モイスカルチャーが実現する「海水農業」
翌日、トマトの海水実験を行うラボを訪れました。三重県志摩市の環境問題解決型複合施設「CO Blue Center(コーブルーセンター)」に併設されています
「海水農業というと、海の水でトマトを?」
「不可能領域だと言われていたんですが、僕らはこの『湿気中根』が塩に強いんじゃないかという仮説を立てていて。
今、実際にマイクロリーフとか、比較的育てやすい葉物に関しては海水で育てることに成功しているんです。トマトに関してもあと一歩という段階まできました」
ラボの中。左の青いタンクに海水を溜め、希釈してトマトに湿気として吸わせるそう
海水を吸っている湿気中根(写真下部)
「もともと海水を利用した農業は、世界でも行われてきたんですが、それは機械を使って海水から塩分を取り除き、そこに肥料を足して作るというもの。でもそれでは仕組みが難しくてなかなか普及していきづらいと思うので、海水をできるだけそのまま使う方法でできないかと」
「よりシンプルな方法を、と」
「そうですね。海水には、肥料の成分であるミネラルも含まれています。なので、将来的に海水のミネラル分だけでおいしい野菜を育てられれば、ほんとうの意味で”オーガニック” な農業が実現するんじゃないかと思っています」
「お話を聞いていると、豊永さんは『いかにコストを抑えて普及しやすくするか』を常に考えていますよね。そっちに力を注いでいるのは、なぜなんですか?
「たしかに。いち農家としてこれだけ活気的な技術を生み出して、大成功をおさめていて。それなら、たとえば海外へポモナブランドのトマトを売り出していくとか、お金になる方法はいくらでもあると思うんです。私だったらそっちの方向に目がくらみます(笑)」
「まあ、普通はそうですよね(笑)」
「豊永さんと一緒に海洋農業へ取り組まれている東山さんも『翔平(豊永さん)は不思議なくらいに私利私欲を考えてない。ただただ、環境問題を農業で解決するっていう任務のために粛々とやっている』と話されてましたね」
「『未来から来て、世界平和を俺たちに語りかけてる戦士なんじゃないかと思う』と(笑)」
写真中央が「CO Blue Center」代表の東山迪也さん。豊永さんに声をかけ、三重県の志摩市に海水農業研究用のラボを誘致した
「(笑)。仮に技術を独占して、『ポモナファームのトマト』が世界中に出回ったとします。でも、どこへ行っても同じトマトが並んでいる状況って、つまらなくないですか?」
「たしかに、その土地ならではの食材が見たくなりますね」
「僕は、農作物の多様性が残る世界にしたい。その土地の在来種が残っていって欲しいんです。だから、技術を世界中のどこでも実践できるようなモデルにしていきたい。そっちの方向にしか興味がないんですよね」
「実際、モイスカルチャーのシステムも導入ハードルは高くないんでしょうか?」
「はい。どこの国でも、どんな環境でも導入できるよう、必要な資材もすべて安価で手に入りやすいことを意識しています」
「技術を独占するのではなく、開いていっているんですね」
「いつか、農業が『土地と水の所有』と言う概念から完全に開放されていったらいいなと。モイスカルチャーがグローバルスタンダードの技術になって、農業から新しい文明観が生まれないか?というようなことを今は考えています」
トマトによくある「青臭さ」は、実はトマトの味じゃなかった?
「トマトの作り方のお話、本当に画期的で面白かったです。でも、もちろん味もおいしくて。ポモナファームのトマトをはじめて食べた時に『臭みがないな』って感じたんです。
トマトって、特有の青臭さみたいなものがあるじゃないですか? あれがなかった。そういうトマトに出会ったことがなかったので、ひと口食べたときに驚きました」
「たぶんその『臭み』って、トマトの味じゃないんですよ。残留窒素由来のものなんです」
「ざ、残留…?」
「今の野菜って、できるだけ大きく出荷するために肥料を与えすぎているんです。だから、肥料に含まれる窒素が野菜の中に残り、それが野菜のえぐみや臭みの元になっている」
「へー! 大きく育てるための肥料が、元々なかった特徴を生んでしまっている」
「子どもが野菜嫌いになるのも、もしかすると野菜の味が嫌いなんじゃなく、そういう窒素由来のエグみを敏感に感じ取ってるからなのかもしれませんね。子どものほうが、味覚が敏感だとも言われているので」
「そうなんですか…!? 確かに私も、子供の頃はあの臭みゆえにトマトが苦手でした。あれこそトマトならではの味だと思っていたのに……
自分の思っていた “野菜の当たり前” が全然そうではなかったことに、今日は気付かされ続けています」
「これ、わかりますか? ポモナファームのトマトの茎には、表面に細かい毛がたくさん生えていると思うんですけど、これも実は本来のトマトの姿。この毛を通じて、空気中の湿度からも水分を取り込んでいるんですよ」
「昔、アンデス山脈のような高原地帯で育っていたトマトは、こんな風に表面の毛から朝晩の結露を吸い取って、それだけで育っていたという話があります」
「へえ〜! 人間でいう皮膚呼吸みたいな」
「今の日本のトマトに毛が生えなくなったというのは、農業に関わる人の中では有名な話で。トマト本来の力が弱まってきている、ということかもしれませんね」
「本来のトマト……」
「モイスカルチャーでは通常の農法に比べて、温度や湿度などの条件を細かくコントロールすることができます。それによって、こうした『今は失われてしまった、その植物本来の力』を引き出すこともできるんですよ。高GABAのトマトも、そのひとつですね」
「すごい。この臭みのないトマトこそ、『ふつう(本来)の味』なんだっていうことを、いろんな人に知ってもらいたいですね」
「そうなんです。僕たちは別に、飛び抜けておいしいトマトや、唯一無二のトマトをつくろうと思ってやっているわけではない。
目指しているのは究極のトマトを作ることではなくて、先にも話したように気候変動に左右されない農業を確立していくことなんですよ」
「トマトは目的ではなく、手段なんですね」
「そうです。だから、モイスカルチャーを広めていきたい。その結果としてできたトマトが『ふつうにおいしい』ことが、大事な結果であり、希望だと思っています」
おわりに
(写真提供:ポモナファーム)
世界を救うための農業。ポモナファームのトマト作りには、ユニークなんていう言葉ではおさまりきらない大きな野望が託されていました。
50年後にも、夏にはみずみずしいトマトにガブリとかぶりついていたい。そんな “当たり前の未来” を守るために奮闘するポモナファームの挑戦をずっと応援していきたいですし、私もトマトのマフィンを焼き、届けていくことで微力でも応援ができればと願います。
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撮影:橋原大典(@helloelmer)
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