
みなさんこんにちは! ライターの藤間です。
今年33歳を迎えた平成ど真ん中世代の私は、このところ若い方とのジェネレーションギャップをしばしば感じます。
たとえば街中で「現役女子高生の制服の着こなし」を見かけたとき、こう思うんです……。

今の女子高生の靴下、丈短っ!
私が高校生活を過ごした2000年代後期、女子の制服の着こなしといえば「ミニ丈のスカートに、膝下まである紺ソックス」が鉄板。ところが、令和の女子高生たちには「膝丈のスカートに、スニーカーソックス」のスタイルが多く見られます。
「いつの間に流行が変わったんだろう?」と疑問に思いつつも、私たち世代の前にはロング丈のスカートが流行っていたこともあるわけで、女子高生の制服の着こなしは時代によって変化しているのだと気がつきました。
そこで今回は、イラストレーターであり、制服研究者としてベストセラー『東京女子高制服図鑑』を執筆した森伸之先生にインタビュー。
東京の女子高校生の制服をイラストで集め、図鑑の形式にした『東京女子高制服図鑑(弓立社)』(1985年発売)。この本は発売直後からベストセラーになり、内容を改訂版が何度も出版された(現在は絶版に)今回展覧会に合わせて、森さんが監修した新刊『ニッポン制服クロニクル』絶賛発売中!

現在、開催中の「ニッポン制服クロニクル ー昭和100年!着こなしの変遷と、これからの学生服ー 」2018年「セーラー服と女学生」展、2019年「ニッポン制服百年史」展に次ぐ、学生服展の第三弾で、今回は主に制服の「着こなし方」に焦点をあてている。
☆会期は9/14までで、時間:10:00~17:00 ※最終入館16:30・休館日:月曜日 (ただし7月21日、8月11日は開館、7月22日、8月12日は休館)
森さんが監修を手がけている企画展『ニッポン制服クロニクル』(弥生美術館)の会場で、制服が生まれた1920年代から令和の現在まで、日本の学生たちの「制服の着こなし」の歴史を振り返ろうと思います。

話を聞いた人:森 伸之(もり・のぶゆき)
東京都出身。美学校考現学研究室において、現代芸術家・赤瀬川原平に師事。 1985年刊行の『東京女子高制服図鑑』がベストセラーとなり、以後、学校制服のデザインと着こなしの変遷を定点観測的に記録しながら、制服関連の著作を多数刊行。 2019年、弥生美術館企画展「ニッポン制服百年史」監修。
制服は世代を超えた日本人の「共通の話題」?
「今日はよろしくお願いします! 森先生は、40年以上にわたって制服を研究されているそうですね。そもそも、制服に興味をもったきっかけは何だったのでしょうか?」
「僕は学生の頃からイラストを描くのが好きだったのですが、自分自身が高校生の時、当時住んでいた千葉県内の高校15校くらいの制服をスケッチして、それをカタログのようにノートにまとめていました。『この学校はこんな着こなしをしてるよね!』と友達に見せて、楽しんでいたんです」
「えっ、それはもう立派な研究ですよ(笑)。当時からファッションへの観察眼があったんですね」

「高校卒業後は東京の大学に進んだのですが、そこで街を歩く高校生たちの姿を見たときに『地元の高校生の着こなしとぜんぜん違う……』と衝撃を受けたんです。それで東京の学生たちもスケッチするようになり、本格的に制服というものを研究するようになりました。そして、約5年かけて146校の制服を描きためたのが『東京女子高制服図鑑』です」

『東京女子高制服図鑑』の一ページ
「146校も……! すごい」
「『東京女子高制服図鑑』では基本的に写真を撮らず、文庫本の余白とかに制服をメモして。やっぱり制服って、日本人ならだいたいの人が一度は着たことがあるアイテムでしょう? 見るだけで青春時代の思い出が呼び起こされるような、そんな存在だと思うんです」

『ニッポン制服クロニクル』の会場内。カンコー学生服から提供された制服や、森さんを含めたイラストレーターによるさまざまなイラストが展示されている
「たしかに! 私も今回の展示会場に足を踏み入れた途端、たくさんの制服が並んでいるのを見て、なんだかエモい気持ちになりました」
「今回の展示には、親子連れで訪れてくれる方々もいて、制服というのが世代を超えた共通の話題であることがわかります。早速一緒に展示を見ながら、制服の歴史を辿ってみましょうか?」
「はい。楽しみです!」
1920年代ごろに制服が誕生。70年代にはツッパリ・スケバンブームが!

