「若きアメ細工職人」と「引退を余儀なくされた鋏職人」の物語

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思わず目を奪われるような作品の数々、実はこれ飴細工なんです。独学で技術を磨いてきた若き職人・手塚新理さんが、2013年に「浅草飴細工 アメシン」をオープン。MADE IN JAPANの文化が再評価され始めたタイミングと重なり、瞬く間にテレビや雑誌などの露出を経て話題となりました。

 

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そして2015年7月、東京ソラマチの一番目立つ場所に堂々出店!

まだ26歳の手塚さんは高専卒業後、花火職人と木こりをしていたという変わり種で、手先の器用さや常識にとらわれない姿勢はその経歴からも察するものがあります。以前、別媒体で取材した記事がこちら→

 

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そんな彼の精巧な飴細工づくりを支えているのがこの握り鋏(にぎりばさみ)です。切って戻す動きが早くなければ、飴の性質上くっついてしまう。そのため指先に均等かつ、しっかり力がかかる握り鋏を新潟県・燕三条の職人に特注しているのだとか。

 

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「触ってみたらめちゃめちゃカタいですね…」

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「これぐらいバネが強くないと切っ先での細工が難しいんです。1日に5千回も握る作業を繰り返すから、耐久性も大事で。ホントにこの握り鋏がなかったら、現在の僕はないかもしれません

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「職人にとって道具は命って言いますもんね。ちなみにその握り鋏を作ってくれた職人さんはどんな方なんですか?」

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「新潟県の燕三条で50年以上、握り鋏を作り続けた外山健(とやまつよし)さんという職人さんで。今年で75歳。鍛冶職人の町として栄えた燕三条でも最後の握り鋏職人なんですよね」

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「すごい。本物の職人だ。どんな縁で外山さんに作ってもらえることに?」

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「2年前、燕三条で開催された工場の祭典というイベントに行ったんです。そこで外山さんを紹介してもらって、飴細工用のハサミを作ってほしいとお願いしました。数週間後、すぐに僕の希望に沿ったハサミを作って送ってくれたんですよね。僕もこだわりたいので『もっとこうしてくれ!』と生意気にもリクエストをして(笑)」

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「手塚さんの若き職人の姿にグッとくるもんがあったんでしょうね」

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「しかも、『いくらお支払いすればいいですか?』って聞いたら、『そんなのいらねーよ』ってぶっきらぼうに言われて。最初の数本は無料だったんですよね」

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「くぅぅぅ! 痺れるほどの良い話! ちょっと手塚さん、一緒に外山さんに会いに行きましょうよ。どんな気持ちで飴細工用のハサミを作ってくれていたのか知りたいです」

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「え、いいんですか?」

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「大丈夫です。取材費用はスポンサーのアイデムさんが持ってくれます!」

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「やった! 最近東京スカイツリーの店舗運営で休めていなかったから、気分転換にちょうどいいですね。行きましょう」

 

新幹線で燕三条駅へ

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上野駅から新幹線で約2時間。新潟県の燕三条駅に着きました。1982年に地元出身の政治家・田中角栄の力で上越新幹線が通ったと言われていますが、東京からこんなに近いとは思っていませんでした。

 

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「柿次郎さん、急に写真の質感が良くなってないですか?」

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「ここからはジモコロでも取り上げたフリーペーパー『鶴と亀』の小林くんがカメラマンとして参加してくれています」

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「あ、急に業務的な語り口になった。柿次郎さんって取材対象者と友だちになる確率高くないですか? まぁ、いいや。燕三条はモノづくりの町なので今回、地元の顔役の人にいろいろ案内してくれることになっています」

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「やったー!」

 

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今回、案内してくれたのは倉又製作所の倉又清彦さん。通称くらちゃん

 

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業務用包丁を世界に展開する「藤次郎(TOJIRO)」の工場見学。包丁かっこいい

 

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異常な知識量とパフォーマンスで燕三条の歴史を教えてくれた燕市産業史料館の齋藤優介さん

 

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重量16グラムのマグネシウム合金の名刺入れを販売する株式会社MGNET

 

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大手飲食店の厨房機器を製造している株式会社ハイサーブウエノの小越元晴さん

 

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創業200年! 無形文化財の鎚起銅器を作っている玉川堂の工場

 

f:id:eaidem:20151112132329p:plain「ダイジェストすぎないですか?」

f:id:eaidem:20151112132322p:plain「どこもおもしろくて話が濃すぎるため、別記事でまとめることにしました! 情報量がすごい…」

 

www.e-aidem.com

 

燕三条で最後の握り鋏職人・外山健さん

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手塚さんに連れて行ってもらったのは、鍛冶現場ではなく、なんと外山健さんのご自宅。聞けば取材直前にドクターストップがかかり、医者から「二度と鋏を打ってはいけません」と忠告されたばかりなのだとか。まさかこんなタイミングで……。

