
筆者は倹約家である。物価が高騰し、給料があまり上がらない中で多くの人が同じように節約を強いられている。
「百貨店」というと、高級なものを高いまま売っているお店のイメージばかりで、子どものころ以来足が遠のいていた。
昔、親に連れられて行っていたものの、最近、自分から百貨店で行くのはデパ地下と催事、入居している他の大型テナントくらいだった。
そんな百貨店、とくに地方百貨店は閉店のニュースが目につく。勝手に「時代だから仕方ない」と思っていた。

筆者の地元・柏にあるそごう柏店。閉店してしばらくはそのままだった
しかし調べてみると、「お直し」や「昔の服のリメイク」など、実は物価高騰にあえぐ我々一般人にこそ、使う価値があるサービスも多いのでは?と思うようになった。
そこで私たちの知らない百貨店のサービスを聞くために、岡山に飛んだ。
行き先は、地方百貨店の代表格「天満屋」。

天満屋岡山本店はバスターミナルを構え、岡山における交通の「核」のような存在でもある
天満屋は1829年に創業し、2029年には創業200周年を迎える全国有数の老舗百貨店。岡山本店、さらに倉敷・津山・福山・米子と5つの店舗を経営している。
マラソン女子日本記録保持者の前田穂南選手など、5名の五輪出場選手を輩出した名門の陸上部もある。
そんな天満屋で広報を担当する吉田侑可さんと野口咲良さん、そして各フロアの店員さんたちに「百貨店入門」を伺った。

ここで聞いたことは天満屋での一例だが、大まかな傾向は他の百貨店でも共通するので、参考にしてほしい。
百貨店は「アフターサービス」がスゴい

「百貨店ってデパ地下とか催事を除けば、すごくお金持ちの方だけが行く場所なんじゃないかと勝手に思っているのですが……どうでしょうか?」
「地域のお客様の暮らしを豊かにする観点で商品を取りそろえております。外商サービスを除けば、どなたでもお買い物やさまざまな体験をお楽しみいただける施設です」

「そうですか……? ちなみに昨日も天満屋に少しだけお邪魔したんですが、『これいいな』と思った名刺入れが1万5000円くらいで、気軽に買いにくいのかなと」
「一般的なネットショップ等と比較すると、比較的、高価格帯のお品物が多い印象を持たれるかもしれませんね。ただ、質のいいものをお選びいただくことで長くご愛用いただけますし、結果的にコストを抑えることにもつながります」
「お手頃な商品から、少し値が張る商品まで幅広く取り揃えており、多くの商品にアフターサービスが付属しているのが特徴です」
「と言いますと?」
「例えばお皿が欠けても、美術品なら『金継ぎ』といって漆で接着・補修して金粉で装飾するとか、作家さんに直接連絡などができます」

「そこまでやってくれるんですか?」
「ランドセルも天満屋でお求めいただきますと、6年間のご使用期間中、修理の際には代替えのランドセルをご用意することが可能です。またそのほかのお困りごとがあっても、天満屋がメーカーとの間に入って対応するので、保護者さまへの負担も軽減されます」

妹尾さんは日本百貨店協会資格の「ランドセルアドバイザー」と「玩具アドバイザー」を持っており、いろいろと相談できる
「6年間見てくれるのはいいな、毎日使うものだし」
「さらに、売り場でご購入いただいた様々なお品物は、サイズ直しをはじめ、何かトラブルがあった際にもお気軽にご相談いただけます。お品物を売り場にお持ちいただければ、修理費用の見積りやだいたいのお預かり期間の目安もご案内できますので、お客様ご自身が調べる時間や手間がかからないようにしております」
百貨店は「オーダーメイド」が強い
「あとは紳士服のオーダーサロンでは、スーツなどをお客様お一人おひとりのサイズに合わせて仕立てております。オーダーで作れば、その後もお直しや丈詰めなどのご相談にも対応しやすいので、長く安心してご着用いただけます」
「ええ、スーツのオーダーって高くないですか……?」

「一度、オーダーいただくことでお体のサイズは記録が残りますので、何度も試着をしてサイズの合うスーツを探し回るよりタイパが良くなります。また生地や襟の形、ボタンの種類を選んで、自分好みのデザインにスーツを『カスタム』していくお時間は、普段のお買い物とはまた違った体験で、お楽しみいただけると思います。
最初の一着はハードルが高いかもしれませんが、上質な生地で自分サイズで仕立てたスーツは、着心地が良く、見た目の印象も良くなります。お直しや適切なメンテナンスを重ねることで、長く着続けていただけるので、長い目で見るとコスパにも優れていると思います」


