おさかなアメリカンドリーム! NYの「魚食文化」に一石を投じた日本人の話

2018.07.27

おさかなアメリカンドリーム! NYの「魚食文化」に一石を投じた日本人の話

魚の生食文化が根づいていないアメリカで魚屋を営む日本人がいました。日本人だから気づいた「アメリカ鮮魚市場の3つの弱点」って何?

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    ジモコロ読者のみなさま、はじめまして! ライターの山口祐加です。

    好きなことは「料理」と「食べ歩き」。

    暇さえあれば食べることばかり考えている、生粋の食いしん坊です。

     

    さて突然ですが、私アメリカのニューヨークに来ております!!!

    なぜニューヨークなのか。話は5年前に遡ります。

    ちょうどそのころ、私はニューヨークに半年間滞在していたのですが、困っていたことがひとつありました。

     

    それは魚屋で刺身が売っていないこと。

     

    刺身を大好きな私にとって、食卓に生魚のない生活はとてもつらいものでした。

    しかしいざ魚屋に向かうと、刺身にできそうなほど新鮮な魚がたくさん売っています
    なのに、お店の人に聞くと「生食はダメ」

     

    こんなにピチピチしてるのに、なぜ????

    その謎は解けないまま時は経ち、この2018年。

    私は「アメリカで獲れた生食ができる魚を取り扱う日本人経営のお店があるらしい」という噂を耳にしました。

     

    これはすぐに話を聞きに(食べに)行かなければ! と思い立ちいざニューヨークへ。

     

    ここがニューヨーク・ブルックリンの大通り沿いに面している噂の魚屋「OSAKANA」。

    ここ、本当に魚屋??

     

    外観がイメージと違いすぎて、危うく通り過ぎるところでした。不安になりながら、お店に入ると…

     

    新鮮なお魚が!!!

     

    手前は刺身用の魚で奥は下味のついた調理用の魚。このほとんどがアメリカ東海岸で獲れたものなのだそうです。

    ちょっとだけ味見をさせてもらったのですが、身がプリプリでなんとおいしいこと……。

    オシャレな内装に、新鮮なお刺身。なんと素晴らしいお店なのでしょうか!5年前の私に教えてあげたい!

     

    こんなイケてる魚屋を営んでいるのは日本人の原口雄次さん。なんと原口さん、ニューヨークに店舗を構えるラーメン屋のオーナーでもあるのだとか。

     

    こちらがそのラーメン。

     

    スマホ画面の中に箸を突っ込みたいくらい、おいしそう…。

    しかし、気になることが多すぎます。

     

    どうしてニューヨークで魚屋とラーメン屋を?

    そもそもどうしてアメリカの魚は生食できないの?

     

    ということで、原口さんにお話を伺ってきました。アメリカと魚の不思議、解き明かしますよ〜〜〜!

     

    魚の目利き。それがアメリカにはない。

    「こんにちは、原口さん今日はよろしくお願いします。ズバリお伺いしたいのですが、どうしてアメリカは生食用の魚が売っていないのでしょうか?

     

    「アメリカで生食できる魚は魚屋にたくさん売っていますよ」

     

    「あれ……??」

     

    「でも『生食できます』と断言してくれる魚屋はほとんどないと思います。なぜならば、魚屋側に生食できるかどうかを判断する目利きがないからです」

    「生食できるけど、生食用ではない…?」

    「はい。つまり魚は生食できるほど新鮮でも、目利きができず、生食用の扱い方もわからない。お店の人が生で食べたことがないのに、お客さんに勧められなくて当然ですよね。だから結果的に『生食できない』という結論に至ります」

    「なるほど…。 目利きって具体的にはどういうことなんですか?」

    「そもそもどの魚が生食できるのか、寄生虫対象か否かなどですね。それから生食するのであれば、内臓の処理をきちんと行い、生食用のさばき方をしなくてはなりません。アメリカの魚屋はその技術がないところがほとんどなんですよ」

    「日本の魚屋は生食用の魚があって当たり前ですが、生食文化がないアメリカでは仕方ないのかもしれませんね……」

     

    20代、初めて作ったパスタが料理人への道を開いた

    「そもそも、なぜアメリカで魚屋とラーメン屋を?」

    「もともとは料理人になりたいと思っていて」

    「料理が先だったんですね。じゃあ昔から料理に思い入れが……」

    「いや、料理に興味を持ったのは20代前半の頃なんです」

    「あれ、意外と遅い…」

    「そのときに人生でほぼ初めて作ったパスタを妹に振る舞ったんです。そうしたらおいしいと言ってもらえて

    「ほうほう、いいお話ですね」

     

