こんにちは、ライターのなかがわあすかです!

 

わたしにはひと回り年の離れた姉がいるのですが、大のラムネ好きで、子どもの頃はよく分けあって食べていました。

 

口に入れた瞬間、しゅわっと溶けて広がる甘さ。

 

駄菓子と言えば、ラムネ!

 

そう思えるくらい、わたしにとっては身近なお菓子でした。

 

中でも気に入っていたのは、かわいらしいリスとウサギのイラストが印象的な「クッピーラムネ」。

 

他のラムネと比べて口溶けも軽く、爽やかな味わいがクセになる思い出の味です。

 

あれから20年が経った今、地元の滋賀県から名古屋近郊に移住して、ひょんなことからクッピーラムネの製造会社が名古屋にあると知りました。

 

製造会社のカクダイ製菓は創業104年の老舗。昭和25年からラムネの製造を始めて以来、なんと“ラムネ一筋”で経営を貫いています。

 

この事実だけでも驚きですが、さらに気になったのが、コラボ商品の圧倒的な多さ……!

 

文房具やTシャツ、お酒にハンドクリームなど、あらゆる企業やブランドとコラボした商品がたくさん生まれているのです。

 

わたしも含め、愛知県外で生まれ育ったジモコロ編集部のメンバーもその存在を知っているほどには有名なクッピーラムネ。これだけのコラボ商品を展開し、幅広い世代と地域に愛され、60年間も主力商品として一企業の経営を支え続ける……。

 

この最強の駄菓子が誕生したきっかけは何だったのか?

なぜ、これだけコラボ商品が増えたのか? 長く愛される理由は何なのか?

 

「綿密に練られたマーケティング戦略が裏にあるのでは!?」と想像しつつ、カクダイ製菓の経営管理室 室長として広報や品質管理を担当している藤井幸博さんを訪ねました。

 

1万点超えのコラボ商品の中で何が人気?ボツ案は?

「藤井さん、よろしくお願いします! 今回、カクダイ製菓さんにお話を聞きたいと思った理由のひとつが『圧倒的なコラボ商品の多さ』なのですが、これまでにコラボした商品の数はどれほどなのでしょうか?」

「コラボ商品を展開し始めたのが2002年からなので、正確な数字は不明ですが、商品数で言えば数千〜1万超えにのぼると思います

「1万……!? 想像をはるかに上回る数字でびっくりしました。見たところ、ジャンルを問わずに幅広い企業とコラボしている印象ですが、中でも人気だった商品は?」

「最近だと、愛知県の酒造会社さんとコラボしたチューハイですかね。日清ヨークさんとコラボした紙パックの乳酸菌飲料や、不易糊工業さんの『フエキどうぶつ糊』とコラボした商品も好評でした」

 

「赤い帽子に黄色い顔がトレードマークのフエキくん! 懐かしい……。このようなコラボ商品が生まれるきっかけが気になります」

先方から話を持ちかけられることがほとんどなんです。クッピーラムネのイメージに合っている内容であれば、基本的にはお引き受けしています。お断りするのは稀ですね」

「泣く泣くお断りする場合はどんなときなんですか!?」

「過去にはレディースの下着や、かかとの角質を削るグッズとのコラボ依頼もありましたが、残念ながら見送りました……。やはりお子さまが口に入れる商品なので、そのイメージとかけ離れないかどうかは重視しています」

「かかと削りのコラボ案まで出ていたとは……。さすがの人気ぶり!」

 

昭和レトロやSNSの追い風でコラボの依頼が増加

「これだけ各方面からコラボ依頼が相次ぐ理由はなんなのでしょうか?」

「正直、裏に徹底した戦略があるわけではないです。キャラクターの使用料はいただいていますが、国民的キャラクターと比べれば安いと思いますし、私たちもそれで儲けようとは考えていません。CMやチラシなどの広告を出していないので、『その代わりになれば』というのが、積極的にコラボを引き受けている一番の理由です

 

「ウサギとリスに広告塔の役割を担ってもらっていると」

「あとは、クッピーラムネ自体、70年の歴史があるので、幅広い世代からコラボ商品を支持してもらえたのも大きな要因だと思います」

「単純に『かわいい』から手に取る人もいれば、『なつかしい』がゆえに買う人も多そうです。昭和レトロの再ブームも追い風になっているのかも?」

「確かに、最初にコラボしたのは『昭和レトロ』というシリーズで販売されているTシャツのひとつでしたね。SNSにコラボ商品の写真をアップしてくださる方も増えて、この20年間で積極的にコラボをし続けたことで、雪だるま式に人気が加速したような感覚です

「なるほど。コラボが次のコラボを呼んでいたんですね」

 

クッピーラムネの販売地域は、ほぼ全国? 