 

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「外山さん、もう鋏打てないってどういうことですか?」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「実は長年の鍛冶現場の影響もあって、肺気腫みたいな状態になったんだ。肺が固くなってしまって、外に出歩いてしまうと酸素が追いつかなくなる。酸素を持ち歩けば何とかなるけど、体力を使う鋏鍛冶は難しいだろうな」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「そうなんですね…」

 

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外山さんの鍛冶工場。棒状の鉄を900度以上の火に入れる→打つを繰り返して形成していく。金属鉄の微粉が呼吸器に入るため、肺の病気は職業性肺疾患ともいわれている

 

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「燕三条では外山さん以外に握り鋏を打てる人はいないんですよね?」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「そうだな。かろうじて俺が燕三条に唯一残っていただけで、後継者も育ってない。ただ兵庫県小野市に2〜3人残ってるって話だね。ほとんど70代前後らしいけども」

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「東日本には残っていないんだ。外山さんが繋がってる知り合いはいないんですか?」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「昔は各土地に組合があって、商売敵だったからそういう交流はないんだ。でも手塚くんの握り鋏を見せれば、同じモノを作ってくれる職人さんはいると思う。同業者だから、実物を見せれば頭の中で図面を引いて作れるはずだ。あ、そうそう。これまで俺が作った鋏に関しては、調整するぐらいはできるから。それでしのぐわけにはいかないのかい?」

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「うーん。自分が使う鋏もそうだけど、弟子がどんどん増えてるから…。本音をいえば新しい握り鋏を今後も作れるようにはしたいですね」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「なんとか兵庫県小野市の握り鋏職人さんを見つけるしかないですね。もしジモコロを読んだ人で心当たりがあったら教えてください」

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「あ、また、業務的な語り口になってる」

 

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外山さんが作った握り鋏(=和ばさみ)。和服裁縫の世界で重宝されてきて、世界中で日本人しか扱っていないらしい。実際に触ってみると、切っ先に無駄なく力が伝わるようになっている

 

外山さんの職人技術がすごい

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f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「柿次郎さん、これが外山さんの握り鋏の製造過程です。右から左へ変化していくのが分かりますよね?」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「ええ!? 最初はあんな小さな鉄の切れっ端で、最終的にあんな左右対称のキレイな握り鋏になるんですか!?」

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「そうです。しかも、外山さんはほとんど寸法を測らずに、自分の手の感覚だけで仕上げちゃうんですよね」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「まさに匠の技…!」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「これが職人なんだよね。機械でやるんだったらどこでも見られるけど、手でそこまでやれるから価値がある。手塚くんの飴細工の技術も一緒だよ。それに人の目の前でやれる技術だからこそ、誤魔化しがきかないわけよ」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「マニュアルがあるわけでもないし、機械的に再現できるものでもないわけですね。はじめて職人技術の真髄に触れた気がします」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「中学卒業後、15歳からこの世界に入って…かれこれ57年以上か。ずっと握り鋏を作ってきたからね。そもそも親父は三条でも右に出る者がいないくらいの名人で、小学校のときから手伝ってたなぁ」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「外山さんの技術はお父さんに教えてもらったものなんですね」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「20年以上親父と仕事をしていたけれど、それこそ『見て覚えろ』の世界だね。仕事は厳しく教えられたからって、覚えられるものじゃない。親父にも『いくら言っても、同じことなんてできないだろ?』ってよく言われたね」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「なるほど」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain自分で考えて実践して、失敗したら反省する。それでも失敗を恐れず、ひとつずつ階段を上っていくわけ。失敗したときに自分の宝になるんだ。だって、同じ失敗をしなきゃいいんだもの。ただそれの繰り返しじゃないかな。その果てにある工夫が自分の技術として身につくんだよ。反対に『このあたりでいいかな』って妥協する人は、そこまでの技術しか身につけられない。匠と言われる職人は、みんな死ぬまで修行だと思ってるんじゃないかな

