雑談って、好きですか?

 

僕はある種の雑談が苦手です。人の話なら、えんえんと聴けます。でも「山中さんはどうなの?」とふられると、「あ、えーっとですね…」とまごつく…。

そう、僕は自分の話をするのが苦手なのです。

 

それもあってか、人と話す機会が減ったコロナ禍の状況は気楽でもあり、しばらく満喫していました。が、「1日に対面で話すのはコンビニの店員さんだけ」という日々が続くにつれ、「あれ?おかしいぞ…」と思い始めてきたのです。

 

「人と話せないの、つらいかもしれない…」

 

 

オンラインミーティングでは、たくさん話します。でも、他愛もない話をする機会がない。それが、どうやらボディブローのようにじわじわメンタルをむしばんできたみたいです。

 

あると億劫なのに、ないとつらい。いったい僕みたいな人間は、「雑談」とどう付き合っていけばいいんだろう?

そんな疑問を抱えていたなか、ジモコロ編集部のだんごさんからタイムリーな相談がありました。

 

「雑談のサービスをやってる桜林直子さん、取材してみません? なんでも200人と雑談してるそうなんです」

 

桜林さんは、クッキー屋「SAC about cookies」を営みながら、コラムやエッセイなどの執筆活動を行なっている方。

 

そんな桜林さん、実は雑談企画「サクちゃん聞いて」を実施しているのだとか。

「いま、世の中に必要なのは『雑談』なのではないか」という思いでこの企画を始めたという桜林さんに、

 

・雑談企画ってなに?

・なぜいま、雑談が必要なのか?

・いい雑談の秘訣って?

・雑談は「自分を大切にする」ための方法?

などなど、気になることを聞いてみることにしました。

 

※取材は新型コロナウイルス感染症対策に配慮したうえで行い、撮影の際だけマスクを外しています。

雑談企画『サクちゃん聞いて』とは?

「さっそくですが、雑談企画『サクちゃん聞いて』って、どんなことをやってるんですか?」

マンツーマンで、90分間わたしを相手に雑談できるサービスなんです。もともとは対面だったんですけど、今はコロナの影響もあるので、オンラインで。これまでにのべ300回ちょっとやりましたね。リピーターも結構いるので、人数だと200人くらいかなあ」

「300回も! おいくらでやってるんですか?」

「1回につき8000円でやってます」

「なるほど! 僕も仕事でキャリアカウンセリングをやってますけど、同じくらいの金額です。しかし、お金を払ってでも雑談相手を欲しいという人が、そんなにいるんだなあ。申し込んだ方とはどんな話をするんですか?」

「『雑談』って言ってもいろいろだけど、このサービスでは『自分の話をする時間』って考えてます」

「自分の話をする時間、ですか」

 

「そうそう。雑談サービスに申し込んでくれるのって『雑談が苦手』って人が多いんです。ふだん聞き役にまわりがちで、あまり自分の話をしない人。『自分の話をしたら、相手に申し訳ない』みたいに言う人が多くて」

「あ、それ僕かもです(笑)」

「そういう人、たくさんいるんですよね。『じゃあお前の話はどこでするんだ! 』って思うんです。『みんなもっと自分の話をしたほうがいいよー!』と思って、はじめたのがこの雑談企画です」

「じゃあ、お互い話すっていうよりも、桜林さんが来た方の話を聞くようなイメージですか?」

「そうですね。『わたしがどう思うかは気にしないで、あなたの話したいことを、ここ(机の上を指さす)に出して!』って思いながらやってます。出してくれたら必ず聞くし、それを見ながら一緒に話そう、って」

 

「ああー、そんなふうに思いっきり自分のことを話せる相手っていないかもなぁ」

「で、いざ話し始めてみると、『自分の話するの苦手で…』って言ってた人が、90分じゃ足りないくらいたくさん話してくれるんですよ!」

「たとえばどんな話になるんですか?」

『会社を辞めたいけど辞められない』みたいな人が、話しているうちに『辞めるのって、悪いことじゃないのか!』って気づいて、後日辞めることができたとか。あとは人間関係の悩みについてですね。パートナーや家族とうまくいかなくて悩んでたんだけど、話すうちに『本当はこうしたかったんだ!』って気づいたり」

