「大阪のおばちゃん、めっちゃ飴くれる」は幻想。詳しい人に聞いた

2019.05.24

「大阪のおばちゃん、めっちゃ飴くれる」は幻想。詳しい人に聞いた

大阪といえばたこ焼きにお好み焼き、関西弁……そして大阪のおばちゃんといえば、「飴ちゃんあげる!」と言いがちなイメージがあります。しかし、そのイメージが本当なのか、大阪城公園で実際に調査しました。さらに関西学院大学で現代民俗学を研究する島村恭則教授に話を聞くと、驚きの結果が判明……?!

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はじめまして!大学生ライターのコフンねこです。

山形県出身で、かれこれ大阪に住んで2年になります。それでも大阪って不思議なことばっかりなんですよ。

 

大阪「新世界」の風景

 

例えば関西弁

 

「コレなおしといて!」と言われ、「どこか壊れてるのか……?」血眼になってそのモノを見つめていたら実は『なおす=片づける』

「コレほかしといて!」って言われてそのまま放置していたら『ほかす=捨てる』

全然わかりません……。

 

それから、大阪の人はエスカレーターで右に立ちます

大阪の人しかいないようなスーパーとかなら問題ないのですが、駅や空港や観光地では大阪人と他地域の人でジグザグに並ぶので大変不便なんですよ……。

 

そんな大阪の文化の中でも、とりわけ不思議なのがコレ。

 

大阪のおばちゃん、めっちゃ飴くれる。

 

大阪のおばちゃんが「あんたどっから来たん? 飴ちゃんやるわ!」とか言って飴を渡してくれる光景、テレビなどでもよく目にしますよね。

 

世間一般でも「飴と言えば大阪」という漠然としたイメージが植え付けられている気がします。大阪独特のコミュニケーション=飴ちゃんみたいな。

 

したがって、今回のテーマはこちら……

 

 

おばちゃんに直接聞いちゃうのが一番早い!?

取材を始めたのはちょうど桜のシーズン。桜の名所に行けば、お花見のお菓子として飴を持ち歩いているおばちゃんにたくさん出会えそうだな……。

 

というわけで、桜が満開でお花見シーズン真っ盛りの大阪城公園にやってきました。

 

お花見に来た大阪のおばちゃんに、

「飴持ってますか?」
「どうして持ってるんですか?」
「誰かに渡すことはありますか?」

と尋ねていくぞ……!

 

ノリが良すぎる3人組のおばちゃんに聞いてみた

「お姉さま方って飴持ってます??

「お姉さまってあんた、私らもうおばちゃんやで!ほんで私、飴ちゃん持ってるわ! 大阪のおばちゃんはみんな持ってんねん!

「私持ってへんで」

「あんたうそやろ、みんな持ってるもんやねん……(以下略)」

「あーみなさん、落ち着いてください。それって、なんで持ってるんですか……?

「喉の調子悪なったら舐めるためやな」

「せやせや」

「あんた持ってへん言うとったやろ!」

「あのー……誰かにあげるためとかじゃないんですか……?」

「そら持ってたらあげるときもあるけど……ほい、兄ちゃん持って行き」

「あっ、ありがとうございます」

「兄ちゃん大学生なん?私らの孫はもうみんな大学卒業してもうたわ」

「せやで、私のとこはみんなええとこ就職してな、長男は銀行やろ、次男は航空会社やろ、ほんで……(以下略)」

「……(コレ立ち去れないやつだ)」

 

このほかにも、スポーツジムに通うおばちゃん、大阪城案内ボランティアのおばちゃん、写真撮影に勤しむおばちゃん……などなど、たくさんの大阪のおばちゃんから話を聞くことができました。

 

取材を終えた私の手の中には、たくさんの飴ちゃんが

 

その数なんと、20個!?

 

16人の方にインタビューしたので、一人につき一つ以上飴を渡してくださった計算になります。思わず満面の笑みに。

 

おばちゃんたちが飴を持ち歩く理由とは?

と、ここでおばちゃんたちへの突撃インタビューの答えをまとめてみるとこんな感じに。

 

あれあれ?

 

たしかに飴ちゃんを渡す機会もそこそこあるようだけど、大阪のおばちゃんが飴を持ち歩いている理由の大半は「自分の喉の調子を良くするため」みたいです。

 

先ほどの一連の会話ですでにお気づきの通り、大阪のおばちゃんはめっちゃしゃべります

 

大阪は江戸時代以来の商業の街。経済的な交渉の中で、大阪の人は積極的に喋りまくる必要があったとよく聞きますよね。

だからこそ、現在でも大阪のおばちゃんは自分の喉を潤すために飴を持ち歩いているのでは……?

 

そして、そんな飴を「渡す」。これは他人の喉を気遣う行為なのかもしれません。

もしかすると、「飴ちゃん」は商業文化に起源をもつ大阪特有のコミュニケーション方法なのかも?

 

ということで、フィールドワーク結果から浮かびあがった仮説がこちら。

 

 

民俗学の先生に聞いてみた

「おばちゃんが飴を持ち歩き、そして時折他人に渡す行為は商人文化由来の大阪特有のコミュニケーション方法」

フィールドワークから推察される仮説は、果たして正しいのか?

