なんでタピオカって流行ったの? ブームの鍵は「台湾」にあった

2019.10.24

なんでタピオカって流行ったの? ブームの鍵は「台湾」にあった

今年、大ブームとなったタピオカドリンク。その生まれた背景には、台湾の「アレンジティー文化」があったのです。タピオカミルクティー発祥の店・春水堂で、スーパーバイザーの若松あやみさんに話を聞きました。

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    こんにちは、ライターのタカハシです。ご覧のとおり、今日はタピオカミルクティーのお店に来ました。イェーイ。オブジェ、でかーい。

     

    いやー、それにしても、今年はいたるところでタピオカドリンク片手に歩く人々を目にしますよね。

    私もブームに乗っかって飲んではいるものの、違いとか今イチよくわからない……。そもそも、何でこんなに流行ってるんですか……?

     

    そんな疑問を解決すべく、代官山にある『春水堂(チュンスイタン)』さんにやってきました。春水堂さんは台湾発祥で、なんでもタピオカミルクティーの生みの親だというのです。日本の女子たちは足を向けて寝られない…!!!

     

    さっそくですが、『春水堂』でスーパーバイザーを務める若松あやみさんに話を聞いてみましょう。

     

    タピオカを飲んでいるのではない、”お茶”を飲んでいるのだ

    春水堂の店長やエリアリーダーを束ねる最重要ポジション「スーパーバイザー」の若松あやみさん。200人以上の社員から選挙形式で選ばれた4人のスーパーバイザーのうち、唯一の女性なのだそう

     

    「今日はよろしくお願いします!」

    「よろしくお願いします。さっそくですがタカハシさん、今飲んでいるのは何だと思いますか?」

     

    「もちろん、れっきとしたタピオカですね。甘くておいしいです!」

    「残念ながら違います。今飲んでいるのはこれなんです」

     

    「えっ…????」

     

    「タピオカドリンクってお茶なんですよ!」

     

    「どういうことですか……???」

    タピオカ入りの飲み物が生まれた背景には、台湾のお茶文化が非常に深く関係しているんです。順に説明していきますね」

     

    台湾の気候と“お茶アレンジおじさん”がタピオカミルクティーを生んだ

    「台湾には昔から、お茶をベースに漢方や白キクラゲ、パッションフルーツなどを入れてアレンジした『アレンジティー』を飲む文化があるんです。

    「アレンジティー。あっ、スタバの『ほうじ茶ティーラテ』とかもですか?」

    「はい。日本では緑茶や麦茶など、淹れたお茶をそのまま飲む『ストレートティー』の文化が根強いので、あまりなじみがないかもしれません」

    「そうですね。焼酎のお茶割りなら飲むんですが、それもアレンジティーですか?」

    「まあ、ざっくり言えば。けっこう渋い趣味ですね」

    「お酒好きなんです……じゃあ、タピオカミルクティーもそのアレンジティーの一種だと」

    「はい。私ども春水堂はアレンジティーの源流となった店舗なんです。この写真をご覧ください」

     

    (写真提供:春水堂)

    「ずいぶん古そうな写真ですね」

    「春水堂の創業者・劉(リュウ)漢介です。台湾は日本と同じくお茶をよく飲む国だったのですが、亜熱帯地域ということもあり、しだいに若者が温かいお茶を飲まなくなってきていたんです。『このままではお茶文化がなくなってしまう』と危機感を覚えた劉は、1983年に『泡沫紅茶』を開発しました」

    「ほうまつこうちゃ…?」

    「氷と中国茶をシェイクして作るアイスティーです。劉が大阪を訪れた際に、カクテルシェイカーを振るバーテンダーの姿からインスピレーションを得て作られたと言われていて。当時、台湾でお茶を冷やして飲むのは非常に斬新な行為だったのですが、その画期的な美味しさが注目を浴びました」

    「へえ〜! 劉さんはいわば“お茶アレンジおじさん”だ」

    「まあ、そうとも言えますかね(笑)。ですが、それだけではお茶離れに歯止めが効かず……。いかに若者向けに飲みやすくできるか試行錯誤を重ねる中で、さらなる発明が生まれたんです」

    「もしやそれが…」

    「はい、タピオカミルクティーです」

     