「なるほどなぁ。たわいもない話をする雑談の場というよりも、自分がじつは話したいけど普段なかなか話せずにいることを吐き出す場になっているんですね」

 

欲にフタをしてしまう経験を重ねると、自分のことがわからなくなる

「でも、桜林さん。ちゃぶ台をひっくり返すようですけど、正直、『自分の話』って別にしなくてもよくないですか? 僕はけっこう、自分の話をすることを求められすぎると疲れてしまって」

「わかりますよ。わたしも以前はそうだったし」

「桜林さんも!?」

「はい。でも、自分の話ができないのって『欲にフタをしてしまう』ことに慣れてしまってるからだと思うんですよね」

「欲にフタをしてしまう…?」

「これは自分の本でも書いたんですけど、世の中にはやりたいことがある人である『夢組』と、やりたいことがない『叶え組』とがいると思ってて」

 

 

「やりたいことがない人は、どうしたらいい?」「そもそも『やりたいこと』って何?」そんな問いを持ち、考え続けた「思考の型」が満載の、桜林さんによるエッセイ集『世界は夢組と叶え組でできている』

 

「で、『叶え組』は誰かの期待に応えたいって気持ちが強い人が多いんです。親の期待に応えたいとか、上司の期待に応えたいとか」

「わかります。僕も叶え組だなぁ」

「それ自体は悪いことじゃなんですけど、いつも人の期待に応えようとしてると、自分の欲にフタをしてしまうことになるんですよ」

「桜林さんもそういう経験があるんですか?」

「はい。わたし、子どもの頃からものごとに対して『本当に?』 って思っちゃう性格で。例えば、『みんなで仲良くするとか無理じゃない?一人ひとり合う合わないはあるんだし』と思っていて。それを先生に言うと、『子どもらしくないこと言わないの!』とか言われるんですよ」

「『なんで髪の毛を茶色に染めちゃだめなの?』とか疑問に思うけど、先生に言うと怒られる、とかありますよね」

「ですよね。そういうことが続いて、『思ったことって、正直に言っちゃいけないんだな』と思ってました。それで、日々自分の欲や思ったことにフタをするようになっちゃって。でも、その経験が積み重なると、だんだんと自分の欲や思いがわからなくなっちゃうんですよ」

 

「誰かの期待に応えようとするあまり、ずっと欲や思ったことをおさえつけてるわけですもんね」

「そうなっちゃうと、自分で自分のことが分からないから『なにがしたいの?』って聞かれても答えられない。なんとか答えても、自分で言ったことが本当っぽくないんです。だから、自分の話をするのが嫌だったなぁ、わたしも」

「あー、めちゃくちゃわかります。とくに僕は就活の時に違和感がありましたね。学校教育のなかで、『髪は染めちゃだめ』『まわりと違う意見は言っちゃだめ』みたいな状況におかれていて、いざ就職の時に、やりたいことや自己PRを自分の言葉で言うことを求められる。『いや、無茶でしょ!!』って思ってました」

「ほんとそうなんです。雑談のサービスに来てくれる人の多くも、同じような経験があるんじゃないかな」

「そう考えると桜林さんは、雑談をつうじてみんなの『欲のフタ』を開けまくっていた…?

「あはは!そうかもしれないですね!」

 

欲のフタを取っていくために雑談が有効

「桜林さんは『欲にフタをしてしまう』状態をどうやって乗り越えてきたんですか?」

「わたしは自分の声を聞くことができたんですよね。自分に対して『本当はどうしたいの?』っていう問いを、めちゃくちゃしつこく問いかけてた。そうすると、だんだんやり方がわかってきて、『ああ、自分で解決できるな』って思えるようになったんです」

「そしたら、欲望にフタをしてしまってる人は自分で自分の声を聞いて、内省すればいいってことですね」

「それが、そう簡単にもいかないんです。多くの人が、自分の声を聞くのが下手だから。同じことをぐるぐる考えちゃったりとか、ネガティブになっちゃったりとか。」

「内省って、慣れてないとむずかしいですよね……」

「わたし、本の中でも『自分と向き合った方がいいよ!』って書いてたけど、ぐるぐる考えて落ち込んじゃう人たちを見て、『やっぱり、苦手ならやめた方がいいな〜』と思ったんですよ。その代わりに、雑談するのがいいんじゃないかなって」

