
全国各地にある、土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。

(撮影:Masami ISHITSUKA)
今回おすすめスポットを教えていただいたのは、東京・谷中にある「gururi」の渡辺愛知さん。
雑貨と本を扱うお店gururiは、「身につけたり部屋にかざると、それだけで何となく楽しくなるものや、心に寄り添ってくれる本」を取り扱っている。
gururiがオープンしたのは、コロナ禍の最中の2021年。お店を開いたものの、あまり大きな声で宣伝することもできず、不安が伴う幕開けだった。
そんな時期にお店に通ってくれたのは、お店の近所で暮らす人たちだった。
gururiという店名は、渡辺さんが大好きな映画『ぐるりのこと。』が由来だが、身のまわり、近所、ローカル(ぐるり=周辺)をよくしたい、という思いも込められている。
谷中と根津を結ぶ、くねくねとした通称“へび道”沿いにあった店舗は、建物の取り壊しに伴い、2026年7月に同じ谷中に移転。谷中で暮らす人や、今では全国の本好きに愛されながら、今年で6年目を迎える。
昭和の風景が残る街・谷中

移転前の店舗があったへび道(撮影:Masami ISHITSUKA)
東京・谷中には60以上ものお寺がある。お寺の古い建物や境内の木々が、都心とは思えないのんびりとした雰囲気をつくっている。昔ながらの商店や住宅がまだ残っていて、下町の風情が感じられる。たびたびテレビ番組で特集が組まれる商店街「谷中ぎんざ」はコロッケが有名なお肉屋さんや、角打ちのある酒屋さんが並び、観光客でにぎわっている。谷中ぎんざを曲がると「よみせ通り」がある。ここにも花屋さんやお寿司屋さん、パン屋さんなどが軒を連ね、地元の人たちも行き来している。
『gururiのぐるり』(渡辺愛知 著/タバブックス)より
gururiの最寄駅は地下鉄千代田線の「根津」、住所は谷中。千駄木を入れて「谷根千(やねせん)」と括られることも多いこのエリアは、古い街並みや商店街が多くあり、散策ルートとしても人気だ。
渡辺さんは静岡県出身。東京でいくつかの町に暮らし、12年ほど前に谷中に引っ越してきた。
「下町の空気が色濃く残っている街だなと思いましたね。今でも個人店が多くて、お肉を買うならお肉屋さん、お魚買うならお魚屋さん、お野菜は八百屋さん、味噌屋さんにお米屋さん……。そういう調子で一軒ずつ回って買い物するのが楽しいんですよね。最近はコンビニやスーパーも増えてきたんですが、小さなお店も変わらずあり続けています。
地方に暮らす年配の方が旅行でいらっしゃると、『とても懐かしい風景ね』とおっしゃっていて。私が生まれるもっと以前の風景が、この街には残っているんだなと思いました」
谷中は「猫の街」としても知られており、散歩中に地域猫に出会うことも多い。また、街中には猫のしっぽを模した食べ歩きスイーツや、猫グッズのお店、保護猫の譲渡会を行っているカフェなどもある。
渡辺さんも猫とひとつ屋根の下に住んでいる人だ。gururiの看板には、人と猫が見つめ合っているイラストが描かれていて、この街にとても馴染んでいる。

gururi渡辺さんが教えてくれた、根津のおすすめスポット
gururiで本を買ったあと、立ち寄るのにおすすめのスポットを渡辺さんに教えてもらった。お店では、「gururiの散歩地図」も配布しているので、参考にしながら散歩を楽しんでみては。

お店で配布している「gururiの散歩地図」。作画は絵本作家のカワダクニコさん
中華料理オトメ

gururiから徒歩で5分ほど。
言問通りにある「中華料理オトメ」は、1948年のオープン以来ずっと、街の人たちから愛されている老舗中華料理屋だ。
gururiの渡辺さんが「この街に来たらぜひ行ってみてほしいです」と教えてくれた。
「いわゆる町中華で、価格帯もお手頃なんですけど、お店がすっごく綺麗で、いつもお花が飾られているんです。一人でもよく行きますし、仕事の打ち合わせの後に行くことも多いですね。
私が食べるものは大体決まっていて、餃子とカタ焼きそば。おいしいんですよ。
この前、2週間くらい休業されていたので、とても心配していたんです。万が一、このまま閉店してしまったらどうしようって。やっと再開した時、すぐに駆けつけたのですが、同じようにお店が開くのを待っていた人たちで賑わっていて、とてもあたたかい雰囲気で。街の人たちに愛されているお店なんだなと、改めて感じましたね」
中華料理オトメ
東京都文京区根津2-14-8
X:@nezu_otome
Amilas

