

ジモコロ編集部の柿次郎です。今日は北陸新幹線の延伸で注目を集める街、福井にやってきました。
福井は近年、20〜30代の若い層を中心に移住者が増加中。伝統のものづくりに関わる人や、地方創生の文脈でまちづくりに関わる人など、プレイヤーが多い地域なんですよね。
そんな福井の盛り上がりに、多大な貢献をしていると言っても過言ではない人物が今回の主人公。

新山直広さん。
恐竜ポーズでふざけてますが、実は福井のローカルデザイン界隈で知らない人はいないくらいに有名な実践者です。
新山さんは特定の地域に根ざして、地場産業などのブランディングを行う「インタウンデザイナー」の提唱者。ものづくりの聖地でもある鯖江を拠点に、産地特化型のデザイン会社TSUGIを経営しています。

新山さんは僕と同じ大阪出身で、2009年に鯖江市に移住。今でこそ地域活性の先進地域として注目を集める鯖江の「移住者第一号」として、デザインでまちづくりに貢献してきました。
職人さんの工房を一斉開放するものづくりの一大イベントRENEWを仕掛けたり、福井駅前の再開発にもデザイン文脈でがっつり関わったり、とにかく福井という土地を面白くするために……

暴れまくってきた人!
TSUGIのスタッフは今や19人。移住者として飛び込んだ地域で15年の月日を費やし、ここまでの規模に事業を成長させるというのはかなりの偉業です。
僕も長野の山奥に移住して会社を経営していることもあり、地域に根ざして事業を展開し、地域に雇用を生み出していく、経営者としての新山さんのあり方にとても興味があるんですよねぇ。
面白い地域には面白いデザイナーがいるという仮説も僕なりに確かめたいです。

駅の土産物売り場を静かに眺めるふたりの経営者
新山さんはデザイナーとして、経営者として、福井という土地で走り続けてきた自分の今をどのように捉えているのでしょうか? 新山さんの福井市内の自宅を訪ねて話を聞きました。
話を聞いた人:新山直広さん

1985年大阪府生まれ。京都精華大学デザイン学科建築分野卒業。2009年福井県鯖江市に移住。鯖江市役所を経て2015年にTSUGI LLC.を設立。2022年に越前鯖江地域の観光まちづくりを行う一般社団法人SOEを設立。2023年にはこれからの地域とデザインを探究するLIVE DESIGN Schoolを開校するなど、近年ではものづくり・まちづくり・ひとづくりといった領域で活動している。グッドデザイン賞特別賞、国土交通省地域づくり表彰最高賞など受賞多数。2024年度グッドデザイン賞審査員。
口よりも手を動かしていく

「ここが新山さんの自宅かぁ。団地のリノベがいい感じだ。どのくらい住んでるんですか?」
「4年くらいになりますね」
「会社は鯖江、住まいは福井。そこを切り分けたのはどんな理由が?」
「出張の行きやすさとか家庭の事情とかいろいろあったけど、一番はプライベートくらいゆっくりしたいって思いかな……これはマジで……」
「忙しかったんですねぇ。でも福井に来てからも、今度は福井の仕事をめっちゃやってますね。地域特化の会社だから、新山さんのいる場所で仕事が生まれていくんですね。福井駅前の商業施設のロゴデザインとか、土産物店の運営とか」

建物のネーミングとロゴデザインを手がけた福井駅前の商業施設「FUKUMACHI BLOCK」。新幹線開通に合わせて開業した

福井駅前の商業施設内で店舗運営を行っている土産物店「SAVA!STORE」。デザイン性とストーリー性の高い、福井発の洗練されたアイテムが並ぶ
「まあ、そうやねぇ」
「振り返ってみて、なんでそれだけの仕事がやれたと思います?」
「ひとつは、シンプルに拠点を移して気持ちよく暮らせたこと。福井の仕事をするために来たわけではなかったけど、来たら来たで楽しかったし、新しい仲間にもたくさん出会えて」
「いい街ですもんね、福井」

新山さんの自宅の目の前に流れる足羽川。気持ちのいい景色
「そうだね。あと実務的なことで言えば、組織として大きな仕事を受けられるように、体制を築いてきたこともあるね。今、TSUGIは19人スタッフがいるんだけど、鯖江に住んでいた頃はまだ5人だったから」
「え、4年間でそんなに増えたんですか! 何かきっかけが?」
「チーコって何でもできるスーパーデザイナーの役員がいたんだけど、彼女が抜けて組織体制を見直さなくちゃいけなくなったんだよね。このままだと大きな仕事が受けられない! ヤバっ! って」
「優秀なスタッフの穴を埋めるために、組織体制を整えていった」
「そう。だからデザインだけじゃなくて、プロジェクトマネジメントもできるスタッフを積極的に入れていったんだけど」
「なるほど。でも、会社的には少数精鋭でやるという選択肢もありましたよね。なんでそもそも、大きな仕事を受けられるようにしたかったんですか?」

