

こんにちは、ライターのコエヌマです。
古今東西、小説やドラマの世界ではたくさんの名探偵が活躍してきましたが……中でも、特に印象深い探偵といえば―
金田一耕助
の名を挙げる人が多いのではないでしょうか。
小説家・横溝正史(1902年~1981年)によって誕生した金田一は、70作を超える人気シリーズ。映画やドラマなど映像化も多数されています。
今回はそんな金田一耕助の魅力を知るために、金田一ファンが集まる喫茶店「黒猫亭」におじゃましてきました!
▼西浅草黒猫亭
住所:台東区西浅草2-9-1
定休日:月火 ※月曜が祝日の場合は営業(その際は水曜を振替休業)
営業時間:水木金 14〜21時(L.O20:30)/土日祝 12〜19時(L.O18:30)

お話を伺ったのは店主の宇都木由美さん
子どものころからアガサ・クリスティやコナン・ドイルなどのミステリをよく読んでいたという宇都木さん。テレビドラマで金田一耕助と出会ってからはその面白さに夢中になり、横溝正史作品はすべて読破しているほどのファンとのこと。
今日は金田一耕助について知りたかったことを全部聞きますよ!
金田一の基本情報

「ではさっそくお話を伺いたいのですが……その前に! お店の名前『黒猫亭』は、金田一にゆかりがあるのですか?」
「そうなんです。『黒猫亭事件』という短編からインスピレーションを得ました」
「やっぱりその作品が好きだから?」
「いえ、喫茶店の名前に合うような作品のタイトルが『黒猫亭』くらいしかなかったんです(笑)。例えば『獄門島カフェ』っていう店があったとして、気軽に入れます?」
「かなり勇気がいりますね……」
「金田一ファンなら獄門島と聞いて入ってくれるかもしれませんが、ファン以外は来られなくなってしまいます。実際にうちは金田一ファン以外にも、喫茶店が好きな方や、ケーキやプリンを求めていらっしゃる方も多いんです」
「確かに! あえてのレトロな雰囲気で、純喫茶とかが好きな今どきの若い方にも好まれそうなお店ですね」

人気メニューのメロンクリームソーダとプリン。特にプリンは古き良き時代の固めの食感でとても好みの味でした!
「ではあらためて、初歩的なことなのですが、金田一耕助とはどんな人物なのですか?」
「金田一耕助は私立探偵です。身長160センチ前後でやせ型、年齢不詳。ヨレヨレの帽子に着物、ボサボサの髪の毛が特徴です。探偵としての能力は確かなのですが、とてもそうは見えなくて。なので事件が起こり金田一が登場すると、警察や関係者から『この人大丈夫かよ……』と疑われるところから始まります」
「まあ、頼りなさそうには見えますよね」
「ただ物語が進むにつれて、周囲は金田一のすごさを知るようになって。最後には『金田一先生のおかげで事件が解決した』と感謝され、別れを惜しまれる……というのがパターンですね」
「低かった評価が裏返って感謝されるの、カタルシスあって気持ちいい」

「金田一耕助という人間の魅力はどんなところですか?」
「人柄がとても素朴なんです。事件が起きた村の住民も、警察にはおっかなびっくり警戒して接しているのに、金田一にはつい何でも話してしまう。人たらしなところがありますね。『秘密だけど、あの子の本当の親は別の人なの』とか」
「それがきっかけになって事件解決が早まったり……」
「そうそう。金田一は無事に事件が解決した後も、よろこぶのではなく、犠牲者が出てしまったことに落ち込んで、傷心旅行に行くこともあります。人間くさくてかわいい人なんですよ」
「冷静でスマートな天才探偵タイプではないですよね」

「あと、金田一はいつもお金がないんです。小説を読むとわかりますが、たまにお金が入ってもお世話になった人におごったり、借金返済に充てたりしてすぐに使ってしまう」
「それでどうやって生活してるんだろう」
「彼の才能と人柄に惚れて、泊まるところを提供するようなスポンサーが何人もいて、それで生活できているようです。やっぱり人たらしなんでしょうね」

「金田一というキャラクターは愛嬌がある人柄ですが、作品の内容はおどろおどろしくて怖いものが多い気がします。タイトルも『悪魔の手毬唄』『八つ墓村』『病院坂の首縊りの家』など、不気味な印象です」
「私は作品自体に怖さはあまり感じません。物語の中で殺人事件は起こりますが、それはどのミステリでも同じですから。そういうのが苦手でなければ楽しく読めると思います。おそらく、角川文庫の表紙のイラストから、そういう印象を受ける方も多いのかなと」
「確かに、角川文庫の表紙絵はちょっと怖いものが多いですね……」
「また、金田一シリーズの映像化が本格的に始まった1970年代後半~80年前半は、世界的に洋画のホラーが流行ったんです。その流れを受けて、映像作品はホラー寄りになっているのかもしれません」

