近所のTSUTAYAありがとう。あの頃の僕らはレンタルショップでカルチャーと出会った

2019.04.11

近所のTSUTAYAありがとう。あの頃の僕らはレンタルショップでカルチャーと出会った

代官山蔦屋書店の意思を受け継ぐ書店を全国展開するための1号店として、2013年にオープンした函館蔦屋書店。「地方都市に文化の樹を植える」というテーマを掲げ、本やCDが売れない時代に独自のスタンスで売り上げを伸ばし続ける同店のストアマネージャーにお話を伺いました。

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    1983年に1号店となる『蔦屋書店 枚方店』がオープンして以降、全国に1000を超える店舗を展開しているTSUTAYA。

    地元のTSUTAYAで新しいカルチャーに触れ、自分の興味を広げたり深めていったという人も多いのではないでしょうか?

    筆者も未知との出会いを求めてTSUTAYAへ出かけ、なけなしのお金でCDやDVDをレンタルするといった青春時代を過ごしてきた人間のひとりです。

     

    1号店のオープンから約30年。

     

    2011年にオープンした代官山蔦屋書店は、「本、映画、音楽を通してライフスタイルを提案すること」という創業当時の想いを引き継ぐために漢字表記の店舗名が採用された

     

    2011年には〝プレミアムエイジへの生活提案の場〟という新たなコンセプトを掲げる代官山蔦屋書店が誕生しました。

     

    その背景には「あの頃、蔦屋書店に訪れていた人たちは、今でも本を手にしているだろうか。映画を堪能し、音楽に耳を傾けているだろうか」という想いがあったといいます。

     

    以降、蔦屋書店は「地方都市に文化の樹を植える」というテーマを掲げ、全国展開を目指しています。

     

    函館出身のアーティストはGLAY、YUKI、MACOなどがいる

     

    代官山蔦屋書店の意思を受け継ぐ蔦屋書店、全国展開の1店舗目を作る場所として選ばれたのは北海道の函館市でした。

    約2300坪という広大な敷地には、本やCDだけでなく、雑貨や洋服、おもちゃまで様々な商品が並んでいます。

     

    本やCDが売れないといわれる時代にあって、売り上げを伸ばし続けているという函館蔦屋書店。そこには書店とは思えないような独自の価値観がありました。

     

    1Fは本だけでなくコスメ、雑貨、アパレル、児童玩具など、好奇心を満たすラインナップ

     

    2Fは音楽・映像コーナー中心に勉強・食事・休憩できるカフェコーナーが充実

    ーー

     

    ネットで買い物をする人が増えている時代における実店舗の強みとは何なのか?

    そして、地方都市にカルチャーコンプレックス(文化的複合施設)を作る目的とは?

     

    写真左から阿部、山本さん、柿次郎

     

    立ち上げ当初から函館蔦屋書店と共に歩んできたストアマネージャーの山本大輔さんに、函館出身のライター・阿部光平と、〝近所にTSUTAYAがあるかどうかで人生観変わってる説〟を唱え、「感謝の気持ちを伝えたい」と熱く語るジモコロ編集長の柿次郎がお話を伺いました。

     

    ●登場人物一覧

    大阪府出身。1982年生まれ。ジモコロ編集長。大阪で過ごした10代は、自転車で15分の距離にある「TSUTAYA新大阪店」の常連だった。そこで出会った音楽カルチャーの影響でライターを目指す。本記事の企画・編集を担当。

    北海道出身。1981年生まれ。旅行誌やタウン誌をメインに仕事をしつつ、地元・函館と東京を行き来しながら『IN&OUT-ハコダテとヒト-』というローカルメディアを運営。本記事のインタビュー・執筆を担当。

    函館蔦屋書店株式会社 取締役/ストアマネージャー。2013年12月5日の函館蔦屋書店オープン当初から店舗運営に携わる。「文化の樹」を地方都市に1本ずつ植えようと奮闘中。

    近所にTSUTAYAがあるかどうかで人生観が変わる説

    「今日はTSUTAYAへの感謝の気持ちを伝えに、東京から函館までやってきました」

    「え、そのためにわざわざ?」

    「僕は新大阪の近くで育ったんですけど、自転車で15分の場所にTSUTAYAがあったんですよ。小学生のときにそこでhideのアルバム『HIDE YOUR FACE』ってアルバムの初回限定版を買ったり、モンゴル800のアルバム『Message』を買ったりしていて。音楽の出会いは完全にTSUTAYAでした」

    「そうだったんですね。ありがとうございます!」

    「レンタルって、あまりお金がかからないじゃないですか。当時はお金がなかったんですけど、メシを食わずにCDを借りたりしてて。累計1000枚くらい借りてるかもしれません」

