突然ですがみなさん、夏といえばなんでしょう。夏と聞いてイメージするもの。
海……花火……かき氷……
そして……
夏フェスです。夏フェス。
今年もフェスの季節がやってきました。一年中、国内どこかしらで開催されている野外音楽フェスですが、やっぱり初夏から秋は気候が良くてフェス日和……。
申し遅れました、鈴木梢と申します。
国内の野外音楽フェスに年間10ヵ所前後、趣味で参加しています。
フジロック、ロック・イン・ジャパン、サマーソニック、ライジングサン……日本4大フェスと呼ばれる夏フェスたちが、いずれも初開催から20年以上。
今や全国各地でさまざまな音楽フェスが開催されています。
私もなんとなくフェスにいろいろ行ってきたけど、まだまだフェスに関して知らないことが多すぎる!
フェスってどう楽しめばいいの? 初心者を誘うコツは?
そもそも、日本初の大型野外フェスと呼ばれるフジロックはなんで開催されたんだ?
その前にフェス的なものはなかったの?
……ということで今回は、フェスに詳しい人物に話を聞くことにしました。
カウンターカルチャーマガジン『DEAL』の編集長で、日本ミュージックフェスティバル協会の会長も務める菊地崇(きくち・たかし)さん。
年間20ヵ所以上ものフェスに参加し続けており、初回のフジロックにも参加したそう。業界では“フェスおじさん”とも呼ばれ、いわば日本のフェスの生き字引ともいえる方です。
フェスシーズンのピークを迎える前に、フェスの楽しみ方と歴史を教えてもらいます!
フェスってどう楽しめばいいの?
「今日はよろしくお願いします! ところで菊地さんって、なんで“フェスおじさん”って呼ばれてるんですか……?」
「昔、ある対談記事に出ることになったときに『菊地さんの紹介は“フェスおじさん”でいいですか?』って言われて。確かにフェスには昔からよく行ってるし、その前はジャムおじさんって言われていたんだけど」
「ジャムおじさん……?」
「『JAM BAND』って音楽シーンが好きで、よく取材してたから」
「(アンパンマンじゃなかった)」
「恥ずかしいんだけどさ、それからずっと楽だから名乗ってるんだよね。菊地って名乗るより“フェスおじさん”のほうが忘れられないし」
「フェスおじさんって名乗ってるからにはフェスにめちゃくちゃ詳しいと思うんで、今日はいろいろ聞かせてください!」
「あんまり偉そうなことは言いたくないんだよな……」
「まあそう言わず……。そもそもなんですけど、初めてフェスに行く人って、『どう楽しんだらいいかわからない』みたいな感覚あるんじゃないかと思ってるんです」
「あるよね。それこそ特定のアーティストを目的に来ていると、できるだけ近くで見たいからそのステージ付近でひたすら待っちゃうだろうし、それ以外に何かしようってあんまり考えないってこともあるだろうし」
「それはもちろん楽しいと思うんですけど、それこそ真夏にずっと立ってたら危ないですしね。毎年熱中症とかたくさん出るし」
「『フェスにはこんな楽しみ方があるよ』とか『前のアーティストが終わったタイミングで来ても前で見られるよ』とか、楽しみ方のガイドみたいなことは結構してるフェスも多いんだけどね」
「そもそも自分がフェス行って何してたかなって考えてみても、あんまり覚えてないんですよね……」
「たぶんみんな割とそんな感じだと思うよ。実際、フェスってなんとなくのんびりするのがいいじゃない」
「無理に何かしようと思わなくていいと」
キャンプフェスでは朝7〜8時くらいから開いているお店もあるので、ひとりでのんびりできたての朝ごはんを食べるのも良い時間
「そうそう。つい何かしなきゃって思うかもしれないんだけどね」
「外でのんびりお酒飲んだりおいしいもの食べたりしてるだけで、むしろそれが一番楽しいというか」
「フェスのいいところって、そうやってのんびりしてライブ見て、ニコニコしてハイタッチしたらみんな返してくれる空気があるところ。急に街なかでそんなことしたら変に思われるし、ライブ会場とかでもなかなかないじゃない。同じものが好きだとお互いわかっていてもさ」
「そりゃそうですね」
「でもフェスって共通意識が強く生まれやすいから、それを味わうのは楽しいと思うんだよね。行けばわかる。楽しもうと思っていれば、いつの間にか馴染むようになるから」
「もしひとりで、『一緒に行く人をどう誘えばいいかわからない』とかであれば、アーティストの好みが合う友達をまずは都市型フェスやライブサーキットなどハードルの低いものに誘って行ってみてから、だんだんハードルの高いものにチャレンジしていくとよさそうですね」
フェスはどう多様化してきて、これからはどうなる?
