
こんにちは、ライターの松岡です!
都会の冷たい風に吹かれながら、仕事に追われる毎日……ゆっくり食事をとることもできないそんな時、僕は立ち食いそばを食します。
特に頻繁に訪れるのが……
『いわもとQ』というお店!
いわもとQ 歌舞伎町店
住所|東京都新宿区歌舞伎町1-4-8 らんざんビル1F
営業時間|24時間営業(年中無休)
※他に池袋店、高田馬場店、神保町店があります
こちらのお店、低価格の立ち食いそばチェーン店にもかかわらず、
都内4店舗全店で食べログの評価が3.5以上ある
んです!
過去にラジオで、ライムスターの宇多丸さんや、伊集院光さんもおすすめしていました。
こだわりの専門店や高級店でもこんな高評価はなかなか無いというのに、チェーン全店舗で3.5以上の評価って、はっきり言って異常です。
果たして、このお店の評価と人気の理由はどこにあるのか?
代表取締役の、岩本浩治さんに秘密を伺ってきました!
おいしさの秘密はゴミ捨て場にあり?
「はじめまして! 今日は『いわもとQ』のおいしさの秘密を伺いたいと思っております。岩本さんは、お店を始める前、どこで修行をなさってたんでしょう?」
「修行……? それは、どこかのそば屋でってこと?」
「はい。よほどの名店で、長年修行してきたんだろうな、と……」
「いや、まったくのド素人です。料理に興味ないし、台所に立ったことすらなかった。前職もそばとは何の関係もない“経営コンサルタント”でしたね」
「『なぜおいしいのか?』という疑問が、さらに深まってしまった。だって料理したこともなかったんですよね?」
「はい。だから、おいしいそばの店を探しては、そこのゴミ箱を漁ったりしてました」
「ん? どういうこと?」
「ゴミ捨て場には、しょうゆのビンとか捨ててあるでしょ? それを見て『ははぁ、このメーカーのものを使ってるのか』なんてメモったりしてた」
ポカーン
「あとお店に入っても、どこの製麺機を使ってるのか、なんてことを調べてました。あるチェーン店の店員さんには2回捕まってますよ。『あんた何してんの?』って。そりゃそうですよね(笑)」
「ものすごい体当たりな学習法ですね……じゃあ、何というか、パクッたというとアレですけど、えーっと、研究? 色んな店の味を研究して、今のおいしさになったと」
「携帯で話してるふりをして、厨房の裏口とか、非常階段に置いてある一斗缶なんかをチェックすると最高ですよ」
「なるほど、ありがとうございます。でも今は、便利なパクりかた講座は必要ないです。味の秘密は他にありますか?」
「すごく単純明快な理由ですが、“新鮮であること”が最大の理由ではないでしょうか。そばも天ぷらも、注文を受けてから作るので」
「僕も初めて『いわもとQ』で天丼セットを食べた時は感動しました! 天ぷらがカリッカリのサクサク! 立ち食いそばのチェーン店で作り置きをしていないって珍しいですよね」
『いわもとQ』おすすめメニュー
天丼セット/税込750円
※そばは“もり”“かけ”“ひや”が選べます(写真は“ひや”の並盛り)
『いわもとQ』を代表するメニュー。茹でたてのそばを冷水で引き締めたコシのある麺はのどごしが抜群。天丼には「エビ、キス、イカ、カボチャ、インゲン」の、揚げたたての天ぷらが盛られている。
「だってねぇ、いくら高級店の職人が揚げた天ぷらでも、冷めてしまったらおいしくない。それよりは、素人が作ったものでも、揚げたての方がおいしいわけです。茹でたてのそばも同じですね」
「天ぷらは冷めるとベチャベチャになっちゃいますもんね。では、素材に関してはどうでしょう? 例えばそば粉は特別なもの使ってるんですか?」
「チェーン店としてはあり得ないくらい良いものを使ってる自負がありますね。なんせ、ものっっっすごく試行錯誤した結果なので。2003年の創業時から、よりおいしくて低価格なものを……と、数百回以上は変えたかな」
「アツい信念で地道な努力を重ねる姿……かっこいいなぁ! 『いわもとQ』では、普通の立ち食いそば屋なら必ず置いてるカレーやカツ丼、うどんなどを取り扱ってないですよね? それも何か信念が?」
「同時に複数の作業を走らせないほうがいいからってだけですね。評価的にも、利益的にも、“全部そこそこ良い”より“1つだけ抜きん出てすごい”方が、ビジネスとして効率がいい」
「そこはビジネスライクなんですね」
ド素人だからエゲツない失敗を繰り返した
「そもそも、なぜド素人なのにそば屋をやろうと思ったんでしょうか? そばを食べるのが趣味で、何百店も食べ歩きするようなマニアだった?」
「そばを食べるのは好きな方でしたが、そもそも私の場合、『好きだから店をやりたい!』という発想ではなかったんです。『何かお店をやりたいけど、何の店にしようかな?』という選択の中から、結果的にそばを選んだって感じ」
