地上波テレビやNetflixでヒット番組を制作し、YouTubeではチャンネル登録100万人超えなど、いま最も数字を持っているビジネスパーソンこと、元テレビ東京プロデューサーの佐久間宣行さん。そしてテレビやラジオで売れっ子のお笑いコンビ・アルコ&ピースの平子祐希さんが出演する街ブラ番組『サクマ&ピース』(福島中央テレビ)。

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福島県いわき市出身のふたりが、地元・いわき市を探索して、さまざまな人やモノをプロデュースする番組として、2021年から不定期で放送中。いわき市のみで街ブラするという異例のローカル濃度の高さにも関わらず、全国22局で地上波放送&TVerでも大ヒットという人気番組となっています。

2023年12月にシーズン4が放送されてから約1年――。番組の大ファンである私、ライターの森ユースケが、福島中央テレビを訪問し、制作陣のインタビューをしてきました。

取材に応じてくれたのは、福島中央テレビの堀田泰裕さんと、平出篤史さん。


福島中央テレビのコンテンツ制作局・制作部長/「ゴジてれChu!」プロデューサー・堀田泰裕さん(写真右)、コンテンツ制作局 制作部「ゴジてれChu!」総合演出・平出篤史さん(写真左)

 

じつは福島県でも随一の人気の夕方帯番組『ゴジてれChu!』のプロデューサーと総合演出なので、毎日とてもお忙しいおふたり。

「オンラインかと思っていたので、わざわざお越しいただいて驚きました(堀田さん)」

「この取材のために午前中に仕事を急いで終わらせてきました(平出さん)」

と笑顔で対応していただいたので、勝手に番組ファンを代表して、聞きたいことをいろいろと聞いてきました。

番組を立ち上げた経緯から、ロケの裏話、番組のヒットで会社内に変化はあったのか、地方から全国に向けたヒットをつくるためのコツ、シーズン5の放送はあるのか……。

番組のファンはもちろん、小規模予算で企画をつくりたい人、地方からヒット企画を生み出したいと願う人にとっても興味深い話が聞けました。1万字超えのロングインタビュー、ぜひご一読お願いします!

<この記事のハイライト>
・情報番組とバラエティのつくり方の違いとは
・足りない予算を逆手に取り、素材を活かす構成でいい意味での“ローカル”っぽさを醸成
・10分押したら破綻する鬼のロケスケジュール
・行政のゴリ押しゆるキャラをヒット商品に変えたプロデュースも
・聖地巡礼する番組ファンのためにマップを制作
・番組のヒットで編成が変わった

 

県全土ではなく、いわき市のロケに振り切った理由とは

──まず、番組を立ち上げるまでの経緯をお聞きしたいです。福島県全体ではなく、いわき市に振り切る尖った企画がなぜ生まれたのか、ずっと気になっていて。

堀田:番組を立ち上げたきっかけとしては、2021年に佐久間さんがテレ東を退社したタイミングで、地元の福島民友新聞社にインタビューが載っていたことですね。そこには『地元で番組がやりたいです』と書いてあったんですよ。

そこで新聞社から佐久間さんの連絡先をお聞きして、『番組作りたいって言ってましたよね?』とご連絡したんです。

平出:これって佐久間さん的にはディレクターやプロデューサーとして、地元を舞台にした番組を作りたいってことだと思うんですけど(笑)。僕はバラエティやラジオが大好きで、佐久間さんの番組がすごく面白くて人気なことを知っていたので、出役としていけるはずと進言して。

堀田:佐久間さんソロよりは、もうひとりいたほうがいいかな……って話をしたときに、平出が『アルコ&ピースの平子(祐希)さんもいわき出身で、佐久間さんともラジオでやり取りしてるので面白くなると思います』と言うので、その座組みで進めていきました。

──その提案をした当時から、全国でこれだけたくさんの方に見られる番組になる未来は見えていたんですか?

堀田:いえ、まったく(笑)。企画が通るかもわからないところから、とりあえず挑戦してみた、という感じです。当時は佐久間さんもテレビ東京を退社されたばかりで、新しいことにチャレンジしていこうという時期だったから受けていただけたんだと思います。ラッキーでしたね。

──確かに、テレビ、Netflix、YouTubeまで手掛ける佐久間さんはもちろん、平子さんも今年2024年上半期、関東のテレビ番組出演数が10位(ニホンモニター株式会社調べ)で、2021年から比べると格段に忙しくなっていそうです。

堀田:僕らとしてもすごくうれしいことなんですが、シーズンを重ねるごとにスケジュール調整が難しくなっているので複雑です(笑)。

──開始当初から、シーズンを重ねてもいわき市に限定する予定だったんですか?