「クッピーラムネが長く愛される理由は、販売地域の広さにもあると思っていて。滋賀県出身の筆者だけでなく、県外のジモコロ編集部メンバーもクッピーラムネの存在を知っていたのですが、実際、販売地域はどこまで広がっているのでしょうか?」

 

「主力地域は問屋さんが集中している名古屋、東京、大阪ですね。ただ、近年は大手の100円均一ショップでも取り扱っていただいているので、販売地域はほぼ全国に広がっているかと思います

「たしかに! 過去に100円均一ショップでバイトしていましたが、お菓子コーナーにありました。ここまで販売地域が広がっているとなると、売上もさぞ好調では?」

「大手のお菓子メーカーさんに比べるとまだまだですが、ありがたいことに、売上は右肩上がりですね」

「ちなみに、ラムネ以外の商品はあるんですか?」

1950年にラムネの製造を始めて以来、ラムネ菓子一本でここまで来ました。オリジナル製品は、スタンダードなひねり包装のラムネとクッピーラムネの2種類のみです」

「競争の激しいイメージがあるお菓子業界で、70年以上もラムネ菓子一筋で経営が成り立ってること自体、本当に驚きです……」

 

「子どもや孫に食べさせたい味」を守り続ける

「藤井さん自身、クッピーラムネが長く愛されている理由は何だと思いますか?」

次世代に受け継ぎたい懐かしい味だからでしょうか。品質管理を担当する中で、お客様から『子どもや孫に食べさせたいけど、〇〇(アレルギー物質や添加物)は入っていませんか?』という問い合わせを受けることが多々あります。もとより、アレルギー物質の特定原材料7品目は使用していませんし、現在は着色料や酸味料などの食品添加物を使わない商品づくりにも挑戦しています」

 

「幼い子を持つ親として、『安心安全で美味しいものを食べさせたい』気持ちはすごくわかります。ほかのラムネに比べて、クッピーラムネは『口溶けのよさ』が抜群だったと記憶しているのですが、製造過程でのこだわりも気になります」

「なかがわさんは、ラムネは製法の違いによって2種類あるのをご存じですか?」

「知らなかったです……!」

「タブレットのようなカリッとした歯応えのものは『乾式ラムネ』、口の中でしゅわっと溶けていくものは『湿式ラムネ』と言います。前者は糖類その他の混合品を打錠機という機械で直接打ち抜く製法。後者は糖類にコーンスターチ等のでんぷん系、酸味料・重曹・香料等を混合し加水して型抜きし、高温で乾燥させて作ります」

 

「というと、クッピーラムネは湿式ラムネに分類される?」

「その通りです。湿式ラムネは水分量のバランスが重要なので、梅雨時は水分量を減らすなど季節や気候によって調節しています。販売当初に比べて製造の機械化は進みましたが、この作り方は70年間ずっと変えていません

「だから、いつ食べても『あの頃の懐かしい美味しさ』を思い出せるんですね。そんな特別な味を自分の子どもや孫と共有し合える。クッピーラムネが愛され続けるのは、そんな幸せの形を提案してくれるからかもしれませんね」

 

クッピーラムネは「勘違い」から誕生した?

「そもそも、クッピーラムネはどのような経緯で誕生したのでしょうか?」

「カクダイ製菓はもともと半生菓子を取り扱う『増進堂』として1919年に創業しました。別会社でラムネの製造に携わっていた2代目の大橋社長が、1950年からラムネの製造・販売も始めたんです」

「そんなに長い歴史があるとは!」

「当初はひねり包装のラムネを100個100円で販売しており、製品のラムネを箱詰めする際、100個数えた責任者が名前を書くカードを一緒に入れていました。そのカードに印刷されていたのが、縦じま模様の特徴的な熱帯魚「エンゼルフィッシュ」だったんです」

 

当時の「責任表」を真似て作られたもの

 

これを取引先が間違えて『グッピー』だと思い込んだことから、『グッピーのラムネ』としての認知が広がっていって。『ならば、新商品の名前を「グッピーラムネ」にしてはどうか?』という案が上がったところ、社内で『濁点は読みづらい』と指摘が入り、最終的に『クッピーラムネ』に落ち着きました」

「まさかの勘違いから生まれたという誕生秘話!?!?」

 

看板キャラクター、ウサギとリスの正式名とは?

「看板キャラクターの起源を辿ると『エンゼルフィッシュ』だったわけですが、今では愛らしいリスとウサギのキャラクターがお馴染みですよね。そういえば、2匹に名前はあるんですか?」

名前は決めていないんですよね」

「決めてない!」

「社内でも『リス』と『ウサギ』と呼んでいます」

「そのままもそのままだ」

「過去に放映したCMや出版した絵本では、制作の都合上、決めざるを得なかったので場当たり的に『ウサ雄』や『リス子』、『クッピー(ウサギ)』や『ラム(リス)』と命名しましたが、正式名ではありません。あと、見落とされがちなのですが、看板キャラクターはウサギやリスだけではないんです」

 

「あ! 鳥もいる! 気づきませんでした……。ちなみに、この子の名前も……?」

「トリですね」

「藤井さんの中だけでの特別な呼び名とかあったり……?」

「ウサギとリス、トリですね」

「ここまでシンプルを極めると、逆に愛着が湧いてきますね。不思議だ……」

 