    「わかるなぁ。ご飯食べるよりも、本とかCDとかにお金使っちゃう感じ」

     

    「そうそう。僕はヒップホップ(日本語ラップ中心)が超好きなんですけど、ヒップホップと出会ったのも新大阪のTSUTAYAだったんです。ヒップホップやラウド、ミクスチャーのコーナーができて、そこで目についたもの全部ジャケ借りし続けてました」

    「そんな熱心に…!」

    「ただ、TSUTAYAの新大阪店だけでは満足できなくなって、通える範囲の店舗を月イチで漁っていました。当時は会員カードがお店毎だったので、財布に6枚くらいカード詰め込んでいて…

    「いま考えたらありえない財布だ。それって品揃え違うんですか?」

    「それが地味に違うんですよ(笑)! 月に一回くらいチャリで全店舗を回って、まだ見ぬ日本語ラップの新譜を探し続けてました。お金がなかったので…。だから、僕のカルチャーの根っこは全部TSUTAYAで形成されたと言っても過言じゃない」

    「嬉しいエピソードですね」

    「だけど、同年代で別の地方出身の友達と喋ってると、カルチャーの土壌が全然違ってて。自然に近い環境だとTSUTAYAのような場所がなくて、親が好きだった音楽が入り口になってたりしてるんです。その差異って面白いなぁと」

    「自主的に新しい音楽と出会える場がなかったから」

    「かもしれないですね。だから僕たちと同じ30代くらいの人は、〝近所にTSUTAYAがあるかどうかで人生観変わってる説〟があると思ってます! どうですか、山本さん!?」

     

    「あると思います」

     

    「あった〜〜〜!」

    いや、すみません。あると嬉しいなという話です(笑)。元々TSUTAYAは1983年に大阪の枚方で誕生したお店で、『本、映画、音楽を通してライフスタイルを提案すること』を目標に掲げていたんです」

    「まさに柿さんが通ってきた道じゃないですか! TSUTAYAの申し子だ」

    「名刺にTSUTAYAの申し子って肩書き入れようかな。めちゃめちゃTSUTAYAをあげる発言で恐縮ですが、TSUTAYAのおかげで今の仕事に繋がってますし。もしTSUTAYAがなかったら、もっとロクでもない人生を送っていたかもしれません」

    「全国にTSUTAYA含めて、カルチャーに救われた若者はたくさんいますよね」
    「TSUTAYAでヒップホップのCDを借りて、早朝の新聞配達中に聴き込む。そのレビューを自分のHPに載せる活動をしていたんです。ある日、雑誌『ミュージック・マガジン』の編集長だった高橋修さんから、『ディスクレビューを書かないですか?』ってメールをもらって。そのときに初めて夢ができて、いつか音楽ライターになろうと思ったんですよ」

    「いや〜、改めて嬉しいお話ですね! アルバイトの方も元々TSUTAYA好きの人からの応募も多いので、長い歴史の中で影響を与えられているのかもしれません」

    近所のTSUTAYA、マジでありがとう。最近地元の新大阪に立ち寄ったら、お世話になった店舗が閉店していて…弔いになりました。最近、TSUTAYAの閉店ニュースも目にしたので全国に同志がたくさんいると思います。僕の伝えたいことは以上です…!」

     

    ネットショップ全盛の時代における実店舗の強みとは?

    「日本各地の蔦屋書店に何箇所か行ったことがあるんですけど、その中でも函館蔦屋書店って圧倒的に広いですよね」

    「そうですね。ひとフロアの大きさとしては函館蔦屋書店が一番広いです」

    「本やCDの商品数もすごいですけど、出版不況とか、CDが売れない時代といわれている中で、これだけの規模の書店を運営するのって大変ですよね」

    「雑誌も小説も電子書籍化されてるし、音楽の配信サービスとかも増えてますもんね」

    「そうそう。しかも、函館蔦屋書店って、みんなけっこうゆっくり過ごしてるじゃないですか。ただ単に本を買いに来るというよりも、おしゃべりしながらコーヒー飲んでいたり、仕事や勉強をしたりしてる人が多い印象なんですけど。その…たまに『お店として大丈夫なのかな?』と思うことがあって(笑)」

    「『ちゃんと売れてるのか?』ってことですよね(笑)。実はそういう質問はよくいただくんです。2013年にオープンして以来、本もCDもずっと売れ続けていて、お陰様で売り上げは右肩上がりなんですよ!

