
若者が旅をするとき重宝するのが、ゲストハウス。ドミトリーに安く泊まれて、共有スペースで他の旅人との交流もできる宿です。
古民家を自分たちでリノベーションして作るなど、DIY精神がベースにあるのも特徴の一つ。20年ほど前に日本で一般化したのち、2010年代には全国で急増し、旅には欠かせない場所となっています。
しかし今、全国で新たなスタイルの宿が増え始めているのをご存じでしょうか?
ゲストハウスやビジネスホテルともまた違う、第三の選択肢。適度なプライバシーとデザイン性があり、なおかつ、そのまちの魅力を“編集”して届ける「マイクロホテル」という形です。

なぜ今、馴染みあるゲストハウスではなく、数千万円という借金を背負ってまで、コストもリスクも高い「ホテル」を20〜30代ではじめるのか?
そこには「まちの日常を守り、雇用をつくりたい」というそれぞれの思いがありました。
ゲストハウスブームとはまた違う、今まさに生まれつつある「地方×マイクロホテル」の現象。山梨、愛知、長野でそれぞれマイクロホテルを営む3人と一緒に、生々しいお金と覚悟の話、そしてこれからの宿のあり方を考えました。
※この記事は2025年9/26に開催されたトークイベント「LOCAL HOTEL BROS.」の内容を元に再構成したものです。
<記事に登場する人>
中込勇斗(なかごみ・ゆうと)
大学進学を機に上京。複数の会社でディレクターとして勤務した後、2022年に独立し、飲食店や宿泊施設、セレクトショップなどの事業企画やブランドづくりに携わる。2024年に山梨へUターン。2025年9月、JR甲府駅南口から歩いて8分の場所に複合型施設「horn(ホルン)」をオープンし、1階に交流の生まれるダイニングバー、3階に宿を運営する。
飯田圭(いいだ・けい)
山梨県笛吹市出身。地域文化や地場産業に関心を持ち、銀行員として約5年間働く。中小企業の売上を上げるためのサービスや広報を考える行政コンサルへ、ノウハウを学ぶための転職にあたり岡崎市へ。岡崎で暮らしや商いの魅力を発信したいと思い「Okazaki Micro Hotel ANGLE」をオープン。宿を起点にまちの産業を存続するお手伝いもしている。
長崎航平(ながさき・こうへい)長野県上田市出身。生まれ育ったまちに何もないと感じていたが、全国を旅する中でそれが自分の考え方によるものだと感じるようになる。人口15万人ほどの城下町で、ミニシアターに独立系書店、銭湯に町中華や素敵な個人店があることに気づき、宿泊施設「ONYO Hotel and Lounge」を営む覚悟を決める。
聞き手:徳谷柿次郎
ジモコロ初代編集長。日本全国を取材して回っている。年齢的にゲストハウスのドミトリーがきつくなってきて、マイクロホテルの個室に助けられている。
地方の宿が変わろうとしている? ゲストハウスからマイクロホテルへ

horn(ホルン)を会場に座談会が行われた
──今日は、あえて地方でマイクロホテルをやっている3人、通称ローカルホテルブラザーズに集まってもらいました。さっそくですが、なぜみんなはゲストハウスじゃなくてマイクロホテルを選んだんですか?
長崎 僕自身、旅が好きで、ゲストハウスの廃材などを活かした温かい雰囲気や、常に誰かと交流できる場所も好きです。でも、圭さんが愛知の岡崎でやっている宿「ANGLE」がすごくいいなと思って、完全に影響を受けてます。
個室でプライベートが確保されていて、1階へ降りれば人との交流も生まれる設計。それに宿に関するデザインもつくり込まれていて、本当にかっこいいなと。
──ベタ褒め!


ANGLEの客室(写真上)とロビー(写真下)
飯田 うれしいですね。ゲストハウスは安さや交流に重きが置かれていて、旅人同士の偶発性という利点がたしかにあります。一方で、マイクロホテルは利用する側が交流する・しないを選択できたり、狭くてもいいから一人で落ち着きたいという人にぴったりだと思うんです。
長崎 旅をしている時、ちょっと前までは地方に行くとアットホームなゲストハウスか、無機質なビジネスホテルしかなくて。この中間の選択肢があればいいのに、と思ってたんですよね。
中込 hornの場合、価格とクオリティのバランスはビジネスホテルと高級ホテルの間くらいをイメージしています。せっかく旅行に来たからビジネスホテルでは味気ないけど、高級ホテルに泊まるのもなんか違うなという人に選んでもらえたらと。
そこに加えて、宿のオーナーの個性が表れたこだわりが感じられること、そしてラウンジ(飲食)というコミュニケーションの場があるというのが、僕の考えているマイクロホテルとしての新たな価値提案ですね。
──なるほど。色んな意味でマイクロホテルは第三の選択肢なんだ。
飯田 SNSが発達しすぎて、常時交流すること自体を負担に感じる人も増えていると思うんです。そういう意味でも、交流したい人もそうでない人も宿泊しやすい機能を備えているマイクロホテルはきっと需要があると思っていますね。
マイクロホテルで生まれる『まちとの接点』