gururiから徒歩5分。根津駅からは徒歩2分の「Amilas」。
ナチュラルワインと、季節の野菜を使ったお惣菜が楽しめるワインバーだ。一人でも気軽に来店できるよう、料理は豆皿で提供される。渡辺さんは、よくカウンター席でワインを飲みながら読書しているそうだ。
「女性ひとりでも、安心してゆったり過ごせるお店です。黒板には、その時々の野菜を使ったメニューがいっぱい書かれていて、見ているだけで楽しい。和風のものから、スパイシーな料理までいろいろ用意されていて、どれもおいしいんです。
gururiでイベントを開催する時に、ケータリングをお願いすることもあります」
Amilas
東京都文京区根津2-19-4 農2号館D2階 逢初
Instagram:@amilas_nezu
大黒屋

gururiのすぐ隣には、100年以上続くお煎餅屋さん「大黒屋」がある。街の人にはよく知られたお店で、gururiの場所を説明する際に「大黒屋さんのお隣です」と言うと、みんなすぐわかってくれるそうだ。
こだわりの米や醤油を使用し、紀州備長炭で焼き上げた煎餅は、地元の人はもちろん、根津土産としても人気だ。
「大黒屋のお煎餅は、今でもじっくりと手焼きしているんです。お煎餅を焼く時間になると、gururiにもほんのりお醤油の匂いが漂ってきます。
定番の醤油味や、海老風味の煎餅もおいしいですよ」

大黒屋
東京都台東区谷中1-3-4
gururi 渡辺さんが選ぶ、根津で読むのにおすすめの本
『gururiのぐるり』

渡辺さんがgururiという店をはじめるまでと、はじめてからの一年間を、日記とエッセイで綴った一冊。渡辺さんがひとり考えた「gururiをどんな場所にしたいのか」、そして、それをお店を訪れる人とともに実現していく様子が飾らない文章で綴られている。読み進めるごとに、渡辺さんの佇まいに安らいだり、暮らしのなかの違和感にはっとしたり。読み終わった後は、もっと渡辺さんのことを知りたくなっている。
日記には、谷中の風景や、本記事で紹介したお店も登場する。
「谷中の季節の移り変わりや、街の人たちのことも書いているので、実際に街を歩きながら読んでも楽しんでいただけるんじゃないかと思います」
『gururiのぐるり』
渡辺愛知 著/タバブックス
『猫もあなたを愛してる』

gururiで配布しているフリーペーパー「meguru」で連載されていた、猫にまつわるエッセイをまとめた一冊。渡辺さんの他、「暮しの手帖」元編集長の北川史織さん、絵本作家のカワダクニコさん、作家のこだまさんなど、8人が猫への愛を綴っている。
タイトルは、韓国ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の台詞「“猫に片思い”という表現は不適切です。猫も飼い主を愛しています」から着想を得た。
「普段は、猫がなにを考えているのかあんまりわからないんですよね。こっちばかりが愛しているんじゃないかとか思っちゃいます。気まぐれだし。だから、このタイトルは希望と期待を込めてつけたんです。
でも、何人もの書き手に猫について綴ってもらうと、あなたと一緒に暮らしている猫はあなたのことが大好きなんだなとわかるんです。猫からの愛が確かに浮かび上がってくる感じがして。願いを託すようにつけたタイトルだったけれど、本当に、その通りだったんだなって」
渡辺さんのエッセイ「名前を呼ぶ」では、渡辺さんが共に暮らす猫「花丸」にたくさん声をかけ、愛情を込めて接する様子が綴られている。
「花丸、おはよう」
「花丸、お水を飲んでえらいね」
不思議なことだが、このエッセイを読んでいる間、自分が猫になったような錯覚を覚えた。名前を呼ばれ、愛されて、今日もとってもしあわせだ。そんな気分になった。
『猫もあなたを愛してる』
gururi 著/信陽堂編集室
さまざまな年代の女性の居場所であり続けたい
決してひとりよがりにならないようにしよう。「私の好きなものを並べました」というお店にだけはしたくない。自分のためではなく、誰かのためのお店にしたい。
誰かとはどんな人? 私は今までに出会った、好きな人たちを思い浮かべた。親友、小中高大の友だち、バイトが一緒だった友だち、会社で出会った人たち。誰もが、真面目で、苦労もしながら一生懸命生きている。なかには今は生きていない人もいる。もっと生きていてほしかった人。そんな私の好きな人たちを、ひとりの「像」としてイメージした。その人のために、私はお店をやろうと決めた。雑貨もコンセプトは同じ。その人がそばに置きたいと思う雑貨を仕入れよう。さらに谷中は猫の町だから、猫の雑貨にしよう。コンセプトは「女性と本と猫」に決まった。
『gururiのぐるり』(渡辺愛知 著/タバブックス)より
渡辺さんは、開店当初から、gururiが女性たちの居場所になってくれればうれしいと思っている。実際に、お店には様々な年代の女性が訪れる。
「中学生からご年配の方まで、いろいろな年代のお客さまが来てくれて、日々とてもうれしく思っています。元気がなくても、うちの本棚を見ているうちに少し回復したり、勇気が出たりするように。細く、長くお店を続けていきたいです」

(撮影:Masami ISHITSUKA)
gururi
東京都台東区谷中1-3-3
https://www.gururi-yanaka.com/
Instagram:@gururi_yanaka
X:@gururi













