「そもそも日本の洋装制服の歴史は、男子の学生服が明治時代前期、女子制服は大正時代後期にはじまっていて。そして女子のセーラー服は、1920年代初頭にミッション系の女学校

「こうして見てみると、制服自体はここ100年あまり変化していない気がしますね。セーラー服、学ラン、ジャンパースカート……どれも今でもよく見かけます」
「そうですね。現在の制服の定番スタイルの土台は1920年〜1960年代ごろですでに確立されています。そんななか、学生服で大きく変化していくのは、制服のデザインというより、学生たちの着こなしなんです。こちらの70年代に流行した着こなしを見てください!」

「急に何が起きたんですか!」
「男子は“ボンタン”と呼ばれるワタリが太く足元が細めのズボンに、“長ラン”や“短ラン”を組み合わせた『ツッパリ”スタイル』、女子は極端に丈の長いスカートを履いた『スケバンスタイル』が70年代に流行しました。変形学生服というものですが、さすがに自分たちで改造はできないので、変形学生服の専門店なんかもありましたね」

学ランの裏に装着していた「改造裏ボタン」。制服の内側でも、こっそり華美なものやメッセージのあるものを装備している人が多かったそう
「スケバン女子の持っているスクールバッグもペッチャンコなんですが……」

「この当時はまだ本革のスクールバッグが主流でしたが、わざとお湯につけて潰したり、中の芯を抜いたりして、下敷き以外何も入らないくらいの薄さに仕上げるのが流行っていたんです」
「なぜそんなことをするのか意味がわからないけど、情熱がすごい!」
「70年代の高校生たちには『早く大人になりたい』という気持ちが強かったんですよね。スクールライフを楽しむよりも、逸脱して『みんなよりも先に大人になりたい』という風潮があった。今より校則なんかも厳しくて、学生たちが抑圧されていたという証かもしれません。その反骨精神の現れとして、ツッパリやスケバンが生まれたのだと思います」

©森伸之
「ツッパリやスケバンって、授業をサボったり非行に走ったりするいわゆる“不良”のイメージがありますが……」
「そういう生徒も多かったけれど、不良だけのファッションではなかったと思いますよ。僕が通っていたのは進学校でしたけど、授業にしっかり出ていてそこそこ成績もいいのに、ボンタンを履いているような子もいました。当時は不良っぽいというより、おしゃれに敏感な子のスタイルというイメージでしたね」
「それは意外です! もしかして、森先生ご自身もツッパリだったとか……?」
「ちがいます(笑)」

ちなみに1980年代初頭にツッパリ文化から生まれたのが、暴走族風の服装をした猫のキャラクター「なめ猫」©NAMENEKO JAPAN
日本の景気が着こなしにも影響していた? コギャルやヤマンバギャルが誕生した90年代
「ツッパリ・スケバンブームも去り、80年代半ばになると、制服のモデルチェンジブームが起きました。エンブレム付きのブレザーにチェックの膝丈のスカート、そしてハイソックスというスタイルが、新たな定番に。スカート丈は超ロングから膝上ぐらいに落ち着いています」

「なんだかこの時代からグッとおしゃれになった感じがしますね!」
「当時はDCブランドが手がけた制服も登場していましたよ。山本寛斎(※1)や森英恵(※2)など、名だたる日本のファッションデザイナーがスタイリッシュな制服をデザインしていました。当時は制服が学校へ生徒を呼びこむ宣伝のひとつだったんですね」
(※1)山本寛斎(やまもとかんさい):大胆な色使いや日本の伝統をモダンに取り入れたデザインで、日本のファッションに新しい風を吹き込んだ。過去にデヴィッド・ボウイの衣装も手がけたことも。2020年没。
(※2)森英恵(もりはなえ):日本人で唯一のパリのオートクチュールデザイナー。映画衣装や舞台衣装、オリンピックのユニフォームなども手掛けた。孫はタレントの森泉さん、森星さん姉妹。2022年没。
「しかし90年代半ばになると、再び大胆な着崩しの時代に入ります。女子にはミニスカートにルーズソックスを合わせた『コギャルスタイル』。男子は腰のあたりでズボンをダルっと履く『腰履きスタイル』が流行しました」
1990年代の制服
「腰履き男子、パンツ見えてますけど! でも腰履きスタイルは息が長くて、私の学生時代にもよく見られましたね……」
「僕の個人的な見解ですが、腰履きは当時流行っていたストリートファッションに影響を受けているんじゃないでしょうか。一方女子は1990年代に流行した歌手・安室奈美恵さんのファッションを真似たスタイル『アムラー的ファッション』(ミニスカに厚底のロングブーツ)に影響を受けて、極端なミニ丈と長いルーズソックスで再現しているのではないかと」