「違和感への抵抗かな」
「意外にもパンク」
「僕は地域のことは地域の会社がやるのが一番いいと思ってるんですけど、地域の大きな仕事ってほとんど東京の大きな会社が独占しちゃうでしょ? そういう利権みたいなものに一石を投じたくて」
「そういうことか。基本的に『外』に仕事を持っていかれたくないと」
「うん。だって、その土地のことをよく知らない人が、いきなり自分の街にやってきて、塔みたいなデカいだけの建物を建てたりするの違和感ないですか?」
「塔って独特な表現」
「僕は福井が好きだから、好きな街で愛のない仕事をされたくない。だから僕は福井駅の再開発にも、実はずっと批判的な態度を取っていて」
「そうだったんだ。でも今はデザインでがっつり関わってますね。何か心境の変化が?」
「きっかけは再開発側から依頼された建設工事の仮囲いのラッピングデザイン。その担当者がすごくいい人だったというのもあったし、再開発側の人たちとコミュニケーションを重ねていくうちに、批判ばかりの自分が子どもじみていて、ダサく感じたんだよね」
「あー、そういうのありますよね。相手も同じ人だしなぁって」
「そうそう。それで自分たちなりに何ができるかなって考えて。僕は再開発に反対派の人たちも巻き込むかたちで、『街は自分たちのものだ!』って主張するようなキャンペーンを展開させてもらったんだよね」

「熱い企画だ」
「『未成年の主張』みたいだよね。でも僕の中では、社会運動のようで、やってみたらとても楽しかったんです」
「再開発の仕事はここから始まった?」
「そう。不思議なもので、ここから他にもロゴデザインやネーミングなどいろんな仕事を数珠つなぎに依頼されて。最終的には、再開発でできた商業施設のなかに出店までするっていう」
「ミイラ取りがミイラに?」
「ほんとに。でも今はやってよかったと思います。大切なのは与えられた機会を最大限に生かして、どう行動するか、だよね。口よりも手を動かしていくことで、新しい景色は見えていくものだと思う」
若者が帰ってくる街、福井

「新山さんは長年に渡って福井に根ざして仕事をしてきているわけですけど、最近の福井ってどんな感じですか? プレイヤーも結構増えてる?」
「増えてるし、どんどん人が帰ってきてもいますよね。ほかの地域は知らないけど、福井がダメかっていうとぜんぜんそんなことはないし、むしろいい感じだなーと思ってて」
「福井ってもともと関西文化圏ですよね。僕は大阪出身だから思うけど、関西ノリをちゃんと持ってる地域だなと。そこが強みだし、僕が今住んでる長野とはまたぜんぜん違う感じがしていて」
「ラテン……と言ったら盛りすぎかもしれないけど、みんな明るいし、商売してる人も多くて、コミュニケーションも活発。中に入ろうとする人を受け入れてくれる柔軟性もあるし、僕はすごく心理的安全性を感じる地域ですね」
「県民の幸福度も高いって言われてるし、いい地域なんだろうなぁ。新幹線延伸の影響がどう出るかっていうのが、個人的には関心ありますけど」
「それでいうと東京が近くなったことで、逆に関西と分断しちゃった感じはあるよね。これからどんどん東京の経済や文化が入ってくるだろうし、それがどうトレードオフされるか」

「さっき新山さん、福井に人が帰ってきてるって言ってましたけど、どういう人が帰ってきてるんですか?」
「僕のまわりの若い人たちは、一度東京に出たものの、福井が盛り上がってる噂をどこかで聞いて、関わりしろを求めて戻ってくるような人が多いかな」
「東京よりも、地元に帰った方が役に立てるかもって思うのかもしれない?」
「そういう子たちって、地元が盛り上がってることに、うれしさと怒りが込み上げるらしいのね。うれしいけど、くやしいみたいな気持ちっていうのかな」
「あー、そうなんだ」
「僕はそういう子たちのことを『千尋ちゃん系』と言ってる。ここではないどこか不思議の世界に迷い込んで帰ってきた人たち。誰しもそういうのってあるのかもしれないけど」
「『千と千尋の神隠し』の! 一回外に出たからこそ気付けることってありますよね。故郷のことも、自分のことも。そうやってみんな大人になっていくのかなぁ」
「危機感」はエネルギーの源