堀田:いえ、そもそもこんなに続くと思っていなかったので(笑)。

──シーズン4まで通じて、いわき市のみで合計65箇所めぐったわけですが、普通ならまっさきに取り上げるであろう名所のハワイアンズがシーズン3まで登場せず、しかもほぼバックヤードのみ撮影など、街ブラ番組としてはコアなセレクトが多い番組です。これらのロケ場所はどのように決めていったのでしょうか。

平出:まずふたりがいわき市出身なので、まずはいわき市から始めようという、シンプルな方針が決まって。佐久間さんと平子さんの思い出の地は絶対に入れたいので、軸となる場所を決めて、それ以外の場所をとにかく効率重視でリサーチして間を埋めていった感じです。

堀田:番組を担当してもらっている放送作家の福田さんが、佐久間さんと平子さんのラジオの作家をしているので、潜入捜査で日常会話から過去の話を引き出してもらいました。そこでエピソードがありそうな場所を軸にして、地元のコミュニティFMラジオに出てみては?という福田さんからの提案も踏まえながらシーズン1ではスケジュールを整えていったんです。

──場所のネームバリューではなく、出演者のエピソードを重視したのがポイントなわけですね。逆に言うと、どんな場所、モノ、人でも、ふたりならなんとかしてくれるという信頼もあったと。

平出:はい。福田さんにヒアリングしてもらった結果、佐久間さんが学生時代にカツアゲされたという書店『鹿島ブックセンター』、同じく学生時代に通っていた『やきかつ太郎』などが挙がって。そして当日に、見覚えありますか?とぶっつけでコミュニケーションをしていく感じでした。正直、福田さんの潜入捜査があってこその番組だと思います。

──なるほど。シーズン1最終話のラストでは、視聴率が良ければ続けていきたいという趣旨のトーク中に、平子さんが『視聴率関係なくやればいい』、佐久間さんが『英気を養えるロケだった』『視聴率が悪かったら、放送しなくてもこのメンバーで集まろう』と言うシーンもあって。

結局シーズン4まで続いているのはすごいし、演者のおふたりにとってもやりがいがあって、忙しくても続けたい企画なんだと想像できますね。

平出:おかげさまで番組が続いていて、本当にうれしいです。昔からバラエティが好きで、いつか『水曜どうでしょう』(HTB)みたいなひたすらトークがおもしろいロケ番組をつくってみたいと思っていたんです。あと特にアルピーさんのラジオが大好きでずっと聞いていたので、企画が決まったときからいままで、ずっと楽しいです。

堀田:僕は北海道出身で、高校生の頃に『水曜どうでしょう』をリアルタイムで見ていたんですよ。いつかローカルであんなふうに面白いことをやってみたい気持ちはずっとあったので、平出の気持ちもわかる。歳は少し離れてるんですが、感覚が通じる部分はありますね。

平出:ただうれしい反面、ずっと情報番組の制作をしてきたので、自分にバラエティをつくることができるのか……? という不安はありました。

 

情報番組とバラエティの作り方の違い

──主にどんな部分の不安が大きかったですか?

平出:台本づくり、ロケ場所選び、ロケ、編集すべてですね……。これまでずっと情報番組を作ってきたので、バラエティは『サクマ&ピース』が初めてなんです。お恥ずかしいのですが、放送されたシーンのなかでも、ディレクターの僕が佐久間さんと平子さんからダメ出しされるシーンがたくさん映っています(苦笑)。

──その一例が、タイのカレーを食べるところですよね。シーズン2の第1話『ロストテクノロジー編』では、なぜ福島県の酒屋・橋本酒店でタイのカレーを出すに至ったのか、その経緯をお店のスタッフに語ってほしいのに、ディレクターの平出さんが説明してしまって。『お店の人に語ってもらわなきゃダメだろ』と笑いながらツッコまれていました。

平出:恥ずかしいし、黒子役のディレクターが出しゃばるのはよくないのでカットしようと思ったんですが、編集したら面白かったので、切るわけにはいかないと思いまして。

──そのドキュメント感がこの番組のおもしろさだと思います。ほかにも、佐久間さんが年配の番組スタッフのことを『予算がないから、カメラマンと照明スタッフがおじいちゃんすぎる(笑)』といじるシーンが、何度もありましたよね。