    (写真提供:春水堂)

     

    「1987年のことですが、スタッフのひとりが近くの市場で購入した中華食材用のタピオカをミルクティーに入れたそうなんですね。すると、ドリンクが瞬く間に人気を呼びました」

    「タピオカ自体は、台湾で一般的な食材だったんですか?」

    「スイーツの材料として使われることが多かったようですね。中華料理屋さんでコースを頼むと、最後にココナッツミルクに浸した白いタピオカが出てきませんか?」

    「ああー! 食べたことあります」

    「正確にいうと、キャッサバというお芋の一種から抽出したデンプンが『タピオカ』です。それを粉状にし、丸めてシロップに漬けたデザートが、台湾では昔から食べられていたんです」

    「なるほど〜。そのスイーツをお茶に入れちゃえ!という発明だったと」

    「ええ。台湾は屋台文化もさかんですから、テイクアウトして歩きながら飲めるタピオカミルクティーとの相性もよかったのかもしれません」

     

    日本で3度のブームを巻き起こしたタピオカ

    「それにしても、日本でタピオカがこんなにブームになったのはいつ頃からだったんでしょう?」

    「諸説ありますが、第1次ブームと言われる1990年代には、主に『デザートとしてのタピオカ』が話題になりました。先ほどお話ししたものですね」

    「ふむふむ」

    「そして、2000年代に国内でいくつかの店舗がタピオカミルクティーを展開したのが第2次ブームのきっかけだったようです。インパクトのある見た目も相まって大ブームを巻き起こしました」

    「そういえば、私も高校生のときに飲んでいた気がします」

     

    「ですが、当時は今ほどSNSが盛んではなかったのと、続いてパンケーキやポップコーンなどさまざまなスイーツが流行したこともあり、ブームは長く続かなかったんです」

    「では、なぜまた最近になって再燃したのでしょうか?」

    2015年にLCC旅客機(格安航空会社)が急激に増加したことが挙げられます。それにより台湾と日本を行き来する人が増えて、台湾旅行ブームが加速しました」

    「確かに『台湾スイーツ』や『台湾グルメ』といったワードを聞くことも多いように思います! アイスモンスターとか、マンゴーケーキも流行りましたね」

    「台湾のフードは日本人の味覚に合うんでしょうね。タピオカミルクティー人気も同じ理由があったのかなと」

     

    春水堂はお茶専門のカフェとして始まり、台湾で52店舗を展開している

     

    「また、日本には台湾と同じようにお茶文化がありますが、生産量に対し消費量が少ないという現状もあります。なので、アレンジティーであるタピオカドリンクも、新しいお茶の飲み方として受け入れられたのではないでしょうか」

    「考えてみたら、自分の家で急須を使ってじっくりお茶を淹れることってあんまりないです……。ペットボトルのお茶ばかり買ってしまいますね」

    「そういう方も多いですよね。ですから春水堂としても、このブームをきっかけにお茶文化が日本でもっと広まって欲しいと考えています」

     

     

    タピオカドリンクの美味しさは何で決まるの?

    「ちなみに、春水堂さんイチ押しのメニューはありますか?」

    「ミルクティー以外にも、鉄観音などいろんなお茶をベースにしたタピオカドリンクがあるので、女性だけでなく男性にもどんどん飲んでほしいですね。ホットのタピオカドリンクもありますし」

    「これからの季節、ホットもいいですね〜」

     

    お茶本来の味を楽しんでもらうためにタピオカは小粒サイズのものを使用。ホットだととろっとした柔らかめの食感、アイスだときゅっと引き締まったタピオカの食感が楽しめるのだそう。

     

    「お茶はもちろんですが、タピオカ自体も美味しくて。コンビニのタピオカとまったく違う味なので驚きました」

    「コンビニのタピオカは、キャッサバ由来ではなくこんにゃく粉を使用して作った似て異なるものなんです」

     

    「えっ、そうなんですね……!」

    「春水堂で使っているキャッサバから作ったタピオカは、食感が変わってしまうため長時間保存ができないんです。なので、春水堂では出来上がってから3時間以内のタピオカしか提供していません。お茶に関しても、茶葉の品質やお湯の温度などにこだわりぬいて淹れています」

