全国各地にある、センスが光る独立系書店。土地に根付いた本屋さんは、きっと街の「いい楽しみ方」を知っているはず。そこで、全国の本屋さんに「この土地で読むのにぴったりの本」と「買った本を携えて訪れるのにぴったりの場所」を教えてもらった。

今回おすすめスポットを教えていただいたのは、青森県八戸市にあるブックバー「ANDBOOKS」と、「古本屋GERONIMO」を経営する、本村春介さん。

ANDBOOKSは、19時ごろからオープンし、日付が変わる頃まで開いている夜限定のブックバー。常連客には親しみを込めて「アンドブ」と呼ばれている。

本村さんが提供するドリンクやフードを楽しみながら、お客さん同士が会話を弾ませたり、窓際の席では静かに読書をして過ごしたり。その日の気分によって使い方を変えることができる。

2025年12月8日に発生した青森県東方沖地震では本棚が崩れるなどの被害を受けたが、すぐにお店は再開。今日も八戸の夜に灯りをともしている。

 

書店がないなら自分でやってやろう

春には、2000本の桜が圧巻の「はちのへ公園春まつり」が行われ、八戸港ではイカやサバをはじめとした海産物が、全国有数の水揚げを誇る。

そんな八戸の印象を本村さんに聞くと、意外な回答が返ってきた。

「八戸は人口20万人以上とそれなりに大きい街にも関わらず、映画館がなくなった(※1)時は、『カルチャーが死んでしまった』と思いました。

2016年には八戸市が運営する『八戸ブックセンター』ができ、『本のまち八戸』という言葉を市が掲げています。本好きのなかでは、『八戸と言えば本』というイメージが浮かべる方もいるかもしれません。ただ、古本屋となると私がやっている『古本屋GERONIMO』のみ。だからある意味、八戸で書店をやるのは覚悟が必要というか。責任重大だと思っています」

※1……八戸市唯一の映画館だった『フォーラム八戸』が、2023年に惜しまれつつも閉業

「個人経営の書店がないなら自分でやってやろう」と、ずっと心の隅で構想を練っていた自分の書店の夢。しかし、当時会社員だった本村さんは、なかなか大きな決断に至ることができなかった。そのきっかけをつくったのは、慕っていた先輩の死だった。

「会社員時代にとても仲良くしていた先輩が、がんで亡くなったんです。いつも飲みに行ったり、バーベキューに行ったりしていた。大好きな先輩でした。だけど、がんが見つかった時はもう手遅れで、3ヶ月後に亡くなりました。

それからは涙が枯れるほど泣きましたね。『世の中は、なんて理不尽なんだ』って。それで、好きなことをやらないと嘘だと思いました」

本村さんは翌年、会社を辞める。その3ヶ月後には、ANDBOOKSをオープンしていた。

今年で8年目となるANDBOOKSと、2024年にオープンした古本屋GERONIMOには、地元客だけでなく、県外からやってくる観光客も多いのだとか。

 

自然体な接客で、安心できる場をつくる

もともとお酒好きではあったものの、会社員時代にスコッチウイスキーを知ってから、お酒の幅広さにより魅力を感じたという本村さん。

「それまでは、いわゆる角瓶のような、一般的なウイスキーしか飲んだことがなかったんです。それがある日、ラフロイグ、アードベッグ、カリラというアイラモルト(※2)を知ったんですね。煙のような、ピートの匂いに衝撃を受けて。それから、スコッチウイスキーにハマっていきました」

※2……スコットランドのアイラ島で製造されるシングルモルトウイスキー

ANDBOOKSでの本村さんの接客は、常連客がヒヤヒヤするほど自然体。

「飲食業を下に見ていたりとか、自慢話をずっとしていたりとか。そういうお客さんもたまに来ますけど、そういう方は必要最低限の応対にしています。わかりやすいからヒヤヒヤするよ、って常連さんにはよく言われます(笑)。

自分ではわざとやっているわけではなくて、自然とそうなってしまうんです。そういう方は、大抵、もういらっしゃらなくなる。結果、お店の雰囲気も保たれているんじゃないかな。