 

「雑談が自分の声を聞くことのかわりになるんですか?」

雑談って、心の中や頭の中のものを言葉にして、一度外に出す作業じゃないですか。話す相手がいるから自分の考えてることを客観的にみることができて、頭が整理されていくと思うんです。山中さん、『オートクライン効果』って知ってます?」

「はじめて聞きました」

「コーチング用語なんですけど、自分が話したことを自分で聞くことで、自分が考えていたことに気づく、っていう効果らしいです。そんな効果が、雑談にもあるなって」

「ああー、なるほど!自己紹介をしながら『あ、自分ってこう考えてたんだな』って気づくことありますね」

「そうなんですよね。自分の話をするのが苦手って人でも、ひとつ話し出すと『昔こうで、あの時もこうで……』って、ズルズルと自分の話が出てくる。そうやって話すうちに、他人の中に自分を見つけたり、意味のないことの中に意味を見つけたりする姿をたくさんみてきました」

 

「たとえばどんな方がいましたか?」

「そうだな…会社の上司とソリが合わなくて、どうしたらうまくコミュニケーションがとれるか悩んでいる、っていう人がいて。で、話を聞いていると、上司のことを立てなきゃって言いつつ、どうもその人の中ではもうその上司や会社に対して距離を置いてるような言葉も出てくるんですよ」

「心が離れちゃっている、みたいな?」

「そうそう。それで、たくさん話したあとに『もう、あなたのなかでその上司や会社のこと、冷めた目でみてない? もしそうなら、やってあげるという気持ちでやるのは上司にも会社にも失礼だから、辞めてもいいんじゃない?』って言ったら、爆笑して『そうかもしれないです』って」

「話すなかで、自分の気持ちに気づいていったんですね」

 

「そうそう。だから、『内省が苦手な人は、雑談した方がいいんじゃない?』って思うようになったんです」

「なるほどなぁ。桜林さんがやってる雑談って、相手が話したいことを話してもらって、欲のフタをはずす時間なんですね。そして、フタをはずすと、雑談が苦手な人でも自分の話がたくさん出てくる」

「うん。雑談にも色々ありますよね。相手との会話の間を埋めるための、パーティートーク的な雑談もある。それは私も苦手です。4人以上の飲み会には行かない!って決めてますもん、わたし

「そうなんですね(笑)」

「人が増えると、共通の話題を探すからどんどん濃度が薄まってくじゃないですか。わたしは相手に全力で話して欲しいから、それがもったいないって思っちゃう。あと、話に参加できてない人がいたら気になっちゃうし。わたしは、相手が自分のことを話して、スッキリした〜!って顔になってくれる、そんな雑談がしたいんですよ」

 

欲望のフタをはずす雑談を促す、聞き手の条件

「でも、誰にでも自分の話をできるわけじゃないと思うんです。『この人になら話したい!』と思える、聞き手の条件ってなにがあるんでしょう?」

「わたしが聞き手にとって大事だと思ってることって、いくつかあって。ひとつは『全力で相手に関心を持つこと』です」

「全力で相手に関心を持つこと」

「わたしの娘との会話でもそうです。こっちが本気で『知りたい!』って思っていたら、それに応えて話そうとしてくれるから」

「あぁ、わかります。僕、キャリアコンサルタントの資格を持ってるんですけど、資格の勉強のときに『カウンセリングでは、相手に関心を持つことが大事!』って叩き込まれました」

「関心はほんと大事ですよね。相手が関心を持ってくれてるっていうことだけで、相手は結構満たされるんじゃないかな。あと、わたしが聞き手にとって大事だと思ってるもうひとつのことが、『自分と相手の境界線をちゃんと引ける』こと」

