沼津のちょうど良さはどこから来るの? 外から来たキーパーソンと考えてみた

“暮らすように観光する”をテーマに沼津のスポットを紹介する中で感じたのは、街の魅力は外から来た人と、地元の人が出会うことで生まれる、ということでした。

今回紹介したスポットの多くが、移住者や、一度沼津を出て再び戻ってきた方たちによるもの。地元民にも、観光客にも愛される沼津の街は、これからどういった変化を遂げるのか。

そこで、東京からの移住者でもあり、現在沼津市の南部、戸田(へだ)にあるゲストハウスや建築事務所を経営しながら、沼津のさまざまな取り組みに関わっている鈴木智博さんに話を伺いました。

鈴木智博さん(写真右)

合同会社REIVER代表。一級建築士として都市・まち・建築に関わるデザインによるコミュニティの再構築を目指し、イベント企画や再開発プロジェクトを手がける。2019年沼津市戸田にまちづくり拠点としての宿泊施設「Tagore Harbor Hostel」、2021年に珈琲焙煎所「Archipelago Roastery」を開業。

 

地元の人が気づかない魅力を、外から来た人が絶対見つけてくれる

「沼津市の戸田でゲストハウスを経営しながら、市内の遊休施設や商店街や公園の空間活用など、街の賑わいを作り出す取り組みを続けている鈴木さんですが、元々は東京のご出身ですよね。沼津で暮らし始めていかがですか?」

「沼津って、いろいろちょうどいいんですよね。東京から新幹線で1時間という距離感が、引越しと移住のちょうど境目というか。小田原あたりだと『引越し』だけど、やっぱり箱根を越えて富士山がよく見える沼津まで来ると『移住』という感覚になる」

三島で新幹線から在来線に乗り換えた瞬間、空気がゆっくりになりますね。沼津って、ロケーション的に狩野川があって、富士山が見えて、目の前に駿河湾もあるので、ローカル感が演出されやすい」

沼津のシンボル、狩野川と御成橋付近の風景は空が広くてとても気持ちがいい

「そうそう」

「距離的に近いから、通勤もリモートワークもできるし、実際コロナ禍でワークスタイルが変わったことで、首都圏で働きながら移住する人もいるし、外から来てお店を始める人も増えていますね」

「私は沼津の市街地からは離れた海辺の戸田という土地で、2019年からゲストハウスを経営しているんですが、まちづくりって地元の人たちだけだとどうしても偏ってくるんですよね。外から来ていろいろ言ったり、実現できるかわからないプランを持ってくる人がいてもいいよねと思っていました。

カフェを併設しているので地域の方も利用できて、地元と外の人が交われる場所が欲しい。そんな風に街に必要な機能を逆算してつくったのがゲストハウス『Tagore Harbor Hostel』だったんです」

「なるほど。地元の人と、外から来た人が交流することで見えてきた沼津の魅力はありますか?」

「やっぱり、地元の魅力って、外から来た人が絶対見つけてくれるじゃないですか。地元の人は当たり前のことに気づけないから。地元の80歳のおばあちゃんがウチのカフェに来て、『自分が住む土地の景色を、初めてこんなにちゃんと眺めた』と。『結構海が綺麗だね』って(笑)。そういうことを言ってもらえると、わざわざやってよかったなって思います」

「カフェを通して、地元の魅力に気付いたんですね」

「地元の人たちにとっては当たり前だけど、外の人はその当たり前がいいと感じる。外からのフィルターを通すと、そのまちの魅力が伝わるはずなんです」

 

沼津は“個”のお店がすごく元気な街

「そもそも私が運営するリバーブックスは、鈴木さんが手掛けていた『for_now』という沼津市による空き店舗利活用事業の一環で生まれたんですよね」

「はい。沼津って、駅中心部に増えていた空きビルの再活用がなかなか進んでいなかったんです。需要がないなら生み出すしかないということで“市中心部に住む人を増やす”というコンセプトで始まった事業でした」

「そこから見えてきた沼津の街の特徴はあったんでしょうか?」

「最初に感じたのは、沼津は駅周辺に人が留まるようなメインエリアがどこにあるのかわからないということ。人気の古着屋さんや居酒屋さんはあるんだけど、みんなまちの周辺に分散していて、はっきりとした中心部がなかったんです」