    「そうなんですね。すごい!」

     

    「今は本でもCDでも、欲しいものはネットで買える時代じゃないですか。だから、私たちは商品をいかに買ってもらうかよりも、まずはお店に来てもらう。ゆっくりコーヒーを飲んでもらったり、文具や雑貨を手にとって試してもらったり、勉強や仕事で使ってもらうということを大事にしています」

    「時代の大きな変化ですね。それは利用させてもらう側からするとありがいことですけど、本は買わなくても読み放題だし、変な話、1円も使わなくても楽しめる場所じゃないですか?」

    そうですね。1日中無料でいられると思います

    「それでも売り上げは右肩上がりなんですか」

    「函館蔦屋書店のコンセプトはコミュニティなんです」

    「コミュニティ?」

    「簡単にいうと、人と人を繋げて来てもらうってことを大事にしているんです。例えば、うちでは親子で参加できるクラフト工芸や料理教室など、月に100以上のイベントを開催しています」

    「月に100以上!やりすぎ!」

    「平均して1日に3つ以上もイベントをやってるんですね。それって、施設利用料をもらって、場所を貸してるってことですか?」

    「いえ、基本的には無料で場所をお貸しして、ワークショップなどを行ってもらっているという感じですね」

    「ということは、イベント自体は直接お店の売り上げに繋がるわけじゃないってことですよね?」

    「そうですね。場所を提供して、どうぞ、どうぞってことですから。だけど、買い物に来たお客様が、店内で行われているイベントを見て、興味を持ってくれたら、また来てくれるきっかけになるじゃないですか。そうやって人と人や、人と文化が接点を持ってもらえることを一番大切にしているんです」

     

    取材中に目を惹いた洋楽のコーナー。この棚から新たな出会いが…!

     

    「その中から1人でも2人でも興味を持ってもらって、また来ていただくきっかけになればいい。最終的には、いつ来ても『何か面白いことやってるぞ』って思っていただけるような場所を目指しています

    「文化的な取り組みだ。お店に足を運んでもらうことに価値を見出しているということなんですね」

    「はい。ネットでの買い物ではもちろん、他の書店さんにもないことだと思うので差別化にもなるかなと。お客様に来ていただいて何か買っていただきたいというのは当然あります。だけど、買い物が目的ではなくても、来ていただければ絶対にチャンスはあると思うので」

    「ネットは欲しいものに最短距離で辿り着くことができるけど、実店舗ならではの楽しさって予期せぬ出会いだったりしますもんね」

    「そうですね。函館蔦屋書店は、お客様が〝新しい好き〟と出会える場所でありたいなと思っています」

     

    地方都市に〝文化の樹〟を植える

    「函館蔦屋書店は、代官山蔦屋書店の意思を受け継いで蔦屋書店を全国展開していくための1号店としてオープンしたとのことですが、コミュニティというコンセプトは代官山も一緒なんですか?」

    「そこは少し違っていて。代官山でもイベントは行っているんですけど、どちらかというと大人向けの企画が多いんです」

    「確かにそういう印象があります。来ているお客さんも、文化度が高い人が多いイメージですね」

    「そうですね。函館蔦屋書店は、そもそもターゲットが違っていて、親子3世代で来てもらえる店作りを心掛けているんです。だから、全国の蔦屋書店の中では唯一ゲームやトレカを取り扱っています」

    「ほおお。言われてみれば、函館蔦屋書店には子どもが遊ぶキッズパークもありますが、代官山蔦屋書店にそういうスペースはないですよね」

     

    蔦屋書店を全国展開させるというプロジェクトは、日本の地方都市に〝文化の樹〟を1本ずつ丁寧に植えていこうという活動なんです

    だけど、地方でカルチャーコンプレックス(文化的複合施設)を作るとなったときに、コンセプトや品揃えが尖りすぎちゃうと、みんなに愛される場所にはならないんです。代官山蔦屋書店と同じことやっても、『品揃え悪いね』で終わってしまう」

    「なるほど」

    「もし、お父さんが蔦屋書店に行きたいと思っても、お母さんやお子さんが嫌だって言ったら、『じゃあ、別の場所に行こう』ってことになるじゃないですか。だから、函館蔦屋書店は親子3世代みんなで楽しんでもらえる場所にしたいんです。

    おじいちゃんが来てもゆっくりしてもらえて、お父さんお母さんは買い物を楽しんでもらえて、子どもはキッズパークで遊んでみたいな。そういう風景こそが、最初から目指している姿なんですよね」

     

    「蔦屋書店を全国展開させるというのは、紋切り型のチェーン店を作るという意味ではなく、それぞれの地域の人が集まって、その街だけの風景として成立することが大事だと思うんです」

