東京マラソン当日。始業開始から東京マラソンスタートまで
本番当日、早朝5時半……ポツポツと雨が降っていますが、もちろん東京マラソンは開催されます
「ふぁ〜あ……本日は東京マラソン本番……眠っ!」
「ちゃんと起きてください! 今日は本番なので失敗はできませんよ!」
「交通規制して道路を使えるのは当日だけなので、今朝しかできない作業が山ほどあります!」
「お任せください! じゃあスタートの櫓を動かしたり、タイマーを設置したり、華々しい作業をやっちゃいましょう!!」
「えっと、スタートエリア内での作業は、関係者しかできない決まりになってまして……」
「え」
スタートエリアから離れた場所で搬入を手伝う、という地味な作業を任される僕。でも、これも裏方の大事な仕事なので!
ちなみにタイミングチームのみなさんは、「スタート音」がエリア内にいる選手全員に、均等に聞こえるように、スピーカーを山ほど設置していたそうです
こんな感じ。道路脇の花壇に設置する時は、花をつぶさないように置くのが大変なんだってさ
あと、スタート位置にあるタイマーを
・スタートの合図を出す人からは見えるけど、ランナーからは見えない角度
に調整したりとか。
なんでそんな意地悪なことするの?と思ったら、これが見えちゃうとスタートのタイミングが予想できてしまうので、フライングする可能性が出てくるんだって!
この蛍光色の線は、スタートの位置を決めているラインです。当たり前ですけど、まさか本当にぴったり42.195km測っていたとは……
スタート30分前くらい。市民ランナーの方がスタート地点に集まり始めました。
みんなこのためにトレーニングを積んできたんですね。その成果が、あともう少しで発揮されるのです。あぁ、ドキドキする!
といっても、僕はずっと離れた場所で搬入をやっていたんですけども。これも裏方の大事な仕事なので!
朝からポツポツと降っていましたが、ここで本格的な雨に……
しかし雨などお構いなしに、アツい一日が今まさに始まろうとしています。
先程までのざわざわした空気が徐々に張り詰め、水を打ったように静まり返る中、スターターである東京都知事の合図が……
・
・
・
パンッ!!
ドドドドド……!
ドゴゴゴゴ……!
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
「うわぁぁっ! 何だこの揺れは!!」
「この揺れは、ランナーによる地響きです。いよいよ東京マラソンがスタートしたようです!」
「3万8000人が同じ道路を走ったら、こういうことになるのか……」
「最後尾のランナーがスタートのゲートを切るまで、大体30分はこんな感じです」
「スタートだけで30分もかかるの!? すごい規模ですね。ところでこの荷物はどこに置けばいいですか?」
「あ、それは棚の上に置いてもらえます?」
国際フォーラムへ
「そういえば内藤さんや他のタイミングチームは、どこに行ったんですか?」
「彼らはスタート地点での作業が終わったら、フィニッシュ地点や、計時車(5kmごとに駐車してある)の地点など、それぞれ散らばっていきます。我々もフィニッシュ地点に向かいましょう」
「スタートの後は夢中で後片付けをしてたんで、今は開始から2時間半ほど経過してますね。こんなに早くフィニッシュ地点に行って何をするんですか? まだ誰もいないのでは?」
「いえいえ、2時間も経つとトップランナーはフィニッシュ(ゴール)しますよ」
「えぇっ!? 人類すごっ!! じゃあもう間に合わないのでは?」
「いえ、今からみくのしんさんに手伝っていただくのは……」
たどり着いたのは、フニッシュ地点からほど近い東京国際フォーラム。
バスの移動も含めて、スタートから3時間近く経過しています。トップランナーたちはすでにフィニッシュを決め、市民ランナーの方も早い人はフィニッシュし始めた頃です
「あれ? 昨日見たフィニッシュ地点ではない……ですよね?」
「東京マラソンではフィニッシュした方々に、協賛企業からランナーへお疲れ様の意味を込めて様々なサービスを提供しているんです。セイコーもここにブースを構えてます」
「セイコーさんはどんなサービスを行ってるんですか?」
「ランナーの皆さんに、電車の中づり広告を制作して頂く、というサービスを提供しています」
「中づり広告? それを、ランナーの人が作るの……? え、どういうこと?」
「この紙に、完走タイムとメッセージを書いてもらいます。それをそのまま、大会翌日から東京メトロの電車内の中づりとして掲載するんです」
「めっちゃ良い思い出になりそう!」
という訳で僕も呼び込みのお手伝いをしました。
「へー…こんなサービスやってるんですか。興奮してきたな。ちょっとやってみよう」
「はい、ありがとうございます! ではこちらへどうぞ!」
「これはどうやって記入したら良いんですか?」
「黒いマーカーで“8”を塗りつぶして、自分の完走タイムに書きかえてください。その横に、メッセージを頂ければ……」
「ちなみに今回のタイムはどれくらいだったんですか?」
「2:56:11でサブ3達成しました!」
【マラソンメモ】
※サブ3とは
フルマラソン(42.195キロ)を3時間以内で走り切ること。
単純計算で1km約4分で走り続け無いと達成できない。なのでこの人はすごい。おそらく課金アイテムを使用してる。それでもすごい
「めちゃ凄いランナーじゃないですか! おめでとうございます!」
「今ここにいるって事は、みんな僕みたいなタイムだと思いますけどね」
「ちなみに東京マラソンは毎年やられてるんですか?」
「いえ、応募はしてるんですが、あまり当選しなくて。マラソンは学生の頃にやってたんですが、サブ3はその時以来ですね。今、最高に気持ちがいいです!」
「爽やかすぎる。おつかれさまです、ありがとうございました!」
「では、そろそろ感動のフィニッシュ地点に行きましょうか」
「遂に……!」
フィニッシュ地点から業務終了まで
フィニッシュ地点
スタートから5時間近くが経過し、続々とランナーがフィニッシュ……
……しているのを、遠~~~くから眺める僕です
またこれかい!!
