
こんにちは、編集者の徳谷柿次郎です。
ジモコロでローカルのおもしろさに目覚めて、長野で編集の会社を続けて丸9年……。楽しい仕事に巡りあえているけれど、ときどき胸の奥にモヤモヤが湧いてきます。
そもそも2015年立ち上げのジモコロが続いているのが奇跡で、個性的なオウンドメディアの閉鎖は続いています。SNSは瀕死状態で、シェアの概念はどこへやら。お金目当ての偏った情報とAIの偽情報にまみれていて、編集者として次の一歩を探しているのが正直なところです。
おれたちはこのまま食っていけるのか!? この暗いダンジョンみたいな時代をどうやって歩いていけばいいのか。
そこで今回訪ねたのは、2025年で一番仲良くなった京都の編集者・光川貴浩くん。通称“みっちゃん”です。経営者=編集者の稀有な孤独を共有できる数少ない友人。

京都の路地マニアであり、人文領域やアート、カルチャーを反復横跳びするような、鋭敏な感性を持った人物なんですが、このご時世にSNSをほぼ使わず、ほぼ口コミ営業だけで、社員13名の編集会社バンクトゥを回しています。
仕事実績の一部を紹介すると、

スマホで事前に旅先の情報を調べやすい現代、本来、知らないものに出会うはずの観光が「答えあわせ」になっていることを憂いて、あえて曖昧なものも含め、地元の人がリアルに“噂”している情報を扱う観光メディアを、京都のホテルと立ち上げたり、

路地を人と人がつながるメディアと捉えて、京都の路地を会場にブックフェスや音楽イベントを開催したり(写真左:渡邉力斗、写真右:徳井蒼大)

全国的に増える空き家を、京都では「課題」ではなく「可能性」として再編集し、中古レコードをディグるように京都の空き家を“掘り出し物”として見立て直すメディアを京都市とともに企画・編集したり、

そして、いま絶賛編集中なのが、京都の独立書店・誠光社の堀部篤史さんらとともに進めている『京都ビザール』。観光という強い光の陰影の裏にある、京都を楽しむもう一つの眼”を開眼する一冊だとか
奇抜なPRを打つわけでもなく、派手な宣伝もしないのに、どうして彼のもとには人も仕事も絶えないのか。京都の路地の奥で、“これからの編集者の生き方”について話をしてきました。
対話から見えてきたのは「正解」なんかじゃなくて、古都の路地から社会を見つめ、手を動かし続ける真摯な実践者の姿でした。
話を聞いた人:光川 貴浩(みつかわ・たかひろ)
編集者・路地活動家。2012年にbank to LLC.設立。京都を拠点に編集を軸としたクリエイティブファームとして、都市におけるあらゆるコンテンツの発掘や発信を手がける。2008年より京都の路地めぐりに目覚め、本人いわく「Googleストリートビューより詳しくなった」。本業以外に、京都精華大学・京都芸術大学 非常勤講師、「まいまい京都」路地歩きツアー講師など。
14年目の「絶好調」が生まれた理由

