「うどんのコシは硬さじゃない」香川の製麺所で”カスタムうどん”を作ったら衝撃の事実だらけだった

2019.04.25

「うどんのコシは硬さじゃない」香川の製麺所で”カスタムうどん”を作ったら衝撃の事実だらけだった

「うどん県」こと香川にて、器から食材までの全てを現地で揃えた「カスタムうどん」を作ろうと意気込むジモコロ編集長の徳谷柿次郎。何気なく訪れた製麺所のおじさんと雑談をしていると、うどんに関する知られざる衝撃の事実が次々と明らかに……。

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    こんにちは。ジモコロ編集長の柿次郎です。僕は今、香川県に来ているのですが、香川県のイメージといえば当然….

     

    「うどん」ですよね?

    香川県内のうどん屋の数は600軒以上! 県内のコンビニの数の倍近くと言われており、当然その消費量も全国第一位。県の公式観光ホームページも「うどん県旅ネット」と称しており、誰もが「香川=うどん」の方程式が脳内にあるはずです。

     

    僕も香川県を訪れるたびに、ひたすらうどんを食べ続けているのですが…

     

    ふと思ったんです。

     

    「最高のカスタムうどん作りたくない?」

     

    うどんと言えば、どんな食材とでも掛け合わせができる、いわば最高の黒子。

    だったら、このうどんの本場香川県で、最高に僕好みのうどんを作ってみようじゃないですか。

     

    勝手に作り上げたルールはこんな感じ。

    人間は前提条件を課すことで燃え上がる生き物だから!

     

    かっこいい器を求めて

    何ごとも形から入るのは大事です。いくら美味しいうどんを作り上げても、見栄えが悪かったら台無し。instagramで映えずとも、うどん文化を作り上げてきた先人に対して失礼のないような「器」が欠かせません。

     

    ググって辿り着いたのが高松市春日町にある「暮らすうつわ とうもん」さん。

     

    店内に入った瞬間「あ、ここにはあるな」と感じました。美意識の光に包まれた内装。暮らしに馴染むような陶器がラインナップされています。全国行脚しながら数々の食器を買い集めているおかげなのか、吸い寄せられるような器に手が伸びました。

     

    この大ぶりで底浅の器! ツルツルシコシコの讃岐うどんを配置したときに、真っ白の麺や薬味が際立つ色味も素晴らしい。本来はうどん用ではないかもしれませんが、マイカスタムうどん作りに最適な器だと言えるでしょう。

     

    気分はゼルダの伝説のリンク。テッテテーと脳内で音が鳴りました。

    20代は100円ショップの食器を仕方なく使い、途中から背伸びして無印良品の食器を愛用していたんですが、旅行先で買い集めた器や椀などを食卓に並べると「目に美味しいってあるんだなぁ…頑張って働いてきて良かった…」と人生に浸れるのでオススメです。

    食材を揃えてみた

    お次は、うどんと掛け合わせるための薬味探しへ。今回、足を運んだのは香川県のローカルスーパー「新鮮市場きむら」です。本部・本店だから絶対大丈夫でしょう。

     

    まずは青ネギ。これは必須ですね。ネギのないうどんは、うどんじゃない。

     

    続いては大好きな生姜。せっかくなので、食べる直前にすりおろそうと思います。生姜は多ければ多いほど美味いし、冷え性なので手足がポカポカしたら一石二鳥です。

     

    そして四国特産のすだち!

    醤油ベースの甘みに酸味を加えることで、マイカスタムうどんの価値は跳ね上がること必至。食べる直前に自慢の握力30kgで、果汁を滴り落としきります。

     

    関西人の心を掴んで離さないヒガシマルの「ぶっかけうどんつゆ」を2種類購入。個包装の便利なパックがあるんですね。釜玉うどんに欠かせない卵も買って、準備は万端です。

     

    あとはツルツルシコシコのうどんを売ってる製麺所を探すだけ!

    うどんにおける「コシ」の概念は、硬いことではない

    車で移動していると、早速製麺所らしき場所を発見!

