1日1000個! 90円のじまんやきを87年間売り続けるお店の「楽しいけれど、楽じゃない」仕事論

2022.07.25

1日1000個! 90円のじまんやきを87年間売り続けるお店の「楽しいけれど、楽じゃない」仕事論

「じまんやき」聞いたことありますか? それは、長野県上田市の名物。連日とんでもない数のお客さんで賑わっている老舗のお菓子屋さん、「富士アイス上田店」の看板商品です。1個90円で、なんと1日1000個も売れています。毎日早起きして、ひたすらじまんやきを作り続ける、そんな大変なお仕事について、若きライターの長崎が仕事論を聞いていきます。

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    こんにちは。ライターの長崎航平です。

     

    僕は普段、長野県長野市のシンカイというちょっと変わったお店で働いているのですが、その根底には「仕事は楽しいものであるべきだし、楽しく働きたい!」という思いがあります。

     

    ジモコロを編集している株式会社Huuuuが運営する実店舗。雑貨などを扱いながら、地元の学生からおじいちゃんおばあちゃんまでが集まる場所

     

    でも、たとえ好きなお店で働いているとはいえ、時には自分が苦手な作業をやらなければいけなかったり、地道にやっていくことが必要だったりすることも。好きなお店の裏側には、泥臭い作業がたくさんあるけど、これが想像以上に大変だし、モチベーションが上がらない。

     

    楽しそうに仕事をしている周りのかっこいい先輩方の背中を見ていても、今までの苦労が伝わってくるし、綺麗事では片付けられない仕事の厳しさがある……。

     

    楽しいことで生きていきたいけど、楽しいことの裏側に潜む泥臭仕事を避けては通れない。この状況をどう受け止めればいいの!?

     

    そこで行ってきました!

     

    富士アイス 上田店。「志」に濁点で、「じまんやき」と読ませている

     

    僕の地元、長野県上田市で、連日とんでもない数のお客さんで賑わっている老舗のお菓子屋さん、「富士アイス上田店」へ。お客さんたちの狙いは富士アイスの看板商品「じまんやき」という、小麦粉の生地にあんこやクリームを入れてこんがり焼いたお菓子です。

     

    1個90円で、なんと1日1000個も売れるという大人気商品。

     

    家族経営で、毎日早起きして、ひたすらじまんやきを作り続ける……、僕にはとてもできない働き方。けれど、そんな地道な仕事を続けられるということは、どこかに楽しさがあるのか?

     

    泥臭仕事をがんばるヒントを、店主の大さんに伺いました。

     

    富士アイスが考える仕事論とともに、僕の地元のじまんやきを自慢させてください!

     

    じまんやき。名前を変えて日本全国に存在しており、今川焼き・大判焼き・回転焼き・甘太郎焼き・ホームラン焼き・画廊まんじゅう・ロンドン焼きなどと呼ばれている

     

    「じまんやき」は、愛する人の名前を残すために生まれた?

    「今日はよろしくお願いします!」

    「よろしくね。ちょっと作業をしながらの取材になっちゃうんだけど大丈夫かな?」

     

    「全然大丈夫です! それにしても平日でもすごいお客さんですね」

    「ありがたい限りだよ」

    「僕も物心ついた時には片手にじまんやきを持ってた気がするんですが、お店はいつから?」

    「お店は創業が昭和10年の1935年からだから、もうすぐ90年になるね」

    「戦前から! じまんやきにそんなに歴史があったとは」

     

    「甲府のお店の創業者と上田店の創業者が兄弟で、上田店の創業者は俺のおじいちゃんになるね。俺は25年前年まで東京で働いていて、上田に帰ってきてからはずっとここで働いてるよ」

    「富士アイスやじまんやきのお店は上田以外にもあるんですか?」

    「じつは富士アイス自体は県内にもう2店舗、他にも山梨や岐阜、千葉にもお店はあるんだけれど、みんな家族経営でやってるよ。『じまんやき』っていう名前も、富士アイスでは共通だよ」

    「てっきり長野の、上田にしかないものだと思っていました。ところで、小さい頃からずっと気になっていたんですが、このじまんやきっていう名前、『志』という漢字に濁点をつけて、『じ』と読ませるのが不思議だなと思っていて。この名前の由来はどこからきているんですか?」

     

    「じつは、俺も正確にはわからないんだよ。ただ、ふたつ予想できることがあって」

    「ふむふむ」

    「ひとつ目は、今まさにお兄ちゃんが聞いてるみたいに、漢字に点々がついてると気になるでしょ? あれはなんだろう、って。そうやって名前から興味を持ってもらおうと狙ってつけたんだと思うね。で、文字通り自慢できるようなものができたから、『志』っていう縁起のいい漢字をあてたんじゃないかな」