「自分と相手の境界線っていうのは?」

「『話聞くよ!』って言う人のなかには、相手に関心があるふりをして、『自分が支配したい』っていう気持ちがある人もいるんです。つまり、自分のために人の話を聞く人」

「『あなたの力になりたいんだ!』って言いながら、実は自分のためだっていう人、いる気がします。欲望のフタを外すんじゃなく、自分の欲望のために雑談してしまっている……」

 

「そうそう。そういう人って、相手が話してるのに自分の考えをまとめようとしちゃったり、聞いた内容を材料にして自分の話ばっかりしちゃったりするんですよね」

「気づいたら相手の自慢話になってる、とか、あるあるですね」

「あるあるですよね。こっちが話したのに、『それってこういうことでしょ?』なんて決めつけられて。『ちゃんと聞いてくれなかったな〜』ってもやっとしたり、寂しくなったりしたこと、わたしもすごい多かったな」

「僕も20台前半で転職しようか悩んだとき、キャリアカウンセラーに相談に行ったら、あまり話を聞かずに『それはきみ、甘いよ』みたいに諭されて、もやもやした記憶があるなぁ」

 

本が雑談相手になる

「雑談が、自分の欲のフタをはずすために大事だっていうことはわかりました。でも今ってコロナ禍で、多くの人が雑談したくてもできない状況だと思うんです。そういう人はどうしたらいいんですかね?」

「そうだなぁ。本を雑談相手にするのがいいかもしれないですね」

「本を相手に??」

 

「わたし、子どものころから雑談の相手が本だったんです。現実世界だと気が合う人がいないけど、本の中にはいたから。本を読みながら『こいつの言うことだったら信じてみるか』とか『わたしはそうは思わないなぁ』とか考えるのが、参考になったんです」

「たとえばどんな本が雑談相手だったんですか?」

「いっぱいあるなあ。文章を書いてる人って、大体変じゃないですか?」

「僕も文章を書く人間のはしくれですが、否定はしません(笑)」

「だから、『こんな変な人いるんだ!』っていうことに、安心したんですよね。何をどんなふうに感じてもいいんだってことに。たとえば谷川俊太郎さんの詩。自分には見えているものが、他人にわかるとかわからないとか関係なくあって、出してもいいんだと思えて、うれしかったです」

「自分にしか見えてないものがあってもいい、と気付かせてくれたというか」

「そうそう。当時のわたしって、自分の考えてることは外に出しちゃいけないと思ってたけど、『え、こんなふうに自分にしかわからないことを書いていいんだ!」っていうのは衝撃でした」

「桜林さんが雑談企画でやっているような、相手が『自分のことを出していいんだ!』と思わせてもらえるような聞き手が、桜林さんにとっては本のなかで出会った谷川さんたちだったんだなあ」

 

「あと、本の場合、『雑談格差』みたいなものが生まれにくいですよね。そもそも知り合いが少なかったり、コミュニケーションが苦手な人は、雑談をしたくてもなかなかむずかしい。でも、本なら友達が少ない人でも雑談できる気がします」

「もう、相手は選び放題ですよ!」

「そういう視点で本を選ぶのもおもしろそうです」

「もちろんわたしがやっている企画とか、コーチングやカウンセリングのサービスを利用してみるのもいい。でも、身の回りになかなか雑談相手がいないし、そういうサービスもちょっと…っていう人は、雑談相手になる本を見つけてみるといいんじゃないかなって思いますね」

 

自分の欲を大事にするために、雑談がある

限りなく「雑談」に近い、桜林さんへの取材を通して、雑談との付き合い方もすこし見えてきた気がします。

 

雑談もいろいろです。他愛のない話をするものもあれば、自分の近況について話すものもある。そして、いつでもどこでも誰とでも、「雑談すべし!」ということではなく。なかには自分をそこなってしまうような雑談もあるから。

 

でも、すくなくとも誰もが、「自分のこうしたいと思ったこと、感じたこと、考えたこと」を、誰かのために押し込めることなく、大切にしていい。

 

それを大切にするための雑談の時間は、食事の時間や運動の時間のように、僕らがすこやかに生きていくうえで大事なもの。

そしてコロナ禍のいまこそ、自分が誰かの雑談相手になり、誰かに自分の雑談相手になってもらう…という関係性を、意識してつくっていくことが必要なのかもしれません。

 

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