鹿カレーに台湾カレー、カレーパン……ココイチはなぜ200以上の「店舗限定メニュー」があるの?

2022.01.31

鹿カレーに台湾カレー、カレーパン……ココイチはなぜ200以上の「店舗限定メニュー」があるの?

カレーハウスCoCo壱番屋(通称:ココイチ)には、200をゆうに超える「店舗限定メニュー」が存在します。中区矢場町店の「名古屋赤みそカレー」、名駅サンロード店の「カレーパン」や「あんドーナツ」、野並店・東区錦通東桜店の「台湾カレー」、滋賀の数店舗で提供される「鹿肉カレー」など……なぜ生まれ、どう発展したのか取材しました。

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    国内外に1,472店舗を構えるカレー店、カレーハウスCoCo壱番屋(以下、ココイチ)。じつは「店舗限定メニュー」がものすごくある。

     

    その数は公式サイトでは載せきれないほど多く、200をゆうに超える。

     

    ココイチの店舗限定メニューページ

     

    筆者が食べただけでも、中区矢場町店の「名古屋赤みそカレー」、名駅サンロード店の「カレーパン」「あんドーナツ」などとにかく多い。

     

    基本はココイチ鉄板のカレーソースがベースで、盤石の土台から生まれる多様なアレンジが楽しい。

     

    中区矢場町店の名古屋赤みそカレー。ココイチおなじみのルーに赤みそが加わり、大ぶりの豆腐などと一緒に味わえる。筆者オススメの一品

     

    名駅サンロード店のミートカレーパン。ココイチ謹製のカレーソースの味わい

     

    全国チェーンとしてはどう見ても異例な店舗限定メニュー群。なぜ生まれ、どう発展したのか。経営企画室広報課長の松井亜紀さん、同課主任の森将宏さんに聞いた。

     

    愛知県一宮市のココイチ本社まで伺った

     

    2009年から全店舗で導入OKに

    左が広報課長の松井さん、右が広報課主任の森さん

     

    辰井「店舗限定メニューは、いつはじまったんですか?」

    松井全店舗でスタートしたのは2009年6月からです

    辰井「どんな意図から生まれたんですか?」

    松井:「自分たちで考えて実行し、成果を上げる『ストアレベルマーティング』の理念に基づき、個性的なメニューやサービスから地元で愛されるお店をつくる考えの一環ですね」

    辰井「店員さんも自分が考案したメニューが売れたらうれしいですもんね。開発から発売まではどんな過程ですか?」

    松井「大きく分けて……

    1:個々の店舗で開発
    2:Webからメニューを申請する
    3:本部で味や安全性などをチェックする
    (部長クラスの社員たちが確認し、最終的に社長が食べて可否を判断)

    といった形ですね。本部チェックを通らなかった場合、改良しての再チャレンジも可能です」

     

    駒ヶ根インター店で提供される「ココイチ風カレーローメン(712円)」。伊那地方の麺料理ローメンから生まれた。ここまでのアレンジメニューもOK!

     

    ローカルフードがもつ「ストーリーの強さ」

    辰井「応募メニューがつまずくポイントは何ですか?」

    松井「まずは味ですね。さらに『その店舗で提供する意味があるのか』です」

    辰井「その店舗で出す意味? ちなみに店舗限定メニューは、ローカルフードにちなんだものが多いのはなぜですか?」

    松井メニューが生まれる背景、『ストーリーがある』ものこそお客さまに提供する意味がありますから」

    辰井「地域のカルチャーと土壌と歴史が生んだのがローカルフードですからね。お客さんも、その土地ならではの味はうれしくなります」

    松井やっぱり地元の料理こそ、『食べてほしい』との思いも強くなると思います」

     

    野並店・東区錦通東桜店で提供する「台湾カレー(786円)」。筆者も食べており、スパイシーさの中にある妙味が忘れられない

     

    辰井「ちなみに限定カレー、名古屋の店舗に多いですよね?」

    松井「本社のある愛知は店舗数も多いですし、地域で店舗どうし横のつながりもありますので、近隣店舗のがんばりに触発されてはじめることもあると思います」

    辰井「ちなみに、個人的にお好きな限定メニューはありますか?」

    「岐阜出身なので、岐阜の『鶏ちゃんカレー』とか。お皿で出すお店に加え、鉄板でカレーを出すお店もありますよ」

     

    「鶏ちゃん」は、岐阜の南飛騨や奥美濃のローカルフード。タレに漬け込んだ鶏肉をキャベツなどと鉄板で焼くスタイルが多い。ココイチの「鶏ちゃんカレー」は一時、地域内の複数店舗で提供される「地域限定メニュー」としても提供された

     