石川県加賀市山代温泉の大型旅館を全館貸切で開催される「加賀温泉郷フェス」
「最近は本当に全国で野外音楽フェスが数多くあって、その形も多様化しています。菊地さんから見て、フェスってどう変わってきました?」
「誰でも楽しめる要素は、かなり増えてきたよね」
「かつてのフェスは、音楽好きだけがターゲットだったんですか?」
「割とそうだと思う。かつては音楽がメインのフェスが多かったけど、今は音楽以外をメインに据えるフェスも多い。どんどん枝葉を広げていったというか、一緒に楽しめる要素が増えてきたね」
「ふむふむ」
「コンセプトの多様化はもちろん、ライブ以外のコンテンツも充実してる。かつてはアンダーグラウンドカルチャーの要素を含んでいたから、そんな大衆的な感じではなかったな」
「数が増えただけじゃなくて、それぞれ特色がありますもんね」
【特色のあるフェスの一例】
・温泉旅館を貸し切って開催される『音泉温楽』や『加賀温泉郷フェス』
・お寺で開催される『寺フェス』や『Slow LIVE』
・300以上の飲食や雑貨の市場がメインになる『森、道、市場』
・人口1万人あたりの焼肉店舗数日本一という特色を活かして“手ぶら焼肉”を楽しめる長野県飯田市の『焼來肉ロックフェス』
「加賀温泉郷フェス」は石川県ということで、フェス飯においしい海の幸(見ての通り寿司)があります
「違うカルチャー、価値観とかが増えつついろいろ出てくるのがフェスだと思うから。そういう意味では淘汰されているのかもしれないけど、もっともっと増えたらいいな」
「実際、どんどん増えていきそうな気がしますよね。それこそフェスってまだ20年とか、いわば始まったばっかりのカルチャーだから、これからどんどん分離していろんな形ができていって、多様化していくはこれからなのかなって」
「それこそアーティストも、昔は単純に売れない=続けられないだったけど、今は音楽だけで食えなくてもアーティストやれるし、音楽だけで食えててもいろんなことしてる人もいるし、フェスの出演者やコンテンツはもっと多様化していくだろうね」
「いろんな側面からフェスが変わっていくのめっちゃ楽しみですね〜! 地方の活性化につながってるフェスもたくさんあるし、全国でどんどん増えたらいいな……」
「フジロックだってそうだし、もっと増えたらいいよね。でも行政が関わるってなると継続するのが難しいって話は聞くけど」
「と、いうと?」
「公務員は約3年で異動になることが多いから、担当者が変わるとやっぱり状況や環境が変わっちゃうこともあるし」
「担当者はもちろん仕組みも変わってしまう可能性が……」
「本当に全部が全部地方でやれたら一番美しいんだろうけど、結局はどこかの人と組んでやることになるわけだからね。お金とか状況、環境がそろっていないと、なかなか実施は難しいじゃない」
「そうか……そうですよね……」
「でも今年気になってるフェスで、福井の『ONE PARK FESTIVAL』っていうのが新しく始まるんだよね」
「福井のどこでやるんですか?」
「それがさ、街の中なんだ。しかも福井駅からすぐ。メイン会場は公園なんだけど、街全体を巻き込んでやるんだって」
「街全体!? 観光ならわかりますけど、街もフェス会場の一部っていうのはあんまりない気が」
「そうだよね。いわゆる都市型フェスって基本的には大きな会場ひとつの中でやるけど、このフェスは街も会場のひとつだから」
ONE PARK FESTIVAL 公式HPより
「そもそも街を巻き込むってあんまり想像つかない……」
「メイン会場を出て、食事を街のお店でしてもいいんだって。一緒に街を盛り上げるフェスなの。街の中で音楽やって、街の人や店と交流してってフェスはなかなかない。普通はフェスの中でフェス飯食べて、儲かるのは近くのコンビニとホームセンターくらいって感じだったから」
「なんか、ありそうでなかったフェスの形だ」
「アメリカの『ニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバル』っていうフェスがあるんだけど、これはアメリカにしては結構早めの時間に終わるフェスで。それがなぜかって、街のいたるところでアフターパーティみたいなことをたくさんやってるからなんだけど」
「海外では似たような形態のフェスがあるってことですね」
「そう。会場外でのアフターを楽しませるために、わざとフェスを早めに終わらせてる。だからONE PARK FESTIVALが日本でそういう流れを広めるひとつのきっかけになったらいいよね」
そもそも日本の「野外音楽フェス」はいつ始まったの?