シーズン3の第2話『不屈のいわき編』では、照明スタッフさんがカメラを蹴ってしまって、怒られるのが嫌で逃げたシーンがあって、大笑いしました。

平出:そういう部分も含めて、スタッフだけでなく、地元の人たちをおふたりがいろいろいじってくれて面白くなっているのは本当にありがたいです。縁もゆかりも無いタレントさんが地元の人をいじるとイラッとする視聴者がいるかもしれませんが、演者のふたりがいわき市出身で地元愛があるのが伝わっているのかなと思います。

堀田:ちなみに、番組に映り込んでいるスタッフのなかでいちばん「『サクマ&ピース』に出てましたよね?」と声をかけられているのは、あのおじいさんカメラマンです。いろいろなところで声をかけられるので、本人はすごく喜んでいます(笑)。

──当時佐久間さんのラジオでは、番組が始まる前の企画会議の進め方についてもいじられていましたね。演者の自分が聞くべきじゃない情報まで聞かされて困惑した、とのことで。

平出:お恥ずかしい限りです(笑)。打ち合わせで、ロケで行く場所のことをどのくらい話すべきかもわからなくて。ここに行くと、フラダンスの面白いおばあさんがいますって言っちゃうと、佐久間さんはリアクションできないよな……と思って口ごもってしまったり。

実りのない会議が進むなかで、放送作家の福田卓也さんが「これは変です。演者の佐久間さんが会議に入ったらダメです」と言ってくれたことで、会議がスムーズに進むようになりました。

──平出さんはラジオ好きとのことで、『オールナイトニッポン』など人気番組を多数かかえる売れっ子放送作家の福田さんと仕事をできることでうれしさもあったんでしょうか。

平出:めちゃめちゃうれしいです。『サクマ&ピース』のスタッフクレジットでも、ラジオファンに喜んでもらえるんじゃないかと思って、佐久間さんと福田さんのふたりの名前だけが並ぶ瞬間をつくったんですよ。

堀田:はじめてお会いしたとき、写真を撮ってもらって喜んでたよね(笑)。

 

足りない予算を逆手に取り、ふたりのトークという素材を活かす構成に

平出:福田さんには、企画会議だけじゃなく、ロケ台本にもたくさんアドバイスをいただきました。僕が最初につくった台本は夕方の情報番組に近い雰囲気だったので、ロケ先の情報の部分をばっさり切ってもらって。

どういう場所で、どういうものが食べられるかという情報ではなく、ふたりのやりとりをふくらませたり、店主の人柄を掘り下げたりしたほうがいいと。

──フォーカスする部分がまったく違うんですね。

平出:ロケハンで録音した話を聞いてもらって、ふたりのキャラクター的に、ここを深堀りしたらよさそうなど、細かい部分までアドバイスをいただきました。やっぱりふたりのことを熟知してるので、面白がるポイント、ギアを上げてしゃべってくれそうな部分を教えていただいて。

──放送作家の仕事ってあんまり想像つかなかったんですが、そういう細かい部分の仕掛けの裏側には作家がいるわけですね。おもしろい。

平出:たとえば佐久間さんが学生時代に本屋さん・鹿島ブックセンターでカツアゲにあった話も、情報番組のロケだと、そんな物騒な話はちょっとやめてほしい……となるんです。でも『サクマ&ピース』だと、ふたりが地元出身であることを踏まえて面白くしてくれるから大丈夫、という感じで台本をまとめていきました。

──書店では、平子さんが売り物の自分の書籍に『サインする』と言い出す場面もあって、出版を仕事にしている僕としては『ああ、サインをしたら返品不可になって、お店の買い取りになっちゃう……』とヒヤヒヤしたんですが、店長は『売れなかったら私が買い取ります』と笑ってましたよね。見ていて、懐が深い……と思いました。

堀田:あの平子さんがサインした本、番組の放送中に売れたらしいんですよ。放送後じゃなく放送中っていうのは驚きでした。

番組内で平子さんがサインした自著『今日も嫁を口説こうか』(扶桑社)。ちなみに、佐久間さんの著書は人気で売り切れとなっていた

平出:テレビで見て、すぐに書店に走った方がいたんですね、きっと(笑)。いわき市のみなさんが、いじられても笑ってくれる人ばっかりだったので、すごくやりやすい場所だったなと思います。

堀田:懐が深くて優しい人が多いのは、福島県の地域性だよね。

 

素材の味を活かす番組編集とは

──台本のほかに、番組づくりで意識したポイントはありますか?