ちなみに同じ作品でも年代によって違うバージョンの表紙があったりします

黒猫亭 店内の壁には、横溝正史作品の装画を手掛けたイラストレーター、杉本一文さんの銅版画が飾られていました

こちらは海外版の『犬神家の一族』。金田一シリーズは世界中で翻訳されるほど人気なんです
「宇都木さんは、どんなところが金田一シリーズの面白さだと思います?」
「金田一シリーズと言われながらも、小説では金田一がいつも主役というわけではないんです。『八つ墓村』は辰弥という人物の目線で書かれているし、『三つ首塔』は男女が逃避行するというあらすじで、金田一が現れて活躍するのは終盤だったり。主役が変わることで、金田一の立ち位置が変わるところは面白いですね」
「映像作品だといつも金田一がメインだけど、小説版ではそういうこともあるんですね」
「あと、情景などの描写が見事で、小説であっても映像的な美しさがありますね」
「例えばどのような?」
「『獄門島』という作品は、小さな離島が舞台で、三姉妹は島に不釣り合いな綺麗な振袖を着ているんです。島で殺人事件が相次ぎ、姉妹の一人が鐘の中に入っていて、振袖が少しはみ出ている場面がある。島ののどかな風景と綺麗な振袖、中にある死体……という対比が、想像しただけで美しいと感じますね」
「確かに、殺人事件ではあっても、芸術性というか、何とも言えない情景が浮かびますね……ちなみに、金田一の“最終回”ってあるんですか?」
「最後の事件は『病院坂の首縊りの家』で、金田一は解決後にアメリカに行って、行方をくらませてしまうんです。金田一を支援していた建設会社の社長が、膨大な情報を動員して探しても、いまだに見つからないと」
「じゃあ、生きているかどうかも分からないのですか?」
「そうなんです。でも、今は孫がいますからね(笑)」
「『金田一少年の事件簿』ですね! 37歳になった彼が主人公の続編も連載中ですものね」
映像作品「金田一の役者といえば?」

「続いては映像作品としての金田一についてお聞きします。金田一シリーズはたくさん映像化されて、そうそうたる俳優が金田一を演じています。宇都木さんはどの俳優が演じた金田一が一番好きですか?」
「それは難しい質問ですね……」
▼金田一耕助を演じた主な俳優たち
・片岡千恵蔵
・高倉健
・中尾彬
・石坂浩二
・古谷一行
・渥美清
・西田敏行
・鹿賀丈史
・上川隆也
・池松壮亮・豊川悦司
・片岡鶴太郎
・稲垣吾郎
・吉岡秀隆
など
「個人的に好きなのは古谷一行さんですね。原作のイメージにピッタリかというと、それはまた違うんですけど。魅力的な金田一だと思います」
「僕なんかは、金田一はナヨナヨとしたイメージがあるので、古谷さんだと強そうに見えてしまうな……」
「原作のイメージにぴったりという意味では、石坂浩二さんを挙げる方は多いですよね」
「ちなみに、原作と映像で、作品にやはり違いはあるものですか?」
「ありますね。金田一シリーズは、白黒映画の時代から映像化されていて、片岡千恵蔵や池部良など当時のスターが金田一を演じていたんです。彼らが演じた金田一は着物ではなくてスーツ姿。登場するときも、スポーツカーでさっそうと駆けつけてくるんです」
「えぇーー!? あまりにも想像と違う金田一だ!」
「当時の大スターですから、ヨレヨレ着物にボサボサ髪型ではなく、スマートでダンディな探偵を演じさせたいというのがあったのかもしれませんね。しばらく経って、石坂浩二さんが演じる頃から、ようやく着物になったんです」

「ファンの方は作品を楽しむだけでなく、聖地巡礼をしますよね。金田一の場合はどんな聖地があるのですか?」
「まずは岡山ですね。清音駅は『本陣殺人事件』で金田一が初めて降り立った駅で、駅前に金田一のパネルがあり、周辺には『犬神家の一族』『獄門島』『八つ墓村』など、そうそうたる作品の舞台やロケ地があります。自転車で回れるよう、レンタサイクル“金田一自転車”のサービスもあります」
「金田一といえば『犬神家の一族』で湖から足が突き出ているシーンが有名ですが、あの場所って特定されてるんですか?」

