「冷麺じゃじゃ麺わんこそば……冷麺じゃじゃ麺わんこそば……冷麺じゃじゃ……」
こんにちは。ライターの松浦です。みなさんは噛まずに3回言えたでしょうか?
実はこれ、早口言葉ではなく、盛岡三大麺と言われる盛岡のソウルフードなんです。全国のみなさんに覚えていただきたくて唱えてみました。
個性豊かなメンバーが揃っている盛岡三大麺には、それぞれに熱いファンがいます。
1つ目は、焼肉屋さんで見かける透き通る牛だしスープに浮かぶ、つるっとした喉ごしの麺が特徴的な「冷麺」。2つ目は、お給仕さんからエンドレスに注がれるそばをどこまで食べられるかが試される、イベント的要素満載の「わんこそば」。そして、じゃじゃ麺は『3回食べるとクセになる』と言われる、味付けが委ねられた麺なのです。
冷麺とわんこそばは知っているけれど「じゃじゃ麺ってどんな食べ物?」「中華麺に載せられた、とろとろっとしている肉味噌あんかけのジャージャー麺と何が違うの?」と思う方がいるのではないでしょうか?
ジャジャン! こちらがその「じゃじゃ麺」です
3回食べないとハマらない麺ってどういうこと? と謎多き盛岡名物のじゃじゃ麺ですが、実はこれ、完成形ではないんです。ここから自分好みに味付けをして食べていくという、何とも珍しい食べ物なのです。
この中毒性のある味わいに虜になってしまう市民も多く、地元の友達や先輩に聞いてみたところ「デートで週1じゃじゃ麺を食べにいっていた」「部活や生徒会の集まりの終わりに食べにいくのが恒例だった」「飲んだあとに無性に食べたくなる」という声が。
そんなじゃじゃ麺を味わえる場所は、盛岡市内だけで16店舗もあります。盛岡市民の胃袋をロックオンしてしまう理由を探るべく、今回はじゃじゃ麺の元祖である「白龍」の店長である高階勝雄(たかしな・かつお)さんへ、お話を伺ってきました。
「3回食べるとクセになる」と噂のじゃじゃ麺って?
じゃじゃ麺の素材はとてもシンプル!
注文を受けてからカウンターの目の前で茹でられる、もちっとした平たい白い麺
輪切りにしてから、さらに細かく切られたきゅうりが添えられて
生姜と、分厚く切られた箸休め役の紅生姜も参戦
熟成された、濃厚な自家製肉味噌を載せれば
盛岡じゃじゃ麺の完成! そしてこれを……
麺と絡むまで、よく混ぜます
そしてテーブルにある調味料で味を整えて、いただきます!
紙エプロンのサービスも。よく洋服に飛ばしがちな私にとって、まさに神エプロン
じゃじゃ麺の特徴は、こうして素材を全体的によく混ぜてから食べる点と、卓上にある調味料で味を調整してから食べる点にあります。
最初はノーマルで味わって、中盤で各調味料で整えて食べる人。迷いなく酢を何周かさせている人。ラー油を多めに加えて食べる人など、食べ方はひとそれぞれ。
数えきれないほどの食べ方があるじゃじゃ麺ですが、高階さんからどんなカスタマイズ方法があるのか教えていただきました。
「今日はお時間いただきありがとうございます! じゃじゃ麺は調味料を自分好みにカスタマイズして食べるという、こちら側に味付けが委ねられている点が珍しいと思っていて。3回食べるとクセになると表現されることがありますよね」
「何回か通って自分に合う味を見つけて、その組み合わせでオーダーする方が多いですね。自己流でカスタマイズして食べるので、自分好みの味を見つけるまでに回数を重ねることから『3回食べるとクセになる味』と言われるようになったんだと思います」
「なるほど、あの言葉の真相はそういうことだったんですね! ちなみに高階さんは、どんな風にして食べられているのですか?」
「私は味が濃い方が好きなので、味噌を多めにして、ラー油とニンニクをちょっとだけ加えて食べます。割とノーマルな食べ方だと思いますが、注文を受けていると『こんな食べ方があるんだ』と気づくこともあります。カスタマイズはひとそれぞれですね」
「そういえば、盛岡市民ならではのツウなオーダー方法があると聞いたことがあります」
「例えば、生姜を増やしたい、抜きにしたいときは『キイロ増し』『キイロ抜き』と言ったり、紅生姜を調整したいときは『アカ増し』『アカ抜き』と言ったりします。化学調味料は『シロ』。あとは、提供されるお皿の大きさも変えられるんです」
麺を混ぜやすいように、注文サイズにかかわらず器を大皿に交換できるという。小でも大皿にして食べられるのはありがたい
合言葉は「ちーたんお願いします」
メニューの2番目に並ぶ「ちーたんたん」。50円という驚きの価格設定も含め、異彩を放つ「ちーたんたん」とは、一体何なのでしょうか?
