こんにちは、佐藤エイと申します。
突然ですが皆さん、こちらの曲に聴き覚えはありませんか?
YouTubeやTikTokなどでめちゃくちゃ使われているフリーBGMなので、どこかで耳にしたことがあるのではないしょうか。
今や多くの人が手軽に動画を作れるようになり、無料で使える音源の需要が高まっていますよね。
でもちょっと気になりませんか?
この曲がどれだけ使われても、作曲者に使用料が入ることはないんですよね? じゃあどうやって食べてるの? 儲ける仕組みはあるの? まさかボランティアってことはないだろうし……
というわけで今回は―
YouTubeチャンネル登録者数24.7万人(2024年5月時点)『騒音のない世界』を運営し、フリーの音源を制作しているbecoさんにお話を伺いました!
beco
音楽クリエイター。音楽プロジェクト『騒音のない世界』を運営し、作曲・演奏・録音・ミックスなどすべての制作工程を一人で行う。YouTubeチャンネル登録者数24.7万人(2024年5月時点)
どうやって収益を得ているの?
「はじめまして! 普段から作業用BGMとして曲を聴かせてもらってます! 先日も新曲を出されていましたよね?」
「そうですね。今は月1で新曲を出してます」
↑こちらは2024年4月の新曲です
「それだけのペースで作られてるってことは、今はもう作曲1本で活動されてるってことですか?」
「はい。曲のサイト自体は15年以上前からやってたんですが、3年前に会社勤めを辞めて、今は作曲だけで生活してますね」
「つまり3年前ぐらいに採算の目処が立ってきた、ということですか?」
becoさんの作業環境
「そういうことになりますね。もともと収益化を目指して活動してたわけではなかったんですけど、やっているうちに稼げるシステムみたいなのが世の中にできてきたといいますか」
「ああ〜確かに。クリエイターが儲かるシステムができ始めたのって割と最近ですよね。昔はみんなタダでやってた気がする。ちなみに、具体的にはどういう仕組みで収益化しているんですか?」
「僕の場合はストリーミングがほとんどで、YouTubeとサブスク系の『1再生で〇〇円』みたいなやつで収入を得ています」
「へぇ〜。その仕組みで、会社勤めされてた頃と同じくらい稼げているってことですよね?」
「そうですが……お金の話すごいグイグイくるな……」
「いえ、クリエイターの人には儲かってほしいんです!!! そしたら活動を長く続けてくれたり、新たな才能が参入したりして、私たちが良い曲に出会う確率も上がるわけですから」
「まあ、働いてた頃よりよりちょっと稼げてる感じですね」
「じゃなきゃ会社辞められないですもんね。夢のある話だな〜!」
フリー配信のきっかけは?
「そもそも、どうして楽曲をフリーで配信しようと思ったんですか?」
「うーん。はっきりとしたきっかけがあるわけではないんですが、実は中高生の頃にフリーゲームを作ってたんですよ」
「え!? すご!」
「ゲームを作るのってフリーBGMをめちゃくちゃ使うんですよ。みんながフリーの音源を探してて、そして当時だと作る人はタダが当たり前の環境で。だから自分が曲を作った時も、そもそも『有料で配布しよう!』という発想がなかったですね」
「でもフリーで提供すると色々と権利関係でややこしいことになりませんか? 例えば……そうですね、知らない誰かが『このフリーBGMに歌を入れて販売したい』と言ってきたとしたらどうしますか?」」
「いや、別にOKですよ」
「え、いいの!? その歌がいくら売れてもbecoさんには1円も入ってこないんですよ!?」
「問題ないです。ただしいくつか条件はあって、例えば今はサブスクへの登録はNGです」
「サブスク登録はダメと……どうしてですか?」
「いま”音楽検索“って仕組みがありまして。『Shazam』ってご存知ないですか?」
「あ、知ってます! 街中で流れてる曲とかを知りたいときに、スマホのマイクにそれを聴かせると曲名やミュージシャンを教えてくれるアプリですよね」
「そうそう。そういった音楽検索の仕組みは色々あるんですが、同じ音源を使っていると検索結果が混乱してしまうんです。中には楽曲がYouTubeの動画で使われているのを検知して動画の収益を取り上げるものもあるので、そうすると僕の曲を使ってくれている動画の収益がサブスク登録した人にいっちゃう可能性もあるんです。それはダメです」
「うわ~フリーBGMならではの苦労というか、起こりうるトラブルという感じですね」
「この間も悪意のある人が勝手にサブスク登録してて困ったことがありましたね。海外の人だったので対処が大変でした」
「ていうか、そういうことをこの記事で言うとマネする人が出ちゃうのでは?」
「今は僕みたいなフリーBGM作家の権利関係を管理してくれる会社もあるんですよ。先ほどの海外の人とのトラブルも、そこを介して解決してもらいました」
「へー! そんな仕組みまであるんだ。今は無法なやり方に泣き寝入りしなくていいんですね。それにしても勝手にサブスク登録ねぇ……」
「…………ん?」
「……それってつまり、その音楽検索の仕組みでbecoさん自身が収益化しちゃえばボロクソに儲かるということでは?」
「まあ、そうなんですがそういった方法で収益化する予定はないです」
「な、なぜ!?? ボロクソに儲けたら、毎食デザートにハーゲンダッツのアイスを食べたり、同じズボンの色違いを買いまくったりできますよ!??」
「う~~~~ん……でもそれで、使用者の動画収益の一部が僕に入ってきたら、『無料で使用できる』とはちょっと違いますよね。スタンスが途中で変わると、いま曲を使ってくれている人たちも不安になるし、そういうことはできるだけやりたくないですね」
「あくまでもフリーで使ってもらうことを大切にされてるってことですね」
「はい。まあ……いつか緊急で大きなお金が必要な時には……いや、嘘です(笑) フリーで使用できることを変更するつもりはないです」
「ありがたい……! いま本当に大勢の人が『騒音のない世界』の曲を使っているという状況だと思うんですが、それについてはどう感じていますか?」
2024年5月時点でYouTubeのチャンネル登録者数は24.7万人!
