都会でも田舎でもない、ここは少し特殊な「町」
話を聞いた人:上田晋市さん
郡上八幡出身。高校卒業後、実家の上田仏壇店を継ぐため滋賀県彦根市へ6年間の修行へ。修行の間外から見た郡上八幡の魅力を改めて感じ帰郷。地元の商工会青年部長や消防団等、地域の為東奔西走の日々を送りながら、まずは楽しくこの地で生きる事をモットーに過ごしている。現在、郡上八幡産業振興公社専務理事。
話を聞いた人:上村彩果さん
郡上八幡出身。高校卒業後、十数年都会生活を送っていたが、いつしか郡上の水が懐かしくなり2010年に帰郷。ヒトコトモノをつなぐ場をつくりたい、と2014年7月に「糸CAFE」をオープン。ギャラリー&WSスペースや庭が臨める座敷が併設し、情報が行き来する町のフラッグショップを目指す。
郡上スピリッツを受け継ぐ城下町
インタビュイーの彩果さんが営む「糸カフェ」でお話を伺いました
糸CAFE
〒501-4226 岐阜県郡上市八幡町新町944
0575679082
https://itocafegujo.com/
https://www.instagram.com/itocafegujo/
「僕がこの町に来てからずっと不思議なのが、場所や人口規模的には一般的に田舎と呼ばれるような立地や規模感なのに、まったく田舎じゃないこの町の雰囲気なんです。ここは観光地だけど生活もすぐ隣り合わせに感じられるし、生活にまったく不便がない。そして町の人も移住者にとても寛容で慣れていますよね。まずは人にフォーカスして聞いていきたいのですが、なぜここの人はこれほど移住者に慣れている方が多いのでしょうか?」
「郡上八幡は城下町なので、人の出入りが昔からあるというのは大きいんじゃないかな。職人や鍛冶屋さんなんかはこの町に来て、修行をしてまた別の町に行くみたいなことは昔からあったらしい。なのでそういう人の入れ替わりは昔からあったんだよ」
「交通の要所だったということも聞いています」
「『越前ぼっかの荷』というフレーズが郡上踊りの歌詞にあるんだけど。郡上八幡は江戸時代のころから流通の経由地として栄えていて、どうも越前(福井県)から荷物が運び込まれていたらしい」
「三百」という歌の歌詞に出てきます
「昔から人の出入りがたくさんあった町だったんですね。今でも町には江戸時代からの文化が色濃く残っていますよね」
「以前郡上に遊びにこられた方から聞いた話なんですけど、2、300年前の郡上一揆の話を涙を流しながら、つい昨日の話のように語られていたおばあちゃんがいたんだって!」
「いそう〜〜(笑)」
「だからたぶん、流通などでいろんな人の流れはあるにせよ、郡上の中でずっと受け継がれてきたスピリッツみたいなのがあるんじゃないかなあ」
この町は人が町を選ぶんじゃなく、町が人を選んでいる
「ではそんなスピリッツが受け継がれている人たちが暮らすこの町は、おふたりから見てどんな町だと感じますか?」
「ん~~~、難しいなあ(笑)。いつも思うのは、多くの町は人が選んでその町に来るじゃないですか。でもこの町は逆だと思っていて、町が人を選んでいるんだよ」
「おぉぉぉぉ〜〜〜!(興奮)」
「(笑)(笑)」
(拍手)
「いろんな人がこの町に来てくれるけど、最終的に残っている人を見ていると、やっぱり町に選ばれている人たちで郡上八幡を楽しく盛り上げている感じがすごくある」
「人の出入りが簡単になったのは、高速道路ができてからのここ数年ですもんね。それまでは本当に秘境みたいな場所だった。要は、それまではこの町の人たちは自分たちで周りの人やこの町のことを支え合っていかないと生きていけなかった。だから町の役に立つ意識があることを前提とされ、期待されるんだけど、裏を返せば、自分の周りのことだけをやっていると必然的に疎外感を感じてしまうじゃないけど、そこが町が人を選ぶということなのかもしれないですね」
「なるほど、秘境が故に自分たちで成り立たせていくしかなかった……」
「だから、『私はこれをやってます』とか『こういうことに興味あります』とか、手を挙げられる人や自分自身を語るのに何か軸がある人がすごく多いし、一人何役も地域の仕事をやっている人がたくさんいる」
「ある意味、この町は特殊な町だよね」
10年前の話について
「僕が郡上に来て何度か聞いたことのある『10年ほど前、町にお店がどんどん新しくできていった時期があった』という話なんですが、10年前にこの町で何があったのでしょうか?」
「10年前というとそれこそ、市が空家対策に力を入れ始めた頃ですかね。この辺りの土地代は当時から岐阜市内の土地の値段と変わらないくらい高いんです。20代や30代が新しくお店を始めたくても家賃が高くて借りれない状態だった。でも公社(一般財団法人郡上八幡産業振興公社)が、新町通りの大きな建物を買い取って、そこに手が届きやすい賃料でテナント募集をしはじめたのがちょうど10年前くらい」
「(ふむふむ)」
「それに重なって、町が全体的に次の世代に少しづつ移り変わっていく世代交代の時期でもあった」
「空き家対策と、世代交代の時期がたまたま重なった……。上田さんはどうですか?」