    うどんを店内で食べさせてもらえるか確認してみることにします。

     

    「こんにちはー! ここでうどん買って食べられますか? 」

    「売ってるよ。うちは麺の玉売りだから、つゆとか持参してるなら中で食べても大丈夫よ」

    「おお!カスタムうどんにふさわしいお店!ではお邪魔します」

     

    今回、お世話になったのは見た目がほぼ家の橋本製麺所さん

     

    「今日は最高に美味しいカスタムうどんを作ろうと思って、自分好みの素材を揃えてきたんですよ!」

    「カスタムうどん? それもいいけど、まずは何もかけんで食べてみてよ。そのまま食べたら一番うどんの味がわかるけん」

    「うどんだけの味? 何も味がしないような…」

     

    ズルズルズル

     

    「おお、ちょっと塩気があって、冷凍うどんと全然違う。普段食べてるうどんとは違い、小麦の風味があって美味しいですね」

    「うどんは小麦粉と水と塩で作るからね。香川の人はそのままよく食べるし、昔は日本酒のアテ(つまみのこと)にうどんをしとったんよ」

    「へえ! 酒のつまみにもなるんだ。でもチェーン店のうどんに比べると、めちゃくちゃコシが強いわけじゃないんですね…むしろ柔らかい」

    それは“コシ”の意味が違うかもしれんねえ。あなたたちの言う”コシ”って硬いってことでしょう?」

    「そうですね。シコシコツルツルな感じで歯ごたえがあるものだと思ってたんですけど…」

    「こっちの人が考える”コシ”はすっと伸びるってことね。讃岐うどんにおける”コシ”は硬いことじゃないんよ」

    「え、そうなんですか」

     

    確かにめちゃくちゃ伸びる

     

    「伸びる? どういうことですか?」

    つきたてのおもちみたいに引っ張ればギューと伸びるし、すぐ戻る。要は弾力があるうどんをコシがあるって言うの。だから硬いのとコシがあるのは違うもの

     

    「香川県民と我々では“コシ”の概念が違った!」

    「あとね、茹でてすぐの麺と少し時間置いた麺だと、うどんの味が全然違うよ

    「それは茹で立ての方が美味しいですよねえ」

    「いや、そういうわけでもないんよ」

    「ええ!うどんの概念が拡張されちゃう!」

    「麺の表面が乾いてボコボコになると、表面積が増えるから、ダシが絡みやすい。作りたては水分量があって、ツルッとしてるから絡みは悪いけど、のどごしがいいんよ」

     

    「食べ方によって、最適なうどんが全然違うのか!」

    「もちろん好みもあるけどね。だから店によって、茹でる時刻が違ったりするから、そこでお店の個性がでるんよ」

    「香川にうどん屋がたくさんある理由がそこに!」

    「そうそう。それぞれの好みに対応するものがあるから、これだけうどん屋があっても競合しないんよね」

    カスタムうどんを実際に作ってみた

    「このうどんは朝茹でたもので少し時間が経ってるから、つゆがよく絡むと思うよ」

    「じゃあ、ダシ醤油がいいですね。そういえば、うどんにポン酢って合うんですかね? あんまりお店じゃ見たことないけど」

     

    スーパーでなぜか買った柚子胡椒ぽん酢

     

    「うどんは具材を選ばないし、合うと思うよ。香川の西の方では、醤油とは別に酢を入れて食べるところもあるから」

    「へえ〜〜。じゃあポン酢にしよう!」

     

    まずはうどんに青ネギをのせて、

     

    生姜を大量におろして、

     

    擦ったばかりの生姜に、生卵、天かす、ねぎ、そして四国特産のすだちを乗せて、ポン酢をドバーッとかけて完成です。

    こだわって買いに行った器の甲斐もあって、目にも美味しいカスタムうどんだ!!

     

     

    というわけで、さっそく…

     

    ズズズズーッ

     

    ズズズズーッ

     

    案の定、美味すぎて一瞬で麺が消失しました。

     

    どう考えても美味しくなるであろう具材の組み合わせに、少し時間が立ったコシのあるうどんが絡み合って、口に運ぶ手が止まりません。1玉じゃ全然足りない。意外にも極端な高揚感に包まれることもなく、日常の中で毎日食べる食事の普遍さに気付かされるというか。頭の中に「飽きない商い」ってダジャレが浮かんだほどです。

     

    これが香川県の誇る「うどん文化」の真髄なのか…?

    「うどん県」では家であまりうどんを食べなくなった!?

    「いやあ、カスタムうどん最高ですね! うどんって外で食べるものだと思ってましたけど、こういうのもいいですね」

    「でも、今は香川の人も家で食べる習慣が減ってきてるんだよね」

    「そうなんですか?」

    「今はみんな街に働きに行くから、昼食でうどんを外食しちゃうんよね。さすがに晩御飯までうどんはいらないから」

    「家で食べなくなっただけで、消費量自体はあまり減ってないと。さすがうどん県」

    「でもみんな食べる量が減ったんよ。昔は10〜20玉みんな食べてたもんね」

    え、1日20玉って食べ過ぎじゃないですか?

    「いや1食で20玉よ」

    「ええええ!?」

     

    「1玉では物足りない感覚はわかりますが、その量は大食いチャンピオンですよ。絶対無理だなぁ」

    「昔はみんな農作業して身体動かしてたからねえ。ただ、今でも7〜8玉普通に食べる人もいる。じいさん、ばあさんは年取ったから2〜3玉が限界って言うね」

     

    1玉70円だから10玉食べても700円!