柿次郎:今日はよろしくね、みっちゃん。って場所すごいな。コンテナの上。早速、バンクトゥ今年14期目とのことだけど、調子はどうなの?
光川:そうだね。絶好調。
柿次郎:景気のいい話! どれくらい好調なの?
光川:うちは5月末決算なんだけど、半期の時点で、すでに確定している仕事だけで去年の売上は超えてる。
柿次郎:すごいな。何があったの?
光川:キャッシュフローを見直したんだよね。そしたらピンチにならないやり方みたいなのがわかってきて。
柿次郎:ああ、お金の流れを把握するってことか。大事だよね。
光川:去年まで財務を別の人に任せてたんだけど、自分でやることになって。手を動かして数字を見ていくとやっぱ色んなことがわかってくる。おもしろい。だから14年目とは言っても、実質、経営者としては1年生だね。
柿次郎:ある意味新鮮な視点が持てたわけね。具体的には何をしたの?
光川:色々あるんだけど、まず着手金をちゃんともらうようにした。300万円以上の案件を受注するときは、着手前に基本、半金もらうって徹底して。
柿次郎:おれはそこまで徹底できてないな。勉強になる。
光川:うちの場合はさ、それで売上の立ち方が全然変わったというか。もともと後半に売上が集中する会社だったんだけど、前半にもちゃんと売上が立つようになって。それで、できることが結構変わったし、経営的な安定が14期目ではじめて見れそう(笑)。
柿次郎:それは経営者として本来やるべき仕事ができるようになったっていう?
光川:そうだね。前半にもキャッシュが入ってくると、人や事業への攻めの投資もできるし、経営者が現場に張り付かなくてよくなった。同時に、役員を決めて彼らに現場を任せるようにしたら、自分が外に出て営業できるようになった。
つまり、人と会うことが、感情労働を担う編集会社としての営業であり、会話の中から面白いアイデアが生まれるので、さらに仕事が増えるっていう好循環になったのかも。
柿次郎:なるほどな。
光川:あとはなんだろう、14期分の厚みというか、信頼してもらえるようになったっていうのもあると思う。うちはSNSをあまりやれていないんだけど、対面のコミュニケーションはけっこう大事にしてて。
柿次郎:じゃあ、口コミで仕事が来るんだ?
光川:ありがたいことにね。仕事の80%は京都ローカルの案件で、その多くが口コミや紹介ベース。自分がSNSとか得意じゃないってのもあるんだけど、そのための時間を使うんだったら目の前の人に時間を使う方が、京都では圧倒的に関係構築がしやすいし、そっちのほうが効率もよいのかな。
あと、口コミで仕事をくれた方が、なんて言うんかな、対等な関係で始められるしね〜。
柿次郎:ああ、確かにね。こっちから営業して仕事くださいっていうより、向こうから「よかったらやってくれませんか」って言われる方がお互いにフラットだし。
光川:うん。対等な関係で始まった仕事って、やっぱいい仕事になりやすいし、そうするとまた次にもつながっていくよね。手前味噌で恐縮だけど、そういう関係性の中で得られた信頼が雪だるま式に積み重なっていって、今があるような気がする。
京都で生き残るのは「クリエイティブ百姓」

柿次郎:今日はみっちゃんに生存戦略を聞こうと思ったんだけど、これまでの話聞いてると安泰だなって。
光川:いやいや全然。調子がいい時ほど、気を引き締めないと。だって一つでも納品が遅れたら一発アウトだから。
柿次郎:今どのくらい仕事を抱えてんの?
光川:会社としては大小60くらいのプロジェクトが同時並行で動いてるね。社員1人あたり最低5案件ぐらいは回してもらってて。
柿次郎:60⁉︎ それはすげえ……。
光川:1日に5件とか7件とかミーティングが入る日もあるのは、正直キツイ。しかもそのどれもが大事だし、顔の見える関係の仕事だからまったく気が抜けないっていう。

柿次郎:バンクトゥってさ、編集者だけじゃなくてデザイナーもエンジニアも抱えてるでしょ。お客さん的には、ワンストップでやってもらえるからありがたいだろうね。仕事が集まるのもわかる気がする。
光川:まあ、うちはクリエイティブ百姓だからね。何でもやらないと京都では生き残れない気もするし。お百姓さんが農閑期にわらじや蓑をつくってたのと同じで、ひとつのことだけでは食べていけないと思うから。
柿次郎:そうなの? 京都って都会やん。
光川:そうなんだけど、都道府県のGDP規模で言ったら全国でも10位以下だし。都市のマーケットの規模で言ったら福岡より小さい。歴史や文化はあるけど、経済的な意味で見れば、京都は地方という見方もできると思う。もちろん、ビジネスだけではない情報が流通するまち、ではあるんだけども。
柿次郎:なるほどな。東京みたいに大きい市場だと専門性で勝負できるけど、京都だとそうはいかないと。
光川:ただ、これは京都に限った話じゃないと思うけど、お客さんって何らかの課題を解決してほしくてうちみたいな会社に相談するわけでしょ。そうなると、やっぱりいろんなツールを組み合わせて応えられた方が強いんじゃないかな。
柿次郎:いろんな解決策を提示できるってことだよね。
光川:そう、町医者みたいな感じでね。お客さんが「こんな症状があるんです」「足が痛いんです」ってときに、じつはそれって「心臓の病気に由来があるかもしません」みたいなアドバイスができるのは、総合的な力があるからだと思う。
紙とかウェブとかSNSとかメディアの専門性に固執していないし、場合によってはイベントやワークショップをやりましょうって判断できるのが総合性をもった編集の価値というか。
柿次郎:なるほどな。そのためには確かに色んなことができた方がいいね。
光川:自分がメタ的に編集というものを捉えてるっていうのもあるけど、既存のいわゆる「メディア」にとらわれず、その時代にアクセスできるあらゆるツールを使い倒してこそ、本当の編集会社と言える気がしてて。
だからうちは紙もウェブも動画もECもリアルイベントも、必要だと思えることなら何でもやる。ローカルで食っていくためにも。
デザイナーもエンジニアも、全員が「編集者」の会社

