「写真集一冊に10年間、500万円かかった」覚悟が問われすぎるプロ写真家の生き方

2016.10.12

「写真集一冊に10年間、500万円かかった」覚悟が問われすぎるプロ写真家の生き方

ミラーレス一眼レフデジタルカメラやiPhoneの進化、instagramの普及によって、一般人にとって身近なツールになっている「写真」。気軽に撮って、アプリで加工すれば、綺麗な写真に仕上がります。そんな中でプロのカメラマン…特に写真家を目指す人はどういった覚悟でその道に飛び込んでいるのか? 今回のジモコロはプロ写真家の仕事について根掘り葉掘り聞いてきました!

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どうも。最近カメラが趣味で、最終的にはヌードカメラマンになろうと思っている原宿です。

最近のデジタル一眼はオート設定でもかなりいい写真が撮れるので、ヌードカメラマンへの道も昔よりぐっと近くなったと思うんですよね。

ヌードを撮るってどういう気持ちなのか? そもそもヌード写真だけを撮って生活することはできるのか?

今日はその辺りの疑問を、実際に写真だけで食べている“プロ”のカメラマンの方にお話を伺ってみることにしました。

 

それがこの方。

 

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鶴崎 燃(つるさき もゆる)さん

愛知県出身。名古屋ビジュアルアーツ写真学科を卒業した後、写真家の大石芳野氏に師事し、フリーカメラマンに。Visual Arts Photo Award 2015で大賞を受賞し、作品集「海を渡って」を2016年2月に発売した。

 

海を渡って

海を渡って

 

 

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「鶴崎さんには、いつも記事に使う写真の撮影などでお世話になっております。ぶしつけなんですが、ヌードって撮ったことありますか?」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「僕はヌード撮ったことないんですよね」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「ええ!? プロカメラマンって全員とりあえずヌード撮るんじゃないですか!? むしろそれが福利厚生の一貫なのではと……」 

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「どんな福利なんですか。まぁヌードを撮るのが好きなカメラマンもいるとは思いますが、僕がこれまで撮影してきたのは主にフォトドキュメンタリーという種類の作品になります。例えばこんな写真です」

 

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f:id:eaidem:20161006132521p:plain「ん?上下で写真が分かれていますが、これはどういう……?」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「上は満州の開拓団から帰国したご婦人で、これは引き上げなどの過程で亡くなった人たちを忘れないため、名前を思い出してノートに書き留めたものを見せてもらっている状況です。下は南満州鉄道が建てたホテルの一室を事務所として借りながら、現在中国で働いている日本人青年です」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「あ、なるほど。『海を渡って』というタイトルには、時代と場所を越えて、人が海を渡る理由や渡った先にある運命みたいなものを描き出そうという意図があるんですね。うーん! それを聞いてから写真を見ると大変味わい深いです」 

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「写真を見た人によって変わるそういった味の違いが、フォトドキュメンタリーの面白さかもしれません。『海を渡って』では、日本と中国の他にミャンマーとブラジルを取材して、だいたい10年かけてようやく完成させました」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「10年!?」

 

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ミャンマーの難民キャンプ

 

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ブラジル・サンパウロ市内のセアザと呼ばれる卸売市場

 

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「いいですねえ。自分の作品のために海外を飛び回って写真を撮るカメラマンなんて、小説の主人公っぽくてめちゃめちゃかっこいいです! ブラジルって治安が悪いイメージがあるんですが、街中で写真を撮っていて危ない目にあったことはないんですか?」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「地域にもよりますが、確かに街角でスナップショットすら撮っちゃいけない場所というのはありますね。あと日系人にはお金持ちが多いので、向こうでそういった方たちに話を聞くとだいたい強盗に遭ってます

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「だいたい遭うんだ」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「農園をやっている日系人の方なんかは、職場に寝泊まりすると危険なので、“コンドミニアム”と呼ばれる24時間態勢のゲートと警備員による警護がついたマンションで寝起きし、そこから農園に通って仕事をしているんですよ」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「ジョージ・A・ロメロの『ランド・オブ・ザ・デッド』で、そういう建物ありましたね」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「だからまぁブラジルの治安は日本に比べたら悪いと思うんですけど、僕が好きなのは向こうで暮らす人の性格と素晴らしい農園の風景ですね。ブラジルの地形は日本のように高い山がないので、見渡す限り緑の地平線が広がっているんです。この景色が本当に素晴らしい」

 

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農園の軒下から見渡せる緑の大地

 

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「見通しいいなー!」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「人間もとても陽気で、知らない人にいきなり喋りかけるのも全然オッケーという雰囲気なんですよ。だから僕はブラジル好きですね。ご飯は残念ながら、あんまり日本人の口には合わないんですが」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「でもこういう取材って、一回渡航するだけでかなりお金がかかりますよね? この写真集一冊のために使ったお金って、だいたいどのくらいなんでしょう?」 

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「うーん、全部ひっくるめると500万ぐらいは使ってるかもしれません」 

f:id:eaidem:20161006132521p:plain500万! 10年! そして500万!

