんような人を見つけて、金を吸い上げようって人間はどこにでもおる」

「闇金ウシジマくんの世界……」

「ただ一方で、ひとりでは生きてけんような人を助けようとする支援者も多いからね、NPOとか教会なんかもあるし、いろんな支援者団体が入ってくる」

「山谷も福祉面から医療が発達したと聞きました。ドヤ街だからこその特性かもしれませんね」

「言い方が悪いけど、『誰かを助けたい』って思ってる人にとっても、ここはいい町なんですよ。貧困や労働環境の問題が目に見えやすいから」

「毎日、町を歩いているおっちゃんを見ていたらほっとけなくなりますもんね。人間同士の付き合いをしていたら、情も湧いてくるでしょうし」

 

今回のツアーでお話を聞いたNPO法人釜ヶ崎支援機構の小林大悟さん

 

「NPO法人に務めている小林大悟さんにも話を聞いたんですが、『なんでも相談できる場所』として町に向き合っていて、日々の難しさの中から幸せを見出すようなアツい人でした」

「引きこもりだった子どもに対して『何もしなくていいから、ここにいていいんだよ』と適度な距離で接し続けたら、どんどん笑顔が増えていった話とかグッときましたね…」

「そうなんです。いろんなややこしい人がいて、いろんな支援団体がある。対立もあるんだけど、それを恐れなければお互いにとってのプラスを生み出せるんですよ」

「僕も貧困家庭で育った経験があるので、困ったときに支援団体側が可視化されているのも大事だなと思いました。お互いに”見えている”のが西成なんだなぁ」

「そう考えると、なるべくいろんなグループがあったほうがいいと思ってます。全部がひとつになっちゃうと大変ですよね。合意を得るのに時間がかかったり、融通がきかなくなったりするから」

「みんなが窮屈にならないためには、ひとつにならないほうがいい。それって、西成の在り方を象徴するような考え方かもしれないですね」

 

「また会いましょう」と固い約束を交わした取材チーム

 

ややこしい町だからこそ、再チャレンジできる

「日雇い労働者であるという誇りを持ってる人は、どこの国の人であろうと助けるって姿勢はあります。差別する人もいるけど、助ける人もいるっていうのが、このまちのすごさですよ。一緒に働いてるという仲間意識が生まれるからね」(阿修羅さん)

 

「西成は『再チャレンジできるまち』というビジョンを掲げていますよね」

「それには大賛成ですね。この町に入ってきて、仕事をして、元気をつけて出ていく。そういう人は、実際に多いですよ」

「すごい!どういうことがきっかけで元気になっていくんです?」

「折り合いのつけ方って、人それぞれ違うじゃないですか。それが上手い人は、どの町でもやっていける。西成には折り合いのつけ方が下手な人が集まってきます。そういう人が、いろんな支援者の力を借りながら他者と共存できるようになっていくんですよ」

「誰にでも仕事と住める場所が用意されていて、支援者をはじめとする他者との関わりによって、新たな経験や考え方を身につけていく。そういう暮らしのなかで、自分の生き方を見直して、元気になって再チャレンジに向かっていくと」

「そうですね。今、サポーティブハウスに来るのは、何らかの精神的障害を抱えてる若い人が多いですよ。ただ、この町の人たちは特別扱いもしません」

「それはなぜ?」

「だって、人間誰しも欠点なり弱点を持ってるじゃないですか。それを隠して、欠点のない人間であるかのように振る舞わなきゃいけないのって、すごくプレッシャーですよね。でも、このまちだったら自分の欠点や弱点を晒してても問題ありません」

「すべてをさらけ出せる町……」
「まぁ、そういう環境に甘えちゃう人もいるんですけどね。それも含めて、いい町だと私は思ってます。だから、若い人がこの町に来ると解放されるっていうのは、そういう縛りがないからなのかもしれないですね」

「現代はSNSの普及で何かを演じなくちゃいけないプレッシャーがあるもんなぁ」

 

「西成はややこしい人との付き合い方や、共存の仕方をどこよりも学べる場所なんです」

 

「阿修羅さんの金言が出た…!」

「ややこしい人を排除した町では学べないわけですよ。人間関係の下手な人たちが共存してるっていう事実を見にくるだけでも、いい経験になりますよ。その視点を外にアピールしてもいいんじゃないかと私はそう思ってますね」

「でも、住んでいる方々は興味本位で訪れる人をよく思わないですよね」

「当然、そういう人はいます。『何しに来たんや!』とか怒鳴る人もいますしね。でも、そういうことを言われるのも含めて体験しに来てもらったらいいと思います(笑)」

「なるほど(笑)。確かに、普段そういうことを言われる経験はないですもんね」

「なんにせよ、西成は人間らしさが溢れるまちだと思います。ほなまたね」

 

「来たらだいたい、なんとかなる」

 

阿修羅さんと過ごした半日の濃密な時間は、今の日本にこそ足りない寛容さを伝えてくれるようでした。人間だからこそ、ややこしいこともある。その前提のなかでいかに関係性を築いていくのか? 昭和から続く少し古い価値観かもしれませんが、この片鱗に触れることで自分の生き方を省みることができるかもしれません。

 

西成に興味が湧いた人は、行政のサイトとは思えないほどかっこいい『新今宮ワンダーランド』をぜひチェックしてみてください。まだまだ怖いイメージがある人は、今回ジモコロ用に整理した「西成の歩き方」を参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

●もっと西成を知りたい方はこちらをどうぞ

https://shin-imamiya-osaka.com

 

撮影:小林直博

 

☆記事最後の画像ギャラリーに「西成の歩き方 8箇条」も掲載しています

(現地を訪れる際は新型コロナウイルスの感染対策に十分ご留意ください)

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この記事を書いた人

阿部光平
阿部光平

編集・ライター・2児の父。5大陸を巡り、旅行誌やタウン誌をメインに仕事をしてます。地元・函館と東京を行き来しながら『IN&OUT-ハコダテとヒト-』というローカルメディアを運営。webで文章を書いたりもしています。

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