柿次郎:その考え方って、会社を立ち上げた初期からそうだった?
光川:いや、初期は紙の編集をメインにやる編集者だけだったね。そういう時期が3、4年くらいあった。いわゆる「編集プロダクション」を名乗ってて。
柿次郎:もともとみっちゃんは出版畑の人だよね。
光川:そう。ありがたいことに、若い時に出版社の立ち上げも経験させてもらった。だからもともとは紙の編集で身を立てていて。けど、ちょうどウェブが来るっていう時代の中で、このままでいいのか?みたいなのは思って。2010年前後かな。
柿次郎:ああ、確かに紙からウェブに移行していく過渡期だったね。
光川:自分は本を作って人に情報提供してるのに、その情報を得てるのはウェブサイト、というパラドックスもあって。なんかこれ、浮気してるような変な状況だなと思った(笑)。
柿次郎:でも当時の印象として、紙の編集者たちは自分たちの領域に留まってることが多かった気がするんだよな。ウェブに移行するのって難しくなかった?
光川:わかるかも。出版社は版権というクローズでオンリーなものをビジネスの核にしているし、ウェブはオープン&シェアされるほどにお金になる。だから、似て非なるものだし、稼ぎどころが違うんだよね。でも、自分はそこに面白みを感じちゃったのかも。
で、一回、その背景になっている技術を知りたくて、自分でコーディングとかプログラミングを勉強して、デザインにも興味があったから、タダで仕事を受けたりしながら実績を作ってさ。気付いたら紙もウェブも横断するかたちでディレクションできるようになってた。
柿次郎:その柔軟性はすごい。
光川:ただ、どんな仕事をしていても、自分はやっぱり「編集者」だと思ってるんだよね。それを裏付けるものとして、ある時すごく腑に落ちたのが、梅棹忠夫っていう京都ゆかりの著名な学者が書いていたことで。
柿次郎:どんな?
光川:1989年の『情報論ノート:編集・展示・デザイン……』(中公叢書)っていう本の中で、「これからの技術者にはエンジニアというルビではなく、エディターというルビがつくべきである」というような表現をしていたんだよね。つまり、情報化社会では、技術職であるデザイナーもエンジニアも情報を扱うという点では等しく、本質的に編集的な行為をすると予言をしているんだよね。
柿次郎:なるほど、それは示唆深いな。
光川:それ以前の社会はモノとモノを集めて編んで、物質的な編集をすることで価値を生み出していた時代から、デザイナーもエンジニアも、あるいは営業だって、みんな情報を編集することで価値を生む時代に突入していったんだと思う。あるいは、情報がなくてもモノが売れた時代というか。
柿次郎:つまり、みっちゃんの会社は全員が編集者でもあると。
光川:結局、編集者だけが編集行為をするわけじゃないと思ってて。技術力と編集力、どっちもフル稼働させて、手と脳の両方で考えて楽しめるチームでありたいんだよね。
「路地的」の先へ
柿次郎:そもそもみっちゃんは会社のコンセプトとして「路地的」というキーワードを掲げているじゃない? あれってどういう意味なの?