「ここがオーダーサロンですか。スーツを上下オーダーメイドするとおいくらぐらいからなんですか?」
「8万8000円~です。ただし、仕上がり後の試着時に寸法で好みと違うところがあれば、お預かりして無料で微調整します。あと、少々のほつれの直しなども無料で行いますよ」
「ちょっと値は張りますが、その分アフターサービスが充実しているわけだ」
「オーダーメイドすると体のクセや傾向もわかるので、体重の増減の相談も承ります」
「そんなところもわかる?」
「はい。スラックスは、体重が増えてもいいようにウエストの生地の伸びしろを5cmほど残しますので、3キロくらいの増加であれば、有料ですがお直しできます」
「そんな奥の手があったのか! 他にもオーダーメイドしてくれるところはありますか?」
「はい。例えば天満屋5階フロアにある『ねむりの相談所』では、お客様に合った枕選びをお手伝いしております。測定器で頭の形などを確認したうえで、硬さや素材などをお選びいただけます。
オーダー枕は2層構造でお好きな素材を組み合わせてお作りでき、材料がそろっている場合には、1時間ほどでご用意できます」

価格は3万3000円から
百貨店は「お直し」できる!
「百貨店は『修理』が充実していると、チラッと聞きました」
「岡山本店の場合、例えば時計につきましては、店頭でお買い上げいただいたものは、原則修理を承っておりますし、ブランドによっては当店以外で購入されたお品物についても修理をお受けできる場合もございます」

「ここが時計修理の窓口か。諦めがちでも、意外と持ってきてもらうと直る例はあるんですか?」
「引き出しの奥から出てきた、見た目が損なわれていて、さすがに直せなさそうな昔の時計も意外と直せます。20~30年前のものは難しい場合もありますが、長くパーツを保有していたり、代替部品を用いて修理できる場合もありますから」
「おいくらから修理してもらえますか?」
「店頭の電池交換はお手ごろな価格だと、約1500円~4000円です。オーバーホールはブランドやモデルによって異なりますが、電池式のものだとだいたい2~3万円くらいから。機械式だと、約5~6万円から修理可能です」
「また、お洋服に関しては、お直し専門のコーナーがございますので、店頭でお求めいただいたお品物以外でも対応できます」

アトリエフォルムアイ 天満屋岡山本店
「ジーンズの裾上げが1870円~、パンツのファスナー交換が3850円~(2026年4月7日現在)か。これならいけるかも。靴も直せますか?」
「靴は『ミスターミニット』のサービスをご利用いただけます。このように百貨店には外部の修理専門店もございますので、お品物に応じて幅広くご相談いただけます」

「お直しできる所が集積しているわけか」
「他にも売場ではお直しや買い取りに関するイベントを行っています。不定期ではありますが、おもちゃの修理イベントもあります。
『おもちゃ病院』といって、おもちゃのお医者さんが来て、動かなくなったおもちゃを修理してくれるので、非常に好評をいただいております。こちらも天満屋以外で購入したものも受け付けます」

百貨店は「リメイク」が強い
「百貨店は古い服のリメイクが得意と聞きます」
「はい、おばあさまから受け継がれたお着物をリメイクしたり、ひと昔前のデザインのお洋服でも、今の雰囲気に合わせた仕様へお直しすることが可能です」

アトリエフォルムアイ 天満屋岡山本店の作業場
「お下がりがいっぱいある人、多そうですね。それこそ親の形見とか……。サイズが違うものでも着られるんですか?」
「大きなものは詰めたり、小さいものも袖丈を変えたり、ウエストサイズを変えたりして使い続けられることもあります。こちらはとても古い着物をリメイクした服です。シルクの良い素材が使われていますよ」

「おお、違和感がない。シックでどこか時代を感じさせつつも、今見ると新鮮ですね」
「他にも、おばあさまが天満屋でご購入くださったパールのネックレスをプレゼントされたものの、長さが合わずお使いになれなかったお客様が、パールを少し抜いて、結婚式用のネックレスとピアスにリメイクされた例もございます。
時代とともにデザインや流行は移り変わりますが、想い出のあるお品物を引き継いでゆくお手伝いもできるのが強みのひとつです」
百貨店の「友の会」はごほうび付き積立サービス
「百貨店に行く機会があまりなくて『友の会』も知らなかったんですけど、トクするんですよね?」
「はい、百貨店各店がご用意している友の会は、毎月一定額を積み立てていただくことで、元本を損なうことなく、満期時にはボーナス分が加わる仕組みとなっております。天満屋では『みのり会』が友の会にあたりますね」