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「そのセリフは職種関係なく刺さりますね….」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「それくらいやっぱり職人って厳しいね。作るといっても食べ物とはまた違う。結果が出るまでものすごく時間がかかるわけ。1年先になるのか、2年先になるのかもわかんねぇ。同じ商品を作っても比べるってことになると時間がかかる」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「月並みな質問で恐縮ですが、その忍耐力はどこで培ったんですか?」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「定時制の学校に4年間通ってたんだけど、朝5時に起きて学校が始まる夕方までずっと働いててね。学校行って帰ってきたら21時半とかだったかな。翌日はまた朝5時起きの繰り返しが丸4年間続いてね。同じような環境の同期が最初は60数人いたけど、みんな耐えられねぇって最終的には30数人しか残らなかった。正直、その4年間で勉強したことなんて何の身にもならねぇよ? だけど、このときのキツい経験が職人の世界における忍耐力につながってるかもしれねぇ」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「現代ではなかなか真似できないですね…。忍耐力や技術含めて、そこまで厳しい世界だからこそ後継者が生まれないのでしょうか?」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「技術の継承問題はもちろんあるけれど、それ以前に時代が変わって職人さんが恵まれない時代になってきたんだ。求められる技術の割に金にならない。そうすっと親の世代は、子どもに家業を継がせたくないわけよ。だからうちの倅も工場に勤めてるからね」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「家業に愛着があっても、現実的に暮らしていけないから継がせられないんですね…。モノづくりで栄えた燕三条地域でも、時代の流れには逆らえなかったと」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「戦前は三条市だけでも340軒ほど鋏鍛冶に関わっている家があった。俺が親父とやっていたときでも昭和50年頃がピークで、そのときは年間1500本ぐらいは作ってたんじゃないかな。その後は下降線を辿る一方だな。そもそも俺たちはメーカーから依頼を受けて握り鋏を作るんだけど、営業は問屋に任せるわけよ。いかんせん問屋は、いかに安く仕入れて高く売るのかが商売だろ? そうするとメーカーにしわ寄せがきて、難儀してる割に儲からねぇってことに気づいて撤退する。メーカーがいなくなると問屋の仕事がなくなるわけだな」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain目先の利益を追求した結果、自分たちの首を締める結果になったんですね

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「そうだな。昔は三条にも問屋は400軒くらいあったんだけど、今は100軒ぐらいしかないだろうね。昔と違って問屋の存在価値が弱くなってきてるから、大規模で資本力のあるところしか生き残れないんじゃないかな。メーカー自らが問屋の代わりに販路を作って、営業していかないといけない。小規模の工場では営業に時間を割いてると、工場の仕事がぜんぜんできないわけよ」

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「がんじがらめの状態に陥っちゃうんだ…」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「そういう状況が続くと倅に継がせねぇ家が増えて、結果的に自然淘汰されていくわけよ。ただ、自然淘汰されていく商品は希少価値が上がって、うまくやっているところは利益が出るようになっているね

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「逆転現象が起きてるんですね」

 

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淡々とこれまで職人として生きてきた軌跡と市場について話してくれる外山さん。時折り咳き込みながらも、力強く話す言葉の一つひとつに重みを感じます。希少価値の中で生き残りを図る企業もあれば、薄利多売の世界に巻き込まれて店を閉じる小売店も後を絶たず、もう引き返せない状況にまで来ているようです。

 

早くなりすぎた流通による弊害

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「自分だけが得をしよう得をしようとした積み重ねが、市場全体を縮小させることになってしまう。これって消費に傾倒した東京では実感しにくいことなのかもしれないですね」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「その点でいえば、昔と違って世の中の流通がものすごく早いだろ? 東京は今日注文したのが、明日の昼ごろには着くわけだ。東京の小売店にしても昔は箱単位(ロット)で注文していたのが、前日注文でも翌日に届くから余分に発注しないんだよ。2本、3本だけくださいとか。でも、小規模でやってる俺たちからしたら、運賃の経費ばかりがかかって利益が出ないわけだ。時代の流れかもしれないけど、ホームセンターの大量発注の世界に勝てなくなってるんだよ

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「大量発注の前契約で利幅を確保するホームセンター、在庫を抱えるリスクを減らしたい小売店、それぞれ生き残るための手段なんでしょうけど厳しい時代ですね…」

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「商売のスタイルを考え直さないといけない時代は確実にきてますね。インターネットの普及で情報発信は自分たちでできるし、ブランドをしっかり作れば販路も確保できるし」

 

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約60年間にわたって握り鋏を作り続けてきた外山さんの手は超デカい 説得力がこの掌に詰まってる

 

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「こと握り鋏でいえば、時代に合わなくなってきてるんだな。昔はみんなが今使ってるような事務用ハサミはなくて、ほとんどこの握り鋏で切ってたわけよ。学校の子どもたちの裁縫箱にも必ず入っていて。ただ、事務用ハサミが進化していって、普通の家庭ではあまり使わなくなってしまったんだよ」

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「100円ショップで買った事務用のハサミも、10年以上使ってる家も多いですからね」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「そうそう。かろうじて残っていた縫製関係の世界でも、みんなベトナムや中国に工場を移してさ。できてくる商品が良ければそれで結果オーライなわけだから、握り鋏にこだわらなくなっていくのよ。その前は北陸にたくさんあった製糸工場だね。日米貿易摩擦の影響で工場が全部壊されてさ。そこで使っていた専門の鋏があったんだけど、その関係者は全部いなくなっちゃった