ヒントは、テーブルの上にどんぶりに山積みされている卵
「コンコンコン……」と他の席から聞こえる、卵を割る音とかき混ぜる音。麺と具材をごちゃ混ぜにして食べたり、味付けが委ねられたりとインパクト大なじゃじゃ麺ですが、もう1点じゃじゃ麺には特徴があるのです。
ポイントは「麺と具材を全部食べないこと」。いいですか。美味しくても全部食べないでくださいね。なんていったって、最後のお楽しみが待っているんです。
少し具材を残し、テーブルの卵を割って解きほぐします
そしてスタッフの方に「ちーたんお願いします! 」とお願いしましょう。このとき、使っていたお箸も回収されます。茹で汁を注いだときに、写真のように卵を溶かす役目を果たすため
我がじゃじゃ麺が、締めの一杯の卵スープへと変身! 紅生姜をこのときまで大切にとっている方もいるんだとか。肉味噌が足りないときは、追加で注文できます
ここでも、先ほどの調味料で味を整えて卓上調理。最初から満点の味に辿り着けないことから、自分好みの味付けを追い求めて、何度も通ってしまうのに納得……。奥が深すぎるんじゃ、じゃじゃ麺。
高階さんいわく、ちーたんたんの誕生は常連客の一言だったといいます。
「うちの祖父が二日酔いでこれを作って食べていたら、それをみかけた常連の方が『それ飲みたい』と言ったことが始まりで。それがきっかけでメニューになったと聞きました」
初代店主である高階貫勝(たかしな・かんしょう)さんが、二日酔いで荒れた肝臓を休めるために、食べかけのじゃじゃ麺をアレンジして飲んでいたという卵スープ。中国語で『鶏蛋湯』と書き、鶏の卵のお湯と書いてちーたんたんと読むのだといいます。
ちーたんたんまで味わってこそのじゃじゃ麺ですが、お客さんのひと声から誕生したという裏話から、貫勝さんがいかにお客さんの声を大切にしていたかが伺えます。
満州の味を、盛岡人が好む味へ
じゃじゃ麺を味わえるお店は盛岡市内だけで16店舗もありますが、元祖じゃじゃ麺が誕生したのは今から約70年前まで遡ります。
白龍の初代店主である高階貫勝さんは、戦前に旧満州で「炸醤麺(ジャージャー麺)」という家庭料理をよく食べていたそう。戦後引き揚げてきた盛岡で、このジャージャー麺をアレンジし、地元の人たちの舌に合うように何度も試作して作り出されたのが、盛岡じゃじゃ麺の起源だといいます。
白龍本店は、官公庁通りの裏手にある桜山界隈にある。お店を構える前は、屋台でじゃじゃ麺を提供していたそう
「ジャージャー麺というと、中華麺というイメージがありますが」
「祖父が中国で食べていたのがどんなものなのか、わからなくて。私が生まれたときから、白龍ではこの平打ちのうどんを使っていたんです」
「いつも食べているうどんと、給食で出されていたきしめんの間というか」
「うちの麺は、もちっとしているのが特徴ですね。市内の製麺所と一緒に開発しました」
「この黒い味噌はどうやって作られているんですか?」
「合い挽き肉や、シイタケ、にんにくやゴマなどをじっくり炒めて、調味料で調整しながら、米味噌を入れて作っています。これは仕込みの最終段階ですね」
「盛岡市民に馴染むように、貫勝さんが何度も調整されたんですよね」
「そうみたいですね。地元の方々に感想をいろいろ聞きながら、この味になったと聞いています。祖父は職人肌で寡黙な人だったのもあって、盛岡じゃじゃ麺の成り立ちについて私も詳しくはわからないんですが」
「この味を長年守り抜くために、力を尽くされてきたんですね」
まもなく創業して70年を迎える白龍。旧満州で食べていた炸醤麺の味を、盛岡市民の口に合うように何度も何度も試作して、追求され尽くして誕生した盛岡じゃじゃ麺。
取材は平日の16時頃だったにもかかわらず、ひっきりなしに開けられるお店の扉。平日のランチタイムは外にずらりと行列ができるのが恒例で、土日は地元の方々だけでなく、観光客の方々でも賑わいます。
そんな白龍のじゃじゃ麺を食べられる場所は、桜山にある本店のほかに2店舗。盛岡駅ビル内にある「白龍フェザン店」と、盛岡の老舗デパートの川徳内にある「白龍カワトク店」でも味わうことができます。毎朝、本店で作られた味噌を持っていくとのことで、本店と同じ味をいただけます。
名前にある「貫く」と「勝つ」という文字のごとく、盛岡市民に愛される味を最後まで追求した貫勝さん。その味をこうして現代へと繋ぎ続ける勝雄さんの姿と、店内の壁に飾られた貫勝さんの写真に、心揺さぶられずにはいられませんでした。
地元の方々も誇る、盛岡名物のじゃじゃ麺。盛岡に来る際には、ぜひ食べてみてほしいです。あと2回は、盛岡に来たくなってしまうかも?
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この記事を書いたライター
盛岡市在住。青森県八戸市出身。 広告業界の営業を7年したのち、フリーランスのライターへ転身。 青森や岩手など自分の住む街を中心に、撮ったり書いたりしながら活動中。 趣味はフィルムカメラで写真を撮ること。 人のお話を聴くのが好きで、人オタクだと自負している。