「4%を超える上乗せ率なのか。ちなみに観劇会コースって何ですか?」
「歌舞伎などを1年に1回観劇できるコースです」
「歌舞伎、観に行くと結構高いのにスゴいな。調べるといくつかの百貨店でこういうコースがありましたが、珍しいようですね」
「はい、『天満屋みのり会』はとても人気がありまして、現在約三万口のご契約をいただいております。毎月少しずつ積み立ていく形ですので、無理なく続けやすいと思います。
積み立てはじめてから1年後の満期終了後に、積立額は会員カードにチャージされます。天満屋をはじめ、天満屋グループのスーパーやホテル、ゴルフ場のお会計時にお使いいただけますので、株のような難しさがなく、ご活用いただきやすいのもメリットです」
百貨店はどんどん「相談」できるぞ
「百貨店はプロによる相談が魅力とうっすら聞きますが、相談力の根拠は何ですか?」
「その一つは資格取得に力を入れている点です。とくに天満屋は従業員の資格取得を積極的に進めており、現在473人の資格取得者がいます(4月時点)。贈り物選びから日々の暮らしに関わる内容まで幅広くご相談いただけます」

「そんなに。『スリープマスター』とか『ランドセルアドバイザー』とか、そんな資格まであるんですね」
「例えばランドセルアドバイザーは、日本百貨店協会の認定資格で、天満屋全体では22名の取得者がおります。
また、西川の『ねむりの相談所』には日本睡眠科学研究所認定の『スリープマスター』が在籍しており、寝具選びはもちろん、睡眠環境全体についてもアドバイスできる専門のスタッフです」

「お客さんに対してできる幅が広いわけですね」
「さらに、足と靴と健康協議会が認定する『シューフィッター』は、足の幅や甲の高さなどを見て、一人ひとりに合った靴をご提案できる専門資格です。
実際に社員の中にも、いわば『マイシューフィッター』のように継続して相談している者がおりますが、靴の手持ちラインナップから足の幅、サイズまで把握したうえでご提案できるため、新作のオススメが好みのど真ん中を突いてくるようです」

陸上部を抱える天満屋はランニングシューズも充実
「自分より自分の足のことをわかっている人が伴走してくれるわけだ」
「さらに地下のリカーショップには日本酒サービス研究会認定の『利き酒師(唎酒師)』もおります」

「お酒がわからない人が買うときに聞くといいことはありますか?」
「合わせる料理やおつまみを教えてもらうと、ご提案しやすくなります。あと、冷やして美味しいものもあれば、燗にすると花開くものもあるので、どんな温度帯が好きと言っていただければ、選びやすくなりますね」

それぞれの酒にくわしく説明カードが書いてあるのが楽しい

天満屋岡山本店には試飲機も。中元・歳暮時期はギフト商材として扱いやすい3000円程度の箱入りの商品も並ぶ
「ギフトサロンでは、人生の節目に贈るお品には様々なマナーやしきたりがあるので、専門的な知識を持った販売員が用途にふさわしいギフトのご提案を行っております。
社内資格であるギフトコンサルタントの取得者に加え、接客販売技能士という国家資格をもったスタッフも在籍しております。
ギフトにはご用途に応じた表書きや、水引の種類・色など、細かな決まりごとがありますが、そのような点も誤りのないよう的確にご案内しております」
「僕も含めて今の人はお歳暮とかもなかなか贈らないから、いざ贈ろうとなったときに全然知らないし……聞いた方がいいな」

地方百貨店が隠し持つ力
ここ数年はインバウンドが百貨店の売り上げを押し上げるも苦戦は止まっておらず、2025年の日本百貨店協会調べの全国百貨店売上高は5兆6754億円で前年比1.5%減。
さらに前年比は主要の10都市が-1.3%に対し、10都市以外は-2.3%と地方百貨店のさらなる苦境が続く。

2024年1月に閉店した、島根県松江市の一畑百貨店より
「そんな中で、地方百貨店の良さってなんでしょうか?」
「地方百貨店の強みは、やはり『地域との距離の近さ』にあると考えております。地域との距離が近いからこそ、その土地で本当に求められる商品やサービスは何かを日々考え、地域の特性を踏まえながら、お客様に必要なものをご提案できる。
そうした“編集力”に加え、地域の暮らしや課題にも目を向け、どのようにお役に立てるかを模索し続けている点に、地方百貨店ならではの価値と魅力があると考えます」