    「タピオカの味とお茶の味、両方そろって美味しいタピオカドリンクになるんですね…!」

     

    タピオカドリンクを通じ、お茶市場を広げていく

    「春水堂さんはお店の世界観も独特ですよね」

    「店舗に関しては、現場のスタッフがすごく頑張ってくれていて。せっかくなので、店長も呼びますね」

     

    「入社2年目の西田です。よろしくお願いします」

    「店長さんお若い! タピオカブームで客層に変化ってありましたか?」

    「若い女性だけでなく、最近ではお一人でいらっしゃる男性のサラリーマンや年配のお客様も多いですね。仕事の合間にタピオカドリンクを買っていかれたり」

    「ふむふむ、売上比率はテイクアウトと店内でどのくらいの割合なのでしょうか?」

     

    代官山店はテイクアウトが4割、店内が6割です。初めて日本に出店した際『ゆっくり食事ができて、お茶ができるお店』づくりを目指していたこともあり、入り口からレジまでの距離をあえて遠くしているんです」

    「フードのメニューも多いですし、店内でゆっくり食事されているお客さんも多いですね」

    「逆に、タピオカドリンクの他のお店も多い表参道店は、テイクアウトが6割、店内が4割です。『テイクアウト可能』というポップを設置してお客様が入りやすいお店づくりを心がけています」

    「『テイクアウト』と聞くと気になるのがタピオカ容器のポイ捨て問題ですが、春水堂さんでは何か対策を取っていますか?」

     

    「一般の方から公募を募り発足した『タピオカミルクティー協会』のメンバーと共に、月に1回ゴミ拾いの活動をしています。『ゴミはゴミ箱に捨てましょう』ということを伝える啓蒙活動として、草の根的に続けていますね」

     

    「素晴らしい活動ですね。協会まで発足しているとは…!」

    「悪いイメージがついてタピオカミルクティー自体が嫌いになってしまわないよう、協会員が集まって定期的にミーティングも行なっていますよ」

    「なるほど。これだけタピオカがブームになっている中で、春水堂さんは今後どう戦っていくんでしょうか?」

    「”戦う“つもりはないんです」

     

    「!?」

    「私たちは私たちなりのお茶づくりをしているまでなので。色々なブランドが出てくることで市場が広まるのはむしろありがたいことですし、競合店さんも、一緒にお茶文化をつくっていく仲間だと捉えています」

    「言われてみれば、コーヒーも似たようなものかもしれませんね。高価なものもあれば、コンビニで安価に買えるものもあって、気分によって選ぶことができる」

    「そうなんです。コーヒーに比べると、お茶ドリンクはまだまだ市場も狭いので、他社さんにはもっと参入してほしいくらいです」

    「飲み物以外で、すでにコンビニにはタピオカゼリーやタピオカチョコなどの食べ物も出てきていますよね。今後、日本でタピオカはどのように変化していくと思いますか?」

     

    「タピオカミルクティーから派生した『日本茶ミルクティー』がブームになるのではないかという調査結果()があるんです。タピオカをきっかけに、今後ますますアレンジティーの分野が広まっていくと思いますね」

    「なるほど。いろんなアレンジティーのお店ができたら、街歩きも楽しくなりそうです。今日はありがとうございました!」

     

    取材を終えて

    アレンジティーであるタピオカドリンクの流行により、コーヒーを飲めるカフェだけでなく「お茶」を嗜めるカフェが増え、今後より一層お茶文化が広がって行くのではないかと思います。

    毎日飲む定番のドリンクとして「お茶」を挙げる人が大半になるのも、そう遠くない未来の話かもしれません。

     

    正直、今までタピオカドリンクを飲むとき「お茶の味」を意識したことはあまりなかったのですが、お店によってまったく味が異なるのもおもしろいところ。

    皆さんもタピオカドリンク、もとい、身近で楽しめる日本のお茶文化をぜひ体感してみてくださいね!

    イーアイデム

    この記事を書いた人

    ふつかよいのタカハシ
    ふつかよいのタカハシ

    三度の飯より酒が好きなライター。主戦場は赤提灯酒場。1人でも多くの人と盃を交わすための我が人生。合言葉は「約束はいらない、酒場で会おう」。

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