「10年前は僕ら当時30代の世代が積極的に動きだそうとしていた頃だったかな。今の80代の方たちのクリエイティブ性って本当にすごくて。これまで町を担ってきたその年代の方々と、これから担っていく年代との間には町づくりへのモチベーションに大きな差を感じることにみんながずっと危機感を持っていた。その危機感や自分たちが動けていない不安からちょうど動きだそうとしていた。それがまさに10数年前くらい」
「私が戻ってきた頃と同じくらいだ。町の中で同時多発的にそういった動きがあったんですね」
僕が現在働いている郡上八幡の空き家対策に取り組む「チームまちや」も9年前に発足しました
「当時、まさに世代が変わろうとしていた過渡期にこの町に居られて、町としての勢いはどう感じていましたか?」
「私はUターンでこっちに戻ってきたとき、こんなにおもしろいことやってる人たちがいるんだって感じました。はじめにびっくりしたのは、めちゃくちゃシュールなチェコのアニメ映画を、まちづくり協議会(市民団体)を通して、みんなでワイワイ賑やかにイベント上映していたこと(笑)」
「それは見てみたい(笑)」
「地元の人たちの心意気が柔らかいんだろうね。すごくマニアックな映画の上映をやりたいという若い人がいて、それを町づくりのなかに当てはめてやってみたということだと思うんだけど。それをやらせてくれた町の大人たちがいるっていうのがすごくて。官民共同で町の人々と当時の市役所の人たちが大真面目にサポートするこの町、なんかすごいぞ と思っていた」
「自分たちがこうやりたいと思ってやっていったことが、結果、町のためになっているみたいなところが大きいんじゃないかな」
「そうそうそう! みんな結構勝手なんだよね。みんなのことをどこかで思いながらも、自分のやりたいことをどんどん勝手にやってるっていうのが実はおもしろいところ」
「昔からそんな人たちがいっぱいいた町なのよ」
「なるほど。ということは、10年前からお店がどんどん増え、町が変わっていったというよりは、もともとずっと町の文化として受け継がれてきた町民性みたいなものが、たまたま時代や流れで10年前と重なり、お店が増えていった時期があったという感じでしょうか」
「そうだね!」
若い子たちが学べる場があればいい
「では、その10年前から今現在で実際に大きく変わったことはありますか?」
「宮本君みたいな20代が移住してくるようになったっていうところですかね。ミラクルだと思う。本当にうれしい」
「うん、ほんとに考えられんかったもんな。これまでは、都会である程度一通り経験して、次のキャリアとしてここを選ぶっていうパターンが大半だった。そうすると必然的に30代半ばの人たちの移住が多かったんだよ」
「でも今はもういきなり学生のころから地方に目が向いていたりする子がいるわけじゃないですか。だからもうそこまで時代が来てるっていうことでもあると思うし、その中で郡上を選んで、こうして町を紹介してくれたり、この町を心から愛して楽しく過ごしてくれている。それが本当にうれしいです」
「(この町にきてよかった……)」
「最後に、今後この町がどうなっていってほしいと願っていますか?」
「この前、晋君(上田さん)と話していたんだけど、若い子たちが学べる場があればいいなと思う」
「大学なのか高専なのか、専門学校なのか分からないけど、日本中、世界中からこの町に来て、これを学びたいと思えるような学び場があるといいんじゃないかな」
「やっぱり宮本君たちが郡上をおもしろい場所だと思って来てくれたように、もう少し世代を加速させて、10代20代前半の若い世代の人たちがここの学校おもしろそうだなと思えるような」
「僕もずっとこの町に大学があればいいなとは思っていましたけど、同じ学び場でもここでしか学べない、もしくはここだから学びたいと思えるような場所か。それは思いつかなかったです」
「今の20代のみんなみたいな柔軟な価値観をもった人たちがどんどん増えて、その人たちが自分の経験をもって次の世代の子たちに『やりたいことやんなよ』とか、『それだったら郡上でできるよ』とかを伝えていってくれれば、町もよりオープンにとても楽しくなるんじゃないかな」
「そのために僕たちも遠慮せずやりたいことをどんどんやっていかないといけないなあ。今日は貴重なお話をありがとうございました! 有意義な時間だった~~!」
おわりに
今は郡上八幡ICもできて、交通の便もいいほうではあると思いますが、それがなかったときは本当に来るのが大変な場所だったんだろうなとお話を聞いて容易に想像できました。
だからこそ、この土地で育まれてきた文化が今でもちゃんと受け継がれていて、こうしてお話を伺うことで僕にも少しずつこの町のスピリッツを受け渡してくれていることを感じます。
今回の執筆を通して、心からこの町をおすすめしている自分の姿に「僕はこの町が本当に好きなんだな」と改めて感じました。
そしてふたりの最後のお話から、僕たち若い移住者を心から喜び歓迎してくれた言葉にうれしくて鳥肌がとまりませんでした。
この町で生活していると、移住して1年目から「町について考える会」に参加させてもらえたり、近所のおばあちゃんが家におかずを持ってきてくれたりして、受け入れてもらえているなあと感じることが日々あります。
今回の記事を読んで、郡上に興味を持って下さった方、ぜひ一度遊びに来てください!
撮影:宮本雅就
編集:くいしん