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「日本の繊維業界の歴史と鋏の世界は密接に関わっていたんですね」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「そうだな。ほかにも、漁師が使う網切り鋏ってのもあったんだけど、麻製からナイロン製の網に変わったときから『滑って切れねぇ!』って、みんなニッパーみたいなのを使い始めたのさ。それまでは船団を組んで航海に行く度、何百個も鋏を船に積む世界だった。海だから鋏が錆びて、帰ってくるとまた何百個も積んで行っていたわけよ。当時は需要と供給がしっかりかみ合ってたんだけど、時代の流れで本当に必要なところしか残ってないのが鋏業界の実情だね

 

技術を継承できないもうひとつの理由…

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「僕自身の仕事にも関わることなので改めて聞きますが、外山さんの技術を継承することってもう無理なんでしょうか?」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「うーん。実は3年ぐらい前に『弟子にしてくれ』って言ってきた30代の男がいたんだよ。でも『金も払えねぇし、無理だ』って断ったんだ。そもそも、イチから見て覚えろって言っても最低でも10年は必要なんだ。一通り教えるだけでもそれぐらいかかる」

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「10年…」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「当時俺は72歳ぐらいだったけど、10年後なんて身体がついてこないだろ? 途中でバトンタッチして教えてやれる職人がいたら話は別だけど、中間の人間がいねぇんだ。途中まで教えてダメだったなんて無責任なことはできねぇのよ。『いや、それでもいい』って言われても、お前はよくても俺はよくねぇ。一人前に育てられなかったのに『外山の弟子だ』ってなったら、ひとつの汚名をかぶることになる。だから断ったんだ」

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「このタイミングで技術を継承したい人が出てきても、結局いま40代、50代の世代に継げなかった問題が出てくるんですね」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain全体の技術を教えるにはもう時間が足りないんだよ。アメシンだって職人だから分かるだろうけど、この世界は限界がないんだよね。毎日作ったって機械じゃないから同じモノは二つできない。『昨日より今日は良かったな』『昨日よりちょっと調子が悪いな』の繰り返しで職人はやってるだろ。もし調子がよくてものすごく素晴らしいモノができたとしても、今回はよくできたから高く買ってくださいなんて言えねぇ。それでも良い時と悪い時の利幅が詰まってなきゃ、良い商品にならねぇから、常に95%〜100%の間に収めなければダメなわけよ

f:id:kakijiro:20151130025144p:plain「だからこそ中途半端なかたちで継承することはできないと…」

 

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左=普段キーボードしか触っていない柿次郎の親指

右=数百度の熱い鉄を打ち続けてきた外山さんの親指

 

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手全体の大きさも歴然の差…!

 

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「外山さん、本当はあと何年やりたかったんですか?」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「職人さんてのは引き際がないんだわ。定年がないから、技術持ってる限りいくつになってもやってるわけ。勤めてないから保証もない。国民年金だけでは食っていけねぇから、月に10万円でも20万円でも利益が出たらいいなって、生産量を落としてでも死ぬまでやるもんなのよ

f:id:kakijiro:20151130030435p:plain「手に職をつけろって言いますけど、ひとつの世界で生き抜くことがリスクになりかねない時代になってるのかもしれませんね」

f:id:kakijiro:20151130025207p:plain「そうだなぁ。俺も本当はあと10年やっていくつもりだったんだけど、3年かそこらで病気になってしまったから…悔いがないって言ったらウソになるな

 

取材を終えて

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ひとつの道を極めた外山さんの話は、どの仕事にも通ずる至言ばかり。じっくり2時間近く話し込んだ後、数少ない握り鋏を「いいから持ってけよ」とプレゼントしてくれました。粋すぎる!

流通革命、情報革命が起きて自分たちの生活は確実に便利になってきていますが、一方でこれまでの日本を支えてきたモノづくりの職人技術や道具は継承されていません

十数年後、その技術を再現するときに後悔しそうな印象を強く受けました。少しでも担い手を増やすべく、今回協力してもらったアメシンの手塚さんのような若き職人に頑張ってもらいたいですね。

次は「兵庫県小野市で握り鋏職人を探してみた」でお会いしましょう!

 

 

飴細工 アメシンで働いてみたい人を募集中!

 

 

書いた人:徳谷 柿次郎

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ジモコロ編集長。大阪出身の33歳。バーグハンバーグバーグではメディア事業部長という役職でお茶汲みをしている。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。 Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916

写真:小林 直博

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長野県奥信濃発のフリーペーパー『鶴と亀』で編集者兼フォトグラファーをやっている。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。

 

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