
ライターの岡部ベイコです。
ライターに転職して、ひたすら椅子に座る日々。そろそろ思いっきり体を動かしたい!
そんな矢先に、ジモコロ編集部の柿次郎さんからこう言われました。
「生きていくために、みんなでチェーンソー講習を受けに行こ!!」
生きていくためにって、一体どういうこと……?
そういえば、70代のお爺さんから「敷地の木を切ったから薪にしてくれんか」と頼まれて薪割りバイトをしていた時に、丸太がでかすぎて割れず「こんなときにチェーンソーが使えればな〜!」と思ったのでした。

手動式の薪割り機。丸太が大きすぎると機械にセットできない
チェーンソーが使えたら自分で木が切れる! そして町中ゾンビだらけになっても戦える! 自力で生きる力が上がりそう。それってめっちゃかっこいいのでは?
そんなわけで、長野県信濃町で暮らす編集者・徳谷柿次郎と、2日間18時間に及ぶチェーンソー講習を受けてきました。
<記事に登場する人>
柿次郎:長野県信濃町へ移住して7年目の編集者
岡部:柿次郎の元で働く新米ライター
高橋龍正先生:チェーンソー講習の講師。スノーボーダーとして山を愛しており、自分たちのフィールドを守るために自伐型林業に取り組む
AIには木が切れない
「どうして急にチェーンソー講習を受けることにしたんですか?」
「これからの時代を生きるためです」
「生きるために……梅干しの記事のときも似たようなこと言ってましたね」
「生存戦略が大好きなんです。編集・ライターも含めて、たくさんの仕事がAIに奪われているなかで、フィジカル仕事は絶対に代替されない! もちろん木を切って食べていくのはかなり難しいけど、生存戦略の手立てを会社のみんなで知っておくのは大切だなって」
「なるほど……? 」
一発でかけるつもりでエンジンに挑め

柿次郎さんと、長野県信濃町へチェーンソー講習を受けにきました。
『一般社団法人ディバースライン』にて自伐型林業を実践している高橋龍正先生のもと、学んでいきます。
「1日目は法令関係と事故リスク、メンテナンスについてみっちり9時間教わりましたね」
「2日間も講習があるのにまず驚きました。今日はついにチェーンソーを使った実技講習!」

スノーボーダーと自伐型林業を両立させている、講師の高橋龍正さん
「今日はチェーンソーを使って、実際に木を切ってみましょう」
「うわ、チェーンソーって重い! ジェイソンはこんなの振り回してたのか」
「今回は講習用に小型のタイプを準備していますが、普段仕事で使うものは5kg以上ありますよ」
「先生は軽々と扱うな〜」
「まずはエンジンをかけてみましょう。本体から出ているナイロンの紐を思いっきり上に引っ張るとかかります」
「はい! ……あれ、かからない。もう一回」

リコイルスターターと呼ばれるナイロン紐を引っ張ってエンジンをかける
「もう一回……もう一回!」
「……」
「何回やっても全然だめだ……」
「岡部さん、腕がプルプルしてるじゃないですか」
「はあはあ……もう腕に力が入らないです」
「ちょっと貸してみてください」

「ブルルルルルルルルルル!」
「すごい、一発だ!」
「こんなんじゃエンジンかけてるあいだにゾンビにやられちゃう。この引っ張る動作ってすごく疲れますね……」
「これ、現代人が一切使わない筋肉な気がします。やればやるほど消耗するから、絶対に一発でかけるんだ!っていう確固たる強い意志が必要だ」
「エンジンをかけるためには、腕力以外にもオイルの管理や木くずの掃除など、日々のメンテナンスも重要なんですよ」
「エンジンって奥深い」
木を切るのは頭をつかう
「キュイ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!」
「チェーンソーってかなり大きい音ですね。耳が痛い」
「安全用のイヤーマフをつけていると今度は会話がままならない。作業中の意思疎通が大変だなあ」
「森の傾斜も観察しながら、人がいない場所へ木を倒す必要があるので、作業中はホイッスルで合図をするんですよ」
「練習用の丸太を動かすのもめちゃめちゃ重い。こんなのが倒れてきたらひとたまりもないですね」
「気を引き締めねば」