    それで料理の才能があると確信しました」

     

    「……え???」

    「いや、思い込みが激しいタイプなんです」

    「な、なるほど…(そういうレベルじゃないような…)。でも、かなり凝ったものを作ったんですよね……?」

    「バター、醤油、ベーコンのシンプルなパスタです。絶対失敗しない組み合わせでした」

    「めっちゃシンプルだった!」

    「はい。それ以来ずっと毎晩家で料理を作り、週末は外に食べに出かける生活を繰り返して、料理の道に進んで行きました。そして大学時代にアメリカで3年間過ごしたこともあり、アメリカでレストランを開きたいという夢を持ったんです」

     

    日本人だから気づいた「アメリカ鮮魚市場の3つの弱点」

    「それでアメリカに来られたのですね」

    「はい。アメリカでは料理店ではなく、魚に関わる仕事についたのですが、その中で僕はアメリカの鮮魚市場における3つの弱点に気づきました」

     

    「アメリカ産の新鮮な魚があるにも関わらず、そのおいしさも知られていないし、このままだと知られることはないと」

    「はい。アメリカの人にアメリカの魚のおいしさを知ってもらいたいと思うようになったんです。そしてお客さんと直接関われる飲食店として、ラーメン屋『YUJI RAMEN』を始めることにしました」

    「魚がきっかけで、ついにお店を始めることに!」

    「はい。僕は日本人なので、料理店を始めると同時に日本食を提供しながらアメリカの鮮魚市場をもっと良くする方法はないかと考えたんです」

     

    30歳までラーメンを食べたことがなかったラーメン屋オーナー

    「魚で日本食と言えば真っ先に寿司が思いつきますが、どうしてラーメンだったのでしょうか?」

    「最初からラーメンをやろうとは思っていませんでした。実は僕、30歳までラーメンを食べたことがなかったんです。」

    「え!? そんなことありますか??? 男子高校生とか異常にラーメン好きじゃないですか」

    「ラーメンを食べるなら焼きそばがいいと思っていました。興味がなかったんです」

    「ではなぜラーメン屋を?」

    「当時、日本では油そばなどの汁なしそばが流行っていたんです。これならゆっくり食事をするアメリカ人でも麺が伸びないうちに食べられるし、パスタのようにフォークでも食べられるのが良いなと思いました」

    「なるほど〜」

     

    「そしてタレには魚のアラを使ったら面白いなと。レストランで捨てられてしまうものをあえて使うことで、日本らしい『もったいない』の精神がアメリカで伝えられると思ったんです」

    「先ほどの弱点3つ目の『食品ロス』につながるのですね」

    「はい。開発した汁なし麺は『ブロスレスラーメン(汁なしラーメン)』と名付けました。最初は会社勤めをしながら、バーを間借りしてYUJI RAMENの営業をはじめました」

     


    「ついにお店が開かれたんですね!」

    「はい。すると『ブロスレスラーメン』というワードがメディアにウケて、お客さんがひっきりなしに来るようになったんです。お客さんの後押しもあり、僕は会社を辞めてラーメン屋に専念しました」

    「なんと…お店一本で食べられるように!」

    「その後もイベントに出店したり、アメリカの大手オーガニックスーパーに店舗を出したりと、少しずつ認知度を高めていきました」

    「おおー! ひとつのお店だけでなく、展開を広めていったと」

    「そんな中で、路面店を出すためにキックスターター(世界最大のクラウドファンディング)で開業資金集めも挑戦したんです。そうしたら、なんと3000ドルの目標が12,000ドルも集まって。後で聞いたら、僕がキックスターターで日本人初の目標金額達成者だったらしいです」

     

    「ええ!!すごい話ですね」

    「僕も本当に驚きましたよ。そこで集まった資金を使い、2012年にブルックリンで路面店をオープンしました」

    「すごいトントン拍子に話が進んでいく…これがアメリカン・ドリームなのか!」

    朝・昼は定食屋、夜はラーメン屋に変わるお店

    「さて、僕たちの事業コンセプトは『Honor your fish―お魚を大切に』なので、魚を丸ごと使い切ることを大切にしています。ラーメンで魚のアラを使うのであれば『魚の身』を売らなくてはならないですよね」