光川:それは自分自身が2008年ぐらいから京都の路地めぐりにハマって、そこから考えるようになったことだね。路地って、表通りからちょっと奥に入った、人の視界に入りにくい場所でしょ。でも、そういう社会の裏側っぽいところに面白いものが転がっているっていう。

京都は「碁盤の目の町」といわれるが、よくよく目を凝らしてみると、毛細血管のように細い路地がひしめいている。その数、なんと約1万3000本!(写真:光川貴浩)
柿次郎:見過ごされがちなものに光を当てる、みたいな?
光川:そうなんだけど、単に「隠れた名店を紹介します」って話じゃなくて。そこにあるものが主体になって社会に働きかけることを可能にするっていう感じだね。それを自分としては、周縁とセンターの関係って言ってるんだけど。
柿次郎:なんか概念的でむずかしいな。
光川:ごめんごめん、ちょっと説明するね。たとえば今、銭湯って若い人たちに人気があって、一つのカルチャーみたいになってるでしょ。
柿次郎:確かに。おしゃれなサウナとか含めて盛り上がってるよね。
光川:でも15年ぐらい前は、今みたいな感覚で見向きもされなかった感じがあって、廃れていく一方の古い文化だと思われてた。実際、この15年ですごい数が閉業をよぎなくされたし。
けど、その頃に、京都で有名な銭湯ライターの林宏樹さんと「やっぱり銭湯って面白いよね」って思って、当時の京都にあった銭湯を一冊の本にまとめたんだよね。
柿次郎:そんなことやってたんだ。
光川:当時は、別にその本がなにかの役に立つとかは思ってなかったけど。
そのあと、風の噂で聞いた話として、いま京都の銭湯カルチャーを名実ともに復活させているゆとなみ社の湊三次郎さんが、はじめて買った銭湯本だったらしくて。彼が京都のサウナの梅湯を引き継いで銭湯ブームを起こしていった、そのきっかけが自分が編集した本だったって聞いた時は本当に嬉しかった。
それって、もともとは周縁だったものが社会的ムーブメントになって、ちょっとずつ社会の真ん中に動いたってことでもあると思うんだよね。
柿次郎:なるほど、そういうことか。
光川:もちろんそれは湊さんの努力と才能の賜物だし、情報だけを流通させている自分の功績なんてものはわずかだという自覚はある。けど、単なる細い道ではなく、表通りからは見えない「路地的な景色」というか、カルチャーの原石みたいなものがこの世の中にはたくさんあるはずで。
それを拾い上げて「こんな面白いものがまだあったよー!」って社会に訴えかけていくのが、編集という仕事の一つの醍醐味だと思ってて。
柿次郎:わかるよ、確かに一番気持ちいいやつだ。
光川:編集者って、情報を武器にして、社会の当たり前というかスタンダードだと思われている価値観の一部分を変えていく楽しみがあるよね。
ただね、この「路地的」っていう言葉、実はすごい諸刃の剣でさ。この5〜7年くらいのブランディングとしてはすごく良かったんだよ。ウェブとか本を作ってる会社が、ある意味謎めいた「路地的」というキャッチを掲げてるのは。
柿次郎:確かに印象には残るな。
光川:フツーのウェブ制作会社が「デザインで課題解決」とか「SEOが強い」とかみたいな言葉を並べるのが定石な中で、「路地的」ってわけわからんから、それがウケたんだろうね。実際、それで仕事をもらえたし。
でも正直言えば、それで食べさせられる人数は10人までだなと。一度、15人くらいの規模になったことがあったんだけど、仕事が足りなくなって経営的にはちょっと厳しくなった時期がある。
柿次郎:なんでだろう。
光川:やっぱり言葉として尖り過ぎてるんだと思う。たとえばさ、デザイン事務所でもコンセプトとか特になくて、真っ白なサイトに手がけたプロジェクトをただ並べただけのサイトを作ったりするでしょ。ああいう方が間口が広くて依頼しやすいんだと思う。
柿次郎:「路地的」ってキーワード、おれは好きだけどね。
光川:ありがとう。でも社員からしたら、「それ社長の趣味でしょ?」って思われてるかもしれないし、実際、半分はそうなんだけど(笑)。だから今、自分はそれに代わる言葉を見つけることが必要だなと思ってるところだね。「路地的」って言葉は、文字通り、マーケットのなかでは狭すぎたというか。次のフェーズにいくための言葉が必要な気がしている。
100年後に残す、「ドカ歩き」の記録
柿次郎:でも、わかるなー。おれも会社をやってるけど、「ローカル」っていう言葉を使い過ぎてそういうのしか興味ないって思われてる気がして。
光川:そうなんだ。
柿次郎:でもジモコロを通じて、全国のローカルに飛び込んで、その経験が自分のキャリアの土台にもなっている。だからどこまでこの言葉を使い続けるかみたいなのは考えることがあって。
光川:でも柿さんがやってきたことって、おれはやっぱすごいと思ってて。だって宮本常一みたいやん。
柿次郎:有名な民俗学者だよね。畏れ多いよ!
光川:彼は、当時権威的な存在だった柳田國男が「日本の田舎は貧しくて悲惨だ」みたいなイメージづくりに貢献してしまっている状況を踏まえて、「本当にそうなの?」とリアルを確かめるために全国行脚の“ドカ歩き”をしたわけですよね。じつは地方の百姓たちは貧困ばかりではなく、独自の経済圏やナリワイをもって豊かに生きていることを示したでしょ。
柿次郎:ドカ歩き(笑)。おれは地方で起きてる現象を知りたいっていう好奇心でもあったけど。
光川:それこそ、タケノコ農家の風岡さんだってそう。何もなさそうな地方でもこんなにやっていける可能性があるんだ、ってことを示してたじゃない。ああいうのが、おれは「路地的」だと思う。まさに編集の醍醐味を実践してるなと。
柿次郎:えー、そんなこと言ってもらえるなんて嬉しいね。
光川:そういう意味ではね、自分は、本当に本当にジモコロに嫉妬してたよ。全国規模でドカ歩きやってるの、うらやましいなって。自分のドカ歩きは京都の路地でしかできひんから。
柿次郎:でも、一つの土地に特化して掘り下げるっていうのもすごいことだと思うけどな。京都って歴史の深い特別な土地だし、絶対やり甲斐はあるはずで。
光川:そうだね。京都って本当に文化的に豊かだと思うんだよ。なぜかというと、かつて都(みやこ)だったから、ちゃんと文章が残ってるんだよね。つまり、「文(ふみ)」が残ってるから文化が残ってるし、当時の状況が辿れるんだよね。
柿次郎:その解釈、面白い。
光川:自分は路地のマニアとして京都で路地ツアーとかやってるけど、それができるのは中世の文献が残ってるからなんだよね。この路地が何て呼ばれてて、どういう人が住んでいたかがわかる“文”があるから、現代から語れるものがある。
柿次郎:なるほど、記録が残ってるって大事だ。