    「僕は見事におじいちゃんの思惑にハマっているという(笑)」

    「ふたつ目が、これもあくまで俺の予想なんだけど、創業者である俺のじいちゃんの奥さん、つまりは俺のばあちゃんの名前から取ってるんじゃないかと」

    「おばあちゃんの名前?」

    「俺のばあちゃんの名前が『志』にひらがなの『ん』で『志(し)ん』さんっていうんだよ。だから、愛する人の名前から1文字とって、永遠に残るようにしたんじゃないかな……っていうのが、孫が考えるロマンチックな予想であり、願いだね」

     

    創業当初の上田の富士アイスの写真

     

    「もしそうだったら、めちゃくちゃ粋なおじいちゃんじゃないですか。本当だと信じたい」

    「ほんとかどうかは、わかんないけどね(笑)」

     

    創業から90年で、今が一番売れている!?

    「おじいちゃんの代から多くの人に愛されてきたじまんやきですが、今までに味や形などの変化はありましたか?」

    「味は、2代目が初代から多少変えて、少し甘さを抑えたけれど、俺は2代目をそのまま受け継いでいる感じかな」

    「僕は上田のじまんやきのあんこが子どもの頃から本当に大好きなんですけど、中に入っているあんこやクリームについてのこだわりについても教えてください」

    「あんこは富士アイスの各店舗がそれぞれ自家製で作っていて、店舗ごとに味が違うのが特徴だね。ちなみにうちの店は、富士アイスのあんこの中で一番甘さ控えめかな。よかったら他の富士アイスのじまんやきも食べてみてよ」

    「同じじまんやきでも、店舗ごとに地域性があるんですね」

    「うん。クリームは外注なんだけど、これまた富士アイスオリジナルのクリーム。だからパン屋でクリームパン買っても、うちのクリームの味がするってことはないよ」

     

    「受け継ぐべきものは受け継いで、変えるべきものは変えて、発展してきたんですね」

    「そうだね。そして、そんなじまんやきは年々、売れてきてます

    「年々、売れてる!? けど、今年の4月には25年ぶりにじまんやきの値上げを行って、80円から90円になりましたよね。今、物価高が日本中で問題になっていますが、値上げに踏み切ったのはやはり原材料の価格高騰の影響ですか?」

    「そうだね。小麦の価格が上がったのが一番の要因かな。消費税の増税にも耐えてきたんだけど、今回ばかりは、って感じで」

    「それでも10円の値上げで収まっているのはすごいです。それに、値上げをしたらお客さんは減ってしまうのが普通ですよね」

    「ほんとは、80円のままでやりたかったから泣く泣く値上げをしたけど、ありがたいことに、売れてる数は変わらないね」

    「値段をあげても、変わらずお客さんがくる。地元の方から愛されてる証拠ですね」

    「ただね、俺はずっと1個80円で計算してきたから、九九の九の段より八の段の方がばっちりなんだよ。だから、まだお釣りやらの計算が慣れなくて、それは悩みだね(笑)」

     

     

    1個90円のじまんやきを売り続ける泥臭商売スタイル

    「けどちょっと待ってください。値上げしたって言っても、まだ1個たったの90円ということですよね。そもそも利益はあまり大きくないんじゃないですか?」

    「値段を見てもらえばわかると思うけど、うちは薄利多売だから、もちろん沢山買ってもらわないと利益は出ない。じまんやきは1日1000個以上は売れるけど、逆にいうとそれぐらい売れないと利益が出ないんだよ」

    「1日1000個も売っているのに、むしろそれくらい売れないと商売が難しい世界……」

    「だからやっぱり、あんまり休めないよね。1日休むだけで、売上に結構な影響が出てくるし。だから時々、週休2日のサラリーマンが羨ましいと思うことはあるよ」

    「僕もお店の運営をしているから、友達と休みが合わなかったり、週末のイベントにはことごとく参加できなかったりと、周りの人を羨ましいと思うこともしょっちゅうあります。しかも北川さんの場合、休みが少ないことに加えて、お客さんの数も増えているっていうことは、より大変なのでは?」

    「まあ、そうだね。特に大変なのはあんこの仕込み。最近はあんこの仕込みを限界の量まで作ってるから、忙しい時は朝の3時から仕込みをすることもあるね。それにこうやってメディアの取材とかがきてくれると、ありがたいことにお客さんの数ががっと増えたりもするし」

    「朝の3時から仕込みをして、しかも休みは週1日! 僕だったらそんな重労働、絶対にやりたくないって気持ちが先に出てきちゃうかも。どうしてそんなに頑張れるんですか?」

