一昨日の天気は雪、昨日は大雪、除雪車が雪を綺麗にしてくれたかと思えば、今夜は大吹雪。こんにちは、北海道文化放送(UHB)でディレクターをしている二木と申します。

 

みなさんは、テレビ局に対してどのようなイメージをお持ちでしょうか。

「一流の車に乗ってる」「夜は芸能人と合コン」「肩にかける用のカーディガンを365枚持ってる」

きっと一般的には、華やかなイメージのあるテレビの世界。

 

しかし、私が働く北海道のローカルテレビ局は、“華やか”という言葉で表すのは少し違うような気がします。先輩のテレビマンたちは、“ギラギラ”というより“ほんわか”していて、“派手”というより“健気”という言葉が似合います。

 

もしかしたら、キラキラしたテレビの世界を夢見る少年少女たちのイメージは壊してしまうかもしれませんが、ローカル局には「え? こんなことある?」という、思わず吹き出しちゃうような魅力がたくさん詰まっています。

その一例がこちら。

 

この写真は、私が担当する番組で放送した再現ドラマのひとコマを切り取ったものです。

 

実はこの再現ドラマ、画面に出ている全員が役者さんではなく、制作側の人間なんです。演技をしているのは当時ADだった私と、ナレーター、そしてそのナレーターの家族です。そして、撮影場所はなんとナレーターのご実家。

 

数日後に放送された別の再現ドラマでは、役割チェンジ。ご遺族役の人がご遺体役に

 

この再現ドラマの撮影が入社してほぼ最初に与えられた仕事だったので、当時は「え…? どういうことですか!?」と驚きを隠せませんでした。しかし、これはまだローカル局のおもしろさの序章に過ぎませんでした。

 

とにかくなんでもやる!ADだしDだしフードコーディネーター

先ほどの再現ドラマのように、ローカルテレビ局は金銭的に決して恵まれているわけではないため、自分たちでできる限りの仕事をこなします。

 

東京のテレビ局であれば、現場には出演者さんがいて、ディレクターがいて、ADがいて、フードコーディネーターやヘアメイク、他にもスタイリストや場合によっては付き人など、多くのスタッフが撮影に居合わせます。

 

しかしローカル局では、カメラマン、音声(照明も兼務)、ディレクターの3名体制でロケを行うことが多く、ディレクターは基本的にひとりでいろんな業務をこなします。

 

東京や大阪のテレビ局に勤めるディレクターは、インサート撮影(VTRの中で差し込む商品やお店の映像)をADに任せることも多いと思います。しかし、ローカルテレビ局では、ディレクター自身で行うことが多く、インサートVTRにもディレクターの個性が出ます。

 

キー局であれば、「このハンバーグのインサート撮ってきて!」とADさんが撮りに行くことも多々あると思います。ですが、ローカル局では、ディレクター自らが出演者とのロケを終えた後に残って撮ることが多く、40歳を超えたベテランのディレクターが懸命に箸上げをしている光景も珍しくないのです。

 

ディレクターが奮闘して撮影されたインサート映像

 

キー局でインサート撮影をADさんに任せる理由は、消費する時間の問題だと思います。

 

キー局の大きな番組では、時間のかかるインサート撮影はADさんに任せ、ディレクターは演出面に集中する、という分業体制になっていることが多いです。しかしローカル局ではAD業務もディレクターが兼ねているため、インサート撮影もディレクター自身で行います。

 

おいしそうなラーメンのカットを撮るため、手がぶれないように息を止め、真剣な顔で箸を見つめるディレクター、カレーパンの中にあるゴロっとしたお肉をカメラに映すため、手で肉のありかを触って確かめるディレクター……。ローカル局では30代、40代のディレクターが「ここ! これ! 今めちゃめちゃおいしそう!」と、料理を撮るのに真剣な顔をして挑んでいる場面も多いのです。

 

テレビを見てくれている方々には「わかってくれ!」などと努力を押し付けるつもりはまったくありませんが、おいしそうな食べ物の映像が流れたとき、「この映像を撮るため必死になってる人たちがいるんだ……」と、頭の片隅にでも置いてくれたら嬉しいです。

 

ソフトクリーム店3軒を巡るロケでは、計10個のソフトクリームを食べました

 

また、その他の仕事としては、フードコーディネーター的な仕事をすることもあります。私のテレビ局にもフーディー(フードコーディネーターの業界用語)はいるのですが、料理が苦手な男性Dからの人気が絶えないため、料理が好きなディレクターは自分で料理を作って自分で撮ることもあります。

 

私は、学生時代のバイト先で受賞した『神戸屋フランスパンレシピコンクール最優秀賞』という肩書きを、やっと仕事で活かすことができたので、個人的に非常に満足しています。

 

これはカメラも自前。自分の一眼レフで撮影している

 

テロップもディレクターが発注する

 

このようにローカル局では、一人ひとりに与えられる裁量が多いのと、やりたいことを比較的自由にできる環境にあるため、自らの特技や個性を生かして働いている人が多いように感じます。

 

冒頭で紹介した再現ドラマに出ていたナレーターはもともと役者をしていた人だったり、以前ラジオパーソナリティーだった人が記者をやっていたり、もともと料理人だったディレクターがスタジオの試食をつくったり……。

それぞれの立場や役職というより、その人ができることをベースに働いているというのがローカル局の魅力のひとつかもしれません。

 

テレビと生活が近い! こんなところから中継を?