「選択肢は他にもあった? その中からそばを選んだ理由は何だったんでしょうか」
「ビジネスとしてですね。私はもともと、セブンイレブンで加盟店を巡回し、接客や陳列、発注などを教える指導員をやっていたんですが、『企業相手ではなく、お客さん相手の商売がしたい』と思って独立したんです。で、どんな店がいいかなと考えて」
『いわもとQ』おすすめメニュー
かけそば/税込300円
甘みのあるスッキリとしたダシは、心があたたまるシンプルな味。麺は独自の、シコシコした歯ごたえで伸びにくい工夫がなされている。寒くなるこの時期にオススメしたい一杯。
「お客さん相手の商売といっても、ドラッグストアとか洋食チェーンとか、色々ありますよね? その中からそばを選んだ理由は?」
「小売店だと価格競争になるし、コストを考えるとファストフードかなと。ただ、ハンバーガーや牛丼など、ライバルの多い業界だと埋もれてしまうので、消去法で考えて立ち食いそばになりました」
「そばへのこだわりとか、愛とかじゃなくて、ゴリゴリにビジネスライクな理由でそばを選んだんですね」
「仮にも経営コンサルタントでしたから、価格はこれくらいにして、コストをこう抑えて、チェーン展開して……と考えてたら、良し!これは成功以外にあり得ないぞと。2003年に、麹町に1号店を出しました」
「結果はどうだったんですか?」
「木っ端微塵に失敗しました」
「えぇ? そんなに明確なビジョンがあったのに、失敗したんですか?」
「結局すべて机上の空論だったんです。思っていた1/3しか売れないし、思っていた1.5倍経費がかかる。本当に愚かでした……」
「ああぁぁ……」
「コンビニみたいに、工場で作られた規格品をコーディネートするみたいなイメージだったんですけどね。そんなにうまくいくわけがない。死ぬ一歩手前の失敗でした」
「まさに危機的な状態ですね。どうやって持ち直したんですか?」
「なぜ失敗したのかという理由を洗い出して、ひとつひとつ修正しました。1.5倍の経費を1.0倍の経費になるまで、食材の仕入れを含めて考え直して、3ヶ月目くらいで、やっとトントンになりました」
「立て直すスピード、早っ!」
「まぁトントンと言っても、自分が死ぬほど店に入って人件費を切り詰めたってのもありますけどね。1ヶ月500時間は入りましたから」
「よく過労死しなかったな……」
「おかげで、1号店はようやく利益が出るようになりました。じゃあ2号店に取り掛かろうと。オフィス街(麹町)でのビジネスは大体わかったから、次は新宿歌舞伎町でやってみたんです!」
「やっと現実的な経営をやれるようになって、さて、歌舞伎町はどんな結果が出たんでしょう?」
「(ニコッ)わかるでしょ?」
「木っ端微塵に失敗しました」
「なんでぇぇぇーー!?」
「普通に考えたら立ち食いそば屋に向いてる立地じゃないですよね。1号店の売り上げの半分くらいでしたよ、ハハハ」
「笑ってる場合じゃないでしょ! 失敗の原因はどこにあったんでしょうか?」
「1号店の麹町はオフィス街だから、お客さんが来るのは昼時ですよね? 当時はまだ“茹でたて揚げたて”ではなかったんですが、作り置きしてもすぐ売れるから問題なかったわけです」
「なるほど。一方、2号店の歌舞伎町では?」
「繁華街では、決まった時間にお客さんが来ない。作り置きしてたらどんどん古くなるから、いつ行ってもマズいわけですよ」
「またも失敗だったと。今度はどんな修正を行ったんでしょう?」
「そばも天ぷらも全部、注文が来てから作るやり方に変えたんです」
「今と同じやり方だ!」
「そしたら、お客さんが2回ビックリし始めたんですね」
「2回? どういうことでしょうか。まず1回目はどういうことにビックリされたんですか?」
「『立ち食いそばなのに、いつまでたっても出てこねぇじゃねーか』と」
「注文聞いてから作ったら、そりゃあ時間かかりますよね」
「繁華街のお客さんは、サラリーマンみたいに昼休憩が1時間あるわけじゃないんでね。すぐに戻らないといけないのに、いつまでも待たされる。『てめえ、いい加減にしろよ!』と 」
「ごもっとも」
「で、やっと出すじゃないですか。そしたら、天ぷら揚げたて、そば茹でたてですよ。ひとくち食べて『……うめぇじゃねーか』ってね、2回ビックリしてくれた」
『いわもとQ』おすすめメニュー
天ぷらセット/税込650円
※そばは“もり”“かけ”“ひや”が選べます(写真は“もり”の並盛り)
『いわもとQ」でも1~2を争う人気メニュー。天ぷらがまとう衣は軽く上品な仕上がり。高級店にも勝るクオリティの「エビ、キス、イカ、カボチャ、インゲン」が堪能できる。
「じゃあシンプルに、“おいしいものを作ったら持ち直した”ってことですか」
「歌舞伎町は、多くの人が集まって会話をする街でしょう。中でも、『あそこの店はうまい!』って話は誰もがするんです。口コミでお客さんが増えはじめて、3年くらいで利益が出始めました」