SNSで話題になった「キャラクターの誕生秘話」

「キャラクターについてもう1点、気になることがありまして……。『初代のキャラクターはオリジナリティのなさが理由でボツになった』ことや、『2代目のキャラクターは著作権絡みで出版社からクレームが入った』ことなど、大人な事情も絡む誕生秘話が、公式HPにて赤裸々に公表されていますよね」

 

SNSでは「どろっどろの大人の事情がラムネのようにシュワッと爽やかに綴られているよ」と紹介され、話題を呼んだ

 

「何年も前のことなので、ぶっちゃけ隠し通すこともできたと思うのですが、わざわざ公表した理由は何だったのでしょうか?」

「隠す理由がなかったのだと思います。キャラクターの誕生については、取材も含めて周りから尋ねられることも少なくありません。そのたびに嘘をつくのは企業として健全ではありませんし、潔く本当のことを話すほうがいいだろうなと

「実際にSNSでも『赤裸々に綴られていて、好感が持てる』といった声が多数見られました」

「今は亡き先代の会長が別の取材でも答えていましたが、当時は日本でも著作権に関する知識や意識が薄く、私たちもお菓子業界のことしか知らなかったので……。今のキャラクターが誕生してからも、しばらくは原画管理が甘く、新製品が出るたびにキャラクターが太ったりやせたりしてしまっていたそうです」

「な、なんと。そんなことが」

「リスの前歯は本来2本なのですが、これが1本になったこともあったとか。同じ過ちをおかさないためにも、キャラクターのコラボグッズの進行も含め、キャラクターの商標管理は専門の企業さんにお願いしています」

 

「専門外のことはその道のプロに任せて、自分たちはラムネづくりに専念すると」

「お客様にとってより魅力的なラムネをつくるのはもちろん、まだ詳細にはお話できませんが、新しいコラボの形も模索中なので、ぜひ楽しみにしていてほしいです」

「新しいコラボの形、気になりすぎます……!心待ちにしていますね。藤井さん、今日はありがとうございました!」

 

クッピーラムネの工場を見学!社員さんの推しポイントは?

取材が終わったあと、特別に工場を見学させてもらえることに! 梱包の現場にお邪魔しました。

 

ものすごい速さで、次々と袋詰めされていくラムネたち。

 

手作業で丁寧に箱詰めされていきます。右にも左にも、大量に積まれた段ボールの数を見ると、「こんなにもたくさんのクッピーラムネが世に出回っているのか」と圧倒されるほどでした。

 

またとない貴重な機会なので、現場で働かれている社員さんにも「クッピーラムネが愛されている理由」についてお話を聞くことに。

 

「おじいちゃん、おばあちゃんの世代からある懐かしい味だから、子どもや孫にも受け継ぎたくなるんだと思います」と話してくださったのは、勤続17年にもなる矢野さん。

 

勤続10年目で製造部の次長を務める秦(はた)さんは、「クッピーラムネは飽きのこない甘酸っぱさで、口溶けのよさが特徴。キャラクターの愛らしさに加えて、低価格で手に取りやすい点も愛される理由だと思います」と話してくださいました。

 

「ああ、きっと製造に関わっている人たちも全員、クッピーラムネのことが大好きなんだろうなあ」

 

受け答えの丁寧さ、声のやわらかさ、クッピーラムネを一つひとつ丁寧に扱う姿。藤井さんを始め、矢野さんや秦さん、現場で働く人たちの様子を間近で見て、自然とそんなことを感じたひとときでした。

 

柔軟性を大切に、だけど譲れない芯も守り続ける

「エンゼルフィッシュ」を「グッピー」と間違えられたのを好機に変えたり、「どうせ聞かれるなら……」と会社としては複雑な事情も潔く公表したり、来るもの拒まずな精神でコラボの依頼を受け入れたり。

 

周囲の状況に応じて、そのときに取るべき行動を柔軟に判断していく。藤井さんのお話から、カクダイ製菓さんのそんなスタンスが見えたような気がしました。

 

ただ、何でもむやみに受け入れるのではなく、こだわりたい部分は守り続ける。

 

名前のない看板キャラクターのイメージを守るためにコラボ依頼を断ることもあれば、幅広い世代に愛され続けるお菓子であるために、製造方法は変えず、発売から60年が経った今でもよりよい商品づくりに奔走している。

 

柔軟性を大切に、だけど譲れない芯も持ち続けること。そして、何より作り手のみなさんがクッピーラムネを大切に思っていること。

 

裏に徹底されたマーケティング戦略がなくとも、クッピーラムネがこれだけ長く、広く愛されている理由が、少しだけわかったかもしれません。

 

とりあえず、今日は近所のスーパーで久しぶりにクッピーラムネを買おうと思います。

 

息子と一緒に「あの頃の懐かしい美味しさ」を味わうために。

 

編集:くいしん
撮影:fujico