 

答えを確かめるべく、関西学院大学で現代民俗学を研究されている島村恭則(しまむら・たかのり)教授にお越しいただきました。

 

話を聞いた人:島村恭則さん

1967年、東京生まれ。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科文化人類学専攻単位取得退学、博士(文学)筑波大学。現在、関西学院大学社会学部・同大学院社会学研究科教授。専門は現代民俗学、ヴァナキュラー文化研究、世界民俗学史と民俗学理論。近年は世界民俗学史をふまえた民俗学理論の研究をなさっている。

 

「先生は大阪でおばちゃんに飴をもらった経験はありますか?」

ないです

「あれ、ないんですね……。そういった風習が大阪にあるのはご存じですよね?」

「たしかにメディアでは大阪のおばちゃんが飴を渡してくれるとかいう話はよく目にするけど、ああいう類の大阪文化ってのはメディアが作り出した神話ですよ」

「えっ!?」

「例えば東北地方とかでも“おばちゃんから飴をもらう”ってことはある。つまり、どの地域でも女性のカバンの中には飴やガムやお菓子が入ってるんですよ」

「言われてみるとそうですね……!」

 

 

都市と地方の物々交換

“飴を渡す、もらう”のは全国どこでもあり得る話なんですね」

「そうなんです。物々交換を介したコミュニケーションは色々な社会で行われます。例えば君は、地元の山形でご近所さんから漬物や野菜や果物なんかをもらった経験があるんじゃないですか?」

「はい! 確かにありますが、何か関係があるのでしょうか?」

「日本の地方のようなみんなが顔見知りの小さな社会では、物々交換にあたって野菜果物などが選ばれるんです」

「確かに、サクランボでっかい白菜をご近所さんからもらったことありました」

 

実家でご近所さんからいただいたサクランボ

 

「じゃあ逆に、大阪ではなぜ飴なんだ、と思いませんか?」

「都市だから、でしょうか」

「そうですね。1920年代に、大阪が世界で第6番目の人口を誇った“大大阪(だいおおさか)時代”がありました。産業が勃興しつつあった大阪に西日本各地から大量の労働者が押し寄せた結果、とんでもなく大きな都市になった時代です」

「世界第6位!!?? 大阪にそんな時代が……」

「その時にやってきた大量の庶民たちが、今の大阪の習慣を作り上げたと言っても過言ではありません」

「ということは……”商人文化”よりもむしろ”庶民文化”であると」

「そうです!よく“大阪の商人文化”と言われるけど、商人文化は基本的に江戸時代の「船場」の文化。大大阪の庶民文化とは別のものです。大大阪時代以降、庶民同士、大量の他者と触れ合う機会があったから、 コミュニケーション技法が発達したわけですよ」

「大阪のおばちゃんがよくしゃべる、のイメージもそこからきているんでしょうか?」

「そうそう。つまり、大阪のおばちゃんが飴を渡すのは、そういった“都市におけるコミュニケーション技法”のひとつなんです」

「なるほど! 大阪だから、ではなく都市だから、なんですね」

「既知の間柄で成り立つ地方のムラ社会と違って、都市では次に接する相手が誰なのか想定しにくい。だからたまたま持ち歩いている飴がとっさにコミュニケーションの小道具として用いられるんです。大阪だから飴、というよりもむしろ『都市と地方の違い』と言えますね

「新しい発見でした……!」

 

じゃあ、なんで『飴ちゃん』って呼ぶの?

「ちなみに、大阪のおばちゃんが飴のことを“飴ちゃん”と呼ぶのはどうしてなんですか? 飴ちゃんって呼ぶのは大阪だけな気がします」

「○○ちゃんとか◇◇さんとか、『ちゃん付け』や『さん付け』をすることによって自らの生活世界に取り込むっていう習慣が大阪にはあるんですよ。あと大阪の人は省略するのも好きなんです。なんかあったかな……」

「マクドナルドのことをマクドって呼んだりとか、USJのことをユニバって呼んだりする……とかですか?」

「そうそう! 自分のモノにするやり方が『ちゃん付け・さん付け』『省略』。飴の場合も、『ただそこに存在している飴』ではなくて、日常生活の世界の『飴ちゃん』にする。つまり自分の世界への引き込み方が上手だって話ですね」

「身近なモノをさらに身近にしていく感覚、よくわかります。大学でも研究に使う道具をちゃん付けや省略で呼びますもん」

「こういう部分も先ほど述べたコミュニケーション技法のひとつです」

「大阪特有の呼称に、そんな背景があったとは。すると、“大阪の飴ちゃん文化は江戸時代の商人文化に由来する”という仮説は間違いなんですね……」

「はい。現在の大阪の庶民文化の大半は、大大阪の時代に都市として発展していく際に労働者の多く住む下町で生まれたものです。それがメディアで江戸時代の商業と結び付けられて強調され、今の大阪に対する独特のイメージができあがってる」

 

大阪の古い街並みが残る下町の風景(中崎町)

 

「お話を聞いて、“大阪の文化”というコトバが独り歩きしているような印象を受けました」

“大阪”と言っても、大阪のどのあたりなのか、いつの時代のことなのか、どの階層なのか、によってその文化は多様です。飴に関しても、それ以外の事柄についても、『大阪の文化』とひとくくりにしてしまうのはいささか乱暴なように思います」

 

 

おわりに

大阪の飴ちゃん文化について調べてみると、驚きの事実が判明しました。

結論としては……

 

 

『大阪のおばちゃんが飴ちゃんをよくくれる』のは確かですが、それは他の土地でも同じなのかも。

 

おばちゃんから「何か」をもらった経験、お持ちではないでしょうか?

皆さんの地元でも、ぜひ調べてみてもらえると嬉しいです。それではまたー!

イーアイデム

この記事を書いた人

コフンねこ
コフンねこ

古墳が大好きすぎて山形県から大阪の大学に進学した現在21歳の大学生。ライターやってます。得意なジャンルは街歩き・民俗・歴史・電車・料理・仮面ライダー、その他諸々。運営サイト→https://www.ourlocal-info.com

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