    「たしかに」

    「そこで始めたのが、アメリカ東海岸で獲れた魚だけを出す一汁三菜の定食屋『OKONOMI』です。同じ店舗で、朝・昼は定食屋、夜はラーメン屋として営業するようになりました」

    「魚も店も無駄なく丸ごと使っていてすごい。あれ、でも魚屋はどこで…?」

    「定食屋のお客さんから『この魚はどこで買えるの?』と聞かれるようになったんです。そこで自分たちの店で使っている魚を売り、同時に魚料理の楽しさを伝える料理教室を行う魚屋『OSAKANA』を開きました」

     

    「先ほどの弱点2つ目の『魚の目利き・捌き方』を学べる場所を作ったと。緻密に戦略されていますね……!」

     

    「魚」にこだわり続ける理由

    「今年の5月には『OKOZUSHI』というカジュアル寿司屋をブルックリンでオープンしたんですよ。『一人50ドル以下で気楽に食べられる寿司屋』をコンセプトに、箱寿司と手まり寿司に特化したお店にしました」

    「お寿司屋さんまで…。でもニューヨークに何店舗も店を開くことができるのには理由があるのでしょうか?」

    ニューヨークは、新しい価値観を積極的に受け入れようとする人が多い気がします。街全体としてチャレンジャーを支援する気風がある。だから僕の出したお店がこの街にとって、新しいものだったことも大きいでしょうね」

    「固定概念を持たず、新しいものを育てるという文化がある。そこに原口さんのお店がウケたと」

    「全くその通りです。競争は激しいけれど、ニューヨークはお客さんが本当にいいと思ったものに対してついてきてくれる。だからこそ、ここでお店をやることに価値があると思っています」

    「なるほど…激しい競争の中で残ったお店という価値なんですね」

    「はい。ちなみに、日本にも出店していますよ! 去年、新横浜の『ラーメン博物館』内に出店し、今年は京都で定食屋『Lorimer Kyoto』をオープン、夏には清澄白河にラーメン屋の路面店もできる予定です」

    「日本にも?! でも全てお魚に関連するお店なのには、何か理由があるんでしょうか?」

    「僕は魚の目利きと捌きができて、アメリカではそれができる人が少ない。そしてその技術を欲している人がいるなら、自分にできることをやる。仕事を通じて人に喜ばれるのってうれしいじゃないですか。僕にとってそれがたまたま魚だったというだけです」

    「なるほど〜〜アメリカで魚食で成功して、逆輸入されたのが面白いです」

    世界で日本人が活躍できる産業は飲食業だと思います。世界中で和食の認知度が上がっているので、和食を食べたい、勉強したいという人が増えているんです。だから和食を作れる日本人が世界に出て行ったら、すぐ活躍できるはず。包丁とまな板さえあれば誰でも夢が切り開けますから、海外の和食の展望は本当に明るいですよ」

     

    おわりに

    原口さんはアメリカで働く中で、現地の鮮魚市場の弱点に気づき、お店を始めました。

    「もったいない」をコンセプトに、魚を丸ごと使った料理を提供し、魚の目利きと捌き方を教える。店舗を使って、多くの人に魚食文化を一歩ずつ広めています。

     

    「初めて作ったパスタがおいしかった」という理由で、日米で6店舗も経営する未来が待っているとは、原口さん自身も想像できなかったことでしょう。

     

    大切なのは、行動力と次を見る力。

    世界に目を向けると、和食の未来は明るいと本当に感じました。

     

    さて、そろそろお腹が空いてきませんか…?

     

    こちらはYUJI RAMENの二大人気メニュー・マグロのアラで出汁をとった、とんこつならぬツナコツラーメン(写真手前)と、卵とベーコンのまぜ麺(写真奥)。

     

    待てないので、早速いただきます!!

     

    魚とは思えないほど濃厚な味で、とっっっってもおいしい……!

    細麺で飲み物のようにスルスルと身体に入っていく……! マグロの炙りチャーシュー、至高のおいしさ……!

    取材後のラーメンは最高のご馳走でした。

    それではまた!

     

    写真:久保田惟

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    山口祐加
    山口祐加

    フードプランナー、ライター。1992年東京生まれ、慶應義塾大学総合政策学部卒業。両親共働きで、母親に「ゆかが料理を作らないと晩御飯ないよ」と笑顔でおどされ、7歳のときに料理に目覚めました。料理と外食(2017年は新規220軒)と旅が好きです。

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