「地域の盛り上がり的に言うと、やっぱり県内では福井より鯖江が先なんですか?」
「うん、それはそうだと思う。特に勢いが出てきたのはここ10年くらいなんだけど、それ以前にもタネはあったなと思っていて」
「タネというと?」
「簡単に言うと、街自体に起業マインドが根付いてたということ。鯖江は昔からものづくりの街だから、自分で事業をやってる人が多い土地柄なんだよね。みんな社長みたいな」
「なるほど。それはポテンシャルが違うだろうなー」
「そういう市民性があったところに、1995年に世界体操があった。アジアで初開催だったんだけど、それがなぜか鯖江で開催されたという」
「えーそれはすごい」
「それで街が湧き上がって、市民活動も活発になった。そのあと2010年に『市民主役条例』が制定されて、市民主体のまちづくりが進められた。この条例は影響が大きくて、今も行政の仕事の150くらいを市民に委託しているんですよね」

「新山さんが鯖江に移住したのは?」
「2009年。僕は移住者第一号で、移住者として地域の盛り上げにデザインで貢献させてもらったんだけど、地元系だと2015年には福井出身のプロデューサー若新雄純さんが全員、女子高生のまちづくりチーム『鯖江市役所JK課』を立ち上げて」
「JK課! 話題を集めたやつですね」
「2015年っていうのは福井カルチャー的には重要な年で、その若新さんがジモコロにも登場している森一貴を引っ張ってきた。さらに言えば、2015年はRENEWがはじまった年でもあるし、TSUGIができた年でもあって」

産業観光イベント「RENEW」。開催期間中は80社以上の工房やショップを自由に出入りできる。工房内で実際の仕事を見学して、職人と直にコミュニケーションを取れるのが魅力。昨年度の来場者数はなんと延べ3万7千人!
「すごい、重なってるんだ」
「あと『サミーズ』っていう今や福井のゲストハウスと言えばここ! っていうような宿ができたり、『クマゴローカフェ』っていうめっちゃいいカフェができたりとか、とにかく今につながることがみんな2015年に結集してた」

「よく考えたら、同じ年にジモコロが生まれてますねぇ。2015年って、なんなんだ……?」
「さらに遡ると、2013年には、地域の人との出会いを楽しむ旅のガイドブック『福井人』が出てる」
「『海士人』『三陸人』とか、横展開されてるシリーズですよね。東日本大地震以降の新しい観光のあり方を提示した先駆的な本だったと記憶してます」
「『福井人』があったから帰ってきました、移住しましたっていう人は多いんだよね。手がけたのはissue+designの筧祐介さんという人で、今は社会課題をデザインの力で解決していくことを目指した活動をしているね」
「福井のローカル的なムーブメントって、全国の地方創生的な動きのなかでも先駆けていた印象がある。これって僕は危機感が先に立っていたからじゃないかと思うんです」
「それはあるだろうね」
「このままだと人口が増えない! 面白いことをやっていかないと縮小する! っていう」
「実際、福井は人口のピークが2000年で、人口減少のスタートもかなり早かったほう。課題先進県としてトップを爆走していた可能性はある」
「なるほど。今や全国に広がったふるさと納税も、最初の発案は当時の福井県知事でしたよね」
「そう。危機感は間違いなく僕らのエネルギーになっていたし、そこでみんなが諦めずに行動し続けたことが、今の福井の盛り上がりにつながっているんだと思います」
ぶっ飛ばされた「星野源」

「ただ、盛り上がってるとは言っても、僕はまだまだ福井にはシビックプライドが足りないなとは感じてて。みんな郷土愛はある。でもそれを語る自信がない」
「そうなんだ、自信持っていいのに」
「僕は福井に来てから200回くらい『なんで福井なんかに移住したの?』って言われてるんだよね。僕はいいと思って来てるけど、なんかってなんすか!? って思っちゃう」
「ちょっと卑下しちゃう人が多いと」
「だから、めっちゃいいじゃないですかー福井!! って僕は言うんだけど、そこでやっと『あーそうか』ってなるわけ」
「他者評価があって、初めて認められる自分たちの故郷」
「それが僕は不満で、なんならずっと怒ってたんだよね。もっと誇ろうよ! 自信を持とうよ!! って」
「新山さんって、怒りの人間? 怒りをエネルギーに変えるタイプなんじゃない??」
「それはあるかもなぁ。怒らないとがんばれない。だからいつも何かに怒ってて。でも、ほんとは僕……」

「星野源になりたいんだよなぁ」
「急なポップスター願望」
「なれないんだけど、実は昔からずっとそう(笑)」
「新山さんって、もともと建築出身ですよね。どんな人に影響受けてきたんですか?」
「学生時代はOpen Aの馬場正尊さんとか、コミュニティデザインの山崎亮さんの考え方にすごく傾倒してた。意識高い系だったから」

イケイケだった当時の新山さん。市長の椅子に座って、市長を立たせる不遜な構図
「その世代の意識高い系! じゃあそういう人たちの集まるところにもめっちゃ顔出してる系の?」
「うん、その最たる感じ。意識高すぎて同世代にも嫌がられてたんじゃないかな。だって、僕が鯖江に移住したときのマインドなんてこれだよ?」