場所柄、繁華街からは離れているから、うちを目がけて来てくれるお客さんが多いんですね。最初に入るのは勇気がいるかもしれないけれど、馴染んでしまうと、とても居心地のいい店だと思いますよ」

 

ANDBOOKS本村さんが教えてくれた、八戸のお気に入りの場所

ワインバー「NOMUU」

ANDBOOKSから歩いて10分ほどのところにある、ワインバー「NOMUU(ノムウ)」。国内外のナチュラルワインと、店主の遠瀬迪さんが腕をふるった料理が楽しめる。

お店にはウォークインセラーがあり、常時100本ほどの個性豊かなワインが揃っているそう。食事のメニューは、「南風農園さんのにんじんコンフィと生ハム」など、地元生産者がつくった旬の食材を使ったメニューがメインとなっている。食事と合うワインを店主に訊ねたり、自分のお気に入りのワインを探したりするのも、なんとも楽しい。

本村さんが「めちゃくちゃおいしい」と絶賛するのは、フォカッチャをはじめとした自家製パン。

店内には座敷席もあり、子ども連れで来店する方も。おしゃれだけどカジュアル。いろいろな人が思い思いの過ごし方をできるお店だ。

NOMUU
青森県八戸市吹上1-11-18
https://www.instagram.com/nomuu_hachinohe/

 

無国籍居酒屋BON

ANDBOOKSから歩いて6分ほど。日が暮れると赤提灯やネオンが灯り、活気を帯びる八戸の8つの横丁のうちのひとつ「長横町れんさ街」にある、「無国籍居酒屋BON」。ウッド調の内装にステンドグラスのライトが幻想的に灯る空間で、ユニークな無国籍料理と、クラフトビールが楽しめるお店だ。

オーナーのかっぱさんは、本村さんの高校の先輩。そういった関係性もあり、本村さんはANDBOOKSの常連客と連れ立ってたびたびBONに飲みに行くのだとか。

アジアを中心にバックパックの旅に出た経験のあるかっぱさんが、当時見聞きし、食べたものを自由にアレンジした「無国籍料理」は、どれもスパイスが効いていて美味! クラフトビールのラインナップも頻繁に変わるため、何回訪れても楽しい。

無国籍居酒屋BON
青森県八戸市長横町18 れんさ街
https://www.instagram.com/mukokusekiizakayabon/

 

古本屋GERONIMO

「八戸でお気に入りの場所は?」と訊ねると、本村さんは「手前味噌なんですけど、やっぱりGERONIMOなんですよね」と笑う。

ANDBOOKSを切り盛りしながら、古本屋GERONIMOもオープンすることになったきっかけは、一軒の古本屋の閉店だという。

2020年まで、八戸の中心街には「古書 遊歩堂」という古書店があった。

「普通にお客さんとして、ちょくちょく通っていました。すごく親しいわけではないんですけど、行くと一言二言、世間話をして帰る。ブックバーをやっているんですよ、と話したりして。ある時期から半額セールをはじめたので、もしかして、と思っていたら閉店された。店主さんが亡くなられたということでした。

その後、店主さんの仲間がお店を片付けていたそうなのですが、ものすごい量の、素晴らしい蔵書を捨てるのは忍びない。誰か引き取ってもらえないか、ということで、私に声がかかりました。

譲り受けた本はANDBOOKSや、併設のANDBOOKS分室に置いていたのですが、それでも溢れてしまう。それで『もうこれは古本屋をやろう』とはじめたのがGERONIMOでした。もともと古本屋をやりたいと思っていたので、このタイミングでと踏み切りました」

過去に古本屋GERONIMOで行われたトークライブ「くどうれいんの宇宙」の様子。作家のくどうさんは、本村さんにウイスキーの飲み方を教わった際のことをエッセイに綴っている

古本屋GERONIMOの広い店内では、豪華なゲストによるトークイベントも頻繁に行われる。

2026年5月には、又吉直樹さんとせきしろさんのトークライブや、毎年、寺山修司の命日に合わせて記念館のある青森県に訪れるという、俳優の三上博史さんのトークイベントも行われた。