「すいません。フィニッシュ地点付近も関係者しか入れないもので」
「今日、なんで呼んだの?」
「でも、どうですか? 最後の直線はみんな達成感に包まれていて、感動しません? 僕は何度見ても目頭が熱くなります」
「確かに、自分自身が裏方として手伝ってきたってこともあって、作業をしながらでも感動してしまいますね。みんな、42.195kmもの道のりを走ってきたんだなぁ……」
ますます強くなる雨の中……
残り時間も少なくなったところで、金色の風船を背負った集団が?
「あの人達はなんですか? あの黄色い服…もしかしてセイコー関係者?」
「その通りです。あれは完走サポートランナーといって、東京マラソンの時間制限を可視化させたランナーですね」
「つまり、あの人たちがフィニッシュしたら、今回の東京マラソンは終了しちゃうってこと……? 後ろのランナー頑張れー!」
応援している人たちもそれを知っているため、ランナーたちに一際大きなエールが送られます。
最後の最後で完走ランナーを抜いてフィニッシュできた人、ギリギリで間に合わず悔し涙を流す人。悲喜こもごもの、東京マラソン最終局面―
遂に完走ランナーがフィニッシュゲートを通過して、大会終了……と同時に―
業務終了ーー!! お疲れ様でーす!!
※写真はイメージであり僕ではありません
「感動を届けてくれた大会が、ついに終わりましたね。ねぇ、塚田さ……」
「あ、最後にその荷物だけトラックに載せてもらえます?」
う~っす……
セイコータイミングチームのお仕事を体験して
長い二日間が終わった……
ランナーにとっては雨の中、厳しい戦いでしたが……彼らの顔には一様に笑顔が浮かんでいました。
「お疲れ様です! ランナーの達成感が僕に伝染したのか、何かを成した感動でいっぱいです。実際はトラックに荷物を積み込んでた記憶しかありませんが」
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様です! 僕はスタートの後はフィニッシュ付近の作業で忙しかったんで、顔を出せなかったんですが、大丈夫でしたか?」
「はい大丈夫です! 朝が早かったのと、雨に濡れたのと、寒いのと、一日中歩き回ったのとで……かなり疲れましたけど」
「全然大丈夫じゃない……! タイミングチームとしてのお仕事は、いかがでしたか?」
「最初は楽勝じゃんって思ってましたが、大会やランナーを裏から支える大事な仕事だと知って、手伝えたことが誇らしいです。今日は家に帰って母親に自慢します」
「そう言ってくれて嬉しいです。色々な企業とランナーが、一つになってイベントを作り上げるってとっても素晴らしいことですよね!」
「目立つ仕事ではないけど、やりがいはあるし無事終わった時の達成感はたまりませんね。ただ、大会が終わって気が緩んだのか、今メチャメチャ寒気がして、風邪ひきそうになってます」
「僕も一日一緒に雨の中を歩いたので、同じく寒気がしてますが……気をつけてくださいね! それでは本日はありがとうございました!」
というわけで、おそらく僕の人生では二度と経験出来ないような職業体験が終わりました。
最後に、タイミングチームの仕事を一日体験して気づいたことを書いておきます。
・国際的な大会を支える影の立役者
国内外の試合で、選手の記録を正確に計測するという、かなりプレッシャーがある仕事。それゆえに、達成感はひとしお!
・チームワークが大事
タイトなスケジュールの中で、仕事を円滑に進める為にはコミュニケーションが一番大事! 突然手伝うことになった僕の事、どう思ってたんだろ
・タイマー高すぎ
車載タイマーが車を買えるくらいの値段。そして『かまぼこ』と呼ばれる大きいタイマーは家が買えるくらいの値段だそう…。いや、よく僕に体験させてくれましたね?
・東京駅の時計や、テレビの時刻なんかはセイコーの仕事
すごすぎない?
・セイコーのトラックのことはすべて把握した
わからないことがあったら僕に聞いてください
というわけで現場からは以上になります。最後まで読んで頂きありがとうございました!
なお、この下(想像してるよりずっと下のほう)では、記事には入り切らなかった諸々を画像ギャラリーとして楽しめます。そちらも読んでみてくださいね!
※今回のレポートは、あくまでライターが体験させてもらった範囲に限定したものです
今回の記事はセイコーホールディングスのWEBメディア、『SEIKO HEART BEAT Magazine』でも読むことができます!→こちら
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