    「もちろんお世辞にも楽な仕事とは言えないよ。けど、商売ってそういうもんだし、お客さんが来て大変なんて言ってるようじゃダメだと俺は思うんだよ

     

     

    富士アイスの考える「商売の大変さ」とは

    「これだけ大変な仕事を週に1度の休みしかない中でやっているのに、『大変なんて言ってるようじゃダメ』って、僕にはまったく意味がわからないのですが……」

    「繰り返すけど、もちろん大変と思っていないわけじゃないよ。けど、それ以上に大変なのは、お客さんがこないことでしょ? もちろん朝の3時から仕込みをしていれば眠くもなるし、歳を取ってくれば肩だって痛くなってくる。けど、お客さんがいるから商売として成り立っているわけで、そこは大変だ、じゃなくて、ありがたいと思わなくちゃとお店をやってます

     

    「お客さんあってこそのお店だってことを、忘れてはいけないと」

    「変な話、お客さんが今の半分になれば、仕事も半分になるから。そうなったら朝の3時に起きる必要もなくなるだろうけど、それは違う意味で今よりずっと大変なこと。お客さんがたくさん来てくれる今の状況を『大変だな』と思うのか、『人気があるから頑張らないとな』って思うかだよね」

    「漠然と『楽しいことで生きていきたい』と思っていた僕からしたら、考えられないような働き方です」

    「けど、それが仕事だから。お兄ちゃんたちだって忙しい時には、夜なべして記事を書いたりするでしょ? 楽じゃない仕事なんてないし、楽な仕事ばっかりじゃダメだよ

    「『ここまで大変な仕事をできる理由はなんなのか?』という疑問から始まった今回の取材でしたが、北川さんの『楽じゃない。けれどやる』という強い姿勢がとても響きました」

     

    「決して楽ではない商売の中でも、富士アイスがお店としての展望や持ち続けたい思いがあったら、最後に教えてください」

    「今も昔も老若男女問わず、いろんな人が来てくれているのは本当に嬉しいことだし、変わらずそういう店でありたいという思いは強いかな」

    「たしかに僕自身も、子供の頃から通っていますが、あの頃と変わらずいろんな世代の人たちが足を運んでいるんだなと感じます。僕、高校の時にはクラスでじまんやきを買って、お花見したこともあるんですよ」

    「そうだったんだね、嬉しい言葉だよ。10年、20年とお店を続けていても若い方が来てくれるのは本当にありがたいし、おばあちゃんなんかが『私、学生の頃から来てたのよ』なんて言ってくれたりもして。きっと俺が生まれるより前から来てるお客さんだってたくさんいると思うとやっぱり、そういう人たちのためにも、大変だなんて言ってられないんだよね」

     

    富士アイスでじまんやきを買う時には

    1. 車は付近のコインパーキングに停めるべし

    一番近い駐車場は「海野町パーク駐車場」30分無料で、富士アイスまでは徒歩2分

    https://www.d-emu.co.jp/ueda-parking/detail/unno-park.html

     

    2. 10個から包装が箱に変わるので、時間を置いて食べるときは箱に入れてもらうべし

    (そのほうが時間がたっても美味しいじまんやきが食べられます)

     

    3. 友達とくる時にはごみ削減のため、まとめて包装してもらうべし

     

    4. たくさん買うときはエコバッグを持参するべし

    (お店での袋の準備はございません)

     

     

    取材を終えて

    毎日早起きして、1個90円のじまんやきをひたすら売り続けることで、地域に愛されてきたお店や人がいる。

     

    地道に辛い仕事を続ける北川さんは、「楽じゃない仕事なんてないよ」とは言いつつ、取材の中で一度も「楽しくない」とは口にしていなかったのが印象的でした。

     

    「楽しく生きるためには、『楽』じゃないこともある」。

     

    それが、「楽しい」と「楽(らく)」を同じもののようにつなげ合わせ、現状にモヤモヤしていた僕をハッとさせてくれた、富士アイスの教えです。

     

    影に隠れた辛い努力から、甘いじまんやきが生まれている。ということを、これから楽じゃない仕事にぶつかるたびに、思い返したいです。

     

     

     

    ☆この記事はエリア特集「信州大探索」の記事です。

    【2022年】長野県の機運が高まりすぎたのでエリア特集「信州大探索」をはじめます

     

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    長崎航平
    長崎航平

    2001年生まれ。長野市のシンカイというお店にいます。好きな食べ物は、エビチリと梅干し。映画とスポーツ観戦と、柴犬が好きです。

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