ローカル局には、「こんな仕事も?」という驚きだけでなく、「こんなところで?」という驚きもあります。テレビの中継というと、大掛かりで人員もお金も割いて行うイメージがありますが、それはあくまでキー局や準キー局のお話。ローカル局で中継は日常の延長線上にあります。

 

たとえば、百貨店の催事は地元民にとって大きな関心事であり、各局が中継をつなぎます。お盆やクリスマスなど、イベントシーズンに夕方の情報番組を見ていると、各局百貨店から中継を行っていることもあるくらいです。そして、その影響で生まれるちょっとかわいい珍事件もあります。

 

大通りで行われるイベントには道内各局が中継に訪れる

 

私がベテランリポーターさんから聞いた話の中で特に印象に残っているのが「ラーメン取違え事件」です。これは、毎年札幌の大通という大きな公園で行わる「札幌ラーメンショー」で実際にあった珍事件。

 

ラーメンショーも百貨店のイベント同様、各局が中継をつなぐため、現場には複数のテレビ局スタッフが入り乱れ、会場の各所から中継を行っています。

ですがある年、リポーターさんが次のラーメン店に行ったら、試食する用のラーメンが無いという事態に……。ひとつ前に来ていたテレビ局のスタッフさんが間違えて持って行ってしまっていたのです。

 

そのあとすぐにスタッフさんが謝りに来たそうなのですが、やはりローカル局。出店しているラーメン屋さんも知り合いだったり、イベント運営スタッフさんも元テレビ局員だったりします。この事件はすぐに知れ渡り、みんなのいい笑い話になったそうです。

 

他にも、新千歳空港にあるロイズチョコレートファクトリーで中継をする予定が被った際、ふたつの局のリポーターさん同士がすれ違いざまに挨拶する様子がそれぞれの情報番組で流れたり、同じスーパーから中継を行うときに、リポーターさん同士が体を交差しながら中継を行ったりと、他局と連携しながら中継を行ったというエピソードが次から次へと溢れ出てきます。

 

また、北海道のテレビ局は全て大通りというひとつの通りに面していて、場所としての距離も、スタッフ同士の心の距離も近いので、横のつながりが厚いという点もローカル局の魅力なのかもしれません。

 

【クマに猫にシマエナガ!やっぱり多い動物ニュース!】

そして、なんといっても伝えたいのが動物関連ニュースの多さです。

 

私が担当する番組の企画会議では、「カラスが大量発生したから、カラスの専門家に話を聞きに行こう」とか「シマエナガが見れるらしいから行ってみよう!」というほんわかネタが採用されるだけでなく、毎週金曜日には「金曜日のにゃんこ」というほんわかコーナーも放送されています。弊社では『めざましテレビ』の「今日のわんこ」だけでは飽き足らず、「金曜日のにゃんこ」も放送しております。

 

動物関連のニュースの中でも、ひときわ多いのが“クマのニュース”です。夕方に生放送の番組を行っていると、番組の途中で「速報です!札幌の市街地でクマが出ました!」というニュースが入ることも多く、新人記者がデスクに「現場行ってこい!」と言われている様子をこれまでに何度も見ました。

 

数十分後には、

「こちらが先ほどクマが出没した〇〇公園です! 見てください、クマの足跡が残ってます! ……あ、見えました! あちらの黒い影見えますでしょうか? クマです! ヒグマでしょうか! このあと目撃者にお話を伺います!」

と草むらをかき分けながらリポートしている中継は、北海道在住者にとっておなじみと言ってもいいのではないでしょうか。

 

ちなみに会社のニュース素材を検索するデータベースで「クマ 出没」で検索したところ、2020年の1年間で53件、2019年は195件、2018年には122件ヒットしました。

 

昨年も、多彩な熊のニュースが飛び交いました

 

ローカルテレビ局の楽しさ

これだけローカル局の魅力を語っている手前、申し上げづらいのですが、私は就活時ローカル局に入ることは考えていませんでした。キー局と準キー局だけ受けるつもりで、落ちたらテレビ業界をきっぱり諦め、文具会社に入ろうと思っていました。

 

しかし、たまたま受けた現弊社の面接の雰囲気がとても良く、「なんかローカル局ってやわらかい雰囲気あっていいな~」などとヘラヘラ面接を受けていたら、「採用!」といっていただき、今に至ります。

 

また、就活をしていた当初は「ローカル局って、できること少なそう……」という勝手なイメージを抱いていたのですが、今考えると、むしろ自分の裁量でできることは多いのかもしれないと思います。

 

“大きなこと”をするためには、多くの人、お金、時間がかかります。もしかしたら、大きなものの一部を担っている最中は、それが何になるのか、どんなものをつくっているのか分からなくなることもあるかもしれません。

 

ローカル局は、キー局、準キー局のように“大きなこと”はあまりできないかもしれませんが、自分が何を担っているのかわかりやすく、目に見えるかたちで地元の人々に届いていきます。ローカルテレビ局で働くことは、立場や肩書きを超えて、自分にできることをひたすら尽くすことなのかもしれません。

 

編集:鈴木梢