中込 hornでは「まちとの接点」が生まれる場所であることもかなり意識してます。
──まちとの接点というと?
中込 旅をしていておもしろいのって、ネットの検索上位に出てくる誰もが行くような観光地をまわることではなく、その土地の風土や文化から生まれた、そこにしかないものに触れられる瞬間だと思うんです。その季節だけその地域の食卓に並ぶ食材とか、地元の人しか行かない銭湯とか、ディープな飲み屋とか。
でも、初めてその土地を訪れた人がいきなり、ローカルの生活文化の深いところに辿り着くのはなかなか難しいと思っていて。そうしたときにhornは、旅人とそのまちをつなぐまちの案内人のような役割を担えたらと思っています。
そういえば、圭さんは「暮らし観光」という考え方を大切にしながら宿を運営していますよね。
──たしか「暮らし観光」って、名所旧跡や温泉を巡るような観光じゃなく、地元の人に愛されてるお店や食べ物、文化とか、その地域ならではの暮らしを楽しむ観光みたいな意味だよね。
飯田 はい。僕が宿をやっている愛知県の岡崎は、もともと観光地ではなくて、インバウンドのお客さんもいない。でも城下町で、100年続く事業者や昔からやっている個人店も多い。また、ここ近年では、空き家を改装してできた個性が光る新しいお店も増えています。徒歩で歩くと、すごく面白いまちなんですよね。


岡崎の街並み(写真上)/ANGLEではまち歩きツアーを開催したり、まち歩きマップを作って宿泊客に配布したりしている(写真下)
──昔ながらの店だったり、クセの強い個人店だったり、いろんなお店があるよね。城下町だから、まちが豊かでハードの強さも感じる。
飯田 最近は長年営業していたお店を新しい形で引き継ぐ人もいたり、老舗と若い人のお店が共存したり、新しいスタイルが見られるようになっていて。いわゆる観光地ではない、暮らしから生まれた岡崎の面白さをANGLEを通じて感じて欲しい、そして残って欲しいと思ったのが「暮らし観光」を提案するようになった理由のひとつですね。
──まちを知ってもらうための宿ってことだね。長崎くんも、圭くんの人やまちを大事にする感覚は近いものがある?


ONYO(オンヨウ)のロビー(写真上)/客室(写真下)
長崎 はい。旅をしていると、どのまちにも残ってほしいな、続いてほしいなと思うようなお店や景色があって。
土地の人からすると日常なんでしょうけど、外の人間から見るとすごく魅力がある。そういうものって、まちに一定数の人がいるから、その機能も維持されてるじゃないですか。つまり、まちにちゃんと人が来て、経済がまわることがその日常を守ることに繋がるんですよね。
僕の地元である長野の上田にはミニシアターや独立系書店、銭湯や町中華があるんですが、15万人規模のまちでこれだけ揃っているのは珍しいんです。これらのお店一つひとつを残していきたいから、宿という形態を選んだまであります。

──老舗喫茶も銭湯もいつまで続くかわからないし、閉店するケースも増えてるもんなあ。
長崎 まさにそうで、上田のとある銭湯は、この先長く続けるのは厳しいという噂も聞いたことがあります。
飯田 そのときは、長崎くんが継業しちゃったりしてね。
長崎 あり得るかも……(笑)。僕の宿ではバスルームを使うんじゃなく、まちの銭湯や温泉に行ってほしいんです。そういう体験をきっかけに、継業する人が生まれるかもしれないですし。
──マイクロホテルって、そんな風にお風呂もコミニュケーションも飲食も宿だけで完結させずに、まち全体を使ってもらう設計も特徴かもしれないね。
中込 僕のやっているhornでは、1Fにダイニングバーをつくりました。県外や海外から訪れた人と山梨に暮らす人のどちらにも使ってもらうことで、普段出会うことのない価値観や文化がが混ざりあう場所にできたらと思っています。