「湖面から両足が出ている場所は長野県大町市北部にある青木湖がロケ地とされています。長野は他にも上田市に『犬神家の一族』の撮影で使われた場所が多いです」
「いいなー。聖地巡り、僕も行ってみたい」
「山梨市の『横溝正史館』では、横溝正史の書斎をそのまま移築して、公開されています。あと、岩手県二戸市に金田一(きんたいち)温泉があります」
「きんたいち? それは金田一と何か関係があるんですか?」
「いえ、おそらくは無いのですが、せっかくなので行きました」
「ファンの方の行動力ってすごい……!」
「聖地ではないのですが、『三つ首塔』という作品は、『桜姫東文章(さくらひめあずまぶんしょう)』という歌舞伎の演目を参考にしていると聞いたので、観に行きました。そういう風に、作品からいろいろと広がっていく楽しさはありますね」

「黒猫亭も金田一ファンにとって聖地かと思いますが、どうやって存在を知るのでしょう?」
「ファンの方たちはSNSで『横溝正史』『金田一』などと検索しているので、黒猫亭にはすぐに気づいて来てくださいました。軽い気持ちでこういう店を作りましたけど、こんなにファンの層が厚いとは思わず、びっくりしました。けれど、おかげでファンの方たちと繋がることができたのがうれしいですね」
「共通の好きなものを通じて出会いや交流が生まれ、広がっていく。とても素敵です……!」
「黒猫亭では毎月第一金曜日に、ファンが交流する『ナイトクラブ』を開催しています。予約不要・誰でも歓迎なので、気になったらぜひお越しくださいね。ファンが集まってお話しするだけなので、詳しくなくても全然大丈夫ですよ!」
「ぜひお伺いします! 今日はいろいろなお話をありがとうございました!」

こちらは後日伺った『ナイトクラブ』で、金田一について語り合う常連のお客さんたちの様子です
というわけで、最後に宇都木さんと、黒猫亭に通う金田一ファンたちがおすすめする金田一作品を紹介しましょう!
ファンがおすすめする金田一作品
黒猫亭店主・宇都木さんのおすすめ3選
・獄門島
「3人の妹たちが殺される、俺の代わりに獄門島へ行ってくれ」亡き友人からそう告げられた金田一は、瀬戸内海にある小島・獄門島へ渡る。3姉妹がいる鬼頭家の本家と、対立する分家。やがて、松尾芭蕉の俳句に見立てた方法で、娘たちは次々と殺されていくのだった。
▼宇都木さんコメント
「獄門島」は、週刊文春が1985年と2012年に主催した「東西ミステリーベスト100」でいずれも1位になるなど、ミステリ作品として人気の高い作品です。金田一シリーズを初めて読む人にはぜひおすすめです。
・幽霊座
浅草の劇場・稲妻座。若手歌舞伎俳優・佐野川鶴之助が、演目の途中で行方不明になった。17年後、稲妻座で再び同じ演目が行われることになり、鶴之助が演じた役を務めるのは遺児の雷蔵。だが本番直前、差し入れを食べた雷蔵は倒れてしまう。急きょ鶴之助の弟が代役を務めたが、鶴之助が行方不明になったのと同じ場面で死亡してしまうのだった。
▼宇都木さんコメント
稲妻座という架空の劇場が、浅草・雷門の前にあるという設定です。その周辺の描写では、今も実在する浅草の場所が登場するなど、現実と物語を行き来する感覚を楽しめます。金田一シリーズの中では知名度が高くありませんが、横溝正史先生がお好きだった歌舞伎の雰囲気も味わえておすすめです。
・本陣殺人事件
岡山県にある名家・一柳家の長男の婚礼の晩、離れにある夫婦の部屋から悲鳴と琴の音が聞こえてきた。叔父らが駆け付けると、部屋には血まみれの夫婦の死体と琴、3本の指の血痕。寝室の周囲の、雪が積もる庭には足跡が無く、完全な密室状態だった。偶然遊びに来ていた金田一は、密室殺人の謎に挑むのだった。
▼宇都木さんコメント
金田一耕助の最初の事件が本作です。一見、夫婦が心中したように見えるけれど、実はトリックによる殺人事件だった。それを金田一が解き明かしていく様が見ものです。ちなみに角川文庫「本陣殺人事件」に、「黒猫亭事件」も収録されています。
常連・藤永大一郎さんのおすすめ
・八つ墓村
戦国時代、ある村に3000両を持った8人の武者がやって来た。村人たちは武者を殺して金を奪う。以来、村には怪奇現象が相次ぎ、八つ墓村と呼ばれるように。時を経て大正時代、武者を殺した首謀者の子孫が、村人32人を惨殺し行方不明に。そして20数年後、八つ墓村ではまた連続殺人事件が起こるのだった。
▼藤永大一郎さんコメント
地方の対立している二つの名家のどろどろした部分、例えば隠し子がいたり、意外な遺言書が出てきたりと、ワイドショーを見ているような、人間としてつい覗きたくなるようなドラマに浸れます。30回以上読んでいる大好きな作品です。金田一シリーズで、ほかには「犬神家の一族」「獄門島」「悪魔の手毬唄」「夜歩く」などが好きです。
常連・えかてさんのおすすめ
・壺中美人
陶器の収集家として有名な画家が、自宅アトリエで死体で発見された。第一発見者でお手伝いの老婆は、血まみれのナイフを手にした女が、壺の中へ入っていくのを目撃したという。捜査を進める金田一は、数日前に偶然テレビで見た壺女美人という曲芸を思い出し、真相へ迫っていく。
▼えかてさんコメント
物語としてはやや地味ですが、金田一の洞察力のすごさが表れているお話です。時代設定の昭和29年を知る意味でも面白いです。を私はこの作品が好きなあまり、「壺中美人」の同人誌もつくりました。「横溝文化祭」という、横溝正史先生のファンによる同人誌即売会にも参加します。好きをこじらせてここまで来てしまいました。