「“みなさん安心してください、僕が来ました。僕が、この街を活性化してあげます”
え、お前は誰だ? って話だよね」
「実力のない星野源が(笑)」
「ほんとそう。一番あかん入り方をガチでやってたよね。生意気な態度を取ってたと思うし、そりゃーぶっ飛ばされるよ、街の人たちから」
「ぶっ飛ばされたんだ」
「独立するまでに50回は泣かされたと思う。めちゃめちゃ怒られてきた。でもそのおかげで人間として成長させてもらったと思ってて。だから感謝しかないよね」
「いい話。ちゃんと怒られるって大事なこと。そうやってみんな時間をかけて成長してきてるんですよね。鯖江もちゃんと怒ってくれる人がいて、いい街だなぁ」
地域に根ざしたデザイナーを増やす

「新山さんのまわりには伸びしろのある若い子がたくさん集まってきてると思うんですけど、まちづくりやデザインの領域でローカルに飛び込んできた若い子に伝えたいことってありますか?」
「僕のまわりは特に職人さんにあこがれて入ってくる人が多いんだけど、職人さんは神! みたいな意識を持つ人が多くて。リスペクトは大事だけど、相手も同じ人間なんだからもっと普通に接したほうがいいと思ってて」
「対等な関係性を築いていった方がお互いにとっていいですよね」
「そうだよね。あと、焦らないこと。成果はすぐには得られない。僕はよく『何年でここまでできたんですか?』って聞かれるんだけど、そんなの、時間かかるにきまってるやろ! って思う。でもみんな三年待てないんだよ」
「時間は、かかりますよね。何事も」
「そういうことを言うとみんな絶望した顔をするんだよね。そんなかかるんすか……! みたいな。逆に柿さん、どう思う?」
「僕は自分が遠回りしてるから、遠回りしてることの価値を口にするようにはしています」
「あ〜いいねそれは」

「もっと遠回りしたらいいやん、うまい道草を食えよと。そういう価値観をずっと伝えてますね」
「実は僕、柿さんとは同じようなフェーズにいるんじゃないかなって感じてるんだけど、柿さんは怒りとかある?」
「昔はありました。でも今はもう、ちょっと満足してきてて、怒りが減ってるんです。正直」
「あー、それも一緒一緒! 意外ともう、怒ってないんだよねぇ」
「怒りの武器を外してどこまで行けるのか。残り時間を意識しながら進んでいるフェーズかもしれないです」

「僕は二年くらい前に、自分のモチベーションってどこにあるんだろうって悩んだんだよね」
「そうなんだ」
「自分のやりたいことって実はそんなにないんじゃないかって。自分はただ、誰かのためや社会のためになると信じられることを『使命感』という言葉に置き換えて、やってきただけなんじゃないかと」
「なるほど、使命感か。新山さんは今、どんなことに使命感を抱くんですか?」
「これからの世代を育てていくこと、だよね。僕は地域に根ざすデザイナーが増えると国力が上がるという仮説を唱えているんだけど、それを実証したくて」
「いいですね、新山さんならやれそう」
「ありがとう。これからの世代が楽しく、地域のなかで面白く暮らしていけるように、僕にできることはやらせてもらいたいですね。節度ある『いい老害』として、みんなの役に立っていくことが、これからの僕の役割だと思うんです」

【母校が同じ=京都精華大学の2年先輩からのメッセージ】
東京や旧来のデザイン業界に対する謎の憧れは、長らく地方にいる者の夢物語であったわけですが、多くの人(移住者)を“夢の外へ”連れ出したという意味では、間違いなく新山くんは、地方に、そしてデザイン業界の片隅に現れたポップスターでしょう。
わずかでも確かな予算、地域の人との顔の見える関係性、既存の販路や枠を疑ってときには自分自身も手を動かす。権威や見せかけを気にした虚像のデザインではなく、自分とその周りの人の「意味」に向き合い、多くの人をアジテートしてきた論と行動は、星野源ばりの感染力があったと思います。たった一人の移住者がここまで地域を変える“一矢”になるとは……学生時代のドレッドヘアの新山くんを思い返して、ぼくもドレッドヘアから入門してみようかなと思います。
光川貴浩さん(合同会社バンクトゥ代表)より
☆TSUGI 公式HP https://tsugilab.com/
構成:根岸達朗
撮影:小林直博
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この記事を書いたライター
株式会社Huuuu代表。8年間に及ぶジモコロ編集長務めを果たして、自然大好きライター編集者に転向。長野の山奥(信濃町)で農家資格をGETし、好奇心の赴くままに苗とタネを植えている。










