「では、丸太を切ってみましょう」
「はい! 怪我しないように慎重に……」
「見ているこっちも緊張してきた」
「ギュッ……」
「……あれ? 刃が途中で動かなくなってしまいました」
「木の自重で刃が挟まれたんですね。そういう場合には下から上に切り上げたり、差し込むように切るんです」
「木の重心を計算して切らないといけないのか」
「スパーンと切れると思ってたら、意外と頭をつかう〜」

豆腐のように木を切っていく高橋先生

ドキドキしながらも綺麗に切れて、喜ぶ柿次郎
「伐倒する際にも、木の重心をよく観察します。他の木に引っかかってしまうと厄介なので、搬出と造材作業のしやすさもふまえて、どの方向に倒すかが重要なんです」
「倒す方向が決まっても、正確に切り込みを入れる技術が必要ですよね」
「その通り。そればっかりは経験を重ねて技術を磨いていくしかないですね」
「先生は簡単そうに切るけど、思った以上に難しいです。ずっとチェーンソーを持っているのも重い〜」
「知識のほかに自分の技術と体力も追いつかせていくのは、とんでもないハードルですね」

「小口切り」と呼ばれるカットスイカのような切り口をつけ、倒す方向をコントロールする

小口切りの練習。木を倒す方向を何度も確認し、刃を当てる角度を調整していく
「ただでさえチェーンソーを扱っている緊張感があるのに、周囲に人がいないか、障害物がないかとか考えることが無限にあるなあ」
「100%目の前のことに集中しないとできないですね。緊張でめっちゃ汗かきました」
「僕も変に力んじゃって汗だくです。全国取材したり、コーヒースタンドから本屋まで経営したり、普段からマルチな脳みそで色んなことを考えている身としては、木を切る行為は危ないし大変だけど、シンプルですごいなって」

人がおらず、他の木にかからない方向へ倒れるように切り口を作っていく

見事狙った方向へ伐倒!
相棒は毎日メンテナンスして大切に使うべし

「それにしても木を切ると木屑だらけになりますね。髪がゴワゴワです」
「オイルと混じってチェーンソーにこびりつくし」
「だからチェーンソーは毎日のメンテナンスが大切なんですよ」

毎日の作業終わりに、カバーを外して内部の汚れも綺麗にしていく
「僕は道具のメンテナンスが全くできない人間で、耕運機も草刈機もメンテナンスを怠ってしまって」
「メンテナンスの簡単な充電式の草刈機に買い換えてましたよね」
「道具を外に放っておいたら錆びて使えなくなるぞ、みたいなのを田舎の人たちは小さい頃から知っているんですよ。当たり前すぎるんですけど、 僕はそういうのに全く触れずに育ってきたので習慣が身につかなくて 」

我が子のように整備していく高橋先生
「切れ味が悪いと全然作業が進まないし、そのせいで疲労感や事故に繋がったり、仕事の成果もあげられなくて悪いことばっかりなので。なにより相棒の手入れはしっかりしないとね!」
「結局全部自分に返ってくるのか。チェーンソーを通じて道具との向き合い方を改めよう」
「高橋先生、2日間ありがとうございました!」
「興味があったら林業の現場へ見学に来てくださいね〜」
田舎に移住したらチェーンソーの必要性に気がついた