    辰井「おお、うまそうだ!」

    「この鶏ちゃんカレーのように、期間限定で提供するメニューもあります」

    辰井「なぜ期間限定なんですか?」
       
    「鶏ちゃんは冬場によく食べられるメニューですから。商品により『ある時期にしか食材が入手できない』などのケースもあるんです」

    辰井「なるほど。ちなみに店舗限定メニューは販売終了になるものも多いようですが」

    「別の新メニューが出たり、食材が入手できなくなったりして無くなるものもあります」

    辰井「ある意味では役目を終えたと」

    「メニューを増やしすぎてもお客さまが迷ってしまいますし、食材のロスも出やすくなりますから。レギュラーメニューで似たものが出るときは、限定メニューを廃止して一本化することもありますね」

     

    筆者も食べたココイチの金沢カレー(ロースカツミックス、776円)。ルーもアレンジが加えられており、特製ソースも付属。加賀温泉駅前店などで提供

     

    ヒット作はレギュラーメニュー化も

    辰井「店舗限定メニューからレギュラーメニューに抜擢されたものはありますか?」

    松井「過去に『関西風濃厚甘くて辛いカレー』が、大阪を中心に”任意メニュー”に格上げされました(※現在は終売)」

    辰井「”任意メニュー”って?」

    松井「『カレーうどん』や『ハッシュドビーフ』など、希望するお店が出せるメニューです」

    辰井「カレーうどんはよく見ます! 自分の考えたメニューが広く販売されるのは、夢がありますね」

    松井「逆に地域限定カレーが規模を縮小して、店舗限定メニューになることもあります」

    辰井「ファンは思い出のメニューに『再会の旅』をする楽しみも生まれそう」

     

    松井「限定メニューが好評で、次々と新メニューを出している店舗もありますね。多いところでは『第20弾』になるくらい」

    辰井「ビックリマンシール並だ!」

    松井「”地域貢献”はココイチの大事なところで。たとえば近隣清掃は自店と三軒隣まで行いますし、店舗限定メニューから地域でもっと愛されたらうれしいですね」

     

    全国唯一の自前セントラルキッチンによる「鹿肉カレー」

    ここで、ココイチの店舗限定メニューでおそらく日本一話題となった「鹿肉カレー」を紹介したい。2010年の発売から10年を過ぎ、いまも滋賀県内の数店舗で提供する。

     

    鹿の命をムダにせずいただく鹿肉カレー

     

    この鹿肉カレー、日本のあらゆる鳥獣被害の中で、最も深刻という鹿による被害を少しでも抑えるために生まれた。何せ、

    ・日本の森林被害……7割 
    ・日本の農業被害……4割強

    が、鹿によって引き起こされる(※)。とくに森林は鹿が木々の枝葉や下層植生を食い尽くし、土壌が流出して保水などの機能がなくなる。その結果、土石流などの災害が引き起こされるケースもあるのだ。

    ※参照サイト:https://www.rinya.maff.go.jp/j/hogo/higai/tyouju.html
    https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/tyozyu/attach/pdf/201223-2.pdf

     

    ハンターたちが猟で捕獲した鹿も、食肉となるのは約5%。多くはそのまま廃棄されていた。そんな「命のロス」をなくすために生まれたのが、鹿肉カレーである。

     

    ちなみに鹿肉カレーを生んだココイチのフランチャイズ店経営企業「アドバンス」は、壱番屋本部が運営する3つのセントラルキッチンに続き、ココイチで4つめを自社資本でつくった。400を超えるココイチのフランチャイズ店経営会社でも唯一の試みだ。

     

    その類を見ないキッチンでつくられた一品をいただこう。

     

    大津におの浜店にて提供される「近江日野天然鹿カレー」

     

    鹿肉のほかには大ぶりのニンジンなどが入る

     

    鹿肉は牛・豚・鶏のどれにもないほど、歯ごたえしっかり。
    噛めば噛むほどに、ケモノのほのかな香りとうまみが口内に湧き出す。

     

    一瞬、ツナをほうふつとさせつつも、鹿のオリジナリティあふれる「珍味」とも言うべき味わいだった。

     

    店内価格は966円。通常メニューよりややお高いが、「ココイチのカレーで鹿を食べる体験」「社会貢献」の2つを加味すれば、悪くはない。

     

    この鹿肉カレーの仕掛け人が、滋賀県でココイチを展開する株式会社アドバンスの総務部長・川森慶子さんだ。まず鹿肉をカレー用の肉にして商業ベースに乗せることが、恐ろしく難しい。

     

    アドバンス総務部長の川森慶子さん

     

    辰井「鹿肉は、なぜ全体の5%ほどしか食用にならないんですか?」

    川森鹿肉は市場での価格が低いうえに、取れる肉量が少ないんです」

    辰井「つまりコスパが悪いと」

    川森「さらに、ヒトの体ほどに大きい獣を解体し、食肉加工するのは重労働ですから」

    辰井「僕ならカラダが悲鳴を上げそうです」

     

    筆者が鹿肉カレーを食べた、大津におの浜店

     

    川森「さらに鹿のモモ肉は脂身が少なくて。個体によって硬さやパサつき、野生獣独特の臭みがあります」

    辰井「どうするんですか、それ……」

    川森「なので、材料コストを少しでも下げたうえで、幅広い客層から支持される味付けに苦労しました。壱番屋本部に認められて発売するまでに7ヶ月かかりましたね」

    辰井「逆に言うと、よく7ヶ月でそこまでこぎつけましたね」

     

    辰井「とすると……店内価格966円ってそこそこ値が張るなと思ったら、これでもだいぶ安く出せているわけなんですね」

     

    「鹿臭くない」から、つくり直した?