     

    「しかも1玉=70円なんですね。安すぎる。香川の人がそんなにうどんを食べ始めるようになったきっかけって何なんでしょうね?」

    「この辺りは気候的に雨が降らないから、もともと米があんまり取れないんよ。だから昔から小麦を良く取ってたんよね」

    「なるほど。気候的に小麦が取れやすかったと」

    「そう。それで水はけもいいから、小麦の生産地としては最適だったと。だから二毛作(にもうさく)が昔からずっと盛んで」

     

    「米も作ってたんですね」

    「そうね。昔は米の価値が高かったから、お米は現金化できるものとして、小麦は自分たちの食料として使っていたんよ」

    「米は食べ物というより、お金みたいな扱いだったんだ」

    「そう。でも小麦も似たような感じで『うどん通帳』というものがあったんよ」

     

    「うどん通帳! 何ですかそれ?」

    「昔はとにかくみんな収入がなかったから、手間賃やら何やらを現物で払っていくという文化だったんよね」

    「なるほど。小麦で回る経済! でも通帳ってどういうことですか?」

    「まず小麦を収穫したら農協に預けるんやけど、その時に納めた小麦の総量をその通帳に記載するんよ。そのあと、農協を経由して製麺所なんかに小麦が行くわけね」

    「ほうほう」

    「その通帳を持って製麺所にうどんをもらいに行くと、まずうどん分の小麦の量が通帳から引かれて、あとは製粉やうどん調理の手間賃もそこから引かれると」

    「労働力も小麦で支払うんですね! 地域通貨の走りじゃないですか」

    「そうかもしれんねえ。だから小麦の料理が多かったんよ。そうめんなんかもよく作るよねえ」

     

    オーストラリアに讃岐うどんの畑がある?

    「へええ。じゃあ讃岐うどんは香川県産の小麦を使ってるわけですね」

    「いや、うちはオーストラリア産やね」

    「えっ、でも香川マークみたいなの袋に書いてありますけど」

    「これは香川県の工場で、讃岐うどん専用に挽いてるものという意味やね」

     

    坂出市には日清製粉の讃岐うどん専用の工場がある

     

    「香川にある讃岐うどん専用の工場なのに、海外産の粉を使ってるんですね」

    「讃岐うどんのほとんどがオーストラリア産の小麦やね」

    「えええ、衝撃の事実だ」

    「日本で取れる小麦の量は少ないから、やっぱり高いんよ。そしたら値段が上がって、みんな気軽に食べられるものじゃなくなっちゃうでしょう」

    「ああ、1玉70円は確かに難しそう」

    「それに量が少ないと、どうしても気候の関係もあったりするから、品質にムラが出てしまうんよ。それを毎年同じように調整するのって大変やけん」

    「香川とオーストラリアの面積全然違うから、取れる量も段違いだもんなぁ」

    「量が多ければ、製粉の時もブレンドしやすくて調整がしやすいんよ。今はオーストラリアでも、讃岐うどん用の品種改良をずっとしよる」

    「オーストラリアに讃岐うどん専用の小麦畑あるのすごい」

    「でも、今は『さぬきの夢2009』という讃岐うどん専用の香川県産の小麦が出た。県としても大々的に推してるみたいね。いっぺん食べてみたらええよ。またちょっと違うから」

    「地産地消!ワンランク上の讃岐うどんが!」

    「いやいや。硬いも柔らかいも、国産も海外産も、それぞれの好みやし個性やから。どっちが上とかじゃなくて、うどんの違いを楽しむのが一番やないかな」

    「なるほど。美味しいうどんの民俗学、ごちそうさまでした!」

    まとめ

    軽い気持ちでカスタムうどんを作ろうと思ったら、香川県のうどん民俗学にチュルチュルと呑み込まれてしまいました。すげーぜ、うどん県。いろんな意味でお腹いっぱいになれた取材だったなぁ。

    橋本製麺所さんのような昔ながらの讃岐うどんも残っていれば、新進気鋭の個性的な讃岐うどん屋もあるし、気軽に訪れられるチェーン店の讃岐うどん屋もどれも美味しい。日々の生活のために多様な価値が共存している香川のうどん文化は、観光客にも優しい世界です。

    香川県に行く際は、この記事の「うどんの民俗学」を頭にインプットして旅してみてはいかがでしょうか。地元の価値を再発見できる手助けになれば幸いです。

    それではまた!

     

    ライティング協力:しんたく

    写真:藤原慶(公式HP

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    この記事を書いた人

    徳谷柿次郎
    徳谷柿次郎

    ジモコロ編集長。大阪出身。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。

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