「一時は麹町店の半分しか売上げがなかったのに」
「手痛い失敗ではありましたけど、歌舞伎町に店を出したことがきっかけで、今の揚げたて・茹でたてのシステムが生まれたので、結果的に良かったですね」
「マイナスをプラスに変えて、経営者としてどんどん成長してますね!」
「まあ、その後 赤坂に店を出してまた大失敗するんですけど」
「1回は必ず失敗してる……!」
「ただ、TBSがある赤坂に出店したことで、伊集院光さんや宇多丸さんのラジオ番組で、『いわもとQっていうお店がおいしい』と話題になりまして。その恩恵は今でも続いてて、すごく感謝してます」
「怪我の功名ですね。ところで、前から気になってたんですが、店名の『いわもとQ』というのは、どういう意味なんですか? 社長の名前が岩本だから『いわもと』なのはわかるんですが、『Q』は?」
「まず言っておきたいのが、最初は『いわもとQ』じゃなかったんです。もともと『It’s ぷりぷり そば・天丼』という店名にしようと思ってて」
「はい?」
「『It’s ぷりぷり そば・天丼』です」
「いや、なんで?」
「名前はそんなに重要じゃなくて、記憶に残ってもらえばそれでいいと思っていた部分と、素人の私がちゃんとした店名をつけるのは抵抗があったから。そしたら店を借りる時に大家さんが 『そんなふざけた名前なら貸せない』って言うんです」
「今となっては大家さんに感謝ですね」
店名が『It’s ぷりぷり そば・天丼』だったら、こんな感じになっていた? 大家さんのファインプレーと言えるだろう
「『店名がいわもとなら貸すよ』って言われて、じゃあそれでいいかと」
「で、『いわもと』になったと。……あれ?『Q』は?」
「『いわもと』というロゴの後ろに、キャラクターを配置してたんですよ。そのキャラクターは丸い輪郭に小さな目が点々とついてて、そばを食べてた。そのそばが斜めに伸びてたから、お客さんには、『Q』に見えたらしくて」
「あぁ~、丸いキャラクター『○』が、斜めに飛び出したそば『\』を食べてたから、『Q』に見えたんだ」
「みんなが『いわもとQ』って呼んでるから、じゃあそれを正式な店名にしちゃおうと。つまりお客さんの勘違いから生まれた店名ですね」
「マジで名前に無頓着すぎる」
現在のロゴにも『Q』の部分には目が描かれている。昔は斜めの棒「\」が、そばだった
食べログ3.5という評価に思うこと
『いわもとQ』では、スープジャーで保温されているそば湯が飲めます。忘れずに飲んで帰りましょう!
「『いわもとQ』って、そばへの愛や想いも強いけど、ビジネス的なアツさで経営してるイメージです。なのに4店舗すべてで食べログ3.5以上の評価があるってすごくないですか?」
「私はそんなにおいしくないと思ってますよ。謙遜ではなく、現場にも言ってるんですが、過剰評価です。ちゃんとしたお店に失礼なのでは……?と心配すらしてます」
「そうかなぁ、おいしいと思いますけど」
「14年もそば屋やってると、色んなお店に食べにいくわけですよ。うまい店は本当に、感動するくらいおいしい。それを自覚してるから、『いわもとQ』はコスパで戦うんです」
「コストパフォーマンスなら無敵ですね」
「安く済ませたい人と、おいしいものを食べたい人、二者だけじゃなくて、実際には、その中間のお客さんがほとんどです。だからこそ、『いわもとQ』が、この価格でおいしいってことに意義がある。中間のお客さんにとってコスパが良い店でありたい」
「目指しているのは名店ではなく、あくまで立ち食いそば屋ですか?」
「ですね。私は職人じゃないし、たくさんチェーン展開したくて立ち食いそば店の世界に入ったわけですから。良いビジネスにしたいけど、14年経ってまだ4店舗ですよ。まだまだです」
「都内にもっともっと『いわもとQ』が増えるのを楽しみにしています。できれば、僕が働いてる会社の1階で営業してください」
「それが、ビジネスとして効率が良いと判断したら、やります」
「本気で待ってます! 今日はありがとうございました」
公式HPより
今回紹介したもの以外にも、『いわもとQ』にはおいしいメニューがいっぱい! ぜひ食べにいってくださいね!
※メニュー、価格はすべて2017年11月現在のものです
まとめ
というわけで今回は、立ち食いそばの革命児『いわもとQ』の社長に、おいしさの秘密を伺ってきました。
・実は料理をしたことすらないド素人だった
・経営コンサルタントとしてビジネス的な視点が強い
・木っ端微塵に吹き飛ぶような失敗ばかりだった
・ヘタしたら『It’s ぷりぷり そば・天丼』という店名になっていた
色んなことがわかった結果、ますます『いわもとQ』が好きなってしまいました!
さて、今夜も「天丼セット」を食べて帰ろうかな!
(おわり)
取材協力「いわもとQ」