光川:だからジモコロのドカ歩きの記録は、貴重な文献として絶対アーカイブすべき。それは100年後、200年後にも評価されるものになると本気で思ってる。
柿次郎:どうしたらいいかね。サーバーが永遠に残せるならいいけども。
光川:デジタルはどこかで情報の海に消えていくからね。ただ、消しちゃだめだよ。柿さんよく「石に刻みたい」って言ってるけど、エジプトのロゼッタ・ストーンみたいに石に刻んだら、ウン百年・ウン千年残るんじゃないか。
柿次郎:酔っぱらうといつもそれ言ってる気がする。石に刻んでジモコロ残したい(笑)。
光川:メディア論で有名なマクルーハンっていう人も「メディアはメッセージである」って言ってるけど、価値あるメッセージを世の中に“定着させる”ってことも編集者の大事な仕事な気がしてる。お互いがんばっていこう!
編集者が次に目指す「その先のレイヤー」
柿次郎:みっちゃんはさ、これから具体的にどういうことをやりたいと思ってる?
光川:そうだね。実は今一番興味があるのは、制度の編集。
柿次郎:制度の編集? もはや本でもウェブでもないのか。
光川:それも経営的にはやるべきことなんだけど、自分はそのさらに先のレイヤーに関心がある。編集って3つのレイヤーがあると思ってて。
柿次郎:どういうこと?
光川:ビジュアル的には、こういう図をイメージしてて。まず一番上が「情報環境の編集」だね。これは今まで自分たちがやってきたことで、紙やウェブ、SNSなどのメディアを使って情報を流通させること。

光川さんの頭の中にある編集概念のイメージ
柿次郎:それはよくわかる。
光川:その下に文化・人・コミュニティのレイヤーがある。人と人をつなげたり、リアルな場所を作ったりする「関係性の編集」。
柿次郎:イベントとかお店の運営とかそういうやつだよね。