「すごくわかります。沼津って一極集中じゃないですよね。分散していろんなキャラクターのお店が独立国みたいにあって、それが緩やかにまとまって街を作っているという。みんな別に仲が悪いわけじゃないんですけど、それぞれの世界がある。それに誰かが音頭をとっているような感じでもなくて」

「だからこそ、今も続いているんですよね。ひょっこり、予想もしない場所に面白い店がオープンしているんですよ。だいたいの街って駅から大きな道や商店街が通って、市役所があって。駅周辺にまとまっていることが多いですけど、沼津に関しては駅から市役所の間にお店がポツポツ出てきている

「沼津って市内だけでも商店街が14くらいあるんですよ。それぞれが何かやってるみたいなところがあって。圧倒的なエリアってそんなになくて、個々が元気っていうか。そこが面白いなと思いますね」

「みんなで頑張ろうっていうよりかは、個人個人が結構自立してやられている文化が脈々と続いてますよね」

 

『ラブライブ!サンシャイン‼︎』を通じてお店同士が繋がる

「そんな独特な店が並ぶ中、『ラブライブ!サンシャイン‼︎』の聖地になったことで、2016年頃から個々の店同士がつながった感覚があるんですよ」

「そうですよね」

「僕はもともと、『ラブライブ!サンシャイン‼︎』のファンが高じて、前職の出版社で沼津のアニメ聖地の本を企画していたんですけど、作品を応援することでつながった沼津でお店をやられてる皆さんとは、本屋を始めてからもすごくお世話になっています」

「そうやって繋がりを持った人たちが、街を挙げてラブライブを推し続けているんですけど、地元の総意という感じではなくて、負けじと頑張っている人もいっぱいいる。『負けてらんねえぞ』っていう気持ちの人も沼津には多い気はしますね」

「市内のアニメ聖地の多くは個人店で、だからこそファンも行きやすいっていうのはあると思うんですよね。チェーン店だと定期的に人が入れ替わったりしますけど、いつ行っても同じ人がいるから、継続して通うことができる。そうやってファンとお店の関係性ができて、リピート率も上がって移住にまで繋がっていくという」

アニメ聖地の一つ「つじ写真館」前の黒板にはアニメに登場する9人のキャラクターの誕生日に合わせて描かれるイラストも登場。ファンの記念撮影スポットにもなっている

「確かに。『ラブライブ!サンシャイン‼︎』が沼津に定着しているのもそういうポイントがあるのかもしれないですね」

「これもまさに外と地元の人たちの交流が生み出した現象ですね」

 

誰でもチャレンジしやすいのが沼津のいいところ

「改めて、鈴木さんの思う沼津の魅力を聞いてもいいですか?」

「よく思うのは、チャレンジができるということですね。やりたいことがあれば小さなことからでも始められるんです。空き物件も多いですし、意外と行政の支援もあるんです。お金の支援ではないんですけど、事業のやり方や横の繋がりなども教えてくれる。新しいことをはじめるのにはいい街なんじゃないかな」

「新しいことを始めるにしても、面白がってくれる人が多いのも魅力だと思いますね。変に冷めていないというか。そういう人はもちろんいないわけじゃないんですけど、『面白いね』って言ってくれる人の方が圧倒的に多くて。それってチャレンジする人間からすればすごく素敵なことですよね。

ちなみに、鈴木さんは今後、沼津や戸田での今後の展望はありますか?」

「戸田にある市の建物の跡地を活用して、『ピタゴラスイッチ』の生みの親でもある、クリエイティブディレクターの佐藤雅彦さんと一緒にミュージアムをつくる予定です」

「なんと、すごい!」

「佐藤雅彦さんは戸田の出身なんですよ。『そろそろ戸田に恩返しをしたい』ということで、かなり前から計画しています。これからの沼津の動き、ぜひ楽しみにしてください!」

 

“ちょうどいい”沼津を体感しに来てください

たっぷり沼津をご紹介してきましたが、この街の魅力、伝わったでしょうか。私が暮らし、本屋を営む沼津は、地元の人たちと、外から遊びに来てくれた人たちが出会うことで、どんどんおもしろい街になっています。河川と海、田舎と都会、地元の人と外の人。様々な要素の汽水域であるこの街で、風通しがよくてちょうどいい旅を、ぜひ楽しんでください。

 

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