こんにちは!ライターの桒田萌です。

私は幼少期から音楽に親しんでいたことから、よくクラシックや吹奏楽などのコンサートに足を運んでおり、今も職業柄さまざまなコンサートに行くのが習慣になっています。

学生時代は吹奏楽部に所属しており、生まれ育った大阪にある吹奏楽団「Osaka Shion Wind Orchestra(通称:Shion)」の演奏を聴く機会が多くありました。なんと、楽団員さんから指導を受けたことも……!

Osaka Shion Wind Orchestraとは、日本で最も古いプロの吹奏楽団。大阪で吹奏楽部に所属していた人なら、その名を知っている人も多いかもしれません。長らく大阪市が運営を行い、国内唯一の自治体直営の楽団として、長きにわたって地に根を張った活動を展開してきました。

(C)飯島 隆

ところが2014年、大規模な市政改革により大阪市の直営から外れ、一時は解散の危機に。しかし、「この実力ある吹奏楽団をなくしてはいけない!」とファンによる支援や楽団員の底力によって民営の法人化に移行し、2023年にはなんと100周年を迎えたのです。以下が簡単なShionの100年の歩みです。

(引用先:これまでの100年 | Shion100周年特設サイト

音楽に限らず、さまざまな文化芸術への予算が優遇されているとはいえない今、活動を継続させるのは難しいこと。そんな中、一度は解散の危機に陥ったShionは、どうして今日まで生き残ることができたのか? 

楽団長でありバス・トロンボーン奏者の石井徹哉さんに、そのヒントを尋ねてみました。

 

100年続く吹奏楽団ができたきっかけは、軍楽隊の解散?

「石井さん、今日はよろしくお願いします。改めてShionはどんな吹奏楽団なのか教えていただけますか?」

「僕たちは『吹奏楽のパイオニアとして、音楽文化の発展に貢献する』を理念とし、34人の楽団員を中心に活動しています。普段は年に6回開催している定期演奏会のほか、『ドラゴンクエスト』や『宇宙戦艦ヤマト』の音楽を演奏するコンサートの開催や学校への音楽鑑賞会、パートナーシップ契約を結んでいるOsaka Metroの駅コンサートなど大阪に根ざした活動を展開中です」

取材日、団員の皆さんは次の講演に向けて絶賛リハーサル中でした

「そして、日本で最も古いプロの吹奏楽団だとか」

「そうなんです。1923年に陸軍による第四師団軍楽隊に所属していた楽団員の有志メンバーから発足しているので、その歴史は100年を超えます。実は当時、実は大阪市音楽隊は発足後に、『解散の危機』に陥ったことが大阪市音楽団のスタートを切るきっかけになっています」

「解散の危機!?」

「はい。当時の運営は大変だった様子だったのですが、『この実力ある大阪市音楽隊をなくしてはいけない』という市民の声や、新聞社による記事が大阪市に届いたんです」

「それはすごい!」

「それで大阪市が動いて、一旦音楽隊は解散することになりましたが、大阪市直営の吹奏楽団である『大阪市音楽団』として発足できた、という経緯があります」

大阪市音楽隊発足当時の様子

「Shionはピンチから生まれた楽団だったんだ……!」

「そこからは大阪市を拠点に、子どもや学生を対象にした音楽鑑賞会、吹奏楽部の学生に向けた講習会、大阪市が実施する式典での演奏など、市民に音楽を届けてきました」

「大阪で育ってきた私も、地域の演奏会でみなさんの演奏を聴くことができたり、指導を受けたりして、恩恵を受けていました!なので、Shionは間違いなく、私の中で音楽の道を目指すにあたってロールモデルの一つでしたね」

 

公務員として音楽活動を行う「音楽士」だった市営時代

「大阪市の直営ということは、みなさんは以前までは公務員だったわけですよね?」

「その通り、大阪市の公務員でした。獣医師や保健師といった専門職と同じく、『音楽士』という形で雇用されていました」

「音楽士!なんだかかっこいい響き……」

「他のプロのオーケストラや吹奏楽団と同じように、実技試験と音楽に関する筆記試験を受けるのですが、実際に採用された後は定時に役所へ出勤していて。なので、他の大阪市職員と同じように研修を受けたり、公務に関する講習を受けたりすることも多かったですね」

撮影:オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ

「通常のオーケストラや吹奏楽団だと、実際に演奏をする人と、演奏以外の制作面(企画、経理、マネジメントなど)を行う事務局に役割が分かれていますよね。大阪市の直営時代もそんな体系だったのでしょうか?」

「いいえ、音楽士がすべての企画立案から演奏会の実施、そして楽譜や楽器の管理、経理などをすべてを行っている状態でしたね」

「それは大変!ちなみに、民営化されたのは2014年のこと。改めて、どういった経緯があったのか教えていただけますでしょうか?」

「2012年、橋下徹さんが大阪市長を務められていた時期に大阪市の財政改革が行われたこともあって、多くの文化芸術に関する予算が大幅に削減されてしまったんです。その流れで、Shionも突然『大阪市の直営を廃止する』と決定事項として通達されました」