昼はランチ、夜は山梨ワインや地元の食材を使った料理、つながりのある作り手のクラフトドリンクなどを提供するhorn1階のダイニングバー(写真上)/幅広い世代の人たちが集う場となっている(写真下)
──飲食機能を宿につくるという点では、さっきの長崎くんとは違う発想だよね。
中込 hornのある山梨は、山に囲まれた立地で、他に比べて外との交流が生まれづらい課題も感じていたんです。特に、甲府は新宿から特急を使えば1時間40分で来れる山梨の玄関口。首都圏や近県の人が定期的に来てくれる場所になれば、まちもにぎやかになっていくんじゃないかなと思いました。
──マイクロホテルはいろんな形で、まちの「入口」になっているんだね。
月30万円の返済。借金してまで宿をやる覚悟
──圭くんはANGLEを5年やってきて、今度は岡崎市の中山間地域で新しく宿をやるんだって?
飯田 はい。地元の酒蔵さんと一緒に、築100年の古民家を改装して一棟貸しの宿をはじめます。


創業195年の柴田酒造場とともに、ANGLEが2026年1月に開業したの一棟貸しの宿「脈 MYAKU」
──酒蔵さんと一緒に! 新しい宿をはじめる理由が気になるな。
飯田 ANGLE単体だと売上がトントンというのもありますが、中山間地域で宿をやるのがおもしろそうっていう気持ちが大きいですね。実は岡崎市は6割ほどが山間地域で、岡崎にいるうちにそこの生産地の側面の豊かさも感じるようになりました。だから、まちと里山の両方を楽しめるのが理想だなって。
それに一緒に組むのは地元の酒蔵さんなので、地域の人たちとのやり取りはスムーズに進めてくれます。おかげで僕の方は宿のコンセプトや内装、ソフト面にかなり集中できました。
──なるほど。全国的にも、より自然の中でお店や宿をやりたい人が増えている印象はあります。まちの良さもあるけど、もう少しコストを下げて経営したいとか。お金周りはけっこう大変?
飯田 そうですね。築100年ともなると建物に不具合が多くて……。最初の見積もりから800万円くらい上がっています。
──それはデカい。
飯田 でも大変なのはこれからですね。
──新しい宿も大変だと思うんですけど、ANGLEをはじめた時に借りたお金の返済は?
飯田 返済期間7年のうち5年経ったので、あと2〜3年で返せるかなと。

──おお! ちなみに、毎月いくら返済してるのか聞いてもいいですか?
飯田 20万円ちょっとくらいですね。返済期間は7年か10年か選べたんですけど、10年にしておけばよかったなって思います(笑)。
長崎 僕は圭さんの半分、月10万円くらいの返済です。その分、期間は長くて10年のつもりです。キャッシュが増えたら早く返済したりする相談もできるので。
──賢い! 中込くんはどうですか? このhornのクオリティだと、めっちゃお金かかっていると思うんですが
中込 期間は10年で、返済額は月30万円くらいですね。うちは飲食と宿泊の2事業なので、他のお二人よりは大きい額ですね。
──この規模をいきなりやるのはすごいと思う。返済とは別に家賃も発生してるよね、立地もいいし。借入金額をみて震えました?

中込 覚悟してはじめたことなので、やるしかないなって(笑)。妥協せずにお店づくりをすることで、そのぶん価値を感じてくれる人がいると思うので、いまでも必要な投資だったと思っています。建築資材も高騰してますし、想定よりは大きい金額になりましたけど。
──ちゃんと覚悟を背負ってる。hornみたいな3階建ての建物だったら、テナントを入れて家賃収入を得ることもできると思うんですけど。
中込 もちろんそういう可能性もありますが、このhornにどんな要素があったらもっとワクワクする場所になるか。それを考えながら自分たちにとっても、まちにとってもいい使い方を考えていきたいですね。
──そこも妥協はしたくない。長崎くんは宿の開業で何が大変だった?
長崎 自分が本気でやるのは当たり前なんですけど、宿をつくるのに関わってくれる人の熱量をどう生み出すか、持続させるかが難しいですね。言ってしまえば、設計士さんからしたら数ある案件の一つかもしれないし。

ONYOのカフェバー
──人の協力を得るって難しいよね。どう共感してもらうかでもあるし。宿をはじめる際にクラウドファンディングもしてましたけど、やってみてどうだった?
長崎 クラファンするか悩んでいた時に「100%ポジティブな気持ちではじめられない」と相談したら、カッコつけすぎでしょって言われたんです。なんかそれを言われて全部吹っ切れた気がして、やりたいことがあるなら手段は選ばずにやるべきだと感じました。
──覚悟が決まったらプライドを捨てて動ける。自分を曝け出して、お願いしますって言えるようになったんだ。直接連絡もしたんでしょ? 何件くらいメッセージしたの?
長崎 全部リスト化して、300〜400件は連絡しましたね。ただ、クラファンで支援してくださる方の中には支援ではなく、ふるさと納税みたいにリターンが欲しい方もたくさんいるじゃないですか。そうなってくるとバランスが難しくなってくる。お得な宿泊券を増やしてリターンをリッチにしすぎても、あとで苦労するの自分ですから。
──そこのバランスは難しいなあ。僕もクラファンは何度か挑戦してるけど、自分の積んできた徳を切り崩していってる感覚もある。
飯田 今まで築いてきた関係性を駆使するような感覚になりますね。逆に支援してくださる方々の中には、手数料がもったいないから直接渡したいという方もいらっしゃって。この方法が本当に正解なのだろうかと感じてしまってはいますね。
──ありがたいけど、考えちゃうよねえ。

