「まずは、今いる2階の屋根から、1階の屋根まで降りてきてください」
「簡単に言うよなぁ……」
「よし……命綱をちゃんとセットして、すぐそこに降りればいいんですよね?」
「そうです。いけそうですか?」
「バカにしないでくださいよ! 所詮1階分でしょ? それくらいなら余裕です」
「うぅん……」
「どうしました?」
「次の一手が全くわかりません。下の屋根に足もつかないし。これって詰んじゃった?」
「詰んでないですよ! 右手で足元のここを持って……左手はここ、で、足を伸ばしたら大丈夫だと思います」
「了解、わかりました。 よし、行きますよ~!!」
「はい!」
「…………」
「行きましょうよ!!!」
「ううぅうん…? おっかしいな~?」
これ、ふざけてるんじゃないんです。この高さだと、心理的に「登る・降りる」っていう動作が、平地の4~5倍は難しい
「ではいよいよ、板金を取り付けていきます!」
「それは、雨漏りをしている箇所やその周りにってことですか…?」
「その部分だけではなく、まるっと交換します。水を相手にする時は、“点”でなく“面”で直さないと、また何度も工事するハメになりますから。全体で大体2~3週間はかかります」
「大掛かりだ」
早速作業に入る西田さん。
この手に持っているのは屋根材本体で、その下に入っているのが水切りです。
「あの……西田さん。気付いたんですけど、屋根の角の部分って、当然 三角形になるはずですよね? そんな形の板金、朝には作ってなかったのでは?」
「はい、作ってきてませんよ。でも大丈夫! 屋根の上で作るから」
「ここで!?」
ビィイイイン!!
そう言っておもむろに電動ノコギリでカット! 実際の屋根に合わせて作る必要があるので、その場で作るんです
「こんな感じで大まかに切った後に、ハサミで細かい所を調整します。ハサミの使い方は朝に教えましたよね? やってみましょう!」
「おまかせください!」
ぐ… あ、あれ…?
がっ、ぐぬぬ……ぐ……
~5分後~
「出来ました!」
「グッチャグチャじゃん」
「めちゃ硬くて……全然スイスイ切れませんでした」
「まぁ、これは僕が手直しします。みくのしんさんは、この板を印のところで折り曲げてください」
「おっ! 折り曲げるのはかなりうまいですね。良いですよ!」
「板金を理解せずに曲げてる気がして怖い。なんで僕はこれを折ってるんだ?」
「う~ん、口で説明するのが難しいんで、もう見て覚えるしか無い……かなぁ。そのうち自然と『あ、これはここに設置して、水をこの方向に流すために曲げるんだな』ってわかってきますよ」
「俺の背中を見て学べ! ってやつですか?」
「いや、単に口で説明するのが難しいだけです。ただ、それだと新人さんは不安でしょうから、『この仕事のやり方や意味』が解説されてる限定公開のyoutube動画を作ってまして。それを見てもらいながら教えてますね」
「限定公開のyoutube!? こんなところにもIT化の波が!」
「こういう会社にしては平均年齢が若いんでね」
板金を曲げ終わると屋根の角へ取り付けていきます。
「みくのしんさんに折り曲げて貰った部分が『折り返し』になって、雨の侵入を防いでくれるんですよ」
「あー、なるほど! そういう事か。今、雨が実際に落ちた時の流れが、僕の目に見えてきました」
「本当ですか!? それってめちゃめちゃ凄いですよ!?」
「あ、いや……」
「どのように水が流れて漏れるのかが見えるようになるまでは、大体8年くらいかかるんですよ!? それが見えるなんて……本当にセンスあるんじゃないですか!? ぜひうちに就職してください!!」
「西田さん……その、ちょっとテンション上がってそれっぽいこと言っただけです。すみません」
「嘘だったんですか……じゃあ、そろそろお昼なんで、休憩しましょうか」
「やったー!」
お昼休み
「午前中、実際に働いてみてどうですか? 想像していたのと全然違ったんじゃない?」
「確かに、想像とはかなり違ってました。雨漏りで板金をやるなんて考えもしなかった。ちなみに森さんは何歳からこのお仕事をされてるんですか?」
「18歳から働いてます。元は代々続いてる親父の会社なんですけど、僕が20歳の時に、親父が会社を畳むって言い出したので……それなら僕が引き継ぐ!ということで社長になったんです」
「18歳でこの道に入って、2年後に社長になっちゃったの!?」
「そう、キャリア2年のペーペーでしたから、最初は大変でしたよ。親父が社長だった頃のお客さんや職人さんも去ってしまった。『うちに仕事をやらせてください!』とお客さんに頼み込んでね……。社長なのに、色んな人に仕事を教えてもらってました」
「めちゃめちゃ苦労してる……」
「今はお陰様で右肩上がりで伸びてきましたけどね。正直、全然手が足りない状態です。それじゃあ、食べ終わったら作業の続きをしましょうか!」
午後の作業開始~作業終了まで
午後からもバシバシ板金を取り付けていきます。
「電動ドリルで取り付けるの楽しっ……!」
「みくのしんさん、もう高い所に慣れてるんじゃないですか?」
「あ、本当だ……! いつの間に! 僕、この仕事向いてるかもしれない」
「ね、絶対慣れるって言ったでしょ? じゃあ一旦地上に戻って、新たに水切りを作りましょうか」
「ウィース!」
グンッ!