「今年はロック・イン・ジャパンとサマーソニックが20周年で、ライジングサンはそれが去年、フジロックはもうちょっと前でしたけど、主要なフェスはだいたい20年前に一気に始まった感じがあるじゃないですか。日本のフェスってやっぱりそこがスタートだったんですか?」
「いや、日本初の野外音楽フェスは、1969年に初開催された全日本フォークジャンボリー(中津川フォークジャンボリー)だね。今から50年前」
「まさかの50年も前!?」
「50年前は、ちょうどアメリカで『ウッドストック・フェスティバル』が開催された年。その少し前に寺山修司さんも『書を捨てよ 町へ出よう』と言っていたけど、その時代はみんな、外へ出ようって機運が高まっていたんだと思う」
「なんか当然のように海外が先に始めたんだろうと思ってましたけど、まさか日本と同時とは」
「そうなんだよね。で、それから80年代前半とかは野外コンサートが数多く開催されて、日本で“フェス”って呼ばれるようになったのは、フジロック以降かな」
「“フェス”っていうとフジロックが起点なんですね」
「フジロックが開催される前の年、1996年には『RAINBOW 2000』っていうテクノやトランスの音楽パーティ(レイブ)があって、それも日本の野外音楽フェスの歴史の中では大きな一歩だったと思う」
「盛りあがってきたってことですか」
「そうね。野外パーティが90年代半ばに流行していて……といっても、結構アンダーグラウンド的な動きではあったんだけど。ノリとしては『RAINBOW 2000』くらいから、『外で音楽を聴いて盛りあがるのが楽しい』ってより多くの人が感じるようになってきた感じかな。で、翌年フジロックが始まった」
「なぜそのタイミングだったんですかね?」
「仮説としては、やっぱり50年前みたいに、その時代に合うタイミングがあるんじゃないかな。フェスって、だいたい10年周期くらいで変化があったり新しく生まれたりしてるんだよ」
「周期があるんですか」
「フェスにお客さんとして参加していた人たちが、『自分たちもやってみよう』って思ってやり始める……っていうのが10年周期くらいで続いてるんだと思う」
「10代や20代で初めてフェスに行ったら、大体その10年後くらいに自分たちでフェスを開催できる年になりますもんね」
「そうそう。それで新しくフェスを始めて10年くらい経つと、始めた頃は若かったボランティアスタッフたちも、結婚したり仕事が忙しくなったりで手伝えなくなる。さらに主催側のスタッフたちも40代以上とかになってきて、このまま続けるか、誰かに継承するか形を変えるか……ってなるわけ」
「今年や来年で一旦休止するって宣言しているフェスとか出てきているのは、東京オリンピックの影響が大きいのかなと思ってたんです。でも、そればかりじゃないんですね」
「フェスをやってる人たちはよく『儲からない』『大変だ』って言うけど、それでも続けてる人たちがいるのは、やっぱり作る側として得られるものが大きいんだとは思うよ」
フェスの参加者は、きっとこれから増えてくる
「フェスは年々増えてますけど、フェスの参加者って増えてるんですか?」
「参加者が増えてるかっていうとわからないけど、少なくとも減ってはいないと思うよ。最近は30代中盤くらいのファミリーが、キャンプとかBBQも楽しみにフェスに来てることが多いね」
「確かに、会場で見るファミリーの数はどんどん増えてる気がする……」
「たとえば今フェスに来てる子供が、10年も経てばだいぶ大きくなるでしょ。それで大学生とかになったら、小さい頃からフェスに馴染みがあるから、当たり前にフェスに行くようになって、フェス人口は増えてくると思っていて」
「なるほど〜! フェス自体が10年周期で変わっていくのと同時に、参加する側もカルチャーを継承していくんですね!」
「それこそ今キャンプが流行しているけど、親がキャンプブーム世代で子供の頃に一緒に行ってたから、親しみがある人が多いんだよね。フェスもそうなるはずだよ」
「それで海外みたいに三世代でフェスとか行くようになったら最高ですね! フジロックはすでに50代以降らしき人をちらほら見かけますけど」
「フジロックはアーティストのジャンルや世代が富んでるからね。ただ、40代とか50代は、フェスに一緒に行く仲間が同世代じゃなかなか集まらなくなるって話をよく聞くんだよね。家族が一緒に行ってくれる人ばかりじゃないだろうし」
「遊ぶ仲間がいなくなるっていうのは、フェス以外でも聞く話ですね……」
日本におけるフェス文化の普及や情報発信、フェスを愛する人のコミュニティ育成などを狙いとし、2019年3月に設立された
「そういう人たちが仲間を見つけられるようにって目的も含め、日本ミュージックフェスティバル協会を立ち上げたんだよね」
「なるほど! 確かに年代問わず、フェス一緒に行く人いなくて行けないって人は多そうです」
「そうなのよ。だからフェスのプロモーターを集めようってより、ファンコミュニティを作りたい団体なんだよね。フェスの主催者の人たちにも応援してもらって、一緒にやっていけたらいいなと思ってる」
今年おすすめのフェスを紹介!