「純粋に嬉しい気持ちが大きいですね。自分が全然知らないところで『お前の曲使われてたよ』って連絡もらったりしたときとか、ああ広まってるんだなって思います」
「特に『これに使われて嬉しかった!』っていうものはありますか?」
「もちろん全部ありがたいですが、僕は水族館が好きなので『水族館のショーで使わせてください』と連絡が来たときは嬉しかったですね」
「水族館のショー!いやぁ本当に使用場面が幅広いですね!」
「実際に水族館に行ってみたときは、タイミングが悪くてそのショーに遭遇できなかったんですけど、SNSに動画を上げてくださっている方がいて、それで確認できました。いや〜感慨深かったですね」
楽曲制作の裏側について聞いてみた
こちらも440万回以上再生されている人気曲
「曲を作る段階で、フリーBGMとしての使いやすさは意識しているんですか?」
「いえ、僕はあくまで1つの曲として作ってます。BGMっていうと”主張しない音楽“みたいなのを想像する人も多いんじゃないかと思うんですけど、単体でちゃんと聴ける曲を作ろうという気持ちですね」
「確かに。私も曲単体で作業のお供として楽しませてもらっています」
「ただ、少し余白を残すことは意識していますね」
「余白?」
「BGMって歌詞がないじゃないですか。こちらで明示できるのはタイトルとサムネイル画像だけなので、そこで細かく語りすぎないことで、なんとでも受け取れるようになるかなと思っていて」
「なるほど。提示しすぎると特定のシーンでしか使えなくなってしまいそうですね」
「なので、あまり限定的にしすぎないようにしていて。僕の音楽と他の人のものが合わさった時に作品としてより面白いものが生まれるということはあるのかなと思っています」
「数々フリーBGMサイトがある中で、『騒音のない世界』がこれほど広まった理由はなんだと思いますか?」
「うーん、何だろうな……バンドサウンドでやっている人があまりいないのはあるかもしれないですね。僕も基本的には打ち込みですけど、ギターは自分で弾いてるんですよ。その方が細かいニュアンスとか出しやすいですし」
「それにしても、ギターめちゃくちゃお持ちですね。儲かってますなあ……」
「いやいやまあまあ(笑)……最近まで1本しかなかったので、より良いものを作るために機材に投資したんですよ」
「個人的に『騒音のない世界』さんの楽曲は聴いていて情景が浮かぶことが多くて、そこが好きだなぁと思うのですが、テーマを決めてから作るのと、メロディーから膨らませるのとではどちらが多いですか?」
「両方ありますね。適当にギター弾いてたらフレーズができて、そこから膨らますこともありますし」
「ギターの経験がないので、”適当に弾く“っていうのが全然想像できないですね」
「そこで浮かんだものをワンフレーズでもボイスメモとかに録っておいて、貯めておいてって感じです」
「ネタのストック的なことですよね」
「そうですね。フレーズのストックのほかにイメージのストックもあって、そこから作ることもありますし、このフレーズとこのイメージ合いそうだなと思ったらドッキングさせてみたり。そうやって作ってます」
「どんな時にアイデアが浮かびやすいですか?」
「お風呂に入ってるときとか……」
「それってやっぱあるあるなんだ」
「寝る直前の布団の中とか……」
「それもあるあるなんだ!」
「毎月投稿となると、いまめちゃくちゃ曲数あるんじゃないですか?」
「しっかり数えたことないですけど、100は超えてると思います」
「素人考えですけど、100もあると“似ちゃったな”と思うときってあります?」
「それはめっっっちゃくちゃあります。これ良いぞ!と思いながら作ってて、ある程度形になってから『あの曲のあそこと一緒じゃん!』って気づいたり。新しいものを作り続けるのはどんどん難しくなりますね」
「そんな中で、今後やっていきたいことなどはありますか?」
「色々考えてはいるんですが、歌ものをちょっとやりたいなと思ってます。とりあえずはボカロとかで……あとはやっぱり長く活動を続けたいですね。ありがたいことに多くの人に曲を聴いてもらえているので、頑張っていきたいですね」
「私もまだまだ『騒音のない世界』さんの音楽を聴かせていただきたいので、これからも陰ながら応援させていただきます! 本日はありがとうございました!」
「はい、ありがとうございました!」
まとめ
私たちが日々楽しんでいる動画を彩るフリーBGM……
こういう時代になったからこそ成り立つ仕事の、仕組みや裏側を知ることができました。皆さんが普段何気なく聴いているBGMに、耳を傾けてみるきっかけになれば幸いです!
協力:『騒音のない世界』