後日、修了証が届いた
18時間におよぶチェーンソー講習を終え、柿次郎さんと振り返りを行いました。
「かなり濃密な2日間でした。大変でしたけど、体を動かすのはやっぱり爽快感がありますね」
「フィジカル仕事は人間の特権ですね。今回は凝縮して2日間でしたけど、チェーンソー講習って基本は3日間で、僕が調べた限り東京とか長野の伊那とか、会場も遠方だったんです」
「そうなんですか? 今回はラッキーでしたね」
「実は前からチェーンソー講習を受けたかったんですけど、3日間も予定を空けられなくて、気づけば7年経ってました」
「7年も! どうしてそんなに受講したかったんですか?」
「僕は仕事上ずっと頭を使っているので、パカーン! と薪割りをしたくて信濃町へ移住したんです。寒い土地なので薪ストーブを導入して、薪は飯綱町の薪ストーブ屋『リョーカーペントリー』さんから購入してるんですが、チェーンソーで丸太を切った方が安上がりだなと」
「身体性を伴う活動は脳がクリアになりますよね。たしかに、 年々暖房費が高いから、少しでも安くしたいです」
「戦争の影響で石油エネルギーや電気代もどんどん高騰していて、今後もどうなるか分からない。だから父親として、社会の影響を受けない形でエネルギー供給できる手段を持っていたかったんです。あとシンプルにおもしろそう」
「チェーンソーは家族を守る手段でもあったのか……」

家族も守れるチェーンソー。防護服とヘルメット、イヤーマフも欠かせない
「あと田舎で暮らして気がついたのが、山の管理がされてないってこと。冬にどかっと雪が降ると、乾燥して立ち枯れた木が折れて、電線に引っかかって毎年のように停電するんです」
「ひえ〜。そんな時にチェーンソーがあれば……」
「そう! 家の裏山にも自分の土地があるんですが、すでに立ち枯れたり弱ってる木をどうにかしたいなって。木が倒れて電線を切っちゃったら大変だし、人や車に当たったら大問題」
「そういうトラブルって土地所有者の責任になるんですか?」
「やるべき管理を怠っていたのなら所有者に非があると思います。お隣さんがチェーンソーの達人なので、協力してもらって一緒にやろうかな」
手の届く範囲で木を切っていく

伐木したあとも、枝を払い運びやすい大きさに切っていく
「高橋先生が携わっている自伐型林業もすごく興味深かったです」
「既存の大規模な林業に対して、自伐型は数人の人間でチームを組んで、自分たちの手の届く範囲で小さくやっていけるサイズ感なんですよね 」
「木を運び出す機械は小型だから、山道も2〜3mの幅でOK。自伐型は環境にも優しいのがいいなって思いました」
「普通に林業を始めようとしたら設備投資なんかで一億円くらい必要だけど、そんなの無理。高橋先生が説明していたけど、自伐型林業は300〜500万円のコストで事業を始められるのは大きいです」
「これだけ山だらけの国なのに、多くがほったらかしですもんね」
「植樹した当時は貴重な財産でもあったんですけど、円高の影響で輸入する方が安くなって、だんだん山は捨てられていってしまったと」
「今は円安で輸入木材が高いから、国産木材をどんどん活用した方がいいのでは……?」
「今後需要が拡大していく可能性はありそうです。仕事で悩んでいる40代とか、地方で仕事がないと嘆いている若者たちがいるんだとしたら、一回チェーンソーに触れてみて入口に立ってみるのもいいかもしれません」
おわりに

チェーンソーを使えば木なんてすぐに切れるんじゃない? そう思ってましたが全然違いました。
大切なのは知識だけではなく、自分の経験則と観察力、それぞれの現場に対応していく応用力。たしかに、データしか集められないAIには木を切ることができません。
エンジンをかけつづけた右腕は翌日筋肉痛になり、キーボードを叩くたびにチェーンソーを思い出しました。それでも、切った時の木の香りは癒されるし、体を動かした疲労感は心地がいい!
人生のなかに「木が切れる」って選択肢があると、自分で生きる力が少し増えたような気がします。次の薪割りバイトではチェーンソーで丸太を切るぞ〜〜!
協力:一般社団法人ディバースライン https://www.diverselines.jp/














