 

 

写真家が個展を開く理由

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f:id:eaidem:20161006132528p:plain「渡航費や滞在費だけじゃなくて、個展をやった費用も含まれています。写真集になる前に3回ぐらい自分で個展を開いているので、それが1回につき50万円ほどかかっていますね」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「はー、個展を開くのも結構お金がかかるもんなんですね。前から『写真の個展ってネットでやればよくない?』という気持ちがあるんですけど、やはり写真家の方は個展という形にこだわりたいものなんですか?」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「古い感覚かもしれませんが、写真業界では『個展』という形を見すえて作品を作るケースは結構多いですね。僕の場合はもともと『現像』という行為が好きで、プリントされてない写真やモニタ上の写真は『完成してない、途中のもの』という感覚になるんです。自分のイメージと一番近い色合いや明るさで見せることができるのは、やはり実際に作品をプリントして展示する『個展』になりますね」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「実物だけが放つ迫力というのはありますもんね。しかしそんな活動が実を結び、Visual Arts Photo Award 2015大賞というスゴそうな賞を獲ったからには、今までの活動資金はすべてペイできた……?」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「それがなかなかそういうわけにもいかないんですよね。写真家にとって、作品を作ることと経済的な成功というのは相容れない部分もあるので……」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「まぁ、確かに小説や漫画でも自分の作りたかったものが売れるとは限らないですもんね」 

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「基本的に僕が撮ってるような作品は、仕事につながりにくいとは思っています。昔は『アサヒグラフ』や『毎日グラフ』のようなグラフ誌が隆盛で、フォトドキュメンタリーの需要も高かったと思うんですが、今はこうした時間と手間とお金のかかる企画は、なかなか雑誌に通らないですね。今後インターネットのメディアで、こうした分野が伸びてくれればと思っているんですが」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「写真とはちょっと違いますが、中原一歩さんの『路上料理人と呼ばれる男』とか、ネットで初出しされたすんごいノンフィクションでしたよね。今のインターネットはTwitterとかInstagramで手軽に消費できるネタが全体的に好まれている気がしますが、こうしたプロフェッショナルの凄みが感じられるコンテンツも、もっと目にできるようになるといいですね」

 

news.yahoo.co.jp

 

どうしたらプロになれる?

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鶴崎さんが衝撃を感じたという、アメリカの写真家ブルース・デヴィットソンの「Subway」。凄い場面に立ち会いすぎ!

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「話は変わるんですが、そもそもプロカメラマンってどうやってなるんですか? まずは写真の専門学校に行ったりとか?」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「そうですね。一番多いのは専門学校卒業後に、カメラアシスタントになるケースですね。プロ写真家という職業には大きく分けて2つの種類がありまして、自分の世界観に沿って作品としての写真を作る『作家系』と、写真館やブライダルカメラマン、広告などの撮影をする『商業系』です。どちらの道に行きたいかで動き方も変わってくるのですが、両方に言えることは人脈が非常に大切ということですね」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「人脈」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「はい。カメラアシスタントになるには、まずレンタルスタジオという所に就職するのが一般的なのですが、重要なのはそのスタジオがどういった用途で使われているか、です。ファッション誌の撮影に使われているのか、音楽系なのか、ブライダル系なのか、ブツ撮り中心なのか……」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「なぜ用途が重要になってくるんでしょう?」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「レンタルスタジオでの勤務は、多くの場合2~3年が満期と決まっているので、そこで働いてる内に次の行き先を決めなきゃいけないんです。で、次の勤務先は、そのスタジオをよく利用するカメラマンに直接師事する形になることが多いんですね。もちろん『こいつ、アシスタントとして使えるな』と思われることが前提になってきますが」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「なるほど。就職したスタジオをよく使ってるカメラマンに、そのまま弟子入りすることが多いということは……『ヌードを撮りたければ、ヌードがよく撮られているスタジオに就職しろ』。こういうことですね」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「まぁ、そうですね」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「いやでも弟子入りとかしなくても、いきなり鮮烈なヌード写真をSNSに投下して有名になることも、今の時代なら可能ではないでしょうか? 自分がいきなりその道の師匠になればいいのでは?」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain 「はい。カメラマンは資格を取得して就く仕事ではないので、いきなり独立してももちろん構いません。最初からSNSで有名になるという手法もアリだとは思いますが、みんながみんな選べる道ではないですよね」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「その通りですね。正直、『鮮烈なヌード写真』がどういうものなのか、まっっったく思いついてませんし」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「結局安定して仕事が入ってこないと、プロカメラマンとして食べていくことはできないので、そのための近道がすでに活躍しているカメラマンのアシスタントになって、人脈を作ることなんです。技術的な勉強も大事ですが、商業的な写真というのは正直『この人しか撮れない』というものを見出すのが難しいので、クライアントと直で接点を持つのが仕事を得る一番の近道なんですよね」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「カメラマンって、孤独でタバコ吸いながらブルースばかり聞いてる人がなるのかと思ってましたが、コミュ力もある程度いるんだなということがよくわかりました」

 

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「本当に分かってもらえたんでしょうか」

 

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「はい。最後に1つだけお願いですが、都内で篠山紀信さんのよく使っているレンタルスタジオを教えてください!」

f:id:eaidem:20161006132528p:plain「知りません」

f:id:eaidem:20161006132521p:plain「よし! プロカメラマンになるのやめよう!」

 

 

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そんな鶴崎燃さんが10年という期間を経て作り上げた「海を渡って」の個展が、10月12日(水)より、銀座ニコンサロンで開催されます。海を隔てて交差する人々の思いがたくさん詰まった写真を、ぜひその目でご覧ください! 入場無料です。

 

「海を渡って 日本×ブラジル」

2016年10月12日(水)~25日(火)

銀座ニコンサロン

http://www.nikon-image.com/activity/salon/

 

capacamera.net

 

 

 

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この記事を書いた人

原宿

株式会社バーグハンバーグバーグ所属。ご飯をよく噛むオモコロ編集長として活動中。

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