    辰井「満を持して出した鹿肉カレー、お客さんの反応はいかがでしたか?」

    川森「ところが、『ジビエ臭さがない』とジビエファンの方からお声をいただきまして」

    辰井「そんな、苦労してにおいを取ったのに?」

    川森「それも魅力だったようで。次の仕込みから臭みをすべて消さず、ある程度の鹿肉らしさを残すようにしました」

     

    2018年発売の「淡海の国・滋賀の鹿肉コロッケカレー」

     

    じつは多種多様な鹿肉カレーを展開してきた、アドバンス。

    ・鹿ミートボールカレー
    ・鹿焼肉カレー
    ・鹿龍田揚げカレー
    ・鹿シチュー

    などのメニューが、滋賀県民をひそかに楽しませてきた。

     

    辰井「そんな鹿肉カレーで、とくに見所あるメニューとは?」

    川森「とくに『鹿カツカレー』は不動の人気です」

    辰井「おっ、カツVer.が!」

    川森「長浜市余呉で捕獲した鹿肉を使い、毎年冬季限定(12月1日~翌年3月末日)で、長浜8号バイパス店限定で今でも販売しています」

    辰井「見るからにうまそうだ」

     

    2017~2018シーズンのチラシ

     

    「鹿肉当てゲーム」がプチブーム?

    辰井「ほかに鹿肉カレーの反響はありましたか?」

    川森「お客さんからは『県内の鹿害に食べて貢献したい』『低カロリー・低脂肪で、心置きなく肉をがっつり食べられる』とうれしいお声をいただきます」

    辰井「僕も食べましたが、たしかに『赤身!』って感じでしたね」

    川森「それでいて『まるでビーフのようだ』とのお声も多くて。ビーフカレー弁当と鹿肉カレー弁当の2つを土産に持ち帰り、どちらがビーフカレーかを当ててもらう……という余興を楽しまれているお客さまも多かったです」

    辰井「そんなニッチな遊戯が楽しまれていたんですか!?」

    川森「ええ。NHKの方が同僚に食べてもらったら『鹿肉カレーをビーフカレーだと間違えた』そうで、鹿肉とカレーの相性に大変驚かれました」

     

    言われてみれば牛肉っぽさがあるかも?

     

    「硬い・やわらかい・野生らしい」部位が一皿で味わえる

    辰井「ちなみに、猟での銃弾が混入していることはないですか?」

    川森購入する鹿肉は目の前で金属探知機に通し、金属片が無いかを両社で確認します

    辰井「そこまでやってくれるのか。安心して肉を噛めますね」

    川森「切る、煮込む、最後のパッキングまで異物をチェックします。さらにパッキングでは、鹿カレーの一皿分ごとに……

    ・やわらかくて食べやすい部位
    ・硬い部位
    ・野生らしい部位

    をうまく混ぜます

    辰井「パズルみたいだ。一皿でさまざまな食感が味わえると」

    川森「しんどい作業ですが、鹿肉大好きになってほしいので」

     

    かつては滋賀県庁でも鹿カレーを提供。行列店となり滋賀にジビエを普及させた

     

    地元の給食で鹿カレーが出されたり、他県のココイチにも提供が広がったり……確実に情勢を動かしている、滋賀ココイチの鹿カレー。

     

    辰井「なぜ、ここまでやるんですか?」

    川森この滋賀と日本で、牛・豚・鶏肉に負けない『ジビエブーム』を巻き起こしたいんです」

    辰井「地元のためにそこまでやるお店を見ると、ちゃんと利益の出る通常メニューも頼んで応援したくなりますしね」

    川森「販売店の当社、猟師さん、お客さまの三者が一体で滋賀県の鹿害に貢献。これが近江商人の理念、『三方よし』ですから」

    辰井「お、筆者よりうまくまとめましたね!」

    川森「ココイチは全国同じ味、同じメニューです。それに加えて店舗限定のメニューをきっかけに、いっそう楽しんでいただければ。『店舗限定カレーを食べる旅』なんて、いいかもしれません!」

     

    琵琶湖の夕焼け

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    辰井裕紀
    辰井裕紀

    卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。著書に『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』 (PHPビジネス新書)。

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