「突然!一般企業で考えると、一部署を切り離して廃止するようなものですよね.。楽団員の皆さんは一般企業における『解雇』に……?」

「そうですね。僕たちはいち職員なので、市の決定に従わないといけない、複雑な心境でした。それに、私たちは専門職での採用でしたから、改めて行政職の試験を受けて合格しなければ、配置転換もかなわないと言われていました。でも楽団員たちは音楽をやるために大阪市音楽団に入団したわけで……」

「皆さん、音大や芸大でプロを目指してきた方ばかりですもんね……」

「もちろん、『これだけ長く続けてきた歴史のある楽団なのだから、廃止してはいけない!』という声が団内外からあがりました。また、橋下市長とも対話を重ねることで『最初の数年間は助成金を出す形で応援する』と言っていただき、民営化に。

そこで名前も『大阪市音楽団』から『Osaka Shion Wind Orchestra』に変わったんです」


民営化直後の写真。中央にいるのは音楽監督の宮川彬良さん(宮川さんはNHK教育テレビの音楽番組『クインテット』のアキラさんでおなじみのあの方!)

「まるで創設当初を思わせるようなエピソード。だけど、公務員といえば『安定』をイメージしますが、立場も大きく変わってしまったわけですよね」

給与は3分の1になりましたし、楽団員の生活そのものも大きく変わりました。

それに、市民の中にも厳しい目を向ける人もいて。音楽に馴染みのない方からすると『自分に関係のないことにお金が使われているんだ』と思うでしょうし。別にそれが悪いわけではなく、そういった声があることも当然だとは思うんです」

「民営化にあたって、いろんな市民の声に触れたんですね」

「当時は批判的な声に触れることも多く、団内に悲壮感が漂っていました。ただ一方で、市民の方からは廃止案を撤廃する要望書も届いていましたし、いろんな市民の方から『がんばれ!』と声をかけていただいて、悪いことばかりではなかったのが救いでしたね」

「今までの活動を知っている人は、きちんと応援してくれたんですね!」

「やっぱり僕たちも『Shionの音を作ってきた』という自負があるし、民営化してからもやるべきことを粛々とやるように努めました。その結果、今のShionの音があるのは事実ですし、解散の危機を乗り越えたからこそ聴く人に寄り添える音楽を奏でられると思っています」

 

民営化によって、よりオープンな活動ができるように

「民営化後は活動内容が大きく変わったのでしょうか?」

「​​市営時代は、税金で活動を行っているわけですから常に『大阪市が実施する目的』を気にする必要がありました。それに公務員だから『営業』なんてもってのほかで、オープンな演奏会の数はそこまで多くなかったんですよ」

「オープンな演奏会の数が少ない?」

「まったくないわけではありませんが、どうしてもクローズドな鑑賞会や、大阪市の実施する式典での演奏活動が多く、積極的にPR・宣伝活動を行うことも少なかったですね」

「公務員だからこその制限があったんですね」

「でも、民営化されたからには営業も宣伝も必要になってきます。第一に楽団員の収入を確保しないといけない。まずは培ってきた財産である演奏をアピールしていくしかないので、大阪市に限らずさまざまな自治体や企業に営業して、より演奏する場所を増やそうと努めました」

「クローズドな場所ではなく、大阪内外のオープンな演奏の場を増やしたんですね。ちなみに、Shionは他の吹奏楽団と比べてSNSの運用も積極的なイメージがあります」

「SNSはすべて広報が担当し、リハーサル時の写真撮影や楽団員に登場してもらい、団員の普段の様子が伝わるようにしています。他にも、定期演奏会の数を増やしたり、公務員時代はコラボが難しかったアニメやゲームの音楽コンサートを開催したりして、より多くの方に興味を持ってもらうように意識しました」

Shionの公式YouTubeではまるで自分がライブ会場にいるかのような体験ができる。

「大阪市の職員として市民のために演奏するところから、あらゆる人々のために音楽を届けられる立場になったんですね」

「ただ民営化にも良し悪しがあって。活動の幅を広げられるようになったというメリットと、市営から一変して収入源の確保や生活の維持が苦しくなったというデメリット

「たくさん演奏できる場所が増えたのはうれしいけど、収入面のデメリットも大きいんだ……」

「民営化後、3年間は大阪市から助成金をいただいていたのですが、1年半の時点で資金がショートする見込みが見えてきました。その後に私が理事になったのですが、なんとしてでも存続させるために楽団員への給与を固定制から歩合制にして、正規雇用から業務委託契約に変えました

「契約の形を変えたんですね」

「各楽団員には、『各自、個人でも演奏や指導の場を広げてください。その間に僕はShionの仕事を増やし、皆さんを正規雇用に戻せるようがんばります』と伝えたんです。

そんな中、実はまだ正規雇用に戻せていなくて……

「なんと……」

「2ヶ月に1度行っている定期演奏会で、1700席を満席にすることができたら目処は立つかなと思います。ただ、コロナ禍で離れてしまったお客さんもいらっしゃるので」

「コロナ禍の音楽業界への影響は本当に大きかったですもんね」

「はい。それに将来的には、楽団のスポンサーと出会うことも大切だと考えています。プロのオーケストラや吹奏楽団はバックに大きなスポンサーがついていることが多いんです。民営化から10年しか経っていない僕たちはまだその存在に出会えていない。これも今後の課題の一つですね」