1990年代はルーズソックスに対応したヒールの高いローファーも流行!
「なるほど。当時流行していたファッションを、制服になんとか取り入れようとしていたのかもしれませんね」
「この時代は日本の経済成長が落ち着き、バブルも弾けて社会全体がどことなくどんよりしていた一方、女子高生たちはエネルギーのあるギャルに変貌を遂げ、独自のカルチャーを生み出していきました。山姥のようなメイクで渋谷を闊歩する『ヤマンバギャル』が登場したのもこの頃です」

女子高生時代をヤマンバギャルとして過ごし、現在はヤマンバギャル文化を美術を通じて発信している、近藤智美さんの作品
「私はまだ子どもの頃でしたが、テレビなどでも女子高生やギャルがフィーチャーされていて、すごく記憶に残っています。『女子高生ブランド』(※)なんて言葉もありましたよね」
※女子高生ブランド:1990年代の女子高生のファッション、カルチャーは企業やメディアに影響を与える存在になっていたこともあり、社会学や文化的に「女子高生ブランド」と呼ばれるように。
「そうですね。1990年代は就職氷河期の始まりや教育現場の荒廃などさまざまな社会問題が浮き彫りになった時代でもありましたが、あえてミニスカやルーズソックスを履いて“女子高生っぽさ”を演出する子も少なくなかったと思います。ある種、女子高生であることが彼女たちにとってのステータスになっていたのでしょう」
「70年代の女子高生たちが『大人になりたい』と切望していたのと対照的に、この時代の子たちは“今、女子高生であること”に価値を感じていたんですね」

「不景気によって、子どもたちの目に大人たちが楽しそうに見えなくなったことが影響しているかもしれません。景気のいい70〜80年代は抑圧される学生時代よりも、お金や自由のある大人のほうがずっと楽しそうに見えていたけれど、90年代に入り、社会が変わると『大人になったら大変なことばかり。今が人生で一番楽しいんだ!』と思う子が増えたのではないでしょうか」
「一見無関係なようで、実は社会的背景が女子高生の着こなしにも影響していたんですね」
短い丈のソックスに美脚効果が!? スカート丈と靴下の世代別トレンド

「藤間さんは、2000年代後期に高校生活を過ごしたとおっしゃっていましたよね。では、この頃のスタイルが一番近いのではないでしょうか」
「私の学校はブレザーだったので、ブレザーに膝上丈のスカート、紺ソックスの時代がドンピシャですね。ソックスは長めが主流で、ニーハイソックスもめちゃくちゃ流行っていましたよね〜」
「……。ちなみに、藤間さんはどちらの地域の高校に通われていましたか?」
「埼玉県南部です」
「ほかにも2000年代後期に高校時代を過ごされていて、『ニーハイが流行っていた』と話していた方と出会ったことがあるんですが、その方も埼玉県出身で。実は埼玉県以外の人から、制服にニーハイを合わせていたという話はほとんど聞いたことがありません」
「え、 全国的に流行していたと思ってました!」

「制服の着こなしって、結構地域差が出るんですよね。たとえば、神戸の私立女子校では子ども服ブランド『ファミリア』のバッグをスクールバッグ代わりに使う生徒が多いのですが、ほかの地域では見たことがありません」
「通っていた学校の着こなしが自分のなかのスタンダードになってしまうので、自分では気づかないものですね。改めて比較してみるとおもしろいなあ。
ちなみに、一番右に展示されているのは、最近のスタイルですか? 私の時代には見たことがない!」
「これは2010年代半ばから見られたスタイルですね。学校にもよりますが、校則の厳しくない学校では着こなしのカジュアル化が進み、パーカーなどの私服と合わせて通学する子が増えました」
「私がもっとも気になるのは、現代っ子の足元です。靴下の丈が短いし、ローファーじゃなくてスニーカーを履いている……!」

「制服に合わせる靴といえば、『HARUTA』をはじめとした専門メーカーのローファーが定番でしたが、最近はラフにスニーカーを合わせている子が多いです。靴下も、ここ10年くらいは短めが主流で、スニーカーソックスも増えていますね」
「私の時代にも、スニーカーソックスやスニーカーを履いて通学している子はいたんですが、運動部でバリバリ活躍するスポーツ女子というイメージだったんです。でも、今はインドアなタイプの子でもこのスタイルを好んでいるんですよね?」
「そうですね。なぜかというと『短い丈の靴下のほうが脚が長く見える』というのが、今の子たちの価値観なので」
「 私たちのときは、短いスカートに長い靴下を合わせるのが一番脚が細く見えるという価値観だったのですが……!!」
「どの時代の女子高生も『自分のスタイルを良く見せたい!』という共通の想いを抱いていると思います。ロングスカートのスケバンも、ミニスカートにルーズソックスの平成ギャルも、たぶん同じ。ただ、不思議なもので、最適解とされるものはその時代によって変化するんですよね」