「先ほど福井の『ONE PARK FESTIVAL』が気になっているって話がありましたけど、菊地さんが他に気になっているフェスってありますか?」
「今年行こうかなと思ってる直近のフェスだと、さっき挙がった愛知の『森、道、市場』もそうだけど、あとは『忍野デッド』。6年ぶりに開催されるんだよ」
「『忍野デッド』はどんなフェスなんですか」
「1995年に活動を休止したグレイトフル・デッドってバンドがあって、そのファンのことを“デッドヘッズ”って呼ぶんだけど、そのデッドヘッズたちを中心に朝霧高原に集まるキャンプフェスでね。雰囲気としてはちょっとヒッピー的というか、ゆるい感じがいい」
「へ〜!楽しそう!」
「6年ぶりの開催だし、絶対行かなきゃって思ってる。あとは、『GREENROOM FESIVAL』と『THE CAMP BOOK』かな」
「『GREENROOM FESITIVAL』は音楽だけじゃなくアートも楽しめるサーフ&ビーチカルチャーフェスで、雰囲気いいですよね。横浜赤レンガ倉庫だからアクセスが良いし、そんなに規模も大きくないから初心者でも行きやすい」
「そうそう。あれも都市型フェスだけど、アーティストメインじゃなくカルチャーを軸にしてるからちょっと違う感じ」
「今年私が気になっているフェスだと、まだ行ったことないんですけど福島のおいしいものが集まっているという噂の『大宴会in南会津』や、去年初めて行った『New Acoustic Camp』(通称「ニューアコ」)もまた行こうかなと思ってます」
「ニューアコは雰囲気いいよね。去年は雨が結構降ったこともあって、あんまりライブ見ないでずっとキャンプしてたな」
「キャンプしてるだけでも楽しいですよね」
「そうそう。あまり難しく考えず、いろんなフェスに行ってみてほしいな」
まとめ
1969年の全日本フォークジャンボリーから始まり、1997年にはフジロックが開始。今では音楽メインのフェスだけでなく、地方の特色を活かしたり、新しいコンセプトを打ち出したりと、多様なフェスが続々と登場しています。
10代や20代で初めてフェスに参加し熱狂した人たちが、10年後にフェスを立ち上げたり、家族でフェスに参加するようになる。
日本で“フェス”と呼ばれるものが始まってから20年と少し。20年は長いけれど、10年周期での変化を考えたら、まだ2回なんです。きっとその周期はこれから何度も訪れる。
歴史はこれからどんどん続き、三世代でのフェス参加が出てきて、フェスのコンセプトや参加アーティストたちもどんどん変わっていくと思うと……楽しみで……しかたがない……。
これを読んで興味をもってフェスに行ってみたくなった方。
たくさんあって悩むとは思いますが、好きなアーティストが出るでも良し、なんとなくピンときたでも良し、コンセプトに共感したでも良し。なんだって大丈夫、ぜひ足を運んでみてください。
すでにフェスにいくつも行っている方も、気が向いたら新しいフェスを開拓してみてください。私も開拓を続けていきます。
これから最高にフェスを楽しめる季節が来ます。みんなでフェスを楽しみましょう〜!
【お知らせ】今年の「森、道、市場」にジモコロが出店します!
全国のローカルで出合った美味しいお酒とおつまみを集めた「ジモコロの家飲み」が、「やってこ! in 森、道、市場 2019」ブース内に出店。会場でお待ちしています〜!
森、道、市場
2019年5月31日(金)〜6月2日(日)
会場:大塚海浜緑地(ラグーナビーチ)&遊園地ラグナシア @愛知県蒲郡市