オンライン取材の際も、本村さんはGERONIMOのカウンターに座ってお話をしてくれていた。

「今、座っているこのデスクがめちゃくちゃ心地よくて。一日の半分はここに座っていますけど、落ち着きます。まあ、それなりに散らかってはいるんですけどね」

店主が居心地がいいと感じる店は、きっと訪れる人にとっても心地いい空間であるに違いない。

古本屋GERONIMO
青森県八戸市三日町32 江口ビル 3F
https://www.instagram.com/geronimo_3f/

 

ANDBOOKS本村さんが選ぶ、おすすめ本 2選

『ズレ続ければいつかまた重なるから ブックバーと古本屋店主の2025年』本村スンスケ 著

GERONIMOのInstagramアカウントで書いている日記を、一年分まとめた本村さんの日記本だ。毎年発行していく予定で、GZC(ジェロニモジンクラブ)という出版レーベルも立ち上げた。

ペンネームの「本村スンスケ」は、ANDBOOKSをオープンするきっかけにもなった先輩が、本村さんのことをふざけ半分、愛情半分に「スンスケ、スンスケ」と呼んでくれていた思い出を込めた。

『ズレ続ければいつかまた重なるから ブックバーと古本屋店主の2025年』
本村スンスケ 著
(現在在庫なし。再販の際はお店のInstagramで告知)

 

UGOU

制作中の『UGOU』のロゴ

レーベルGZC(ジェロニモジンクラブ)の新たな企画が動いている。今年の秋に発行を考えている、青森県八戸発の文芸誌『UGOU』。八戸に関わるライター、小説家、お店を経営する方々などに、エッセイや小説、短歌などを寄稿して一冊の文芸誌をつくる予定だ。

「ANDBOOKSに何度か足を運んでくれた作家の燃え殻さんと意気投合し、飲んでいた時に、燃え殻さんが言ったんです。

『本村さん、本を作ったらどうですか。雑誌作ってくださいよ』

その時は『俺、文章は書けないですよ』と言って、その話題は終わってしまったけれど、その後に、岩手県盛岡市にある書店BOOKNERDで、ZINE『なnD(なんど)』に出合いました。いろいろな方がテーマに沿って寄稿している本で、燃え殻さんの言っていた『本を作ったらどうですか』の意味がやっとわかった気がしました。

それからどんどん、書いてほしい人たちに声をかけて、執筆してくださる方が40人を超える大ボリュームの本になる予定です。ぜひ楽しみにしていてください」

UGOU
GZC(ジェロニモジンクラブ)より、今秋発行予定

 


ANDBOOKSは中心街から少し離れた場所にある。オープン当初は、その立地に不安も覚えていたという本村さん。書店だけでは経営が成り立たないのではという思いから、ブックバーという業態でお店をスタートした。

オープン後、『これからの本屋読本』(内沼晋太郎 著/NHK出版)を読んでいると、とある一節が目に飛び込んできた。

一等地にあり、誰でも入りやすい店にすると、それだけいろいろな客が入ってくる。(中略)意思をもった人しか来ないような、あえて一歩引いた立地にすることで、ゆるやかに客を選び、その人たちに心地の良い場所をつくることに集中できる。時間はかかるが、近しい感覚をもった客が増えていく。そう考えると、むしろ家賃の高い一等地は、あえて外したほうが良いとも言える。例としては極端だが、隠れ家的なバーなどをイメージするとわかりやすい。そのほうが、濃密なコミュニケーションが生み出しやすいのは自明だ。

「これは自分の店のことだ、と思いました。ANDBOOKSはまさに書店であり、隠れ家的なバーなんですよ。これでいいんだ。間違っていないんだ、と背中を押されましたね」

今日も、八戸の静かな通りにあるブックバーANDBOOKSや、数多くの蔵書を誇る古本屋GERONIMOには、お店を目掛けて、そして、本村さんに会いたくて訪れるお客さんが絶えない。

ANDBOOKS
青森県八戸市十六日町48-3 本多ビル2F
https://www.instagram.com/and_books2018/


古本屋GERONIMO

青森県八戸市三日町32 江口ビル 3F
https://www.instagram.com/geronimo_3f/