    「その街だけの風景かぁ」

    「函館蔦屋書店は函館蔦屋書店の風景。他の街の蔦屋書店は、その街の蔦屋書店の風景になるというのが、文化の樹を植えるということだと考えています」

    「文化の樹。品揃えでオリジナリティを形成するのではなく、地域の人が集まっている風景こそがオリジナリティになり、独自の文化が育まれていくってことなんですね」

     

    函館蔦屋書店が最も大切にする〝提案〟という姿勢

    「コンセプトや品揃えは違うとなると、代官山蔦屋書店から引き継いだエッセンスというのは、どのような部分になるのでしょう?」

    「それは〝提案〟という部分ですね」

    「提案」

    「はい。お客様に、今まで知らなかったものを知ってもらう。そういう部分は、代官山蔦屋書店から引き継いだ部分で、一番大事にしているところでもあります」

    「〝未知と出会う場所〟みたいな」

    「そうですね。函館蔦屋書店には文学やアート、音楽など、各ジャンルに精通したコンシェルジュが在籍していて、お客様の相談に対応しています」

    「『泣ける本が読みたい』とか、『夏っぽい音楽はないですか?』というようなリクエストに応じて、商品を紹介してくれるってことですか?」

    「もちろんそういう対応もしていますが、立ち位置としてはもっとお客様に近い関係ですね。お客様の中には仲の良い友達を訪ねるように、フラッと話をしに来てくださる方もいます。『この前の本が良かったから、今度はこういうのを読んでみたいんだけど』というような」

    「関係性が深まっていくことで、より個人の好みに合ったものを紹介できるようになっていくってことかぁ。そこは、小さいお店における店員さんとお客さんみたいな関係に近いですね」

     

    思わず手に取りたくなる本との出会いがあるのはリアル書店の強み

     

    「各コンシェルジュは、独自の提案コーナーを作ったりもしています。例えば、CDのコーナーだと、うちはあまり新譜を推していないんです。CDが売れない時代に新譜頼りになると、苦しくなっていくことは目に見えているので」

    「かっこいい姿勢…!」

    「そういうこともあって、CDのコンシェルジュは旧譜の名盤を集めたコーナーを作って、『新しくなくても良いものってあるよね』といった提案をしています」

    「最も目立つ場所に新譜が並ぶ一般的なCDショップとは、商品の推し方が違うんですね。お店としての主張が込められてるというか」

    「そうですね。そういう提案を受け入れていただいているお陰で、市況は下がり続ける中でも、うちはCDの売り上げも伸びています」

    「カルチャーを伝えつつも、ビジネスとして成り立ってるっていうのはすごい。噂で聞いたんですが、函館蔦屋書店がオープンしてから周辺地域の地価が上昇してるとか…?」

    「因果関係はわかりませんが、実際に地価が上昇しているのは事実です。地方に文化の樹を植えて、町が元気になればこの上ない喜びですね」

     

    価値観が多様化する時代における書店の存在意義

    「地方都市に文化の樹を植える」

    この壮大なコンセプトを聞いたとき、「大きな書店を作ることが、街に文化の樹を植えることになるのだろうか?」と疑問に思いました。

    しかし、山本さんの話を聞いていく中で、函館蔦屋書店が作ろうとしているのが巨大な書店ではなく、函館の人が集まる風景だと聞いて、ようやくコンセプトを理解できた気がします。

     

    価値観が多様化し、ヒットが生まれにくくなったといわれる現代。そういう世の中で買う物を選ぶ基準は、気の合う友人やセンスを信頼している人のオススメだったりします。

    函館蔦屋書店が目指すコミュニティとは、友人のような距離感で「新しい好き」を提案してくれる関係性のことなのかもしれません。

     

    一方で、人生を変えるカルチャーというのは人から与えられるものではなく、最終的には自ら見つけ出すものなのではないかとも思います。

    そのための入り口としても、函館蔦屋書店は多くの人を迎え入れる役割を果たしているのではないでしょうか。

    未知との出会いに溢れ、迷った時には相談に乗ってくれる相手がおり、最後は自分で好きを突き詰められる。

    そんな書店がある街には、きっと様々な文化が花開いていくことでしょう。

     

     

    全国の同志の皆さん。ハッシュタグ「#近所のTSUTAYAに感謝」で思い出を振り返ってみませんか? 

     

    写真=小林直博

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    阿部光平
    阿部光平

    編集・ライター・2児の父。5大陸を巡り、旅行誌やタウン誌をメインに仕事をしてます。地元・函館と東京を行き来しながら『IN&OUT-ハコダテとヒト-』というローカルメディアを運営。webで文章を書いたりもしています。

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