平出:最初はやはり情報番組のようなリズムで、「現場の音→佐久間さんと平子さんのしゃべり→アナウンサーのナレーション」という感じにしていたんですが、ここも福田さんから「ナレーションよりもふたりの面白いコメントでつなぎましょう。せっかくおもしろいのにもったいないですよ」と言われて、今のかたちになりました。

──たしかに、ナレーションは冒頭以外あんまり入ってないですね。

平出:あと最初は、『いろはに千鳥』(テレビ埼玉)などでやっているような、ツッコミのテロップを頑張って入れていたんです。ただ、福田さんと話していて、ふたりの面白いコメントを文字でフォローするだけでいいんじゃないか、という結論になって。あまり余計な色を出さず、テロップを極力入れないようにしたんです。

──テロップの入れ方にも、いろいろな作法があるんですね。

平出:東京の番組って、きらびやかなテロップがシャラ〜ンってエフェクト付きで出てくる感じなんですけど。テロップをほぼなくした結果、「いい意味でローカルバラエティっぽい」と、すごく評判が良かったんですよ。

──きらびやかなエフェクトでごまかさずに、素材の味を活かすことが功を奏したと。

堀田:正直、そこを狙ったというより、予算が足りないという事情のほうが大きいですけどね(笑)。

平出:たしかに、良いふうに言いすぎるのはよくないですね(笑)。東京の番組だと、最後は編集所でプロのエディターがテロップを付けてるんですが、地方局の我々はすべて1台のパソコンで仕上げるので。情報番組のテロップをつくってくれるスタッフからデータをもらって、自分のパソコンに取り込んで仕上げるっていう。

堀田:予算が足りないのがみえみえのダサい番組に見えるか、紙一重のところではあったと思います。

──その意味では、すべてが噛み合っている奇跡的な番組ということか。

平出:ロケ中だけじゃなく、編集してるときもゲラゲラ笑ってしまったので、ただただふたりのトークがおもしろいんだと思います。ロケ中も笑いすぎて声が枯れたし、編集中も笑ってたので、周りからうるさいと文句を言われたくらいです(笑)。

 

1日15ヶ所⁉︎ 10分押したら破綻する鬼のロケスケジュール

──番組中では、1日の撮影量が尋常じゃないと出演者のおふたりから何度もクレームが入っていますが、どのようにスケジュールを立てていたんでしょうか。

平出:シーズン1のときは、4本つくることが決まっていたので、この4本にすべてを詰め込もうという気持ちでした。そのために1日をどう使うかを考えたところ、バラエティをつくったことがない不安からどんどん詰め込んでいって、結果的に1日15ヶ所まわるというスケジュールになってしまって。

──シーズン1の第3話『鹿島街道編』では、2箇所連続で肉を食べるロケをして、おふたりが『スケジュールがおかしい』と笑いながら抗議する場面もありました。シーズン4の第2話『インザウインドいわき編』でもお酒を飲むロケが2箇所続くなど、順番を入れ替えてもよさそうな回が何度かありましたが、どのようにスケジュールを組んでいるのでしょうか。

平出:1日で1シーズンぶん撮影したいので、福島県の最南端にある勿来駅に始発で来てもらって、1日かけて北上するんです。最後はいわき駅の終電に間に合わせる。その間で、できる限り撮影するというスケジュールを組んでいるので、行ったり来たりをできないんですよね。

──なるほど! いただいた聖地巡礼マップを見るとよくわかりますが、順番通りに北上していってますね。

 

平出:毎回、Googleマップとにらめっこしながら、1箇所20分計算でスケジュールを組んできました。クルマが現場に到着して、撤収して出発するまでが20分なので、ロケ時間は15分。駐車場の場所が少し違うだけで遅れてしまうので、ロケ地からいちばん近くて広い駐車場を探して、写真を撮っておくんです。停める場所を少し間違えるだけで遅れてしまうので。

──1箇所20分!! シビアすぎる……。写真と文字のメディアでも、もう少し時間かかりますよ。映像メディアとしてはありえない短さです。

平出:結果的に、10分押したら破綻するスケジュールで。毎回ヒヤヒヤしながらロケをこなしてましたね。

──映像作品で“10分押したら破綻”はパワーワードすぎる。

平出:ロケのスケジュールでいちばん怒られたのは、シーズン3の初回が『北投の湯 いわき健康センター』のサウナから始まったときです。「いかれてるよ!」(佐久間さん)「サウナは体に1日の終りの合図を示すものだ」(平子さん)と非難轟々で。懐が深いので結局は笑い飛ばしてくださるんですが、我々としては大真面目に完璧なスケジュールだと思ってました(笑)。

 

1箇所15分で撮れ高をつくる、千鳥レベルのロケスキルとは?