えかてさんが制作した同人誌
常連・p3ク(ぴーさんく)さんのおすすめ
・悪魔の手毬唄
静養のために岡山と兵庫の県境にある鬼首村を訪れた金田一は、奇妙な姿の死体が残された連続殺人事件に遭遇する。それは、村に伝わる手毬唄の歌詞に見立てた殺人であった。捜査を行ううちに、20年前に村で起こった未解決の殺人事件の真相が見えてくるのだった。
▼p3クさんコメント
手毬唄の通りに娘たちが死んでいく、という展開に衝撃を受けました。あと、容疑者とされる老人が失踪し、村の青年団が山狩りをするのですが、「あんなじいさん探したくない」「(村を訪れていた)人気歌手のそばにいたい」など、文句を言いながら探している場面がとても生々しいです。
常連・毘沙門天松茸さんのおすすめ
・獄門島
こちらは宇津木さんに続いて2人目のおすすめ作品。あらすじは割愛します
▼毘沙門天松茸さんコメント
本作品にはあるトリックが登場します。最初に読んだときは、「本当にこんなことできるのかな?」と少し引っかかっていたのですが、実際にその場面と同じような状況に行ったとき、「確かにできる!」と気づき、それから金田一シリーズで一番好きになりました。
れいさんのおすすめ
・八つ墓村
こちらは藤永さんに続いて2人目のおすすめ作品。あらすじは割愛します
▼れいさんコメント
地方の閉鎖的な村を舞台に、人芸関係のどろどろした部分や、なぜそうなっているかという背景、さらには戦国時代~昭和中期までの時間の流れまで描かれています。登場人物も多いし長い話ですが、読み終わったときの達成感も大きいです。
金田一シリーズは本格ミステリでもあり、どうやって謎が解かれていくか、犯人は誰なのか、を想像しながら読んでいくのも面白いです。
まとめ

というわけで今回は金田一耕助についてお話を聞くために、西浅草黒猫亭にお邪魔しました。
飛び抜けた推理力を持つだけではなく、人間としての金田一や、その人柄の良さなど、色々なお話をうかがって、ますます金田一シリーズに興味を持ってしまいました! みなさんもぜひ原作や映像作品に触れてみてくださいね!
▼西浅草黒猫亭
住所:台東区西浅草2-9-1
定休日:月火 ※月曜が祝日の場合は営業(その際は水曜を振替休業)
営業時間:水木金 14〜21時(L.O20:30)/土日祝 12〜19時(L.O18:30)
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この記事を書いたライター
ジャーナリスト。新宿ゴールデン街「プチ文壇バー月に吠える」、荒木町「ブックバーひらづみ」の店主でもある。著書に『炎上系ユーチューバー 過激動画が生み出すカネと信者』など。伝説のぼったくりバーを追ったルポ『ゴールデン街のボニーとクライド』はnote創作大賞2022入賞










