バンクトゥでも、「リアルタイム編集」と題して、その場にいる人と、その場にあるもので本をつくることで関係性を編むようなイベントも行っている

会場の隅にあったレンガで版とインクをつくり、

その場にいる人と、原稿や素材を集め、

その場でレイアウトして読んでもらい、

その場で販売して、

その場で買ってもらうなかで、本を媒介にコミュニケーションを編みなおすようなこともしている(写真:徳井蒼大)
光川:そう。そして一番下に「制度・インフラ」のレイヤーがある。この一番下を編集しない限り、結局一番上の情報環境は良くならないと思ってて。
柿次郎:構造的な視点がすごいな。たとえばどういうもののことを言うの?
光川:路地の話で言うとさ、京都に八清っていう不動産屋さんがあるんだけど、そこの会長がまた路地マニアで。その方が「町家ローン」っていう仕組みを作ったんだよね。
柿次郎:町家って、京都の古い木造の長屋みたいな建物だよね?それを買うためのローンってことか。
光川:そうそう。新築神話の強い日本で、町家も含めた中古住宅に対してローンっておりなかったんだよね。当時の町家って「寒くて狭くて暗くて、潰したい」とみんなに思われてた。それを金融機関や行政と連携するかたちで、価値あるものとして打ち出して、ローンが組める制度やインフラをつくることで「買える」ようにした。
その結果、町家っていうものがブランディングされて、今では1億円とかで売買されるぐらいの文化資産になっている。
柿次郎:すごいな。それって見立てを変えたってことだよね。
光川:物自体は何も変わってないからね。でも背景や環境を編集することで、そこに価値が生まれた。これこそが制度やインフラの編集だと思ってて、そういう領域に自分の路地的な視点を掛け合わせてみたい。

自主企画の「路地開き」イベントでは、路地のなかで穴を掘ったバーを企画。「建築基準法的に、縦にも横にも広げることができない路地物件を下に広げる」ことで、路地奥の狭小住宅の生活スペースを広げられる可能性を模索しているのだそう。小さいトライだが、制度やインフラの編集になると信じている(写真:川嶋 克)
柿次郎:路地的な視点ってどういうこと?
光川:気をつけなくちゃいけないのは、さっき言ってたセンター(真ん中)のルールを周縁に持ち込んではいけない、ってことだと思う。
町家の価値が上がったことは建築文化にとってはいいことだけど、それによって住めなくなった人たちもいたわけで。あくまでも主体は周縁の側に置いたうえで、社会のかたちを周縁側から変えていく、そのための接続をつくる力が編集にはある、というスタンスを忘れてはいけない気がしている。
柿次郎:面白いね。おれも今、自分で作った本を自分で売り歩くという行商をしてるけど、それって既存の出版流通に乗らないってことでもあって、ある意味では小さいけど制度を編集してるのかもしれない。
光川:柿さんがやってることって、ある種、新しい自治領域をつくっているよね。国も民の力も弱った時には、その間を埋める自治の部分での活動に注目が集まるけど、まさにそういう感じがする。ただ、柿さんのやり方は独特過ぎて誰も真似できないけど(笑)。
柿次郎:何が正解か全然わからないから、ただ思いついたことを実践してるだけ。
光川:同じだよ。結局、路地を歩き回って出会ったものを一つずつ拾ってきただけでね。気がついたら、さらに先のレイヤーに興味を持つというフェーズになっただけ。すべては自分の手足を動かして確かめていくしかないと思うな。
柿次郎:いや今日はみっちゃんに生存戦略を聞くつもりが、むしろ自分の編集者・経営者としての可能性を広げられた気がする。みっちゃんとは永遠に話せそうだから、今日はこの辺にするか。
光川:そうだね。じゃあ次回はおれの極楽路地構想について。
柿次郎:レイヤー上がり過ぎ。楽しみにしてるわ!
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構成:根岸達朗
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この記事を書いたライター
株式会社Huuuu代表。8年間に及ぶジモコロ編集長務めを果たして、自然大好きライター編集者に転向。長野の山奥(信濃町)で農家資格をGETし、好奇心の赴くままに苗とタネを植えている。








