「他に都会の百貨店との違いは何ですか?」
「都市部の百貨店では人口規模の大きさもあり、インバウンドや富裕層に力を入れている百貨店さんもあるかと思います。一方で天満屋は、地域の方みなさまお一人おひとりのライフスタイル全般に寄り添うことを大切にしています。
また子ども連れのお客様や若い世代のお客様にも気軽にお越しいただけるよう、催しにも力を入れております。最近のイベントを少々挙げるだけでも、
・ムーミンマーケット
・あんこのお菓子だらけの「あんこフェス」
・全国うまいもの大会
など、世代を問わずお楽しみいただける催事を開催しております」
「ちなみに2015年に全国初となる、商店街と百貨店の免税一括カウンターというのが生まれたそうですが?」
「2014年ごろから岡山でもインバウンドのお客様が増え、さらに消費税制度の変更により、免税対応の必要性が高まりました。しかし、そうした対応は商店街の個々の店にとっては負担が大きく、実施が難しい面がございますので、天満屋が免税対応を引き受けてまいりました」
「商売敵にもなりかねない商店街となぜ共栄を目指したんですか?」
「地域全体を活性化するには、競争だけでなく共存が大切です。百貨店には商品を販売するだけでなく、人やにぎわいをつなぐ“地域のハブ”としての役割もあると思っております。
だからこそ、個店単体ではなく、表町エリア全体でお客様をお迎えする体制づくりを目指しております。免税カウンターは商店街から入ってすぐで、入りやすくなっています」

「改めて、百貨店の魅力とは何ですか?」
「ショッピングモールはテナントごとに運営が分かれていることが多い一方で、百貨店は館全体で連携できる体制があるため、贈り物や暮らしのお困りごと、お直し・修理なども含め、売場を横断して総合的にご案内できるのが魅力です。
各売場に販売のプロがそろっておりますので、『何をどこに相談すればよいかわからない』という段階からでも、お客様ニーズを聞き出し、的確にご案内できる。そこに百貨店ならではの安心感と魅力があると思います」
「横断的にいろいろ相談してそろえたいときに役立つわけですね。ちなみに、それでも『百貨店、やっぱり高い商品も多いな』と思ってしまう自分がいるのですが……」
「高価なものには、それに相応しい理由と魅力がございます。たとえばカップひとつ取っても、縁の薄さや口当たりにまで意味があり、そうした器を使うことでコーヒーを飲む時間そのものが豊かになりますから。そうした、モノの背景にある価値まで含めてご提案することは、百貨店の役割の一つだと考えております」
「でも、少し値段が張るからこそのアフターサービスの充実ぶりもわかりましたね」
「ちなみに天満屋は36社のグループ企業を有しているので、百貨店単体では解決できないことでも、天満屋グループ内であれば解決できることもあります」
「グループを合わせて『百貨』なわけですか。そして、地方百貨店は正念場とも言われますが、どうでしょうか?」
「地方百貨店だからこそ培われてきた力があると思います。地域のお客様一人ひとりに向き合うことこそが、私共の大切な生命線であると考えております」
「地方の百貨店のデパ地下はスーパーとしての役割でも愛用されると聞きますし、地域の生活に根ざしているわけか」
「はい。天満屋にとって、創業の地である岡山は、これからも大切にしていきたい特別な場所です。岡山は天満屋の歩みの原点であり、地域とともに成長してきたかけがえのない存在です。これからも岡山に根ざし、地域に貢献しながら歩みを重ねてまいります」
「それが地方百貨店のアフターサービスにまでつながると……!」

公式グッズを販売するなど、ファジアーノ岡山との関係も深い天満屋
◇
ウソにならないように言っておくと、生活にそれほど余裕のない筆者は、それでも目先の安さに惹かれてしまう部分が大きい。
それでも今回話を伺い、デパ地下や催事へ行く道がてら、それ以外の売り場をのぞいてみたくなった。お金がないからこそ「お直し」などはいい選択肢だろう。
さらに、それなりのお金を手元にもてるほどの人であれば、百貨店はなおさら選択肢になるかもしれない。
筆者の実家のある松戸では、2018年の伊勢丹の閉店により、いわゆる純然たる百貨店はなくなった。
しかし日本から百貨店文化が消える前に、地域の人々が百貨店ならではの良さに気づけば、その灯は消えないかもしれない。
編集・撮影(一部写真):友光だんご
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この記事を書いたライター
卓球と競馬と旅先のホテルで観る地方局のテレビ番組が好きなライター、番組リサーチャー。過去には『秘密のケンミンSHOW』を7年担当。著書に『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』 (PHPビジネス新書)。









