森先生がまとめた「女子高生とソックス50年史」
「自分もですが、歴代女子高生たちの試行錯誤を感じます……。現代っ子がたどり着いた答えが、スニーカーソックスだったわけですね!」
制服は日本人の性格に合っていた。ジェンダーや猛暑にも配慮した最新の学生服
「最近は制服自体を廃止している学校も増えてきていますが、今後も学生服という文化は続いていくのでしょうか?」
「なくなることはないかと思います。制服の形式自体は昔から変わらない部分もあるけれど、時代に応じて柔軟に変化している部分もありますから。例えば今は、女子もスカートだけでなくスラックスを履いても良いという、選択性の制服が増えていますよね。制服自体が以前よりもおおらかで、それぞれの意思を尊重したものになろうとしているんです」

最近では女子制服にパンツスタイルを採用した例や、宗教習慣に配慮した例もある
「たしかに、街中でもパンツスタイルで通学している女の子をよく見かけるようになりました。 いつか、男子がスカートを選択できる時代もやってきそう!」
「そのほかにも、今は昔よりも夏の暑さが厳しいので、機能性素材を採用した制服も増えています。また、制服のリサイクルやリユースのプロジェクトも増えていたりと、サステナブル性も注目されていますね」

カンコー学生服が新しく提案している「循環型学生服」。ネクタイとパンツのチェック柄はプリントされたもの
「社会や環境に合わせて、制服も進化を続けているんですね。メーカーの企業努力を感じます」
「まさしく、そうなんです。制服はいまだにほぼ100%国産ですし、学校単位という小ロットなのに、ひとりひとりのサイズを測ったカスタムオーダーで、必ず納期を守って製作しています。最近は少子化の影響で注文自体も減っているはずですが、それでも高品質を保っているわけですから、制服メーカーというのはすごいなあと思いますよ」

2023年に長野県佐久市で誕生したアイドルグループ「7限目のフルール」(通称ナナフル)。実在する高校から生まれたアイドルとして、きわめて仕立てのいい学校制服風のステージ衣装を採用。右側の学校制服を着てイベントに出演することもあるとか。まさにリアル「ラブライブ!」
「日本の制服ってつくりがしっかりしていて、とても丈夫だし、もはや海外に誇れる日本独自のカルチャーになっていますよね」
「個人的には、制服というのは日本人の性格に合っているんじゃないかなと思っていて。制服というものがなくなって、みんな好きな服を着て登校しなくちゃいけなくなったら、戸惑う人も多いんじゃないかと思うんです」
「といいますと?」
「学生たちは制服という“縛り”があるからこそ、ちょっとした部分で自分なりの個性を出してみたり、おしゃれな子を真似してみたり、小さな挑戦をしてみることができる。だからこそ、多くの人が当時の着こなしに関する思い出をもっているんじゃないでしょうか」
「実際、制服のない学校に通っていた人のなかには『毎日着ていく服を選ぶのに苦労した』と話す人もいますね。おしゃれに敏感な時期だからこそ、制服があることで助けられていた部分もあるのかも」
「僕は長年制服を研究していますが、今後も変形学生服やルーズソックスのようなものが学生たちによって生み出されるのかと思うと、ワクワクします。しかも現在はこれまでになかった女子のスラックスが出てきて、100年に一度の学生服の変革期だと思うんですよ。今後、スラックスの着こなしで個性を出す子も増えてくるはずなので、まだまだ学生服の研究を続けていきたいです」

森さんが今回の展覧会で新たに提案している「未来の学生服」。男子は男子はキルト風のスカート、女子用スラックスとユニセックスなアイテムの導入が目立つ
「森先生は、いい意味でジェネレーションギャップを楽しみ続けているんですね。先生、本日はありがとうございました!」
おわりに

自分が現役の高校生だった頃はとくに意識していなかったけれど、実は社会背景の影響も受けながら変化していたことがわかり、とても興味深かったです。
私には4歳を迎える娘がいますが、彼女が高校生になる頃には、どんな着こなしが流行っているんでしょうか。想像してみると、なんだかワクワクしてきます! 意外とその頃には、私の時代のスタイルがリバイバルしていたりして……?
撮影協力:弥生美術館
撮影:番正しおり
編集:吉野舞

