hornの客室
ローカルホテルブラザーズがまちにもたらす「雇用」と「編集」

──宿の仕組みでいうと、長崎くんはワンオペで回してるの?
長崎 そうですね。まずは一人でやってみようかなと。クラファンもしましたし、最初は僕に会いに来てくださる方も多いと思うので。でもどうやって宿を託していくか、任せていくかはいずれ考えないといけませんね。
──ゲストハウスもオーナー目当てで行く人は多いと思うけど、宿に立つことに縛られちゃうと、新しい事業をはじめるのも難しいってジレンマがある。そういうのも含めて、3人の10年後ってどうなっているんだろうね?
長崎 僕はとにかく宿をやりたい!ってわけわけではないので、できることがあればなんでもやりたいです。マイクロホテルはまちの暮らしの入口だけじゃなくて、働く人の入口にもなれると思いますし。
──さっき言っていた銭湯を継ぐ人とか。

長崎 それだけじゃなくて、上田の中で雇用をつくりたい気持ちもあります。まちに何にもないと思っていた当時の自分が「このまちもおもしろいな」と思える場所や、実際に働きたいと思えるような場所。そういう方向に興味があります。
──めっちゃいい志! 圭くんはどうですか?
飯田 僕も長崎くんと似ているんですが、地元の若い人を地域に増やしたいですね。でもそれはANGLEだけだと限界があるので、事業を少し広げないと。僕は今、ANGLEの現場にはあんまりいなくて、地域の事業者さんから仕事を受けたりしています。
──そうなんだ! 宿業を飛び越えてクライアントワークを。
飯田 地元の名産である八丁味噌のツアーをやったり、160年続く太鼓屋さんや福祉事業者のブランディングの仕事をしたり。そういう仕事が増えてるのは、宿をやりながらまちの発信をしていた成果でもあると思います。
なので、より地域の事業に関わる会社になって、宿以外の軸で広義な編集と発信をして関わる人を増やしたいです。
──まさに、まちの編集者だね。
飯田 そういうことにチャレンジしていけば、必要なスキルが身についていくのかなと。

──内装やコンセプトまでこだわりきって宿をつくるって、すごく編集的な行為だと思います。
飯田 ANGLEでは地元の事業者の方たちとオリジナルのマットレスをつくったり、照明をつくったりしているんですけど、それがまちの新しい仕事に繋がっている気はします。
中込 僕は、宿という業態自体が「生活の編集」という性質を持っているなと思っていて。言うなれば、衣食住という暮らしのあらゆる要素を備えた総合格闘技。
なぜこの食べ物や飲み物を提供するのか、部屋にはどんな家具や小物を置くのか、まちのどんな側面に焦点を当てて伝えるのか。そういった暮らしに関わるあらゆる物事を、自分たちなりの価値観で編集して、お客さんに提案していけたらいいなと思っています。
──この3人は編集的な脳みそでまちと外から来た人を繋いでいるんだね。つねに新しい人と顔を合わせて、おせっかいを焼いたり、時には心配されたり。毎日やることもいっぱいで、感謝もされる。ちゃんと人と向き合うことで得るものは大きいと思います。
今の時代、デジタルじゃないところでお金を稼ぐ、覚悟を決めたローカルホテルブラザーズ。僕はずっと応援してます!
おわりに

地方でお店や文化、機能を活かしながら交流する場「マイクロホテル」。そこにはゲストハウスのような旅人同士のコミニュケーションから一歩外へ踏み出し、まちを知るきっかけがありました。
あえて宿だけでは完結しない設計でまちを歩いてもらったり、また反対に、飲食機能を設けて地元の人も集う場にしたり。地域を好きになる入り口には、やっぱり人が大切です。ここで出会える人たちとはいいご縁がありそう!
何より、この常時接続の時代だからこそ繋がる・繋がらないを選択できる気楽さもあります。
いま地方で、借金という本気の覚悟を背負って宿をはじめる若者とそのまちを応援しませんか? 宿やまちに興味のない方も、改めて自分の生活に必要なものを考え直すきっかけになるかもしれません。
<取材協力>
horn
https://www.instagram.com/horn_kofu/ANGLE
https://www.instagram.com/microhotel.angle/
企画:徳谷柿次郎
構成:かせしょうた
編集:友光だんご
































