「うげッ! 命綱外し忘れてた!」
「全然慣れてなかった」
屋根から降りると見覚えのある板金を加工し始める西田さん。
「西田さん… この板金ってもしかして…」
「そうです。今朝一緒に作った板金です。これを今から屋根に持っていって取り付けるのですが、その前に…」
「こんな風に製図して…」
カチャカチャ…
「こんな感じで屋根の角の先っちょを作ります。雨は先端や継ぎ目から侵入して漏れてくるので、それをカバーするイメージですね」
見よう見まねで同じものを作ってみます。
「なんか現場で作って完成させるってかっこいいですね!」
「現場で作ったほうが、その屋根にピッタリのものが無駄なく出来るし、その場で微調整もできますから」
結構きれいに切れた。ココから曲げれば完成。なんか折り紙みたい。
「半日作業しただけでも、色んな家の屋根回りに注目しちゃいますね」
「僕らもそうですよ。職業病ですかね」
「水切りはどんな家だろうと無いと困るものですよね? 新築を立てる時とかに、屋根のデザインを考える建築士と揉めたりしないんですか?」
「お互い良い物を作りたいからぶつかることはあるよね。こっちは『そのデザインだと水が漏れる』って言うし、建築士は『水切りを優先させたらおしゃれじゃなくなる!』 って言うし」
「僕の知らない所でそんなやり取りがあるんですね……いつか家を建てることがあったら参考にします」
「職人としてアドバイスするけど、屋根には一番お金をかけたほうがいいですよ。屋根は建築物の中でも一番過酷な環境に置かれる部分だし、どんな良い家も雨漏りしたら台無しだから」
「そのアドバイスが活かされるのは数十年後になりそうですが、ありがとうございます」
と言ってる間に不器用ながら完成! 愛着湧くなぁ!
「じゃあまた屋根に登って、その水切りを設置しましょうか。今のみくのしんさんなら、スイスイ登れるんじゃないでしょうか?」
「どうですかね~……?」
「すいっ」
「へっぴり腰でしゃがんでたのにかなり成長しましたね~」
「西田さん!」
「え、なっ何ですか? どうかしました?」
「景色ごっつええやん……!」
「なんで関西弁? 景色は変わってないですよ、みくのしんさんの心が変わったんです。さあ、ラストスパートですよ! 気を引き締めましょう!」
「先程作った水切りはココにはめ込みます。なんとなくイメージ出来ますか?」
「あーはいはい! 屋根の角だわ! 僕はココを作ってたんですね!」
「こんな感じで、最初はわからなくても、やるうちに理解していける面白い仕事なんですよ」
「西田さん… どうですか? かなりさまになってませんか?」
「自分でいう?」
と、この後も何個か水切りを取り付けて、中々使えるやつになれた所で遂に……
業務終了ーーー!! お疲れ様でーーす!!
作業を終えて
「お疲れ様! 一日やってみてどうだった?」
「最後の方は景色を見る余裕も出てきて、楽しかったです! でも思い返してみると、今更怖くなってきました」
「アハハ! しょうがないしょうがない! 単純な高さだけじゃなくて、足元が悪い(屋根は坂になっている)のが余計に怖いんだよね」
「そこなんですけど、屋根ってなんで、坂になってるんですか? ビルとか病院とかだと、屋上はコンクリートむき出しで真っ平らじゃないですか。そのほうが雨漏りもなさそうなのに」
「そう思われがちですけど、実はメンテナンス代とか、劣化のスピードという面で、普通の屋根のほうがコスパが良いんですよね」
「え!? そうなんですか? イメージと逆だった!」
「コンクリートは水が染みちゃうしヒビも入るから、メンテナンスも頻繁にしないといけない。でもいい職人が作った屋根は長持ちするし、何年経っても雨漏りしないんだよね」
「へー! そういうことだったんですね!勉強になりました。じゃあそろそろ……お給料をください!」
「わかりました。こちらが今回の給料になります!」
!?
「……なんですかこれは?」
「自伝です」
「いや、そうじゃなくて」
「漫画化もしてます」
「わかりました、これは後で読ませていただきますけど……」
「お金……」
「ちゃんと渡しますって! せっかくなので宣伝しておこうと思っただけなんで」
「という訳で、はい! 改めてお疲れ様です」
「コレコレコレーーー!!! ちなみにおいくらでしょうか?」
「1万円です!」
「GOAL!!……このお給料は、旬の魚で握られたお寿司に使わせていただきます」
「ウチはアルバイトは募集して無いので、一日分に換算した金額になります。ちなみに、高卒の初任給で月23万円程です」
「めっちゃいいじゃないですか。資格もいらなくて僕みたいな人でも働けるんですもんね! やる気次第で人生逆転あるな……」
「是非お待ちしております! 目指すは社員旅行で家族込みのハワイ旅行です!」
「その時だけまた呼んでください」
と、言うわけで手探りではありますが楽しい職業体験が終わりました。
最後に一日体験して気づいたことを書いておきます!!
・応募資格は素直に学ぶ気持ちと運転免許だけ
その他にも高い所が好きだったり、細かい作業や物作りが好きな人は向いてるそうです
・マスターするまでの道のりは長い
水の流れを掴むのに8年ほどかかるそうです。優しく教えてくれるので頑張りましょう。手に職をつけるのってこれからの時代、大事です!
・社員の距離感が最高
現場仕事って少し怖い印象があるかもしれませんが、程よい距離感でみんな仲がいいです。若い人が多いから?
・詳しいことは本を買ってみよう
森さんの自伝である「日本全国 雨ニモマケズ」、Amazon等で買えるので是非お買い求めください。森社長、これでいいですか?(おみやげとしてもらった煎餅で買収されました)
今回体験させてもらった『森建築板金工業』さんでは、素直で元気な職人を募集しています! もちろん未経験可です! これは本当のやつね!
気になった方は↓こちらから連絡してみてください。
住所|〒635-0002 奈良県大和高田市土庫2-4-28
以上、みくのしんが体験させていただきました。現場からは以上です!
↓↓↓この後は画像ギャラリーでお楽しみください↓↓↓
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