 

音楽は心の栄養。いつの時代もShionサウンドが鳴り響く理由

「存続が厳しい中でも長くShionが愛されてきたのには理由があると思っています。その一つが、先ほど石井さんもおっしゃっていた『Shionの音』なのではないでしょうか」

「Shionの音は、なんといっても『束(たば)感』があります。

すべての楽器の音が一緒に吹いて『束』になった瞬間のサウンドは、自分で言うのもなんですが格別。一人ひとりのレベルが高くとも、全員が吹いたときの一体感がなければいい演奏にはならないものです。その一体感こそ、なかなか一朝一夕では出せないものなのかなと」

Shionにゲストでやってきた指揮者・出口大地さん。出口さんの指揮棒が下りた瞬間、一気に空気が変わりました。

「それこそ今、やはり文化芸術に多くの予算をかけられない自治体も多いと思います。それでも音楽が必要な理由は何だと考えますか?」

音楽は形に残らない『無形の芸術』です。『ドラゴンクエスト』の音楽の作曲家・すぎやまこういち先生も『音楽は心の栄養だ』とおっしゃっています。

栄養があることで心身の健康や豊かさにつながるし、普段から見える景色も変わる。だから、太古から人間は音楽に親しんできたんだと思いますね」

「芸術はなくても生きていけるものだけど、たくさんの人と繋がれたり、感動を覚えたりできるんですよね。私はいつの時代も音楽は人間の心を豊かにするには必要なツールだと感じます」

「それこそShionが100年も続けてこられたのは、市営時代の活動をきちんと評価してくれる人がいて、やはり楽団を取り巻く人々のおかげなんです。どこかで音楽ファンや地域の人たちが『Shionの音を聞きたい!』と思ってくれている気がしています」

(C)飯島 隆

「ひとつの街にアイデンティティを持っている楽団もないですもんね。これからも『Shionといえば、大阪』のイメージが続いてほしいと思います」

「僕たちはもちろん他府県にも出向いていますが、やはり大阪で聴いていただきたいとも思っているんですね。自分たちを応援してくださるファンも、やはり大阪が最も多いですから。

でも、どうしても聴きに来られない方もいらっしゃると思うのですが、定期演奏会に関しては毎回配信をしているので、そちらで聞いていただけると嬉しいです!」

 

まとめ

慣れ親しんできたOsaka Shion Wind Orchestraのサウンドの裏側にあったストーリーに触れることができた今回の取材。私も長らくその音に圧倒され続けてきましたが、たくさんの歴史と苦楽の上で紡がれてきたものなのだと胸が疼きました。

ここまで100年続いてきたのは、Shionサウンドへの誇りとプライド、そして周囲の人々がShionを想う気持ちがあってこそ。この先100年もそのサウンドが響き続けるよう、私も多くコンサートに足を運びたいと思います。

また、春からはかねてより楽団と親交のあったダグラス・ボストック氏が首席客演指揮者に就任します。新たな指揮者を迎え、ますますアップデートしていくShionにこれからも注目です!

【Shionの告知情報】

第160回定期演奏会 首席客演指揮者就任記念演奏会
日時:2025年4月26日(土) 13:00開場/14:00開演
指揮:ダグラス・ボストック(首席客演指揮者)
ユーフォニアム:スティーヴン・ミード
吹奏楽:Osaka Shion Wind Orchestra
会場:ザ・シンフォニーホール(大阪市北区大淀南二丁目3-3)
▼詳しくはこちら▼
https://shion.jp/concert/20250426-2/

プログラム
<オール「エドワード・グレグソン」プログラム>
■ セレブレーション
■ メタモルフォージス
■ ユーフォニアム協奏曲
■ 剣と王冠
■ 王は受け継がれゆく

 


住友生命いずみホール特別演奏会 2人のコンチェルト
日時:2025年5月6日(火・祝) 14:00開場/15:00開演
指揮:現田 茂夫
ソリスト:[トロンボーン]戸井田 晃和、[バリトン・サクソフォン]井澤 裕介
吹奏楽:Osaka Shion Wind Orchestra
会場:住友生命いずみホール(大阪府大阪市中央区城見1-4-70)

▼詳しくはこちら▼
https://shion.jp/concert/20250506-2/

プログラム
■ シンフォニア・ノビリッシマ(R.ジェイガー)
■ Tボーン・コンチェルト(J.デメイ)[トロンボーン:戸井田 晃和]
■ バリトン・サクソフォンと吹奏楽のための「ラプソディ」(M.ワッターズ)[バリトン・サクソフォン:井澤 裕介]
■ 交響曲第 2 番「旅こそ我が人生」(J.M.デイヴィッド)[日本初演]

撮影:三好沙季
編集:吉野舞